ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「そっか! 2人とも無事だったんだね!」
「こっちはともかく剣士の方は今はわからんぞ」
「分かるよ。『いしのなか』に居ない限り、あの子は大丈夫!」
信頼しているらしい。いい仲間だ。
しかし……本当に仲間か?
偽物とか、そういう意味でなく、この異界の勇者だけ賢者や剣聖と在り方が違うようにリリウスは感じた。
どちらかと言うとこの女から感じる気配はエピメテウスに近い。
神の力なく人という器を超えて、存在そのものを昇華させた英雄。
(………まあ世界滅ぼす相手と戦うならそれぐらいいるか)
聞けば過去の白金級冒険者もそうとう逸脱した部類らしい。己の力のみで至るというなら、それは人という枠組みを超えた存在なのだろう。
「? 僕の顔に何か付いてる?」
「泥」
「あ、本当だ。ありがと!」
ニパ、と笑う勇者。人懐っこい。
なんというか、グイグイと来る。距離感が近い。
「それにしても異世界の冒険者かあ。
ニヘラと笑う勇者に賢者は呆れた様子だ。
「あれは楽しむものじゃない」
「でもさ、敵はすごく強かったけど、皆と乗り越えられた。これってやっぱり楽しいよ………君も分かる?」
「……………」
基本的に強敵とはソロで戦い、力を合わせて勝った強敵と言えばアルフィア、沼の王、クランプス………後はそう、パンドラ。でもあの時はいっぱいっぱいで、最強となったリリウスと共に戦えるエピメテウスと困難らしき困難には特にぶつかっても居ないし………。
「わからん……」
「ええ〜」
「だが仲間との冒険が楽しいのは、わかる気がする」
ほらみろ、と言わんばかりの得意げな笑みを賢者に向ける勇者。振るわれた杖がゴチンと頭を叩く。
リリウスは仲がいいなと、思った。飛び出してきたゴブリンの頭を握りつぶす。
「それにしても、この遺跡って何処のだろう?」
「四方世界か、或いはこっちの遺跡を持ってきたんだろ。ダンジョンを模倣するにしても一々階層デザインするのが面倒だったんだろうな」
洞窟までならともかく、適当な地底湖、適当な森、適当な峡谷を一々造るのが面倒だった。だから移したか写したか………。
神代の遺跡も朽ちた城も見上げる大樹の森も、神々は
混沌の子らが用意した悪意の詰まったダンジョンに秩序の子らが挑む。それが楽しいのだ。
故に今回の《豊穣》の暴走は叱られ、この場は処理される。どうせならゲームにしようとリリウス達が選ばれたわけだが。
(勇者一行は
賽の目による
「………うわぁ、おっきい竜………蛇かな?」
「蛇竜だ」
遺跡の奥、広間の壁に描かれた絵を見て勇者が感嘆の声を漏らす。
「………海?」
巨大な黒い蛇とも竜とも付かぬ怪物の半身は波立つ海に沈み、数多の戦士を乗せた船が竜へと槍や剣、弓を向けている。
少しずらせば、絵の続きだろう。より巨大な波に砕かれ沈む船。祈りを捧げる精霊らしき乙女達。されど竜を討つには至らず。
「
英雄達の抗った証拠を残したかったのか、黒竜信仰のように崇めていたのか、それは分からない。分からないが、どのみちこうして遺跡に描くほど強大な存在の一つだったのだろう。
「どんな怪物なの?」
「世界を呑むほどの巨躯を誇ると言われ、身を捩れば船が沈み、過ぎた後には渦が残り、鱗の一部が擦っただけで小島が沈むと言われた海を殺す竜だ。海岸に現れただけで海の国々が沈み大陸の形が変わったという逸話もある」
「世界の危機だ!」
「まあ俺の母………みたいな奴等に討たれたが」
「おお…………え、割と最近?」
大地を殺す巨獣も海を殺す大蛇も、つい最近まで暴れていた。それでも人類は滅びなかった。【トール】や【ポセイドン】といった武闘派派閥が千年もの間対応し続け、その果てに生まれた下界の最強戦力達が犠牲を出しながらも討ち取った。
「最後の一匹が残ってる。世界はまだまだ危機を脱しちゃいないがな」
「そっか…………頑張ってね!」
「………………」
賢者はポカンと勇者を見る。
