ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「…………あれ?」
「ここ、は……」
狂三に撃たれた二人が目を開けると、そこはオラリオ。市壁ではない…………
「これは、まさか…………」
「士道、僕達は一体………」
「──!! ベル、隠れろ!」
「えっ!?」
と、士道はベルの手を引き屋台横に積まれた荷物の隙間に隠れる。
何から隠れて、と道を歩く影を見たベルは目を見開く。
「フラクシナスのサポートがあれば、もっと上手くことが運ぶんだけど……ないものねだりしてもしょうがないか!」
「士道、とりあえず周りの人達に聞き込みをしよう!」
そう言って駆けていく
「今のは、僕達? い、いったい何が!」
「間違いない、これは………!」
「あら、士道さん。そんなところで、何をなさっていますの?」
士道が何かに確信すると、後ろから声がかけられる。
「狂三………!」
抱える程のジャガ丸くんが入った袋を持つ、この世界で初めて会った狂三がいた。
「……ベル、聞け。信じられないかもしれないが、納得しろ。俺達は………『過去』に飛んだ! 狂三の〈
「か、過去に!? そんな、そんな事出来るわけ…………あ──」
と、そこでベルは士道が狂三を時を操る精霊と言っていたことを思い出す。まさか、本当に、言葉通りの意味で?
「──あら、あら……何やら、面白そうな話をしていらっしゃいますわね。わたくしにも聞かせてくださいまし」
一先ず3人は人目につかない路地裏に移動する。
そこで士道は未来で見たことを話す。
「アイズさんとリリウスの戦いの最中、『未来のわたくし』が士道さん達を、ですの…………自分の権能だけに荒唐無稽と切り捨てられませんわねえ。まあ、わたくしとリリウスが繋がっている事も知っていますし」
「理解が早くて助かるよ……それより狂三、お前、【
「ええ、この世界は霊力に満ち溢れていますもの。たとえ士道さんを『食べ』ずとも、数日どころか数ヶ月程度の遡行は可能ですわ。リリウスなら、魔力がこもってれば生き物でなくとも吸収出来ますしね」
先程の士道達の会話からして、今は街にアイズを探しに出た時。二日前……。
「………ごめん。僕はまだついていけないんだけど、士道は前にもこんな事があったの?」
「その通りだ。折紙を助ける時にも、今みたいに狂三に…………!」
と、士道はハッと気が付く。最も単純で、最も確実な解決方法。
「狂三、ここからもう一度俺達を過去に飛ばしてくれないか!?」
「えっ!? し、士道!?」
「折紙の時もやったんだ! 遡行した先の過去でもう一度過去に飛ぶ………それで十香とアイズの接触さえ防げれば!」
「あ! アイズさんが、反転する事も………あれ、でも……アイズさんの接触と十香さんは関係ないって」
「そうでなくたって、あの時何かが起きたのは確かだ。あそこでそれを防げれば………!」
全て解決。アイズは反転する事なく、【ロキ・ファミリア】とは………多少のいざこざはあれど話し合えるはず!
