ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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黒山羊(ゴブスレコラボ)

 休息を挟み一同は再び下を目指す。

 数多の鉱石が存在する欲望を刺激する階層。

 全身が金剛石で覆われた巨人がリリウスに食われた。

 

 吐く息すら凍りつく時すら凍りつかせる氷河の階層。

 吹雪を吐き出す狼が勇者の剣に切り裂かれた。

 

 炎の河が流れる呼吸すれば肺が焼ける灼熱の階層。

 岩を融かし呑む蛇がリリウスにより氷像とかした。

 

 恐ろしき竜が犇めく峡谷の階層。

 勇者の魔法が竜共を消し飛ばした。

 

 

 

「…………強いな」

「まあ、結局の所私達のパーティーは賢者(この子)が謎を解き、私が時間を稼ぎ、勇者(あの子)が全部終わらせる流れですから…………だから、初めてです。あの子が誰かと共に敵に向かっていくのを見るのは」

 

 最後は何時も彼女が世界の脅威を消し飛ばす背中を見ている剣聖の言葉に槍使いはそうか、とリリウスと勇者の背中を見る。

 

 英雄になりたかった。

 最強になりたかった。自分達に、そんな物語は与えられないのだともう解ってはいるけど。

 

「比べたところで…………私達が彼女や彼の代わりになれはしませんよ」

「………………知ってるよ」

 

 襲いかかってくるゴブリン程度、槍で貫ける。

 壁を破壊し生まれたワイバーンだって魔法で吹き飛ばせる。

 

 だが、金剛石の巨人も吹雪の巨狼も炎の大蛇も自分では相手出来まい。

 それに、あれだけ守ると息巻いてみせた受付嬢だってリリウスが呼び出した多腕の女が作り出した虎と蛇に環境そのものから守られている。

 

「俺に世界は救えない」

「「何言ってんの?」」

 

 槍使いの言葉にリリウスと勇者が振り返る。どうやら聞いてたらしい。

 

「僕等は世界の危機を打ち払って世界を救いに行くけど、僕等だけじゃ世界の全部を救えないよ」

「俺等が世界を救ってる間にだって、村も街も別に世界を壊す力なんざ持ってねえ奴にでも滅ぼせる」

 

 勇者の世界なら混沌の勢力が。リリウスの世界なら竜の谷から抜け出した竜共が。

 

「世界を壊せる怖い奴等を倒せても、その間に故郷の皆が殺されちゃたら意味ないよ。ねえ?」

「まあ、そうはならないだろ」

「そりゃ、そうだろうがよ………」

「だって冒険者(君達)がいるもん」

 

 にへら、と勇者は笑う。

 

「誰も勝てない世界の危機を僕等が倒して世界を救う。他の皆が世界に住む人達を救う。だから僕達は、空っぽの村を見ないで済むんだよ」

「強い奴等だけで世界が救えるものかよ。なら俺の世界はとっくに救われてなきゃおかしい………俺等が世界を救うんじゃない。俺等で世界を救うんだ」

「そうだよー。例えばゴブリン! あれは怖いよ〜、村とか滅ぼしちゃうからね! 数が増えれば、きっと街も。でも、他の冒険者が倒してくれるから全ての村が滅ぶなんて最悪は起きない」

 

 勇者の言葉に剣聖と賢者以外が何かを思い出すように微笑んだり吹き出したりした。やたらゴブリンを殺す知り合いでもいるのだろう。知り合いに小鬼殺しとかいるらしいし。

 

「そりゃね、ここは僕等に任せて! って言っちゃうけど、それはつまりそっちは君達に任せたってことなんだよ」

「まあ、そういうこった。自分の行いを軽く見るなよ。それはお前に憧れる奴から、救われた奴等を軽く見てるってことだ……」

 

 それはとても怒られる。天の炎に宿った意思の残滓でしか無いくせにその時代の英雄に力を貸すぐらい怒ってた連中もいるのだから。

 

「拙僧達が救うものもまた世界の一部。真理ですな」

「しかし言われねば気付かぬことでもある。戻ったらかみきり丸にも伝えてやらねばなあ」

「………はん。彼奴がそんな事言われて喜ぶかよ。どうせ、『そうか』で終わって、次のゴブリン退治だ………」

「しかし、結果村が救われるのであろう?」

「…………まあな」

 

 アステリオスの問いに槍使いはふん、とつまらなそうに鼻を鳴らし、しかし否定することはなかった。

 

「……………広い所に出たな」

「また強いの?」

「……………来るぞ」

 

