ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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歓楽街の新たな神

 早朝。シャバラとシュヤーマが庭でベートと喧嘩してた。

 朝の鍛錬のようだが過激も過激。何気にベルに懐いている2匹だからベルを馬鹿にしたベートが許せなかったのだろう。

 

 ベートはベートで文字通り噛みついてくる猟犬共を叩きのめし、それでも立ち上がる姿に獰猛な笑みを浮かべる。何やら夢見が悪かったのか苛立っていたが今は楽しそうに猟犬共と戯れる。

 朝飯の時間なのでセレニアが止めに来たが。

 

 シャバラとシュヤーマも気に入らないが、ベートという冒険者の力は認めた。

 

「もぐもぐ…………クノッソスの鍵?」

「ああ、イシュタルは闇派閥(イヴィルス)と繋がってたんだろ? クノッソスにも出入りしてたんなら、鍵がねえか………つかお前も利用してたろ」

「俺の場合早く出てけと言うみたいに扉が開け放たれるし」

「みたいじゃなくて言われてんだよ」

 

 なのでリリウスは鍵を持っていない。むろんイシュタル達もクノッソス側から開けさせていた可能性はあるが。

 

「う〜ん。これに間違いないって言い切れないけど、心当たりはある、かも?」

 

 ベートの描いた『D』の文字が刻まれた球体のスケッチを見ながらレナはもったいぶりながら頷く。

 

「私は知らないっす!」

 

 ラムバーもはい、と主張してくる。使えねえ、と舌打ちするベート。

 

「別に破壊すりゃいいだろ扉なんて」

「それが出来りゃあ苦労しないんだよ」

 

 不壊属性(デュランダル)でなくとも最硬精製金属(オリハルコン)。壊しながら進むなど現実的ではない。

 

「追い出されたのにそれでも派閥のために動くのか」

「ね、口喧嘩しながらも皆のために頑張ってた昔とおんなじ」

「むっ、古馴染みアピール!」

 

 リリウスが真面目だなーと思うとセレニアが微笑みレナが頬を膨らませる。

 

「つか、美味いなここの飯」

「今日の食事当番長はエピメテウスだからな。火入れがうまいんだ、英雄だから」

「どういう理屈だよ」

 

 【ソーマ・ファミリア】は団員数は上位派閥すら超える。そのため食事当番は交代制。因みに調理当番じゃないのは当番によっては出前を頼むからだ。

 

「そんで? 心当たりってのは?」

「ええー? タダでぇ?」

「ああ?」

「私、昨日さんざん恥かかされちゃったし、見返りが欲しいなー」

 

 因みに部屋割はベートとセレニアの二人部屋になったが当たり前のように突撃したレナはベートの蹴りで壁にめり込んだ。

 

「てめえ………ブチのめされてえか」

「ベート・ローガ乱暴ー。いいの? ここは交渉のテーブルだよ。商談相手の気分を害したら台無し………アマゾネスの私でも分かるのになぁ〜」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ! マジで体から直接問いただすぞ!」

「きゃっ! 体から無理矢理聞き出すなんて、ベート・ローガ朝から大胆!」

「都合のいい解釈してんじゃねえ!」

「ベート…………」

 

 アマゾネス相手にそれは悪手だろう、と呆れるセレニア。

 

「ガルル」

「クゥン」

「キュウ」

 

 シャバラ達3匹も呆れる。

 

「そんな目で見んじゃねえ犬っころ共! ……………ん?」

「キュ?」

 

 床に置かれた皿は3つ。餌を食うのも3匹。

 スパルナは止まり木の近くに引っ掛けてある皿から飯を食っている。では、床の3匹目は?

 

「クキュウ!」

「何で薄汚えモンスターがここにいやがる」

「キュ!?」

 

 ガーン、とショックを受けるのはカーバンクル。成る程子猫サイズのそれは一見可愛く見えるかもしれないが、モンスターはモンスターだ。大概の存在は忌避感が勝る。

 

「風呂で洗ってるから汚くねえぞ。カールは女の子で綺麗好きだからな」

「キューキュー!」

 

 まるで人の言葉を理解しベートに抗議するかのように吠えるカーバンクル。カールという名前らしい。

 

「わー! 可愛い、カーバンクルだ!」

「キュキュウ!」

 

 レナの言葉に胸を張る(ように見える)カーバンクル。レナはムンズ、と掴み取る。

 

「魔石取ってドロップアイテムもらって良い?」

「キュッ!?」

 

 ガビンとショックを受けジタバタ暴れるカール。リリウスがヒョイと取り返す。

 

「こいつは後で送る場所があるから駄目だ」

「送る場所?」

「里」

 

 それだけしか答えなかった。それ以上は答える気もないのだろう。

 

「クソが。調子狂うぜ……おい、ガキ。別にてめえ以外のアマゾネスから聞き出したって良いんだからな」

「ベート、昨日自分が何したか忘れたの?」

 

 セレニアの言葉に固まるベート。つい昨夜元【イシュタル・ファミリア】のアマゾネスを詰ってボコしたばかりだ。因みにそれでもあのアマゾネス達はベートが嫌いだ。ぶちのめしても完全に惚れるというわけではないようで、一応アマゾネスにも好みがある。そして一度惚れたら基本的に更新されることはない。