「頼む、狂三!」
「………まあ、構いませんわ。異邦人であるわたくし達のせいで、この世界が滅ぶというのも寝覚めが悪いですし」
「すまない、恩に着る!」
異世界を『満喫』する気はあっても『蹂躙』するつもりなど狂三にはない。カチャリと銃を構え………
「………………」
「狂三さん?」
「………
「なっ!? 何を言って………!」
銃を消し去る狂三に士道が詰め寄るが、何処吹く風。相変わらず微笑みを浮かべている。
「ねぇ、士道さん? どうして『未来のわたくし』は、この日に士道さん達を戻したのでしょう?」
「え………」
「先程も言いましたわ。霊力は元より十分、最初から『始まりの日』に戻せばよかったのではありませんの?」
「そ、それは………確かにそうだけど」
出来るのにしなかった。しなかったのなら意味がある。未来なれど自分の事、狂三は自分の行いに理由がないと思わない。
「わたくしが思うに、『未来のわたくし』は『それでは意味がない』と判断したのではございませんこと?」
「…………どういう意味だ?」
「根本的な『破滅』は避けられない、という意味ですわ」
「「!?」」
あの結果が変わらないと言われ、顔色を変えるベルと士道。
「け、けど………あの時に反転を止める以外に、未来を変える方法なんて…………」
「そもそも反転理由も不明なのでしょう? 話を聞く限り、十香さんの分の精霊の力を上乗せしても、強すぎますわ」
「いや、でも………現にリリウスって奴も滅茶苦茶強くなって」
「あの子は最初から世界最強ですもの。アイズさんとは地力が違いましてよ?」
「あ、ああ………」
そう言えばそうだった。ていうか笑顔なのに圧を感じる。
「そ、そう言えば彼奴のあの格好に、能力って………」
「ああ、このブレスレットですわ」
と、狂三が腕に着けた銀のブレスレットを見せる。
「士道さんの
「何だって、そんなもん…………」
「あの子の真骨頂は、成長速度でも潤沢な
大概を力技で解決できてしまうリリウスだが、その真に注目すべき力は別だ。
例えば手にした毒の王の力を扱い、例えば取り込んた精霊の力を扱い、例えば心臓となった大精霊の氷を扱う………。
魔法にも現れる真の才能。一時的に取り込んだ力を扱える前提の変質魔法を使いこなせる、対応力の才能。
「特にこの世界の人間は、経験を神に抽出してもらいステイタスに反映させるのでしょう? この経験が生きるかもしれませんし」
尤も異界の存在。何も起きない可能性もある。
「じゃああの霊装は、狂三の力を彼奴が反映させた結果なのか」
「いえ、わたくしの趣味ですわ。弟か妹が出来たら、着せ替え人形にするのが夢でしたの」
「あ、はい」
「リリウスには可愛らしい妹もいるそうですわねえ? あえて男女入れ替えた服装というのも……」
「いや、今は………って、そうだ!」
と、士道が思い出したように叫ぶ。
「リリウスに耶俱矢を殴らないように言ってくれ!」
「はぁ………耶俱矢さん?」
「その、耶俱矢………夕弦が居なくて寂しいから、自分になんか似てる気がするらしいリリルカに夕弦の格好させてさ………」
「ただでさえ幼く見える
「だからか怒って、耶俱矢をぶっ飛ばしたんだよ」
「リリウスが、初対面で耶俱矢さんを…………?」
何やら考え込む狂三に首を傾げる士道。そんなに変なことを言っただろうか? 士道だって耶俱矢が突然に琴里をあんな格好にさせたらまあ怒る。
「まあ良いですわ。代わりに、わたくしのお願いも聞いて頂けます?」
「狂三の?」
「〈ソード・プリンセス〉を、どうぞお二人で攻略してください」
「………なっ」
「
「………!!」
「きひひひっ………では、お二人とも。どうか『違和感』の正体を掴み、『真実』を暴いてくださいまし」
狂三はそう言うと影に沈み始める。慌てて士道が呼び止めようとするが、完全に沈み込み影も消えてしまう。
「…………行っちゃった」
「…………アイズを攻略しよう、ベル。俺達、二人だけで」
「えっ?」
「狂三の言ってることは正直よくわからない。でも、まだチャンスがあるって言うなら、俺達にしか出来ないって言うなら──やってやろうぜ! アイズも、この都市も救う! あんな悲しい未来は、まっぴらごめんだ!」
「…………うん! やろう!」
「よし、行くぞベル! 行動開始だ!」
きひっ、きひひひひ………それでは、足掻いてくださいまし。
未来を塗り替えようという愚かで無謀な行為を、神は何処まで許すのか…………
いいえ、本物の神がいるこの場所で、斯様な言葉、ナンセンスでしたわね。
ならば、
さあ───あなた方の
「ん、この辺りなら誰も居ないな。過去の俺達や、琴里に見つかることもなさそうだ」
廃墟を拠点に、まずはおさらい。ややこしくなった現状を纏める事にする。
「最初に、この世界線には俺とベルが二人ずつ存在する。未来から来た俺達は、自分達には会ってはならないし、琴里達とも接触出来ない」
狂三の言葉を信じるなら、時間遡行については狂三以外の誰にも知られてはならないそうだ。まあ恐らく狂三と組んでるリリウスに話しても大丈夫の可能性もあるが、そこは狂三が伝えるだろう。
