ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「ジャガ丸くん、小豆クリーム味、三つ………」
さっきからめっちゃモシャモシャとジャガ丸くんを食べている。士道が琴里達に連絡してから合流するまで、ずっとだ。
「おお、いい食べっぷりだな! 何だか、私もお腹が空いてきたぞ………」
「クク、異世界の『ジャガなるもの』……それは抗い難き馥郁たる香りをもたらし、精霊さえ虜にする禁断の蜜──!!」
「少し黙っていて」
「冬はね、白いジャガ丸くんが出るよ」
「た、食べてみたいです………」
「ま、まさか、それだけのために、静粛現界したってこと………?」
精霊達が各々の反応を示す中、琴里は目を丸くしていた。どんだけ食い意地が張ってんだ、あの娘。
「「ありうる………」」
「あはは……」
リリとヘスティアの言葉にベルも笑う事しか出来なかった。
「そっちの抹茶クリーム味も追加で……」
「ま、まあいいわ! 作戦に移るわよ!」
狂三に監視を任せ、一同は一旦黄昏の館に戻った。
そこで面倒な事件が起きる事を、この時琴里達は知らなかった。
「………これは駄目だ。胸が、苦しい」
「…………………」
前回のあらすじ!
『ドキッ☆アイズちゃんデート作戦!』を前に『僕も司令官っぽい格好になりたい!』と我儘を言いだしたヘスティアちゃん!
元のサイズじゃボタンがはち切れんばかりの我儘バストに琴里ちゃんの額に青筋が走る!!
「…………………………」
(すげぇ、沈黙が聞こえる…………)
『沈黙が聞こえる』……なんともおかしな表現だが、そうとしか言えない。琴里の目は今まさにヘスティアの胸を引き千切らんとする餓えた獣のようだ。
「くかかかっ! 仕方のないヤツめ! では、我が創造の
と、リリの服を変えた時と同じ要領でヘスティアの服を作り変える。それでも胸元がそこそこ開いているが。
まあ要するに仕立て直しただけだ。
「………え? 最初からそれやれば良かったわよね。何で一回着たの? ねえ」
「落ち着け、琴里ぃ!!」
琴里はめっちゃキレていた。
「うんうん。これなら司令官っぽいな! やっぱり異世界の趣があるよ! なんか、出来る女って感じしないかい?」
「そうですね神様。琴里さんとお揃いで、すごく綺麗ですよ!」
「…………っ!」
「ど、どうした、琴里……?」
肩を震わせた琴里に士道が恐る恐る尋ねる。
「あの子……やるわね」
「へ?」
「見えない位置からのフック。天然ジゴロの才能があるわ。ああいう男が一番厄介なのよ。可愛い顔して自覚無く女を泣かせる未来が見えるわ」
「邪推が過ぎる!? 俺のベルを汚さないで!!」
「「「「っ!?」」」」
士道の思わず突っ込んだ言葉に少女達が反応する。
「どういう事だ、シドー!? ベルはお前のものだったのか!?」
「い、いや、それは言葉の綾というか勢いで!」
「シドーの新たな一面……彼との逢瀬の写真は永久保存版に………」
「士道君! 四糸乃達につれないと思ったらやっぱり!」
「よ、よしのん、駄目! しー!」
「士道君! ベル君は僕のものだぞぉぉぉっ!?」
「出会ったばかりの少年を…………士道様、兄様には近付かないでくださいね!」
「…………もう、勝手にしてくれ」
「あ、あはは…………」
士道はもうなんか面倒になってきた。
「にしても、なんなのよあのヘスティアって神は」
身長は自分とそう変わらない。むしろ少し低いぐらいなのに、ある場所の戦力は圧倒的な差。
一体何が違うというのか。環境? 遺伝子? それとも………。
「はっ! まさか、あの紐!?」
『僕の紐がなくなったーっ!』
突如として響き渡るヘスティアの声! 忽然と消えたトレードマークの紐!
犯人は一体誰なのか! どよめく冒険者達! 狼狽えるベル君! 心做しか膨らんでいる琴里のポケット!
次回『ダンジョン・ア・ライブ』第55話『さらば紐! 琴里、暁に死す!』
絶対見てくれよなっ!
「……………何をしているんだコイツラは」
エピメテウスはその光景を見て呆れたように呟いた。
「………遅いですわねえ、皆さん」
野良猫を膝に乗せ背中を撫でながら狂三はポツリと呟く。
幸いにもジャガ丸くん屋台に材料がある限りアイズは動かないが。
撫でられご満悦な黒猫がニャーと鳴いた。
『目標はアイズ・ヴァレンシュタイン、識別名〈ソード・プリンセス〉! ベル・クラネルは速やかにデレさせ左手薬指の指輪に精霊の力を封印すること……』
「は、はい!」
『さぁ、
琴里達は仮の司令部の黄昏の館からサポートする。ヘスティアも着替えたからバッチリだ。
「……ちなみに、何故わざわざ移動を?」
「簡単なことよ。サポートを受けてデートしてるなんてのを見られたら、対象からの好感度が下がっちゃうでしょ?」
「まぁ、それはそうかもしれませんが………」
デートの雰囲気を盛り下げず、陰からサポート。それがラタトスクのやり方だ。
ベルと士道にもインカムを渡しているのでここからでもサポートは問題ない。
「アイズたん、見つかったってホンマか!?」
と、報告を聞いたロキが部屋に飛び込んでくる。ヘスティアは斯々然々教えてやるとロキもこれこれこういうわけと理解した。
子供達のケアを終えたらしい。交ぜろと居座る。神ってやつは本当に面白そうなことが好きらしい。
実際アイズと付き合いの長い彼女がいるのはプラスになるだろう。たぶん、きっと。
「ジャガ丸くん、トマト大福味も………」
「………ア、アイズさん!」
意を決してアイズに声を掛けるベル。まずは相手に自分を認識させなくては。
「それから、激辛ソース味にチーズマシマシ………」
「聞いてない!?」
『落ち着きなさい、ベル。まずは対象の興味を引くのよ』
「そ、そんな事言われてもどうしたら………」
『ふっ………早速、この
それを使い対象の好感度を上げうる言葉をピックアップする。
「おぉぉ! なんか凄そうです!」
「さぁ、選択肢が来るわよ! 総員、選択!」
1.へ〜い、彼女ぉ! 一緒にジャが丸くんしな〜い☆
2.はぁ、はぁ………お嬢ちゃん。ぼぼ、僕のお家に来ない〜?
