ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
時間を四日前に遡る。
クノッソス最初の強襲。結果的には失敗だろう。
リリウスの情報で対策はしていた。それでも、都市最強の一角として過ごし慢心を生んでいたのは事実。
結果的に死者こそ出なかったが、結果論。セレニアという新たな第一級を加え、【アストレア・ファミリア】の援軍もあってなお、分断されたリーネ達が死にかけた。
途中轟音が響く中罠の発動が止まり移動が容易くなり、クノッソスをぶち抜く光線によりヴァレッタが引いて死にかけるだけで済んだがリーネに至っては
ベートがなぜか持っていた傷も呪も癒す聖水で事なきを得たがベートは忌々しげに意識朦朧の仲間を罵った。
「俺達の手を煩わせんじゃねえよ、雑魚共が。あのガキがいなけりゃ、無駄死にして死体晒す程度の分際で
「
「二度と俺の前に現れるじゃねーぞ」
「それで、ファミリアから追い出されたと」
「そんな事より!」
「そんな事より?」
とある酒場。リリウスに愚痴るセレニアはだん、とジョッキを机にたたきつけた。
「ベート、リーネさんに聖水飲ませる時何したと思う!? キスしたんだよ!」
「「ただの口移しだろ?」」
面倒クセェ、と言いたげなベート。だからどうした、と言いたげなリリウス。
2人とも頼んだ肉を食いリリウスが骨まで食い始めるとベートは自分の分の骨をリリウスの皿に移す。
「リリウスはどう思うの!?」
「ん? まあシャバラやシュヤーマが怪我や病気で噛む力がない時は俺が噛んで柔らかくして食わせてやるし………」
親犬ですか? いいえ、ボス犬。
キスに関する知識はちゃんとあるし、したい相手もいるリリウスだがそれはそれとしてベートの行動は救命活動としか思っていない。
「一緒にすんじゃねえよ。俺が雑魚にかまけるわけねえだろ」
雑魚を助けたくて口移ししたからセレニアが怒っているのでは? セレニア的には普通に飲ませるか、口移しにしろせめて同性の自分にやらせて欲しかっただろうに。
「昔と変わらないけど、変わったわね。弱い人を見下すような事は言わなかったのに」
「はっ! 雑魚を雑魚と呼んで何が悪い! 周りを見てみろ、今に満足してるクソ野郎共!」
セレニアのまっすぐ己を見つめる視線から逃げるようにベートは標的を酒場の客に変えると、リリウスは無表情で鳥の骨をバリンと噛み砕く。
「そのバカ面のウザってえことと言ったらないぜ! 毎日毎日、
オラリオの冒険者のその多くは適正階層より下に向かわない。ダンジョンには予期せぬ
暗黒期の方が人死は多いが成長も早かっただろう。
「言ってやれよ! てめえがLv.7から9になるまで何があったか、何をしてたか! 一歩も進まず足踏みしてやがったノロマ共に聞かせてやれ!」
Lv.3から6に成長したベートの言葉にリリウスはふむ、と考える。周りから向けられる敵意などこれっぽっちも気にしていない。
何があったかと問われれば、何もかもあったと言えよう。
「ベート、その辺に………」
「止めるなよセレニア。俺は何も間違っちゃいねえ! 取り柄は群がる事だけ! 言うことだけは一丁前! 歯向かう気概もありゃしねえ!」
ベートが睨んでくる周りの連中に攻撃的な笑みを向けるとその殆どが視線を逸らす。
「そら、このザマだ………吠えることも出来ねぇなら冒険者なんぞやめちまえ、腰抜け共が!」
本音は死ぬ覚悟がない人間に死んで欲しくないから。さらに本音は死ぬ覚悟があろうと死んで欲しくないから。そのくせ抗おうとする意思を認めるタイプ。
「気に食わないね」
そう言って立ち上がったのはアマゾネスの一団。リリウスは知らないが、元【イシュタル・ファミリア】のLv.3【
それぞれ別派閥に所属したがこうして飲みに集まったのだろう。因みに【ソーマ・ファミリア】も何人か来た。世界最強の雄がいるのだ、さもありなん。
「腰抜けなんて一緒くたにするな。あんたの汚い声を聞いて黙ってられるほど腑抜けてなんかいない……第一級だかなんだか知らないけど思い上がるんじゃないよ!」
ベートはにぃ、と笑う。
「粋がってんじゃねえぞアバズレ共! 蹴り殺されてぇーか!」
「上等だよ! お前の方こそぶちのめしてやる!」
吹き飛ぶ皿、椅子、テーブルに血の欠片。冒険者が訪れる酒場では慣れたものなのか店主のドワーフは気にせずカウンターを掃除しリリウスは追加注文。牛骨のトロトロの骨髄をスプーンで掬い、骨をボリボリ食べる。