狂三の口振りからして『何か』を企んでいる奴がいるらしい。
「………士道。狂三さんが言ってた『真実』とか『違和感』ってなんなのかな?」
「………解らない。ただ確かなのは、これから琴里達のサポートは一切受けられそうにないってことだ」
最後に、アイズ。一度戦闘になってしまえば士道達では勝てない。勝てるとしたらリリウスだけだが、リリウスはアイズを
狂三とどんな取引をしたのかは分からないが、あの時まで姿を隠していたのはあの発言からしても自身にできることはそれのみと判断していたからだろう。
「戦わずに、攻略する。今から2日後、あの『運命の日』までに。今度こそ」
「……………」
「ベル………? どうした?」
「あ、ううん! なんでもないよ」
「………頼むぜ相棒! 俺達はこれから2人で戦わないといけないんだ! 俺はいくらだって力を貸すし、ベルも俺に力を貸してくれ!」
「士道………うん!」
士道の言葉にベルが頷けば、士道もよし、と笑う。
「じゃあ、動き出すか。今日の『俺達』は都市の北側でアイズの攻略を始めてる筈だから、移動するなら反対側だな………」
「…………ベル。俺はもちろん、お前も、もっとアイズのことを知らないといけない気がする」
「アイズさんの事を?」
「ああ、何をしたらアイズは喜ぶのか、逆に、何したら悲しむのか──」
それが解らないままでは、結末は同じになるだろう。だから考えうる限り、手を尽くす。
「そうだね………でも、アイズさんのことだと、
今、彼等がアイズについて話してくれるとはとても思えない。ノエルが違うと言っても、精霊ならざる彼等には確証も持てず、未だ悪感情は残っている。
「………『俺達』じゃなきゃいいんだな?」
「………士道?」
「ベル………あの店、服屋だよな?」
「えっ………? ああ、うん。女の人用の服飾店、だと思うけど………」
「あの店先………カツラ……ウィッグがあるな………」
「うん………?」
「畜生! いってくる!」
士道はそう言うと駆け出す。気のせいか、彼の目元に流れる雫が夕日で輝いたように見えた。
ベルは慌てて彼を追いかける。
「士道? 士道ー! おかしいな、店に入ったはずなのに………」
もう出たのだろうか? いや、それ以前になんで女の人の店に?
「……ベル、ベル」
「あ、しど……」
見つけた、と笑顔で振り返るも、そこにいたのは士道ではなく背の高い美少女。
「……………誰?」
「俺だよ、士道だよ………」
「嘘だッッ!」
ベルは叫んだ。心の底から叫んだ。
「本当に俺なんだよ、ちくしょー!!」
「やめてください! 貴方はとてもキレイでカワイイですけど………僕の友達をっ! 士道をそんな風に汚さないでください!!」
女性相手にこんなに怒りを覚えるのは初めての経験だった。それでもベルは許せなかった。
「やめろおおおおお!! マジで傷つくからやめろおおおおおおおおおおおお!?」
「ごめん。士道………じゃなくて、士織さん………」
「いや、いいんだ………俺だってベルがいきなり女装したら、きっと取り乱すし………ハハハ」
ベルは女装した士道………通称五河士織に謝罪する。彼女こそ士道の変装……この姿で聞き込みをするのだろう。
確かにこの姿なら【ロキ・ファミリア】の冒険者も話を聞いてくれるかもしれない。
「………………ムチャさせて、本当ごめん」
「いいさ、いざって時のために身に着けた技術だしな。変声機はないから、士織の声が出せないのはきついけど……そこは、努力で押し切ります!」
「おお!?」
女の声に聞こえなくもない。
「それより、誰の所に聞きに行く?」
出来るなら話が通じる相手がいいが。となるとティオナが一番だが、彼女はダンジョンの監視側。広大なダンジョンから探すのは不可能に近い。となれば、ベルが人となりを知っている、残る選択肢は………。
「アイズさん、ですか………?」
「はい! 私、以前【剣姫】様に助けて頂いて………是非、その御礼を……」
選ばれたのは、レフィーヤでした。
「そうだったんですね。けど、アイズさんは今、出払っていて…………」
「そうですか………あ、あの………アイズさんって、その……カッコいいですよね?」
「え?」
「わ、私、助けて頂いた時から、すっかりアイズさんのファンに…………」
「は、はぁ……」
唐突な話の切り替えではあるが、無くもない。アイズは男女問わずファンが多い。【ロキ・ファミリア】のネームバリューに萎縮するのが殆どで、こうして切り出してくるのは珍しいので少し困惑する。
「よろしければ、アイズさんのこともっと詳しく教え──」
「おお、そこにいるのはシドーではない女か!」
「いっ!?」
聞こえてきた声に士道はすぐさま隠れる。声に振り返ったレフィーヤは相手を確認し眉間に皺を刻んだ。
「………貴方は!?」
「む………? おかしいな、シドーではない女がいたと思ったのだが……」
キョロキョロと士道ではない女を探す十香。辺りには不自然に積まれた木箱があるのみ。
(し、士道! いきなり入らないで! この木箱、狭くて……!)
