ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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最悪な遭遇(デアラコラボ)

「チッ、何だっての。いきなり18階層に向かえって………!」

 

 愚痴りながらも誰よりも先行するベート。派閥最速でありながら後続を引き剥がしてないあたり、真っ先に『危険因子』の相手をする気なのだろう。

 

「ダンジョンを刺激する『危険因子』………とだけロキには聞いているが、さて。何が出てくるか」

「正体は不明なんですよね? 新種のモンスターとか、闇派閥(イヴィルス)の仕業かも、わかってない……」 

 

 フィンの言葉にレフィーヤが不安そうに尋ねる。

 

「そうじゃ。逆に目標に敵意がないのなら、事を構える必要もない。あくまで任されとるのは事態の究明よ」

「が、ただの『異常事態(イレギュラー)』なら我々を動員する道理はない。楽観視は出来ん」

 

 ガレスが戦闘にならない可能性も上げると、リヴェリアがそれでも気を抜かないよう言い含める。戦闘、交渉、どちらになっても迅速に対応するべきだろう。

 

「…………」

「アイズ?」

「どうしたの?」

「………このダンジョンの感じ、嫌。早く、止めないと」

 

 そして彼等は、18階層へと辿り着いた。

 

───きひひ、きひひひひひひ

 

「──!!」

 

 響く笑い声。全員がそちらに警戒する。

 

「あれは……」

「冒険者………いや、違うな………」

 

 そこに佇むのは美しい少女。ダンジョンに似つかわしくない黒と紅のドレスに、左右異なる色の瞳。

 黒衣にオッドアイ。嫌な相手を彷彿とさせる。

 

「うふふ………面白いですわねぇ。本当に、この世界はぁ………霊力………いいえ、魔力? とにかく『力』の詰まった『ごちそう』がこぉんなに沢山」

 

 扇情的な視線を向け唇を舐める女。その瞳に込められた捕食者の光にレフィーヤを含めた一部団員達が後退る。

 

「ごちそうだと?」

「ああ、ああ、申し遅れましたわね。わたくしは時崎狂三………貴方方が最後に遭った『精霊』──ということになりますわねぇ?」

「──『精霊』?」

 

 聞き逃がせぬ言葉に反応したアイズに狂三と名乗った『精霊』の視線が向けられる。

 

「あぁ………貴方ですのね? ()()()()()()()()、異界の存在は。貴方に惹かれて、わたくしはここまで来てしまいましたのよ? そう、貴方がとても()()()()()()()──」

 

 力の発現と同時に、ダンジョンが震える。先日と同じ………それをこの女は、敢えてやっている。ダンジョンを挑発し、あの巨人を呼び出そうとしている。

 

「──総員、戦闘準備! 彼女を『危険因子』と断定する!」

 

 団長(フィン)の言葉に恐怖に飲まれかけていた団員達も即座に得物を構える。彼の言葉に奮い立つ。それこそが【ロキ・ファミリア】。

 

「──うふふ。さあ、さあ、素晴らしい『ごちそう』の皆さん? どうか、わたくしに食べられてくださいまし」

 

 向けられる妙な形をした筒。このオラリオではまず見ないが、フィンの知識に該当するものがある。

 銃と呼ばれる武器の類。小型の大砲………本来なら第二級以上の冒険者には脅威ではない筈の武装。

 

 爆音と共に放たれた礫を槍で弾く。

 

「…………あら」

「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て必中の矢】【アルクス・レイ】!!」

 

 ランクアップこそ見送ったものの、Lv.4を目前に控えたウィーシェの森のエルフが放つ魔法。並の第二級冒険者の長文詠唱にも迫る威力の魔砲を、狂三は片手で弾く。

 

「なっ!?」

「変わった服だね」

 

 驚愕するレフィーヤと反対に、フィンは即座に見抜いていた。

 一見素手で払ったように見えて、見えない何かを纏い魔法を弾いていた。無色の障壁魔法、魔法反射(マジックカウンター)の類ではない。

 

 なら、物理的な力で押し通す。

 

