ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
束の間の宴も終わり、物資節約の為に蝋燭や魔石灯の光も消え、残るのは
オラリオ中の冒険者が集められていた。彼等から距離を取るように端で見守るリリウスはやたらボロボロな【フレイヤ・ファミリア】に気付く。
あそこは正義や悪関係なく、
一度は『最強』になったものの『真なる最強』に敗れ、改めて鍛え直したのだろう。
「8年もあったくせに…………」
そこまで言って口元を押さえるリリウス。少し口が軽くなっていた。
アルフィアのせいだ。
「──聞いてくれ」
その声は僅かな呟き重なりが大きな雑音となっていた広場に響き、冒険者達の呟きが消えた。恐怖と緊張、戦意と覚悟。様々な感情を孕んだ幾千もの視線を浴び、フィンは臆することはない。
「敵の『真の狙い』が明らかになった。大抗争──最初の夜の戦いから今に至るまで、全ては『前準備』に過ぎなかった」
ここ数日で多くの民が、多くのファミリアが滅んだ。間違いなく最悪の期間を、前準備と言い切った勇者の言葉に誰もが動揺する。
「真の目的は、ダンジョン内における『
ダンジョンは神を憎んでいる。神がダンジョンに入り、何かをすれば神を殺すためのモンスターが生まれるのだろう。
過去のモンスターを調べれば、神の力に近いある炎を操る英雄でも殺せないモンスターが居ると聞く。
つまりは、神殺しの怪物。リリウスは目を細めた。
「召喚の方法については省略させてもらう。だが、既に偵察部隊がダンジョン内で『目標』を発見した」
偵察隊とは二日前、オリヴァスの襲撃を退けた後初日に起こった『一斉送還』の違和感に気付いたフィンが独断で向かわせた者達。そして彼等は情報を持って戻った。
「本日の正午時点で『目標』の位置は24階層。
「「「──っ!?」」」
「偵察隊の報告によれば『目標』は超大型。その進行速度と破壊規模を鑑みて………ギルドは『
リリウスがモンスターに嬲らせなんとか殺したアンフィス・バエナは『下層』の階層主。それすら凌ぐ力ということか。
オラリオで対面したことがあるとすれば【ロキ】と【フレイヤ】のみ。他の冒険者達はスケールが解らぬまま突如として落とされた影に、再び絶望を心に宿していく。
敵の狙いは地上の殲滅ではなく、ダンジョン………地下からのバベルの破壊。そうなれば地上に再びモンスターが現れ、世界は蹂躙される。
そんな防衛戦を、地上、地下で同時展開。
「どうすんだよ………敵にはザルドもアルフィアもいる! 連中だけでもヤベェってのに、ダンジョンからも化け物が来るだと!?」
フィンの説明を受け叫ぶのはライラ。不安が伝染していくが、きっと彼女が口に出すまでもなく誰もが思っていたこと。
「お手上げじゃねーか! どうすんだよ、勇者様!」
冒険者を不安にさせてはならないとリューが諌めようとするが、ライラの顔に浮かぶのは不安でも恐怖でもなく、不敵な笑み。
「迎え撃つ」
冒険者達が『勇者』の言葉に瞠目する。
「これより戦力を地下と地上に二分。
フィンの言葉に淀みはなく、驚愕していた冒険者達の耳に入っていく。
「前者はほぼ全ての【ファミリア】による派閥連合。後者は選り抜きの少数精鋭。
冷静沈着な総指揮官の口振りとは裏腹に冒険者達の反応は様々。にわかに騒がしくなり始める。
何せこの挟撃は前後ではなく、大地で遮る上下。援護や救援は至難で、どちらかが失敗すればオラリオは終わる。
「…………言うは易し、だぞ?」
輝夜が皆の心を代弁した。
「ならば、あえて断言しよう。僕達ならば『可能』だ」
一驚する冒険者達を置いて、フィンは決然と言葉を紡ぐ。
「より正確に言うのなら、
オラリオ以外に質を抑える戦力も、突出した個に対応し止められるだけの実力者も、世界の何処にもない。
「オラリオを措いて、何処の誰に任せる? オラリオが制さずして、誰が成し遂げる? 僕達ならば、僅かに過ぎずとも勝機はある。いや、僅かだろうと必ずや、その勝機を手繰り寄せる」
周囲から喧騒が消え、誰もが声を忘れ、耳を奪われていた。
「そして、もう一つ、あえて問わせてもらおう」
「
その言葉は広場の時を完全に止めた。
誰かの喉が震え、誰かの瞳が見開かれる。後舌打ちも聞こえた。
「自覚しろ! ここに居る者達、全てが『敗者』だ!」
自身にして罵倒を向けながら喉が裂けんばかりに叫び、周囲の冒険者達を睥睨する。
「あの夜にむざむざ敗れた負け犬ども! 隣を見ろ! そこに友は居るか! 後ろを見ろ! そこに愛した者は居るか」
多くの冒険者達は奥歯を噛みしめる。共に戦う友も、守りたかった者も、あの夜に地獄のような炎に飲まれたから。
恐怖や不安、絶望では押し止められない発火点がすぐそこに迫る。
「いないというのなら、誰が死した者達の無念を晴らす? 一体誰が、怒りと悲しみに燃える君達の雪辱を果たす!? 僕達だ! 絶望の連鎖を断ち切り、喪失の悲鳴を食い止め、この手を持って決着をつける! あの地獄の再来を、二度と許すな!!」
拳が上がる。雄叫びが上がる。剣が、槍が掲げられる。
「僕達は敗北の味を知った! ならば屈辱の泥こそ糧とし、今度こそ奴等に勝ちに行く!!」
日付が変わったばかりの黒い月夜に、声が響く。
「意地を見せろよ、冒険者! 誰よりもしぶとく、何よりも生き汚い無法者達! 真の勝者は最後まで立っていた者だと教えてやれ!!」
「ここは英雄が生まれる約束の地! そして、冒険者の都だ!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
士気が、爆発した。
あれが勇者。落ちぶれた同族を奮わし続けてきた小さな英雄。その胸に宿る熱が彼の分け与える『勇気』。
「これは『英雄達の前哨戦』に過ぎない! 世界の最果てで待つ『真の終末』への、肩慣らしだ!」
終末の名は『黒竜』。
「『黒竜』に敗れた
リリウスは目を細め、大方この『宣誓』を聞いているであろうアルフィアを思う。
二度目だ。彼女が………彼女達が立ちはだかり託すのは。そして、今度は『悪』として殺されるつもりだ。
たった2人を乗り越えて、そこから更に加速しなければならない。この一段を乗り越え、歩みを再開すると示さなければならない。
「敵は『絶対悪』! ならば気高き
片手に持つ槍を掲げ、
「始めるぞ! 『正義』の正戦を………!!」
都市が震える。雄叫びが高まり、友が還った天の海へと突き立つ。
語り継がれる『正邪決戦』。オラリオ史上最大の言われる『正義』と『悪』の戦いが幕を上げた。
「…………まあ、俺には関係ないが」
正義に救われず、悪に奪われた獣の声はしかし何処までも冷たい。冷めた目で、熱を灯す英雄達を見つめる。
「………………………」
彼の脳裏に浮かぶのは、アルフィアと■■■■。
それからアーディやアミッド、アリーゼ。ついでにソーマが浮かんできた。
「………そうだな。