(許せ、緊急事態だ! 十香に俺達が2人居るって知られるわけにはいかない!)
そのための変装なのに十香はあっさり見破っているのだ。理由? 愛だろ、多分。愛と言っておけば何もかも解決すると神々が言っている。
「……………何をしに来たんですか」
「む、そうだった。私はお前に用があったのだ、レフィーヤ! ロキにここに居ると聞いてな!」
「な、名前で呼ばないでください! ふざけてるんですか! 貴方達のせいで、アイズさんは…………いえ、いいえ………でも!」
上位精霊のノエルが否定しても、あの場にいた者から見ればやはり原因は十香にしか見えない。
「そうだ、そのことだ………私は、お前に謝りに来た。──すまなかった。アイズが反転してしまったのは、私のせいなのかもしれない」
「なっ……!?」
頭を下げるとうかに、レフィーヤが困惑した。
「……ノエル様が、貴方は関係ないって」
「私達は『ミチ』なのだろう? なら、確証を持って違うとは誰にも言えない筈だ。だから、済まない。だが、シドーや琴里、他の皆は関係ない。だから……皆を嫌わないでくれ!」
「は、はぁ!?」
「私はいい! 恨んでも、嫌っても! けれど、シドー達だけは!」
レフィーヤは、本当の意味で初めて十香を見る。
「今、シドーや折紙、耶俱矢、四糸乃、琴里達はアイズを助けるために、必死に戦っている! 助けてくれ、協力してくれとは言わない。その代わり、信じてほしい! シドー達を! 私を救ってくれたように、アイズもきっと救ってくれるから!」
だから安心してくれとでも言うような満面の笑みに、レフィーヤは言葉を失う。
「………それだけだ。邪魔をしたな、私は次へ行く」
「……ま、待ってください。次って……何処に?」
「他の【ロキ・ファミリア】の者達のところだ! これから全員に謝らなければ! ではな、レフィーヤ!」
「………【ファミリア】の団員が、何人いると思っているんですか」
走り去る背中にレフィーヤはそれだけしか言えなかった。きっとその言葉に嘘はないのだろうと確信してしまったから。
(十香、お前………俺達の知らない場所で、こんなことを………)
負けてられないと、そう思った。
嫌わせたりなんかしない。絶対に、俺達でアイズを元に戻して見せると心に誓う。
「ごめん、士道! もう、無理ぃー!」
「へ? う、うわああああ!!」
「えっ!? きゃあああああ!!」
身を縮めていたベルが叫び、士道と共に木箱から飛び出す。丁度レフィーヤに向かい。
「いたたた……って、ああー! ベル!? なんでこんな所に!」
「う、うう………」
「あっ、さっきの貴方! 大丈夫で、すか………」
レフィーヤは直ぐ側に落ちている毛の塊に気付く。
「これって、カツラ?」
「あ」
「い………い………い………」
士道が慌てて頭を押さえレフィーヤを見る。レフィーヤは顔を青くしたり赤くしたりしながらプルプル震えている。
「いやぁああああああああああああああ!? へんたーーーーーい!!」
「「すいませんでした」」
「全くもう! 貴方達ときたら、人を騙そうとするなんて!」
レフィーヤの前で正座させられたベルと士道。士道は士織から士道に戻っている。
「いや、騙すつもりは…………いえ、騙すつもりでした。本当に申し訳ございません……」
「レフィーヤさん、許してください! 僕達、アイズさんを助けるためにも、聞きたいことがあって……!」
「…………もういいです」
「「え?」」
「解っているんです………彼女達が本当は悪くないってことくらい………ボタンをかけ違ったみたいに、何かが狂っただけ……でも、恨まずには居られなかった。アイズさんが殺されてしまうかもしれない……他ならぬ、リヴェリア様達の手で」
アイズとリヴェリア………親子のように仲のいいあの2人が殺し合わなきゃならないなんて…………。
「そんなの、悲しすぎるじゃないですか…………」
「………っ!」
「……だけど、もう、やめにします。出来ることなら……ううん、何をしてでも私だってアイズさんを助けたい」
「レフィーヤさん!」
「貴方達は無礼でしたけど、あの人は………十香さんは清く、正しかった。彼女は高潔な心を示しました。だから私は、貴方達を信じられる。力を貸します」
「………今の言葉、十香に聞かせてやりたかったな」
「私が直接伝えます。私はエルフ、誇り高き種族ですから。それで、聞きたいことってなんですか?」
「アイズさんのことについて、ですか……」
「ああ。俺は精霊が『反転』する理由を、深い『絶望』に蝕まれた時、って聞いてる」
十香なら眼の前で士道を刺された時、折紙なら残酷な真実を知った時……。なら、アイズは?