「ぎぃ………っ!?」

 

 槍の穂先が肌に触れる前に何かを突き破る感触。そのまま首を貫き、回転し切り落とす。

 

 首を失った肉体は当然倒れ、遅れて首が地面に落ちた。死体は消えてなくなる。

 

「や、やったんですか………?」

「…随分と呆気なかったのう。拍子抜けする程に」

 

 ガレスの言葉通り【ロキ・ファミリア】が派遣されるほどの事態とは言い難い。いや、確かに第一級程度の力は持ち合わせていたが…………。

 

「………? えっと、一先ず……これで『異常事態(イレギュラー)』は収まったということで──」

 

 そうレフィーヤが呟こうとしたした時だった。

 

「あら、あら………お強いんですのね、皆さん……」

「なっ……!」

 

 パチパチと拍手しながら現れたのは、たった今殺された筈の狂三。

 

「正面から戦わないで、正解でしたわ」

「………どうなっている?」

「同じ奴が、もう一匹だぁ………?」

「くふふッ……さあ、行きますわよ!」

 

 再び襲いかかってくる狂三。しかし、理屈は不明だが正面からの戦闘を避けるあたり純戦闘型というよりは異能を用いるタイプ。

 

 未知に挑む冒険者達は近付けさせぬと魔法や魔剣で牽制する。

 

「あら、あら、勇ましいですわねぇ。では、これならばいかがでして? 〈刻々帝(ザフキエル)〉──【一の弾(アレフ)】」

 

 ガァン! と自身に銃弾を当てる狂三。リヴェリア達が驚愕する中、再びレフィーヤ達に迫る。その速度は先程の比ではない。

 

「きゃあああ!?」

「レフィーヤ!」

「この野郎ぉぉぉぉぉぉ!?」

「──【七の弾(ザイン)】」

 

 再び響く銃声。連続で放たれた銃弾が当たった団員達はその場で、不自然な恰好で固まる。

 

「きひひ!」

「ぐああ!?」

 

 追い打ちで放たれる銃弾は、通常の銃とは比べ物にならぬ威力で冒険者達の体に穴を開ける。

 

「加速と、停止………魔法には見えん。手品か?」

「うふふ。異なる世界、異なる摂理で生きてきたのですもの。理解が及ばないのも無理のないことですわ。でも、心配しないでくださいまし……直ぐに理解させてさしあげますわ。わたくしの、影の中で」

 

 アイズ達を抜けレフィーヤ達第二級へ襲いかかる狂三に、一歩近寄るのはベート。

 

「あら………次は貴方でして?」

「………………」

「それでは………【七の弾(ザイン)】」

 

 灰色の風が駆け抜けた。

 

「──あら?」

 

 銃ごと消えた右手を見て目を丸くする狂三。

 

「……あら、あら。不思議ですわね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()? どうして【一の弾(アレフ)】で追いつけませんの? どうして【七の弾(ザイン)】で撃ち抜けませんの?」

 

 狂三の疑問に、ベートはただ、単純な答えを返す。

 

「てめぇがとれぇからだ。てめぇの腕が糞だからだ」

 

 狂三が狙いを定める前にベートはその場を移動し、狂三は避けられず攻撃が当たる。ただそれだけである。

 

「雑魚を甚振って調子に乗ってんじゃねえ、クソ女………ぶち殺してやる」

 

 ただただ暴力のために他者を傷つける相手に、ベートは敵意と怒りを込めて睨む。

 

「……ああ、その品のない口調、その殺気………まるで真那さんのようですわ。うふふ、ふふ。ああ、いいですわね………昂りますわ。昂りますわ」

 

 片腕を失い、それでも余裕を崩さぬ狂三。

 

「でぇ、もぉ………わたくしだけは殺されて差し上げる訳には参りませんわねぇ! おいでなさい、〈刻々帝〉(ザアアアアフキエエエエエル)!」

 

 その言葉に応えるように女の影から現れる巨大な時計。感じる力の圧が、これまでと比べ物にならない。

 

