ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
勇者パーティーの剣聖は、勇者が
周囲を警戒しつつ合流する為に歩き出した彼女は突如聞こえた爆音に向かう。
話は変わるが、邪神も神だ。当然崇める者達がいる。所謂邪神の司教、或いは信者達で、邪神の復活、あるいは誕生に多くの命を犠牲にする。さて、そんな場所で口元を血に染める者がいた。しかもなんか途轍もない気配を纏っている。無論それだけで判断するべきではないし、血だって怪物のものの可能性も………あるかなぁ? 基本的には無いと思うが、可能性だけなら。
なら後はもう、勘だ。その結果、剣聖は斬り掛かった。邪神の使徒ならば近くの女性が危険だからだ。
身体能力は高いが人域。こちらには恩恵はないとのことだったが、祝福の類か何かでも受けているのかもしれない。
技量は並以上。オラリオでもここまでは第一級の中でも一部だろう。しかし、所詮は人域。
神域に手をかけ、『神業の矢』を放つに至ったリリウスの方が技量も身体能力も上だ。
金属音が響き、剣を弾かれた女の脚を払い立てぬように胸を踏みつける。グニョっとしたので肩にした。
「くっ、殺せ! 虜囚の辱めを受けるぐらいなら、死んだ方がマシだ!」
「? 負けた奴がなんで俺に命じてる」
リリウスは心底不思議そうに首を傾げる。勝者はリリウス、敗者は女剣士。すべて決める権利はリリウスにあり、嫌なら舌でも噛み切りゃいいのだ。
「あ、あの………確かに誤解はありましたけど、離してあげても良いんじゃ」
そう言う女も態度からして自分が無理を言っている事は理解しているようだ。いきなり襲いかかったのは女剣士であり、リリウスは完全な被害者。何をしても良い、は流石に暴論だが悪いのがどちらであるかは変わらない。
「…………ん」
「え」
が、リリウスにしては珍しくあっさり足を退けた。リリウスがここまで素直なのはエピメテウスにアミッド、【アストレア・ファミリア】の面々やアストレア、アルテミスにアフロディーテやデメテル、ガネーシャなど付き合いの長い相手のみのはずで、初対面の相手にここまで素直なのは珍しい。
「………どういうつもりだ」
「俺は冒険者と敵対しに来た訳じゃないのと…………数が多い」
訝しむ女剣士の言葉に応えながらチラリと女を見るリリウスは
「派手な技はあまり使えないから、手伝え」
と、女剣士の剣を投げ返しながら通路を睨む。
「GOBUBUBU!!」
「GYAGAGAGA!!」
現れたのはゴブリンの群。先程リリウスが繁殖場の連中を皆殺しにしたのに気付いた個体が仲間に連絡したのだろう。
「皆殺しだ」
「…………そうか。混沌の使徒かと思ったが、こちらの勘違いだった。謝罪は働きで示そう」
上位種が交ざる小鬼の群。人よりも巨大な体躯の小鬼とも呼べぬ
どれもこれも二人の相手にはならない。
斬り殺されていく仲間に後ずさる一匹のゴブリンは、不意にヒクヒク鼻を鳴らす。
岩陰に隠れた女を見つけた。戦う力がない故に隠れているのだと、自分達もそうするゴブリンは知っている。そしてゴブリンは自分を棚に上げ、仲間が戦っているのに何もしていない女を心底見下す。
だが好都合。ベロリと舌舐めずりをして女へ駆け出す。
「え? きゃああ!」
「GYBABA!!」
服を爪で裂き引き千切り、飛んできた黒い剣がゴブリンを貫き壁に縫い付けた。リリウスがマーダを投げたのだ。
「GYAGIGYAAA!!」
シャーマンの中でとりわけ装飾過多な杖を持つ個体が叫ぶとゴブリン共がリリウスに殺到する。武器を手放した間抜けを殺せとでも言ったのだろう。
女は慌てて壁に刺さった剣を抜こうとするが、どれだけ深く刺さったのかピクリとも動かない。
「馬鹿が。てめぇ等如きに、武器を選ぶか」
最初に切りかかってきた個体の手首に腕を絡め桑切鎌を奪うとホブゴブリンを切り裂く。錆びついていた鎌は鎧を着込んだホブゴブリンを斬ったことにより欠けたのでホブゴブリンの持っていた斧を掴むと振り回す。上半身と下半身が泣き別れしたゴブリン達が手放す短剣、槍、鎌、棍棒、鉄棒。
短剣を弓を構えたゴブリンに投げつけて、狙いがそれて飛んできた矢を掴み後ろから新たにやってきたゴブリンの胸に突き刺す。
鎌で首を落とし棍棒で打ち付ける呪文を唱えていたシャーマンの首がただのゴブリンの首と入れ替わる。
「GUBAAABABA!!」
「ちっ、この期に及んで──」
指揮官をやられ、ホブも全滅。逃げ出し始める小鬼共だが一部はまだ女を求めて襲いかかる。リリウスが纏めて切り裂こうとした瞬間、何かに気付いたようにゴブリン共を踏み潰しながら女を女剣士へと投げる。