 ビキィ! と広間(ルーム)の天井に亀裂が走る。

 瓦礫とともに落ちてくる巨大な影。ズウウウンと轟音を立て大地を揺らす。

 

『MEEEEEEEEE!!』

 

 大樹の如く太い4本の足に生えた蹄が岩肌を砕く。小枝のように伸びた無数の触手がウネウネと動き、複数の口から鳴き声を奏でる。ギョロギョロと動く長い瞳孔の瞳が冒険者達を捕らえた。

 

「気持ち悪い!!」

「ヒトデみたいだ」

「もっと気持ち悪いですよ!?」

「冒涜的……」

 

 勇者が顔を青くしてリリウスがヒトデの味を思い出し剣聖がツッコミ賢者が顔を顰める。

 

「まさに、星海より来たと言われても納得する異形ですな」

「しかも滅茶苦茶でかいのお」

「巨人も食っちまうな、あれだと」

 

 蜥蜴僧侶、鉱人導師、槍使いも冒険者として未知に混乱することはない。

 

「山羊?」

「シルエットが丸っこいし羊ってやつじゃねーの」

 

 アステリオスとリドはそもそもが怪物なので異形程度に心揺さぶられることはない。

 

「ドゥルガー、そいつを守ってろ。ただの鳴き声だけで精神を揺さぶるっぽい」

「ああ」

 

 リリウスはドゥルガーに受付嬢を守るように命じる。既にこちらを認識している触手は大地を砕きながら走り出す。

 

『MEEEEEEEE!!』

 

 全身を鞭の様に撓らせ触手を振るう。先程までリリウス達が立っていた地面が砕かれる。

 

「よいしょお!」

「よっと」

 

 リリウスと勇者が触手を切り落とす。悲鳴を上げながらのたうつ黒山羊。死臭漂う黒緑の血液がドロドロと飛び散る。

 

「ん?」

「うわぁ!?」

 

 ゴポッと切断面が泡立ち新たな触手が生えてくる。勇者は幸い距離があったが、リリウスが触手に捕まり地面に叩きつけられた。

 

「大丈夫かいの!」

「導師殿!」

「!?」

 

 鉱人導師が慌てて駆け寄ろうとするが後ろから何かが襲いかかってきた。蜥蜴僧侶が尾で叩き飛ばす。

 

『MEEEEE………』

「なんじゃあ!?」

 

 それは足を生やした触手。リリウスと勇者が切り落とした触手の一つだ。そう、一つ。

 

『MEEEEE』

『MEEEeee』

『MEEEEEE!!』

 

 仔山羊の群れが産声を上げた。

 

「まさか、斬ったら増えるのか!?」

 

 ならばどうすればと攻撃出来ず回避に専念する槍使い。別の場所から飛んできた仔山羊がぶつかり合う。

 

「千切れた方は増えない」

 

 とリリウス。ピンピンしてた。

 

「でもどうすんだ? 再生するんだろ」

「魔石を砕く」

『MEEEEEEE!!』

 

 と、迫りくる仔山羊の群れを切り捨てながら接近しバチリと雷が黒山羊の体を焼き砕く。

 

『MEEEEEEEEEE!?』

 

 焼け焦げた肉体は再生が遅い。他の触手が炭化した個所を砕こうとするがリリウスがそのような隙を与えるはずもなく追撃を加えようとすると仔山羊が飛んでくる。

 

『MEGYU!?』

 

 蹴りつける。爆ぜて粘性の強い血液が体に絡みつく。

 

『MEEEE!!』

 

 大きめな仔山羊が小さな仔山羊を投げつけてきたらしい。

 

カリブンクル(火石)クレスクント(成長)………ヤクタ(投射)!!」

 

 火球(ファイアボール)!!

 

『MEEEEEEEEEE!!?』

 

 目が焼かれる。あれだけでかいのだから狙いたい放題だろう。まあ勇者の放った魔法の威力は明らかに規模がでかいが。

 

 第2級(Lv.4)魔法種族(エルフ)の魔法………詠唱の長さを考えれば第一級にも匹敵する魔法の威力だ。

 

「アステリオス、合わせろ」

「誰に?」

「小娘」

 

 リリウスの言葉にアステリオスは紅い光輝を纏い、リリウスは仔山羊を食いながら肉体を雷で活性化させる。

 

「夜明けの………一撃!」

「「斬光(ざんこう)」」

 

 魔石が何処にあるとか関係ない。黒山羊は消し飛んだ。

 仔山羊達もドロリと崩れ落ちる。

 