「【四の弾(ダレッド)】」

 

 加速の時と同様、己に向けて銃弾を撃つ。時間を巻き戻すかのように狂三の腕が元に戻る。

 

 バフ、デバフに加えて回復まで。余りに多彩。しかもその全てが詠唱不要。

 

「時間を戻しただけですわ。そんなもので驚かれていては困りますわね。ねぇ……「わたくし達」?」

 

 再び影が蠢き、現れるのは()()()()()()()

 

「影の中から、分身!?」

「うふふふっ………さあ、淑やかに舞うとしましょう「わたくし達」!」

「「「うふ、うふふふ………きひひひひっ! あはっ、あはははは!」」」

 

 一体一体が第一級に匹敵する狂三の大群。ランクアップしたヒリュテ姉妹を含めたLv.6が槍で貫き、斧で粉砕し、拳で潰し、蹴りで穿ち、剣で切り裂く。

 

 それでも後から後から影から湧いてくる。

 

「………おもしれぇ。くたばるまで、全員蹴り殺してやる!!」

「きひ、ひひ、ひひひひひひっ、まぁぁぁだ分かりませんのぉ? 貴方にわたくしを殺し切ることは絶ぇぇぇっ対に出来ませんわ!」

 

 数の有利は覆る。質でも、平均は狂三が上。

 

「うわあああ! 来るな、来るなあああ!!」

「や、やめ、ぎゃあああ!」

 

 剣を振るう。受け止められる。

 腕をつかまれる。握り潰された。

 盾を構え突っ込む。盾ごと撃ち抜かれる。

 

「総員、下がれ!」

「【焼き尽くせ、スルトの剣──我が名はアールヴ】!」

 

 フィンの指示とともに、リヴェリアの魔法が完成した。

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

 放たれる炎柱。煌々と輝く炎。

 身に纏う守りごと狂三の軍勢を焼き払う。

 

「あら、あら。力の劣る分身体とはいえ、ここまで数を減らされてしまうとは驚きですわね」

「ごちゃごちゃ言ってんな!! 次はてめぇだ!」

「うふ、うふふふ………まあ、いいですわ。この辺りが『頃合い』でしょう」

「あぁ!?」

「では、みなさん、御機嫌よう。次はきちんと食べて差し上げますわ」

 

 狂三の体が影へ沈む。逃げられた。

 

「くそが!」

「あれが『危険因子』で間違いはない。頗る質の悪い、な……」

「ああ。目標を『危険因子』から『敵性存在』と断定する」

「この階層に、幾つか魔力の高まりを感じる。同じような存在が、まだ複数ある」

「ここから散開する。第一級冒険者を各班に配備。必ず数を以て対応しろ。敵は埒外の怪物だ! 速やかに殲滅する! 例外はない!」

「「「おおおおおお!!」」」

 

 アイズは倒れる団員達を見る。

 血に染まり、転がる大切な人達。死者こそ居ないものの、その光景は『あの時』に酷似し……。

 

 剣を握る手に力が籠もる。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…………」

「大丈夫か、ベル……」

 

 肩で息をするベルの背中を軽く士道。

 黒い巨人……漆黒のゴライアスは前回より強かった。Lv.3へランクアップしたベルがそう感じたのだから、強化率は相当だろう。

 

「それよりも……」

 

 最終的には十香達が倒した。やはり強い。ひょっとしたらアイズさん並? と思い浮かべるのはLv.6という師が師なので忘れがちになる都市の上澄みも上澄みの領域。

 

「シドー! 大丈夫だったか!?」

「ああ、助かったよ十香」

「うむ。なかなか手強かったが、皆が無事で良かったぞ!」

 

 しかし何だったのだろうか、あの黒い巨人は。

 明らかに自分達を狙っていたが、と首を傾げる十香。

 

「解らない、ですけど………今は、はぐれた人達と合流しないと」

 

 折紙に耶俱矢、リリとノエルも……戦闘中にバラバラになってしまった。シャバラとシュヤーマがいれば匂いで探せるのに………。

 

