ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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絶対防御

 猛毒の風が吹き荒れ巨体が駆け抜ける。

 アダマンタイトもオリハルコンもただ純粋な力に破壊される。

 

 これが冒険者。これが怪物。

 紛い物の迷宮など狭苦しいとばかりに暴れ回る力の塊。

 何一つ、誰一人邪魔をする事を許さない。

 

「…………………」

 

 毒は溜まっていない。この広大な地下空間、存外空調機能がしっかりしている。それはつまりこの毒が何処かに流されているということ。

 

 この階層なら大半はダンジョンだと思うが、あまり量を使うべきではないだろう。

 

「グルルル!!」

 

 リリウスが地上を見た事に、己から一瞬でも目を逸らしたことにタラスクは気分を害したのか再び回転。今度は地面に接触する際に畳んでいた足を伸ばす。

 

 放物線を描くように跳び、回転は殆どない。全体重を乗せた角をリリウスへと突き立てる。

 

「馬鹿が、軽いんだよ」

「!?」

 

 角を掴み取り、タラスクの巨体を投げ飛ばす。

 甲羅(そと)は規格外の硬さだが内臓までは鍛えられないようだ。ゴハッと胃の中身を吐き出す。溶けかけた闇派閥(イヴィルス)の残党の死体が出てきた。

 

「〜〜〜〜!!」

 

 文字通りひっくり返った亀の如くジタバタと暴れるタラスク。リリウスが雷を落とす。

 

 怪物特攻、竜特攻の2つの判定が入り強化された雷が内からタラスクの神経を焼く。

 

「ガアアア!!」

 

 ひっくり返ったまま炎を吐き出すタラスク。多少の怪我はすぐに癒えた。規格外の防御性能に高い回復能力。

 

 厄介な、と火傷を癒しながら思うリリウス。深層も深層の竜に匹敵するドラゴンが放つブレスを食らって致命には至らない。リリウスが高い『耐久』を持つのもあるが、そもそもタラスクの炎は潜在能力(ポテンシャル)に対して低い。

 

 タラスクは再び回転し体を傾け跳ね上がる。

 

 高速回転する甲羅の端がアダマンタイトを削りながら加速し時折角度を調整し足を伸ばし軌道を自在に変える。

 

 性能は完全に猛毒と身体能力に寄っている。元々は近接特化の竜がまかり間違ってベヒーモスの力を手に入れた結果遠近両方強くその上周囲の環境を殺す理不尽に極まりない怪物へ変化したのだろう。

 

 【ラーフ・シュールパナカー】なら硬さは関係なくこの世界から削り取れるが、存外すばしっこい。やるにしてもまずは機動力を削いでからだ。

 

「っ!!」

 

 壁を破壊しながら高速で移動するタラスク。極東のコマとかいう玩具の様だ。しかし動きは単純。避けるのは容易い。

 

「がっ!?」

 

 確かに躱したはずのリリウスだが、何かが脇腹を抉り取る。タラスクの尾だ。回転により速度が加わった鏃のような尾の先端がリリウスの『耐久』を突破した。

 

 単純に強い。そのうえ知能も高い。潜在能力(ポテンシャル)は間違いなくLv.9。リリウスとほぼ互角。ならば…………!

 

「【傲慢なる悪意の王。血の河を啜れ、肉を貪れ】」

「【ラーヴァナ】」

 

 唱えられる魔法の詠唱。現れるは無双の獣。

 

「オオオオオオオオオオオッ!!」

 

 ただの咆哮が石板を砕きオリハルコンを剥き出しにする。ただの踏み込みがオリハルコンを砕き、ただの移動が大気を押しのけ強力な攻撃魔法でも撃ち込んだかのように破壊の跡を刻み込む。

 

「グウウ!?」

 

 タラスクは回転しリリウスの攻撃を受け流すが弾かれるように壁に激突しリリウスも勢いそのまま壁をぶち抜く。

 

「ゴルル………ゴアアアアアア!!」

 

 大口を開けたタラスクの口内に黒風(かぜ)が収束する。圧縮された黒風(かぜ)が解放されただ純粋な質量を持ってアダマンタイトを破壊する。

 

「がぁ!!」

 

 相対するは音の砲弾。ぶつかり合い、猛毒の風を散らせる。

 

「グル…………ガアアア!!」

 

 タラスクは再び回転。リリウスへと突っ込む。

 

 大質量故の攻撃力。元々の高度に加え高速回転故の防御力。無敵と言ってもいい絶対防御。それを──

 

「るぁ!!」

「ガっ!?」

 