「精霊の力を封印するためにも、知りたいんだ。アイズがあんな姿になっちまった『源』ってやつを」
「アイズさんが『絶望』……? ごめんなさい、実は私もアイズさんの身の上は知らないことが多くて…………」
穢れた精霊、およびそれに関わる者達に『アリア』と呼ばれたり、精霊の血を引いている事などは聞いている。しかしどのような経緯で、どんな過去があるのかは知らない。
「アイズさんのことをご存知なのは、やはりロキや団長、ガレスさん、それにリヴェリア様だと思います」
「フィンさん達………今、お会いすることは出来ますか?」
「う〜ん、ベートさんを筆頭に、貴方達を敵視する人は依然少なくない筈ですし………こそこそするしかないと思います」
派閥のトップと会うとなれば厳しい。こっそり会えないか、レフィーヤが内密に掛け合ってみてくれるらしい。
「すいません………ありがとうございます」
「御礼はアイズさんを助けた後、受け取ります。さあ、行きましょう」
……………おかしくないか?
前を歩くレフィーヤとベルの背を追いかけながら、士道は首を傾げる。
ロキはアイズの身の上を知っている筈。恐らく『絶望』も。なのに、反転について聞かされた後もそれについて一切話していない。
「デートの攻略中、伝える機会は何時でもあった筈なんだ。神の娯楽ってやつか? それとも………」
翌日。
「レフィーヤが、『密談』の場を設けてほしいと言ってきた時は驚いたが、こういうことだったか」
「お主等もよく働くのう。デートとやらも繰り返しているのだろう? ロキからも聞いておるぞ」
「は、ははは………」
ある意味意図せぬ『役割分担』を行えているのだが、2人居ることには気付かれないようにしないと。
「生憎、儂等3人が現場から離れるわけにはいかん。リヴェリアにはこの後、時間を作るように伝えてある」
「しかし、アイズの事を知るために接触を図ってくるなんて………君達と部隊を『切り分けた』僕の意図は伝わっていなかったかな?」
悪感情を持つ団員達と距離を置かせようとしていたのだが。
「まぁ、人の事は言えないかな。僕達も君達には内緒でトキサキ・狂三と接触させてもらったし」
「狂三!? あんた、狂三と会ったのか!?」
「ああ、ベートから報告を受けた後、接触を図った。本格的に会うと決めたのは………いや、良いか。安心してくれ、彼女と事を構えるつもりはない。話を聞いた今ではね………というか、まあ………彼がついてるし」
反応からして、リリウスと狂三が組んでいる事にいち早く気付いたのだろう。
リリ曰く、オラリオ総力で戦おうとエピメテウスがオラリオ側につかなければ軍配はリリウスに上がるとか。
「僕は単純に、彼女こそが『黒幕』だと思っていたんだが………」
「え?」
「いや、なんでもないさ。それより、話を進めよう。アイズをどうにかしなければならないのは変わらない」
「だがアイズの身の上か。結論から言ってしまえば………話せん」
「なっ!? ど、どういうことですか!?」
アイズを救う手段になり得るのに話さないというガレスにベルが思わず椅子から立ち上がる。
「正確には、話しても意味がないということじゃ……」
「………!」
予想していた言葉に士道が肩を震わせる。
「僕達が君達に『真実』を教えたところで、アイズの『絶望』は拭えない。何の解決にもならない。彼女の絶望が消えるとすれば…………それは燃え尽きることだけなんだ」
黒い炎に焼き尽くされ、灰になるしか。
或はアイズ自身の命が絶たれるか。
アイズの『絶望』の終着は、そこにしかない。
「そ、そんな! それじゃあアイズさんは………!」
「けれど、彼女の心を照らすことは出来る。『希望』という光で」
「………え?」
「何もかも諦めて、全て決めつけておる偏屈娘の鼻を明かしてやれと言うことじゃ」