「よし、早く折紙達の下へ──」

「見つけた」

「え?」

 

 聞き覚えがある声に振り返るベル。そこに居たのは金の剣士。

 

「ア、アイズさん!?」

 

 

 

「手強かった。どうやら倒せたみたい」

「折紙様ー!」

 

 一方、折紙はリリと一緒にいた。

 

「貴方は………良かった、怪我はない?」

「ええ、まあ……というかリリ、何もしていませんし」

「ワン!」

「シュヤーマ様も褒めています」

「そう………士道を匂いで追える? 十香がいるから、大丈夫だとは思うけど」

 

 いがみ合っているように見えるけど、信頼はしているらしい。

 

「………私達も色々あったから」

「あ、いたー! じゃなかったっ、くくく! 漸く見つけたぞ、我が半身よ!」

 

 半身とか言いながらどっかに行ってた耶俱矢とも合流出来た。

 

「あー! もう、何処まで行ってたんですか!? リリをほっぽって!」

「しょ、しょうがないじゃん。私だってあの巨人に吹っ飛ばされちゃったんだからー!」

「人にこんな恥ずかしい格好をさせておいて、ちゃんと守ってくださいよ、もー!」

「は、恥ずかしいとはなんじゃこらー!」

 

 と、その時。ドカドカと人の足音が聞こえる。

 

「え?」

「いやがった」

「今度は逃さないわよ」

「光る服………さっきの人とは違いますけど、間違いありません」

「ちっ、あのクソ女、どこ行きやがった……」

 

 現れたのは【ロキ・ファミリア】。明らかにこちらを敵視している。

 

「あれ、あんた………【リトル・ルーキー】の所の……なんでそんな格好」

「関係ねえならすっこんでろ」

 

 リリを見て困惑するティオナ。ベートはリリをどけようとする。

 

「そいつらは、潰す」

「…………はあ? なんて?」

 

 リリは聞き間違いかと……というか聞き間違いであれと聞き返す。

 

「邪魔すんなら、てめぇも容赦しねえ」

「出会ったばかりで。話も聞かず? 何を苛立っているのかは知りませんが、ノエルがいなくてよかったですね……その熱くなって考える余裕もない頭、冷やしてあげられたのに」

「…………はっ。吠えやがる………さっきのお仲間よりは、楽しませろ」

「お、お仲間!? まさか……士道と十香!? それとも四糸乃!?」

「………っ!」

 

 ベートの言葉に耶俱矢がここに居ない仲間の名を叫び、その名前に折紙が冷静さを失う。

 

「〈絶滅天使(メタトロン)〉!」

 

 殺す気はない。だがまず動けなくしてから、と放たれた光はしかし殺意もない攻撃など第一級冒険者には当たらない。

 

「はっ、上等だ……いくぜぇぇぇぇ!!」

「「「おおおおおお!!」」」

「ちょっ!? こいつら、どんだけだし!」

 

 ベートの号令とともに飛び出してくる【ロキ・ファミリア】団員達。団長、副団長でない幹部の、それもベートやティオネに全隊の指揮を任せるとは思えない。ここに居ない第一級も同様の数を指揮していると見るべきだろう。

 

 まさか、【ロキ・ファミリア】の総力がここに来ている? しかも、発言からして異界の精霊達を狙って…。

 

「多いって!」

「当たり前です! 【ロキ・ファミリア】は都市最大派閥の一つ! 派閥ランクはS、オラリオでも派閥としては最強の一つなんですから!」

 

 派閥としては、で………最強は勿論兄だが。

 

「やばいじゃん! なんで黙ってたの!」

「ヤバさを伝える前に耶俱矢様と折紙様が戦い始めたんでしょうがー!」

「リリルカだって喧嘩腰だったじゃーん!」

 

 リリの言葉に耶俱矢は私のせいじゃないと叫ぶ。

 

「こうなったら、折紙! 〈絶滅天使(メタトロン)〉で弾幕張って!」

「どうする気ですか!?」

「くく、決まっておろう、我が半身よ。かような刻は………」

「〈絶滅天使(メタトロン)〉──」

 