次の瞬間、地面がめくれ上がり巨大な何かがゴブリン諸共リリウスを飲み込んだ。
「ロックイーター!?」
鉄の鎧を纏った冒険者すら食い殺す怪物に女の顔が青くなり女剣士も表情を歪める。人間が食われればどうなるかなど、子供でも知っている。と………
「GIEEEEEE!!?」
ロックイーターがのたうち回る。硬い外殻が岩を砕きながら壁や床にたたきつけられ、やがて大きく仰け反り腹を見せると外殻をあっさり砕きながら現れる小さな掌。
ぬるりと這い出す反対の手。ブチブチと布を引き裂くようにロックイーターの体が2つに裂けていく。
「……………すごく臭い」
リリウスは虫の体液を全身に浴びとても気分が沈んでいた。鼻のいいリリウスにはキツイ。
「ゴブリン共も鼻が利いていたな…………」
それなのにこんな臭い服を着込むのは、どう考えても悪手。
「脱ぐか」
「脱ぐな!」
服をめくり真っ白なへそが顕になる。女剣士は慌てて服の裾を引っ張った。
「匂いが消えた」
「匂い消しだからな………」
普段無意識に無視している自分の匂いまで消えてなんだか妙な気分。とは言え体液の匂いを何時までも嗅いでいたくもない。
「ロックイーターって、昔徒党を組んで倒した怪物なんですけど」
「その徒党より俺のが強いってだけだ」
「神の恩恵、ですか………」
リリウスはある程度の事情を話した。自分達は本来出会う筈無き異界のともがら。こちらでは神の恩恵を受け怪物に抗うだけの力を得る。
「にわかには信じられませんが、まあ他の世界があるのは理解出来ますね」
そう語るのは剣聖。何でも勇者と呼ばれる白金等級という冒険者最高位の存在のチームの仲間らしい。
異界においてレベルとは力量。器の昇華を意味しない。故に冒険者はそれぞれの実績、力量、性格、信頼などを考慮し等級を分けるらしい。
上から白金・金・銀・銅・紅玉・翠玉・青玉・鋼鉄・黒曜・白磁。基本的に金は国家規模の難事に携わる者達であり、一般的な最高位は銀等級。
白金など史上でも数えられるほどしかいないという。そんな白金の勇者と共に戦う者。
だから次元の狭間を超え
「こちらの世界の神の行いがそちらにも影響を与えるとのことですが、具体的に何が起こるのですか?」
「ダンジョンが怒る」
怒らせた挙句専用の修行場を作らせるに至った馬鹿どもの一人の言葉である。
「神が自分にベタベタ触ってくるんだ。そりゃ怒る」
「邪神誕生と関わりがあるのですか?」
リリウスはふむ、とロックイーターの死骸を見る。
「分かりやすく言うとな」
死体に手を突っ込み、
ロックイーターの死体がグズグズに腐り外殻の一部が残る。
「こちらのダンジョンを再現しようとしている。無限に怪物が生まれ続ける大穴………その管理者にして、産む者がそっちの神が新たに盤に用意しようとしている邪神………ウラノスは、エキドナとか呼んでたか」
「つまり貴方も、その邪神の誕生を阻止しに来たと」
「そうなるな………こちらも仲間と逸れたわけだが」
「……………………」
「こっちと違ってダンジョンにいるまま繁殖までするし………俺達にとっての怪物を生むダンジョンというか、そちらの怪物という生物を増やす場所というか」
最悪なのは壁から生えるのは成体から生み出されるということ。経験が必要なホブゴブリンすら、このダンジョン擬きは無尽に生み出す。
リリウスがロックイーターの存在の感知に遅れたのはそれが原因。掘り進み現れたのではなく、あそこに唐突に生まれたのだ。
「あ、忘れるところだった」
リリウスはそう言うと歩き出す。剣聖と受付嬢は顔を見合わせてから後を追う。やってきたのは繁殖場。
リリウスが食い残したホブゴブリンの死体が壁際にある。それをどかすと土を塗った木の板があり、開けると中にはゴブリンの子供達がカタカタ震えていた。
親の醜悪さを見れば信じられないほど可愛らしさを感じる容姿だ。涙を流し震えるその姿は、心優しい相手なら或いは見逃してしまうかもしれない。
リリウスは近くの個体の両脇を抱え待ち上げる。抱っこしているようにも見えゴブリンの子供は困惑の視線を向ける。
「…………たとえ小さくてもゴブリンに慈悲は」
バキリ。ゴブリンの頭蓋が噛み砕かれ中身ごとリリウスの口の中に消えた。眼窩を失った目が零れ落ちる。
「んぐ、あんかいっふぁ?」
「…………何故食べるのですか」
「スキル………
慌てて逃げようとするゴブリンの子供を新しく捕まえギィギィ泣き叫ぶ喉を潰してまた頭から食べる。
受付嬢は顔を青くして口元を押さえ、剣聖も顔を歪めている。
「何より、何においてもこの迷宮で優先的に殺すのは此奴等だ………」
リリウスは女の死体を見る。
「ゴブリンは皆殺しだ」