 

 

 

「………………あからさまな扉だな」

「あそこが最後の階層、かな?」

「42階層か…………すくねぇな」

「いや多いわ」

 

 黒山羊を超え下の階層。そこには巨大で不気味、されど荘厳な扉があった。

 

「海や池、森に荒野。砂漠に氷河まで何でもありだったじゃねえか」

「ああ、そっちでは初なのか」

 

 オラリオのダンジョンに慣れてると一つ一つの階層は狭いしそこまで大きく感じなかったが、四方世界では『最も深きダンジョン』で十階層らしい。

 

「門の前にはゴブリンの群…………ここに来てまだゴブリン?」

祈らぬ者(ノンプレイヤー)といっても魔神王じゃないからねえ。いろんな種族が集まれば思想も変わるよ」

 

 その結果、一番扱いやすいのは馬鹿なゴブリン。他は他の階層で役目でもあたえて納得させたのだろう。となると最後の階層にいるであろう邪神の神官辺りはそれなりに強い種族か、強い存在か。流石に小鬼の司祭(ゴブリンプリースト)が全ての黒幕、なんてことはあるまい。いるかは知らんが。

 

「一先ず上に戻って休むぞ。呪文はそうやって回復するんだろ?」

「どうせなら3階層ぐらい戻ろうよ。水浴びできそうな泉あったし」

 

 

 

 先に女子。この臨時パーティーは女性も多い。鉱人導師が壁を作り、周囲を警戒する。

 

「リリウスは来ないの?」

「俺は男だ」

 

 賢者の言葉にリリウスがそう返す。え、と多くの視線が集まる。

 

「…………何故髪を伸ばしているのです?」

「すぐ伸びるから」

 

 簡潔に答えた。

 

 

 

「こういう時は冒険者になった理由とか話すのが定番だよな」

 

 『夜』。

 薪を囲みながら飯を食らう中槍使いが唐突に切り出す。リリウスは薪の中に放り込んでいたダンジョンの木になっている樹の実を取り出して割る。トロリと実が溶けて皮を皿代わりにスープが出来た。

 

「そりゃお前さん、世界中のうまいもん喰うために決まっておるだろう」

「勇者を支えるよう命令されたから」

「似たようなものですが、磨いた剣の腕で人を救えるので」

「何時までも神殿に迷惑かけられないしね。十五歳になったら冒険者になるって決めてたんだ〜」

「拙僧は異端を殺して位階を高め竜となるため。そう言う槍使い殿は?」

「決まってんだろ! 最強になるためさ!」

 

 リリウスは聞きながらも影から取り出したチーズを焼きたてのモンスターの肉に削りかける。と、視線に気づく。

 

「お前はどうなんだよ? 異界の冒険者の目的ってのも、気になるな」

「眷族を一人増やすと酒が安くなるからって理由で俺を産んだ女と孕ませた男に売られた」

 

 場の空気が凍った。

 

「…………ま、待ってください! そちらの冒険者ギルドでは、そのようなことがまかり通るのですか!?」

「こっちの冒険者ギルドは冒険者に()()()連中を管理するもので、冒険者に()()だけなら一切関知しない」

「そんな…………」

 

 規律を重んじる異界のギルド職員には受け入れがたい事実のようだ。

 

「そのような体制で、市民との信頼関係は平気なんでしょうか?」

「まあ最強勢力は市井に恐れられてる」

 

 なんなら同じ冒険者にも。もうそれはリリウスも似たようなものだが。

 

「それで問題ないんですか?」

「向こうじゃ力が全て。だから俺が一番偉い」

 

 

 

 

 

 休憩を挟み、また食事。

 作戦はリリウスと勇者を先行させ残りはゴブリン共が背後からこないよう殿(しんがり)

 

 リリウスと勇者には特別な料理が施された。

 

 周囲の思考が読み解けるようになる読心の秘薬、神々の祝福を得られる戦女神のいしおしの聖水、上の森人(ハイエルフ)の王族のみが作ることを許された神々の食物とされる焼き菓子、神々の嘆願でもたらされたその身に英雄の活力を与える糧秣。

 

 量が多いので勇者は持ち主の望むままの美味なる味付けを齎す魔法の香辛料を使っていた。リリウスはついでに昨日の山羊脚も食っている。

 

謎解き(リドル)は任せて」

 

 勇者とリリウスの他に、謎解き(リドル)に備えて賢者もついてくる。

 

「さぁて、それじゃ。皆で世界を救いに行こう!!」

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