 リリウスはタラスクの巨体を()()()()()

 全種族の中で最も身体能力の低い小人族(パルゥム)が階層主を抜いた超大型級の中でもトップクラスの重量を誇るタラスクを蹴り飛ばすなど誰が想像できようか。

 

 少なくともタラスクは出来なかった。数瞬の思考停止。しかしすぐに空中で回転し追撃に備える。

 狂化率100%。ランクアップに近しい強化。

 

 即ち神時代最強の一撃はしかしタラスクの甲羅に罅を入れるのみ。衝撃を回転で散らしたのを踏まえても、タラスクもまた規格外の怪物。

 

 回転しながらリリウスへと迫りその質量で押しつぶそうとする。理性を失い本能のまま行動するリリウスは、故に最適解を導き出した。

 

「ガア!」

 

 斬撃ではなく刺突。狙うは回転の中央。唯一動かぬ中心に正確に突きつけられる剣先。

 

「──────!!」

 

 タラスクが幻視するは己の甲羅をその牙で貫こうとする巨大な黒蛇。ビシリと亀裂が走りタラスクの体が再び浮き上がる。

 

「…………グル」

 

 内臓には達していない。まだ亀裂が走っただけ。それも背中より薄い腹に。

 

 だが、自分はたしかに怯んだ。その事実に怪物の王である竜たるタラスクは屈辱に震える。

 再び回転。これまでにない速度の回転に加えて腹の罅。自身もダメージを負うほどの回転はアダマンタイトの床から火花を散らし摩擦で赤く発光させる。

 

 間違いなくこの戦いにおいて最大最強の一撃が来る。

 相対するリリウスは雷を纏う。怪物、竜………二重強化。

 

 タラスクが跳ね上がり体を立てる。

 車輪のような縦回転で加速するタラスク。力では強固な甲羅に阻まれ速度では回転に流される。ならばどうするか………。

 

 阻まれぬほどの力で、流せぬ程の速度で貫く。

 

 放たれる雷速の刺突。纏う電熱が、空気との摩擦が大気を熱し膨張させる。

 

 

 

 

「……………雷鳴?」

 

 女体型と極彩色のモンスターの群れを突破し、パワーブルに寄生した穢れた精霊(デミ・スピリット)を打倒しなんとか地上に帰還したアリーゼは人造迷宮の奥から聞こえてきた音に振り返る。

 

 かなりの遠雷。それでもゴロゴロと余韻が響く。

 

「……リリウス?」

 

 

 

 

 

「…………頑丈だな」

 

 結局背中の甲羅は砕けなかった。しかし罅の入った腹は別だ。砕けた腹の甲羅から剥き出しになった内臓。リリウスは魔石を抜き取る。

 

 ドロップアイテムは背中側の甲羅。加工するには相応の設備が必要だろう。と、持って帰ろうとするリリウス。ゾワリと全身の肌が泡立つ。

 

「!?」

 

 何かに見つかった。見られている!?

 

 下!?

 

 咄嗟にタラスクの甲羅の上に移動するリリウスを光が包みこんだ。

 

 

 

「むにゃむにゃ、ベル君………歓楽街なんかに行っちゃダメだからね〜」

 

 と寝言を言うヘスティア。ベルが歓楽街から朝帰りした事をまだ覚えているようだ。

 

「んふふ、そうとも僕が抱きしめ…………ふぁ!?」

 

 突如響いた轟音に飛び起きるヘスティア。何事かと窓の外を見れば天へと昇る光の柱。オラリオの外からだ。神の送還? それにしてはエネルギーが少ない。あとなんか斜めだし。

 

「ん? 何かこっちに…………」

 

 と、何やら影がこちらへ向かってくる。庭に落ちた。

 

「リリウス君!?」

「神ヘスティア…………」

 

 巨大な甲羅とリリウスだった。リリウスは表面が焼け焦げた甲羅をひっくり返し地下を見つめる。

 

「な、なにがあったんだい?」

「竜に下から攻撃された」

「竜に?」

「竜の壺みたいなものだ」

「いや、僕はそもそも竜の壺が何のことやら…………」

 

 他の皆も起きたのかオラリオ中で明かりがつき始める。リリウスは甲羅を引き摺りながら帰ろうとし、ふと足を止める。

 

「この前のシカ肉、どの部位が良かった?」

「あれ君の仕業かぁ!? すっごく怖かったんだぞぅ!」

 

 

 

 

 人造迷宮(クノッソス)の被害。

 18階層8割崩壊。6階層から17階層に竪穴開通。

 17階層2割崩壊一部融解。そして、18階層の竜の砲撃により地上に開通。穴は即座に塞がれたがその為に各所のアダマンタイトの扉を消費。大損害も大損害だ。

 

