ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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決戦準備

「………………」

 

 『正義』に倣い()戦。闇に包まれたオラリオを、絶望に沈んだオラリオを正すための戦争。

 まあ、闇派閥(イヴィルス)を滅ぼせばこれまで隠れていた小悪党にも目が向くのだろうが…………。

 

「静かだな………」

 

 ギルド、黄昏の館、アイ・アム・ガネーシャ、大賭博場、闘技場………5つの簡易収容所に市民を集め、オラリオからは人の姿が消えていた。

 

 退廃の都(ゴーストタウン)の如き街並みに、リリウスがポツリと呟いた。

 

「あらゴーストが怖いの? なら手を繋いであげる!」

「…………………」

 

 アリーゼの言葉を無視して歩くリリウス。アリーゼが懐からお菓子を取り出すと戻ってきた。

 

 

 

 

「なあ、本気で行くのか?」

 

 小柄なライラより、更に小柄なリリウス。

 10になったばかりの彼に合わせて作られた戦闘衣(バトルクロス)の感触を確かめているとライラが尋ねてきた。

 

「地上よりダンジョンの方が戦いやすいしな」

 

 飯に困らないし、と付け足すリリウス。

 総指揮官であるフィンがリリウスを配属したのは防衛ではなく討伐隊。

 闇派閥(イヴィルス)との決戦で()()の姿を見られれば士気に関わるという判断だろう。そしてそれを間違いだとはリリウスは思わない。

 

「年の事ならジャガ丸くんの娘もだ。俺より年下だぞ」

「なんだよジャガ丸くんの娘って…………」

「おそらくは、【剣姫】の事かと……」

 

 リリウスより年下で今回の戦いに参戦する冒険者と言えば彼女しかいない。彼女もまた、出ないという選択肢はないのだろう。彼女の意志もそうだが、Lv.2への世界記録を持つ【ロキ・ファミリア】の若き精兵を動かさないのは世間が認めない。

 

「まあ、ジャガ丸くんの娘は戦う理由があるらしいしな」

「その言い方だと貴方には無いような」

「アーディへの借りを返すのと…………」

 

 確実に生き残る方法を考えるなら、オラリオの外に出て繁殖した魔物を食いながら過ごし本当に勝ったあと戻ってくれば良い。

 だがあのままでは死んでいたリリウスは、アーディが食っていいと言ったおかげで助かった。

 

「返すのと………?」

「………………」

 

 もう一つは………。

 

「アルフィアにしろザルドにしろ『大最悪(モンスター)』にしろ、誰か食えばより強くなれる」

「………それ命を危険にさらすほどか?」

 

 リリウスが強くなる目的は生きる為。弱ければ奪われ死ぬから。だが、実際リリウスが目覚めたのは強者を食らうことでステイタスの成長を早めるというもの。

 

 ステイタスは本人の資質を掬い取る者。強い思いが成長に方向性を与えるのも、そもそも古代の殻を破った英雄達と同じ。

 

 つまりリリウスは成長を早める素質と同時に、死にたくないから強くなりたいくせに危険に飛び込まねば力を得ていいとは思っていないと言う事になる。

 

「だからって、今回は危険すぎる。それにお前アンフィス・バエナに挑んで死にかけてんじゃねえか」

 

 生きる為に強くなるというのは解る。その割には、リリウスは己の命より強さを優先しすぎている。目的と手段が滅茶苦茶だ。

 

「なあリリウス、お前は()()()()()()()()()()()?」

「………………………」

「お〜い! リリウス〜!」

 

 と、ライラの質問を答える前にリリウスを()()()()()()()()()()()()

 リリウスに食われたはずの左腕は、銀色の義手に替わっていて。片腕で抱きしめたまま反対の手で頭を撫でる。

 

「……………あれ? リリウス、なんだか何時もと違って獣臭くない?」

 