「はっ、口程にもねえ!」
十数人いたアマゾネス達は倒れ、ベートは無傷。アイシャの首を掴み、闘志を衰えさせぬアイシャに獰猛な笑み浮かべ………。
「そこまでよベート」
セレニアがベートの腕にそっと己の手を置く。決着がつくまで放置するあたりは、彼女もやはり冒険者なのだろう。
リリウスはドワーフの店主とカウンターを直しながらその様子を眺める。実はここの店主、幼少期のリリウスに残飯や廃棄する食料を店裏で渡していた昔馴染みだったりするのだ。
「十分でしょ?」
それが暴力なのか、或いは別の事柄なのか。ベートはふん、と鼻を鳴らすとアイシャを放す。妹分のアマゾネス達が傷だらけの体を引きずりアイシャに駆け寄る。
ベートが店を出ていくとセレニアも後をついていく。リリウスはドワーフの店主とカウンターを元の位置に運び金を置いて店を出ようとする。
「おい」
「?」
呼び止められた。
店主はベートが置いていった金貨の詰まった袋から半分以上を取り出し残りをリリウスへ放り投げる。
「返してこい」
「…………………」
「………………」
無言でカウンターの奥に戻ると果物を差し出した。砂糖漬けだ。リリウスは受け取るとベートの後を追った。
「ベート・ローガ、好き! 子供作ろう!」
「ベートから離れなさい!?」
「……………………」
ベートがアマゾネスの少女に絡まれセレニアが押さえている。リリウスはぽん、と手を叩く。
「成る程修羅場か」
その語源は神々がもたらしたもの。ソーマ曰くアスラとインドラが戦う様は余りに激しく、以来天界では激しい争い、何時しか男女関係のもつれにも使われるようになったとか。
「げふぅ!」
と、アマゾネスの少女がベートに殴られリリウスの方へ飛んできたので受け止めずヒョイと避けるリリウス。
「お、おい生きてるか………」
敵意を向けてこない相手なので思わず心配するベート。リリウスはビクンビクンと痙攣するアマゾネスを足でひっくり返してみる。
「ふっ………ふへっ、ふへへへへへへぇ! お腹に、いいのもらっちゃったよ! これで2回目ぇ! これ、絶対に妊娠しちゃう!」
「アマゾネスの繁殖方法って変わってんだな」
ということは【カーリー・ファミリア】と元【イシュタル・ファミリア】の何名かに子供が出来た可能性が? その場合、やっぱり責任取らなきゃ駄目なのだろうか。
「出来てたまるかあ! アマゾネスも普通に繁殖するっての!」
「チョッ、ベート! リリウスはまだ子供だよ!?」
「やべ………って、成人してるだろうが! ………してたよな?」
こいつら普段自分の事をどう見てるのだろうかとちょっと気になったリリウスであった。
「あ、そうだ金」
「ベート・ローガぁ! 子供作ろうよー!」
「だあああうるせえ! 寄るんじゃねえよ! もう宿取って寝るんだ!」
「宿ってそんな………まさか、その女と!? まあ3人ってのもありか」
「「するかあ!!」」
「え、でもホームじゃなくてわざわざ宿を取るなんて……まさか追い出されたってことはないだろうし」
ベートは忌々しげに黙り込みセレニアは何とも言えない顔をする。
「…………あー。でも、この辺り高いよ?」
ベートははっとする、金を先程の酒場に全額置いてきてしまった。
「うち来るか?」
「…………チっ。世話になる」
「後、火鉢亭の店主が貰いすぎだってよ」
普段なら貰いすぎだろうと迷惑行為働いた冒険者からは有り金全部受け取る店主だが、リリウスがいると大人の余裕的なのを見せようとするのだ。
「おかえりなさいっす!
ホームに訪れるとアマゾネスが出迎えた。
「あ、ラムバー!」
「あれ〜? レナー!」
キャーと嬉しそうに叫び互いの手を取る仲が良いらしい。
「そうだ、聞いてよレナ! 私、この前ベッドで待ってろって言われて楽しみにしてたのにリリウスったら他の女と寝たの!」
「? 帰る家がないから俺のベッド使って良いって言っただけだろ」
「それは………う〜ん。どう思う、ベート」
「あ? ベッド貸してやったんだから何処で寝ようが文句言われる理由はねえだろ。つーか、そんな部屋空いてねえのか?」
まさかどっかで寝ろとか言うんじゃねえだろうな、とベート。
「部屋は余ってるぞ。あの時は掃除されてなかったが、今は団員が数十人増えてついでに大掃除したから使いたい場所使え」
「はいはーい! レナちゃんはベート・ローガの同室を希望しまーす」
「3人部屋はこっちだ」
さらっとセレニアも同じ部屋に泊めるつもりのリリウスであった。