 虚ろな目でブツブツと呟くバルカに土下座し続けるタナトス。

 

「大変だね、タナトス」

「ディオニュソス〜。そもそもお前の造った竜のせいだろう?」

 

 邪神仲間のディオニュソスにタナトスは愚痴る。幸い11階層の『要』は無事だが、クノッソスを襲った被害は大きい。

 

「ていうかさ、あの竜でなんとかなるんじゃないの」

()()はオリジナルに大きく劣る。それはゼウス、ヘラでなくとも対処できる事は既に証明されているだろう?」

「それはそうだけどさ〜」

 

 それでもオリハルコンの通路を破壊し地上まで開通させるだけの力を持つのだ。十分すぎる戦力だと思うがディオニュソス曰くそれでは古代の再来はないとの事だ。

 

 まあ作戦を考えて支援してくれたし、とタナトスは仕方なく肩を竦める。

 

「でもまあ、流石だよね。百の竜をミュラーちゃんの技術で混ぜ合わせたのに、骨の一部がその全てを飲み込むんだもん」

「嘗て数多の英雄を沈めた世界最強の怪物の一角だ。そういうこともあるだろう」

 

 

 

 

 リリウスはガリガリとタラスクの甲羅をマーダで削る。

 甲羅粉末をひっくり返したタラスク甲羅鍋に入れお湯を炊き、ワニ肉とスッポン肉の肉団子を入れ野菜を追加し煮込んでいく。

 

 汁を味見し味が足りなかったのかソーマの薬草畑で育てている薬味を追加。満足いく味になったのか鍋を掴み飲み込む。

 

「ふぅ…………よし、更新頼む」

 

 タラスクが硬すぎて戦闘中食えなかったリリウスは改めて調理し食い、経験値(エクセリア)に反映させたのだ。間違いなく強敵ではあった。しかし、壁となるには足らない。それでもそれなりの成長は出来るだろう。

 

「ああ。ところでリリウス、お前の弟子が訪ねきているぞ」

「ベルが?」

 

 ステイタスを更新し向かうと何やらベルが俯いていた。

 

「金が欲しい?」

「はい。サポーターとしてでも構いません! 僕を、深層に連れて行ってくれませんか…………」

「無理だ。俺も金を稼ぎたいから、お前じゃすぐ死ぬ階層まで潜る」

 

 具体的には規格外の硬さを誇る甲羅を加工する為に必要な資金集め。一部はマーダに混ぜる予定だ。

 

「なんなら冒険者依頼(クエスト)でもうけろ。リューもいるんだ、たいていの依頼なら簡単にこなせるだろ」

 

 リリウスはそう言って深層に向かった。

 

 

 

 

 2日後。地上に戻ろうとするとアマゾネスの集団がリリに襲いかかっている現場に遭遇した。

 全員食い殺すことにした。

 

「………は? 馬鹿な、深層にいるんじゃ!」

「昨日の今日でもう戻って!?」

 

 リリウスの姿に混乱するアマゾネス達。最初の1人が首を千切られ慌てて逃げ出そうとして、しかし足が切り裂かれる。

 

「……………輝夜」

「お姉ちゃんも居るわよ」

「アリーゼ」

 

 リリウスは輝夜に視線を向けた。説明はアリーゼではなく輝夜にさせようとしているのだろう。

 

「少し面倒なことになってきましてねえ。どうも【イシュタル・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】に喧嘩を売るようで」

「派閥争いか。じゃあベルは餌として、【アストレア・ファミリア(おまえたち)】が干渉するのか?」

 

 派閥同士の争いは余程のことが無い限り黙認される。それがオラリオのルールだ。

 

「その余程のことが起きた。あのクソ女神、禁術に手を出してな。眷族の命を犠牲にして、強化装置を量産する気だ」

「命?」

「『殺生石』………狐人(ルナール)の命を封じ込め、砕くことで欠片を持つ万人に魔法………『妖術』を扱わせる事のできる最悪な道具だ」

 

 狐人(ルナール)……エルフとはまた異なる魔法種族(マジックユーザー)で、エルフが雷や風、炎など自然的な力を使うのに対して摩訶不思議な魔法……『妖術』と称される力が発現しやすい種族だったか。

 

「……………イシュタルの眷族を強くしたところでフレイヤに勝てるわけないだろ。馬鹿なのかイシュタルって」

「バカだろうな。だから考えなしに動く」

「そうか。殺そう」

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