 放たれる無数の光弾が大地を穿ち砂煙を巻き上げる。

 

「三十六計逃げるにしかーず!」

 

 足の遅いリリを抱えて風を纏いながら逃げる耶俱矢。

 

 

 

 

「リリは、あっち」

「よくわかるね〜」

「わたしとリリはけーやくしてるからね」

 

 フフンと、胸を張るノエル。四糸乃は何だか頭を撫でたくなった。

 

「君も精霊なんだよね? こっちの世界の、だけど」

「うん……そうだよ。いつも、ひとりだった」

「…………ひとり」

 

 その言葉に四糸乃が反応した。

 

「でもね、リリがわたしをみつけてくれたの。いっしょにいてくれるの。だから、もう、さびしくないよ」

「……………そっか」

 

 四糸乃は微笑む。彼女にとって、リリルカが、自分にとっての士道なのだろう。

 

「じゃあ、早く見つけようね」

「うん!」

 

 二人仲良く手を繋いで森の中を進む。と………

 

「あ、いた!」

「「?」」

 

 2人が振り返ると短髪アマゾネスの少女が。

 

「って、こんなにちっちゃい子…………あれ、貴方確かノエルちゃん?」

「えっと……」

「あー、覚えてない? ほら、一緒に水浴びしたでしょ?」

「…………ティオナ!」

「うん!」

 

 思い出してくれた! と笑みを浮かべるティオナ。

 

「ティオナさん! 談笑なんてしてないで、その少女を!」

「!? ひっ!」

 

 ティオナの後ろから団員達が叫ぶ。敵意を向ける集団という、懐かしい恐怖に四糸乃は震え縮こまる。

 

「なんだなんだー! やらうってのか、このー!」

「こいつ!」

 

 シュッシュッと器用にシャドーボクシングするよしのんに【ロキ・ファミリア】達が警戒する。

 

「い、いたく………しないで、ください」

「だめ!」

 

 怯える四糸乃。庇おうとするノエル。それを囲む【ロキ・ファミリア】。ティオナの号令を持つ。

 

「ん〜?」

 

 ティオナは改めて構図を見て、これ絶対私達が悪人だよね、と首を傾げると四糸乃の下へ歩く。

 

「こ、こないでえ!」

 

 放たれる冷気。リヴェリアの魔法にも匹敵する吹雪がティオナを襲う。

 

「ティオナさん! こいつ!」

「ススス、ストーップ!」

 

 ガチガチと震えながらも、団員を止め四糸乃へ歩み寄るティオナは、不安げに見上げる四糸乃に視線を合わせるようにしゃがむ。それでも蹲っている四糸乃の方が低いので、手を差し出し顔を上げさせる。

 

「怖がらせてごめんね? あのね、少し話を聞きたいんだけど………」

 

 

 

 

 一方。こちらでは剣戟の音が響く。

 剣を振るうのは十香とアイズ。

 

 対話を試みる十香に、アイズは何も答えない。

 

「アイズさん!? 待ってください、どうして十香さんに攻撃を!?」

「『彼女達』は危険。その答えが、出た」

「……『彼女達』?」

「そして私も、『彼女達』の存在を認めることが出来ない」

「ぐうぅ!?」

 

 倒す気のアイズと手を止めてほしい十香。絶対的な力の差があるわけでもないのなら、押されるのは十香。

 

「貴方達は、モンスターと一緒なの? それとも、もっと悪い『何か』?」

「何を言っている!」

「覚えている。ダンジョンがざわつく、この感じ。この後、とても良くないことが起きることも。だから!」

「十香!」

 

 苛烈さが増し、さらに押され始める十香。士道とベルが止めようとするも立ちはだかる【ロキ・ファミリア】。これでは十香達の下へいけない。

 

「待ってください、アイズさん! 話を聞いてください! 十香さんは、その人達は悪い存在なんかじゃ!」 

 