「ベル・クラネル。何故僕達が例の『デート』とやらを君達に任せたか、解るかい? アイズが関心を寄せる君なら──」
フィンが思い出すのは、ミノタウロスとの戦い。そして、ゴライアスとの戦闘。
「僕達にあの『勇姿』を見せつけた『冒険者』なら、アイズを救えるかもしれないと、そう思ったからだよ」
「…………! …………………ぼ、僕は」
言葉が出て来ない。言わなきゃならない言葉が思い浮かばない。
「………迷いがあるか。それもいい。行っておいで、リヴェリアのところへ。どちらにせよ、沙汰は彼女が言い渡してくれる筈だ。アイズを救う『英雄』になるというのなら、まずは
昨日。
ベートと狂三の遭遇の報告を聞き、彼女と接触する事にしたフィンは、レフィーヤから密談を持ちかけられた時、レフィーヤのその態度から相手を察し、しかし違和感。
『彼等』にそんな暇があるのか?
そしてふと、琴里から聞いた〈ナイトメア〉の能力について思い返す。
荒唐無稽。その想像が現実になるのなら、それが意味するのは全能なる神々が数多存在し、ルールを作ったからこそ神ですら破れぬ筈のルールの崩壊。
だがフィンはその前提で動き、そして、まさかの場所にいる事を掴んだ。
バベル最上階。『美の女神』が本来住まう筈の場所に我が物顔で住み着くリリウスと、そんな彼が用意した拠点をそのまま使う狂三。
「まさか、こんな場所に滞在してるとはね。オッタル達はどうしたんだい?」
「リリウスが体力も魔力も食い尽くして、今は看病中ですわ。何でも、とある街娘が手づから作った料理を振る舞ったところ、病室に居座る方が続出したとか」
仮病を使ってまで食べたかったのでしょうか、と首を傾げる狂三。おかげでリリウスがもう一度足止めする必要はなくなったが。
「驚かないんやな、うちらが来たこと」
「最初に見つけるのは貴方だろうと、リリウスも言ってましたわ」
「………………」
リリウスとフィンは、実のところ考え方は似ている。同じ状況に、同じ状態で陥り答えを求められた場合、2人が出す答えは似たようなものだろう。
ただし出した結論に対するアプローチが違うだろうが。
「聞きたいことがある………ダンジョンで、僕達を攻撃した理由を聞かせてほしい」
「…………はて、何のことでしょう? わたくしはこのオラリオに訪れて、貴方と会ったのは今初めてですが」
「…………そうか。ベートの報告を聞いて、そうじゃないかとは思っていたが」
フィンは疑問が一つ解けたよ、と笑う。
そしてどの道後手に回らざるを得ない事を理解する。
「リリウス、君はこれから………」
「このアルゴノゥト、面白いお話ですわね」
フィンの言葉を遮るように、狂三が声を重ねる。
「生憎こちらの字は読めぬので、リリウスに読み聞かせてもらいましたが………この話が、一番好きですわ。誰も死なない、悲しまない、ハッピーエンド」
「………………」
「著者によって多少の変動のある英雄譚。或は物語…………その中でも『一人だと何も出来ない。でも、2人なら出来ることがある。3人ならもっと。皆となら………それこそ何でも』………これは耳が痛いですが、ええ、ええ………素敵な言葉ですわ」
美しく微笑む狂三。リリウスは会話に参加しない。
「今回のリリウスの立ち位置は、『百を救う代わりに一を救えない英雄』…………『百を救えない代わりに一を救う英雄』は、ベルさんにお任せしますわ」
狂三はずっと飯を食べているリリウスをヒョイと抱えると膝に乗せ頭を撫でる。
「そうすればこの子は、世界の為にアイズさんを殺さずに済むので…………ベルさんのサポートをしてあげてくださいまし」
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