 血と油と汗と泥と埃に塗れたリリウスは、基本的に獣臭い。アーディが時折風呂に連れて行き洗うが、ここ最近はしていなかった筈。

 

「アルフィアに洗われた」

「そうなんだ! ん〜、後これは………香油?」

 

 そういえば、使っていた櫛から花の匂いがした。

 香油につけていたのだろう。

 

「いい匂い〜」

 

 日向ぼっこをした飼い犬に、幼い少女がそうするように髪に顔を埋めスンスンと匂いを嗅ぐアーディ。リリウスはされるがままだ。

 

「…………この腕」

「ああ、銀の腕(アガートラム)って言うんだって。まだ試作品だけどね」

「………………」

 

 冒険者というのは怪我の多い職業だ。失った四肢の代わりになるというのなら、なるほどこれから先飛ぶように売れるだろう。

 

「アーディ…………」

「あ、ライラ」

「……アリーゼとリオンの新しい衣装ができたぜ。見てみろよ」

「うん! 後でね、リリウス!」

 

 アーディは去った。嵐のような、とは彼女のことを言うのだろう。

 

「さっきの質問だが………」

「おう……」

「生きるのに、生きるため以外の理由があるのか?」

「………死ぬかもしれねえ危険を冒してるのにか?」

「この世界には黒竜が居る」

 

 あのアルフィアやザルドが所属し、彼等にも決して劣らぬ英傑達が居た世界の希望を飲み込んだ絶望がこの世界にはいる。それを倒せると希望を託せる者は、未だ現れない。

 

「それに、周期は知らんがダンジョンのモンスターである以上、ベヒーモスやリヴァイアサンも何れまた生まれるはずだ」

 

 迷宮内に一匹しか生まれないモンスターの王達。王であろうと、殺されれば他のモンスターに比べて長い時間をかけてはいるが再び現れる。ベヒーモスやリヴァイアサン、古代の怪物達が再び生まれない保証など何処にもない。

 

 それこそ、強力な怪物を生み出すのにかかる周期は千年単位かもしれないが、英雄時代に討たれたモンスターが明日にでも復活しない保証はない。

 

「強くならなきゃどのみち死ぬなら、俺は強くなるために戦って死にたい。逃げ回ってひもじい思いをするなんてゴメンだ」

 

 それは裏を返せば今のオラリオが黒竜や古代の怪物達に勝てると微塵も信用していないということ。彼らしいと言えば、彼らしい言葉。

 

「んじゃアタシは、お前がのんびり飯を食って昼寝できる世界を目指すよ」

 

 とっくに目指していたんじゃないのか、とは言わない。少なくとも彼女達は最強が追放された後、混沌に沈む世界を見て抗おうとした者達なのだから。

 

「おう、ここにおったか」

「ヴィシュヴァカルマン………」

 

 と、そこに現れたのは髭を生やした神だ。名をヴィシュヴァカルマン。鍛冶………というよりは物作りの神。

 全知全能の神の中でも、「全知」の名を冠する神の一人。

 

「ソーマのやつに頼まれて造った、お前の剣だ。銘を大酒飲み(マーダ)

「マーダ…………」

 

 それは奇妙な剣だった。

 片刃刀、なのだが()()()()は逆反りの両刃、()()()()はいっそ槍のように太く、先端が鋭く二又の剣。

 棟の形も異様で、先端近くで急に刃の幅が変わり、何かに引っ掛けられるような形。暫くは真っ直ぐで、途中背鰭のような物も生えている。

 

「それ一本で活き締め、皮剥ぎ、骨取り、肉断ち、缶空け、もちろん戦闘にも使える万能包丁だ…………儂作ったの剣だよね?」

「…………………」

 

 小人族(パルゥム)の子供にはでかすぎる剣を片手で持ち上げ、軽く振る。

 

「気に入った。もらうぞ、この万能包丁」

「……………大酒飲み(マーダ)じゃて」

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