「どうしたの?」
「てっきり『じゃあ僕に任せてよ』っていうかと思った」
「そりゃあ僕は勇者だもの。『助けて』と言われれば飛んでいくよ。でも、リリウスは助ける側だ」
でしょ、と振り返る勇者。
「向こうで叫ぶ人達は、向こうの冒険者に呼びかけてる。僕等は彼等を信じれば良いんだよ。『向こうの世界は大丈夫かな』じゃなくて、『向こうは任せて大丈夫!』………だから安心して、僕達は僕達の世界を救うんだ」
「そうだな…………これは、俺達の問題だ」
リリウスはそう言うと勇者の頭を撫でる。勇者の方が背が高いので足も手も伸ばしているが。
「だけど今だけは僕達の問題だね」
「ああ、こちらのダンジョンが怒りに任せてよくないものを産むかもしれないからな」
「そしてこっちは、よくない場所が生まれようとしている」
どちらにとっても世界の危機だ。
「なら仕方ない、勇者だもの。遊びの予定は後回し」
「美味い飯も美味い酒も、世界を救ったその後か」
明らかに後付された遺跡の階段を降りていく。
やがて現れたのは巨大な湖。
「また、湖?」
「いや、これ海水だな」
ペロリの水を舐めるリリウス。
「そちらの神は、形から入るのが好きらしい」
水面が爆ぜ、現れるは白い鱗に包まれた巨大な蛇。
「
「知ってるのより大きい………」
これだけ巨大な塩湖に、気配はこの一匹だけ。これが意味することとはつまり………
「
「なにそれ?」
「神々の言葉を借りるならボスキャラ」
リリウスが賢者を抱えて飛び退く。勇者も飛び退いた。高圧水流が先ほどまで立っていた岩場を削り飛ばす。
「リヴァイアサンってこんな感じ?」
「骨しか見たこと無いが、鰭骨の一本のほうがでかい」
「なるほど、つまり、此奴は大したことないってことだね!!」
賢者が何やら呪文を唱えると3人の体を包む。勇者は水面を駆け出した。水上歩行の魔法だろう。
リリウスは賢者を岩陰に移動させる。
「ヌルヌルして気持ち悪い〜!」
「下だ!」
リリウスが勇者に向かって叫ぶ。勇者がすぐさま横に飛ぶと水面から蛇のアギトが飛び出してきた。
「うわっと!? もう一匹!!」
「いや………全部で一匹だ」
八本のヘビの首が水面から現れる。気配は依然変わらず一つ。多頭の蛇だ。
「後ろ!」
リリウスの背後から迫る蛇の首に気付き、今度は賢者が叫ぶ。が、首は縦に裂けリリウスの真横の水面に叩きつけられる。
「ん?」
ビチチと傷口がくっつき再生する。危うく巻き込まれかけたリリウスは再び斬るが、今度は生えた。
「再生能力持ち」
「吹き飛ばす?」
「地下でないならその案もありだがな」
下手したら生き埋めだ。ここはダンジョン程広くない。強すぎる攻撃は階層を破壊し、こちらに牙を剥く。
「この手の怪物は同時に首を落とすと良い」
「そんな事言っても、一匹一匹倒せてもこっちの数が足りないよ!」
首を落とす分には問題ない。後は数。なら、問題ない。
「ウオオオオオオオオオ!!」
押し寄せる波が弾けるほどの雷声。現れたるは全身鎧の猛牛。紅の光輝を帯びた斧を振るい、放たれる光の斬撃。蛇の首が切り落とされ階層の天井と壁に巨大な爪痕が刻まれる。
ガラガラと巨大な瓦礫が水面に落ち巨大な波を作り出した。
「うわぁ! 天井が崩れる!」
「む………やり過ぎたか」
「やり過ぎだ。ここは【
アステリオスの肩の上に立ったリリウスは咎めるように兜を蹴る。
「お、あんた此奴のお仲間か?」
「ん? ベルの声…………誰?」
聞き覚えのある声にお前まで来てたのかと問おうとすれば知らない男だった。
「おお、恐ろしき海の竜。斯様な地の底で出会うとは」
「まあ森があったり変な場所じゃからなあ」
「おーい! リウっち、アステリオス!」
更にタイミング良く仲間が集う。
「どうやら無事合流できたようですね。貴方は隠れていてください」
「は、はい!」
良いと言うか良すぎるというか…………賽の目が良かったのだろうか? この場にベルのように『幸運』のようなものでも持っているのだろうか?
少なくとも自分ではあるまい。