 ベルの叫びは剣戟の音にかき消される。仮にアイズの耳朶を打ったとしても、『あの光景』を見たアイズは止まれない。

 

「………剣の精霊の十香と、互角?」

「なんなの………あの剣士」

 

 合流してきた折紙と耶俱矢は目の前の光景に目を見開く。リリもまさかLv.6と渡り合えるとはと目を見張る。

 

「待つのだ! 話を聞かせろ! 何故私達を襲う! お前は〈AST〉と一緒なのか!? 私達が起こす空間震を恐れているのか!?」

 

 十香達の世界において精霊とは隣界(りんかい)と呼ばれる異空間から現れる異物。その際に空間そのものを揺らし、何もかも破壊していく天災。

 

 〈Anti Spirit Team〉はそんな彼女達を武力をもって排除せんとする集団。当然、アイズは言ってる意味がわからない。

 

「私は確かに! 確かに世界を恨んでいた! 私を否定する世界に疲れて、破壊を振りまいていたこともあった! だが私は、シドーのおかげで変わることが出来たのだ!」

 

 好きな人が出来た。好きな食べ物が出来た。世界は自分を否定するだけではないのだと知れた。

 

「私はシドーが好きだ! きなこパンが好きだ! 共に喜び、共に泣いてくれるあの世界が好きになれた! 異世界などという場所に来てしまったが、ベルやリリルカ、ノエルにシャバラとシュヤーマという良き者達に出会えた! 私はこの世界も、愛せると思う!」

「………………」

 

 攻撃が止む。剣を構えたまま、アイズは距離を取り十香を見つめる。

 

「剣を収めてくれ! お前は私のことを知らない! 私もお前のことを知らない! だから、このまま殺し合うのは、きっと、間違っている!」

「私は………」

 

 と、ダンジョンが再び揺れる。刺客を差し向けてなお消えぬ忌まわしい気配に苛立っているのだ。

 

「…………やっぱり、出来ない」

「………っ!」

「貴方達はダンジョンを狂わせる。貴方達は、また『悲劇』を呼び起こすかもしれない。私みたいな人を、もう増やすわけにはいかない」

 

 脳裏に蘇る、凶悪な精霊の笑い声と、血に染まる仲間達。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

「………!!」

 

 距離を取り、岩に着地したアイズ。吹き荒れる暴風。湧き出る魔力に十香の顔色が変わる。

 

「………まさか、〈天使〉?」

「誰かが悲しむのなら。誰かが泣くのなら………私は怪物(モンスター)を、貴方達を──」

 

 

 

「見えているか、リヴェリア、ガレス」

「ああ、『風』を纏ったアイズと互角かそれ以上。信じられん」

「まだ互いに余力を残しているようじゃが………次で決まる」

「急ぐぞ! アイズ達の元へ向かう!」

 

 

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】!」

「ぐぅ〜〜〜!」

 

 風を纏った後の動きがまるで別物。威力、速度、機動力が跳ね上がった。

 

 距離を取りさらなる風を纏うアイズ。加減、無理だ。必殺(あれ)の前では自分も……自分が倒れれば、次は……!

 

(シドー!)

「〈鏖殺(サンダルフォン)〉──【最後の剣(ハルヴァンへレヴ)】!!」

 

 玉座が現れ、砕け、十香の剣に纏わりつく。

 

「十香様の剣が巨大に!?」

「それよりっ、この風……!!」

「近付けない、誰も!」

「くっ、目を開けてられない!」

「ぐううううう!?」

 

 巨大な嵐を無理やり小さく押し固めたかのような超局所的な暴風。

 

「………? 今のは?」

 

 風の音に紛れ、何か別の音が聞こえたような気がしたベル。それを確かめる時間はない。

 

「──リル・ラファーガ」

 

 風を纏い、突撃。小さな嵐の槍が全てを薙ぎ払いながら突き進む。

 

「はああああああっ!!」

「おおおおおお!!」

 

 2つの莫大な破壊の力がぶつかり合う。

 

 

 

 無秩序に死と破壊を撒き散らす──

 

 凶悪で、醜悪で、残酷な──

 

 倒さないといけない……滅ぼさないといけない……そんな──怖いものは、全て………

 

 

 

「ぐ、うう………」

「ベル! 大丈夫か!?」

 

 衝撃に吹き飛ばされたベルを助け起こす士道。

 

「十香さんは!? アイズさんは!?」

 

 全てが薙ぎ払われた破壊の中心に、まず十香を見つけた。彼女は無事のようだ。

 だが、何かを見て驚いている?