「なんだこのクソ装置!?」
「もっとまともな選択肢は出ないのかい!?」
「仕方ないでしょ! フラクシナスのメインAIじゃないし、異世界のせいか、2択しか表示できないんだから!」
「まぁ異世界やったらしゃあないな〜。って、そういう問題ちゃうやろ!」
「うっさい! 時は金なり! さっさと多数決を取るわよ! 総員、選択!」
こんなもん正直かなり微妙だが、まだ一番のほうがマシに決まってる。と、ヘスティアとリリ。2番はただの変質者だし。
「ちゃうな………」
「え?」
「アイズたんは、ジャガ丸くんはストイックに食べる子や。ジャガ丸くんをダシに話しかけるとか、地雷になりかねん」
アイズの意識をジャガ丸くんから引き剥がすなら、選択肢は2番。
「一度好感度を下げてからじゃないと攻略出来ないって、面倒くさい攻略対象ですねえ」
なお、初対面時にベルがリリの好感度を上げてた場合、あの頃の不安定なリリはベルに兄の面影を求めて拗らせた結果、心を救えないというクソ面倒な攻略方法だったりする。
「ロキの意見を採用よ!」
多数決じゃなかったらしい。琴里をより納得させた意見が採用される、琴里主権の独裁政治だ。
『ベル、聞こえたわね? より息を荒く、より変態らしく、嫌悪感を持たれるように話しかけなさい』
「どういうことですかっ!?」
「ベル……耐えるんだ。俺も何度も通ってきた道だ!」
士道が苦しそうに言う。自分達はアイズの好感度を上げようとしていたのではなかったか?
『早くしてちょうだい! さもないと、貴方が昔、密かに書き溜めてた『ぼくのさいきょーのえいゆーたん』を公開するわよ?』
『なにそれみたい!』
「そんなもの書いてませんからぁ!?」
しかし、これはアイズを元に戻すためだと己に言い聞かせるベル。そう、これはアイズを元に戻すため!
「はぁ、はぁ………お嬢ちゃん。ぼぼ、僕のお家に来ない〜?」
しかしそこにアイズは居なかった。
時間かけ過ぎて目標を見失った。
「モグモグ…………ベルさんには練習が必要なようですわねぇ。さて、ではわたくしはこの辺で。お土産を持って帰らないと、あの子がお腹をすかせてしまいますわ」
「…………あの子?」
「んぁ〜………ん」
パクリと何かを食うように口を動かす。それだけで、不自然に広がる影の上に立つ全ての人間が膝を突く。
唯一立つ少年がモグモグと口を動かす度に、急速に体から力が抜けていく。魔力も体力も根こそぎ奪われる。
「ゴクン……便利だな、この影」
「なんの、つもりだ…………!?」
眼鏡をかけた女に見紛う美貌のエルフの言葉に少年は少しだけ考え込んだ。
「弟子のデートのサポート? 余計なちゃちゃ入れるなよ」
と、椅子に座ったままこちらを見つめる女神に警告する少年。
「今日は蹴らないの?」
「まだ行動に移してないからな。移したらミア直伝の拳骨食らわす………移せたらだが」
誰一人として動けない。厳密には見逃された数名は、動けぬ者達の世話で忙しいだろう。
「ところでその服、貴方の趣味?」
「狂三お姉ちゃんが着せた」
そう言うと少年は影の中に沈むようにその場から消えた。
「もう、何処に行ってましたの?」
「お菓子食べてた」
「食べ過ぎは感心しませんわ」
狂三は呆れたように言うが、買ってきたジャガ丸くんを取ることはしない。
「それにしてもベルさん……なかなか純真な方でしたわねぇ」
「裏方に徹するんじゃなかったのか? 何でわざわざ顔を出した」
「あのままではアイズさんを見つけられそうにもありませんでしたし。それにぃ、印象付けておくことも必要ですわ……考える頭があれば、違和感にも気付くでしょうしねぇ」
「…………他の女ばかり士道と仲良くしてたから嫉妬したのか」
「…………貴方は一々人の心を読まないようにしてくださいませんの?」
「心なんて読めない。狂三お姉ちゃんがわかりやすいだけ」
少年はそう言って袋から新たなジャガ丸くんを取り出そうとしたが狂三がパッと奪い取る。そのまま栗鼠のようにモグモグと食べ始めた。
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