 

「………お前、その姿は………」

 

 視線の先に立つのは、やはりアイズ。だが、様子がおかしい。

 

「アイズ?」

「………なんじゃ、あの禍々しい魔力は…」

「何が、起こっている?」

 

 三首領すらその光景に、放たれる禍々しき魔力の圧に固まっている。

 

「…………どういうこと!? アイズさんに、何が!?」

「あの姿、そんな……嘘だろ」

「………精霊の反転」

「はぁ!? なんでよ、この世界の人間が、どうして!?」

「わ、私のせいなのか? 私が【最後の剣(ハルヴァンへレヴ)】を使ってしまったから?」

 

 金属質のパーツを貼り付けたかのような露出の多い闇色のドレス。士道達はその姿に見覚えがあった。

 

 精霊が深い絶望に苛まれた際変質した姿、反転。

 アイズが纏うその姿は、まさしく十香の反転時のもの。

 

「……憎い」

 

 ポツリと呟かれた言葉。次の瞬間、アイズの姿が消える。

 

「……なっ!?」

 

 困惑する十香。ベートとティオネが彼女を押さえつける。

 

「全員捕らえろ。1人残らずだ」

「いいや、悪いがそこまでだ」

 

 フィンの言葉に団員が動こうとした瞬間、17階層への連絡路から炎が飛び出してくる。

 

「〈灼欄殲鬼(カマエル)〉」

 

 炎の壁が【ロキ・ファミリア】と士道達を隔てる。ベートとティオネにも蛇のように迫り、慌てて飛び退く。

 

「これは、琴里!?」

 

 現れたのは斧を担いだ大男だった。

 

「誰!?」

「士道!!」

「琴里」

 

 その背中に張り付いていたのは士道の妹五河琴里。

 飛び降り士道へ駆け寄る。

 

「何のつもりかな?」

「ギルド………ウラノスの神意を伝える。『危険因子』を『保護対象』へと変更。手を出すことを許さん」

「ああ!? ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ!」

 

 吠えるベートに、大男は警戒の一つだってしやしない。

 

「な、なあ琴里……誰だ、あの人? なんでお前の〈天使〉を」

「エピメテウス………名前しかわかんないわよ。いきなり説得する、ついてこいって担がれたと思ったら、何か力が移動して」

「水滴同士が繋がるあれだ。俺の方が力が大きく、精霊よりもそちらに近いからな」

 

 と、エピメテウス。

 

「これはお前達の主神ロキも合意の上だ。 ひとまず、ダンジョンを刺激しないよう彼女達を地上へ送る。ああ、道中力を使わせぬよう、しっかり守れよ?」

「エピメテウス様………」

 

 と、そんなエピメテウスにリリが駆け寄る。

 

「その、兄様もこの件に……?」

「ああ。どうにも、面倒な事態らしいな………俺よりも深いところで関わっているようだ」

 


 

【殲鬼】エピメテウス

水滴が触れ合うと大きな水滴に小さな水滴が吸い込まれるのと似た原理で琴里の力が入ってきた姿。霊結晶は琴里の中なのであくまで一時的。

本人曰く、心なしか炎による治癒の効率が上がったとのこと。

エイプリルフール、皆が見たい嘘は?

  • バーサーカーリリウス(/Zero)
  • 英雄派リリウス(ハイスクールD×D)
  • 冒険者リリウス(このすば)
  • 死に戻らないリリウス(リゼロ)
  • 魔物リリウス(ガッシュ)相棒エピさん
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