 

「情報には対価。冒険者なら当たり前でしょ?」

「なら、フィン達に情報料払わせるべきだったか」

 

 と、リリウス。クノッソスの情報渡す際に対価強請ればよかった。具体的には酒と飯を奢ると約束して果たさなかった爺の弟子とか息子とか孫とか…………。代わりに飯を奢らせるのだ。

 

「何が欲しい」

「ベート・ローガとの子供!」

 

 なんかもう、すごいなぁと周りにいた団員達は思った。ベートは青筋を浮かべ本気の殺気を放つ。セレニアもジトリとレナを睨む。

 

「あ、ウソウソ冗談だって! ええと、じゃあ…………デートしてよ、ベート・ローガ!」

 

 

 

 

 歓楽街。

 イシュタルの領域は消火が迅速に行われたとは言えそれでもほぼ瓦礫の山と化し、団員も居ないので空白地帯となっている。

 

 そこに目をつける数多の神々。歓楽街の経済効果は推して知るべし。

 神々のみならず多くの人類すら狙う。支配者の居ない空白地帯はまさに蠱毒と化そうとしている。

 

 そんな歓楽街に手を伸ばす新たな神々二柱。

 

「手筈は整った。後は計画を進めるだけ……」

「素晴らしい。だが、彼奴(きゃつ)等の始末はどうする?」

「ふっ、それならば策を考えてある。耳を貸してくれ」

「ククク………タケミ屋、そなたも悪よのう」

「ふふっ………何、代官ほどでは」

「「クククク…………はーっはっはっは!」」

 

 

 

 

 歓楽街にてリリウスはピタリと足を止める。

 クノッソスの鍵は【アストレア・ファミリア】としても必要で、彼女達と調査に来たのだ。

 

「どうしたの、リリウス?」

 

 (一応)鍛冶師仲間のセシルが首を傾げる中リリウスは人気のない路地を指差す。

 

「言い争い。男と女」

「さっそく!?」

 

 イセリナが飛び出す。最大勢力を失い無法地帯となった歓楽街の治安維持も彼女達の目的だからだ。

 

「ほら、行くわよユーフィ!」

「あそぶ? あそぶの〜!?」

 

 路地裏に飛び込むとなるほど、男と女。女の方は娼婦………極東の着物に身を包んだ女だ。女はイセリナ達の横を通り過ぎる。

 

「おい、どきやがれガキィ! てめえ等も体売らされてえか!!」

「ああ?」

 

 リリウスの蹴りが男を吹き飛ばす。

 

「セシルがてめえ等みてえな奴等に売り買いさせれるほど安い女なわけねえだろ」

「う、うぐ………わ、悪かった! お、落ち着け! 俺はその女に用があるんだ! そいつらに手を出さない!」

「この人にも手を出させるわけないでしょ!」

 

 その隙に女も逃げようとするが男は慌てて回り込む。

 

「おっと! もう逃がしゃしねぇぞ、オユキちゃんよお?」

「ひっ!」

「おら来やがれ! 『歓楽街の新たな神』から逃げられると思うのかぁ!? 諦めろや。てめえの体をどう使ってでも、金は作って貰わなきゃなんねぇからなあ」

「いやあ! お、お願いします! た、助け………!」

 

 女はイセリナ達に助けを求め、リリウスはジッと見つめるだけ。

 

「へへ。遊女らしくたくさん遊んでもらうぜ!」

「あそぶ? あそんでいいの!? え〜い!!」

「「「…………あ」」」

 

 ユーフィが笑顔で男を吹き飛ばしてしまった。まあ見た所Lv.2のドワーフ、本当に遊んでるだけだし、多分無事だろう。

 

「あ、あの………ありがとうございます。助けていただいて!」

「……………『歓楽街の新たな神』ねえ?」

「え? あ、はい。あの人達は、その神の部下だと………」

「それって………!」

 

 セシルが思わず肩を揺らす。権力の空白地帯となった歓楽街………新たな支配者を名乗る神は、もしかしたらイシュタルに近い従属神だった可能性がある。

 

 

 

 さて場所は代わり豊穣の女主人。夜は冒険者に溢れる酒場も昼の喫茶店は客がいないわけではないがまばら。

 

 それでもオラリオでは『最も恐ろしい酒場』。騒ぎが起きることはないだろう。

 

 

 

 

「成る程、新たなる神を名乗る人達から身に覚えのない借金を………」

 

 歓楽街で客を取っていると突然先程の冒険者が現れ借金を返せと言ってきたらしい。

 

「歓楽街で客?」

「あ、はい。駆け出しですけど、遊女なので………駆け出しだから、狙われたのかもしれません。田舎から出てきたばかりの女なら、何も分からないだろうって………」

 

 オユキは『歓楽街の新たな神』とやらに金を借りるどころか会った事もないというのに。いきなり金を返せと連れて行かれそうになったそうだ。

 

 オユキ以外にもそんな遊女が複数人いるらしい。

 

「そんな酷いことになっていたなんて」

 

 と、何時の間にかいたシルが悲痛そうな顔で呟く。持ってきた飲み物を机に並べる。

 

「イシュタル様がご顕在の頃は、こんな話は聞かなかったんですが………」

 

 良くも悪くもイシュタルは歓楽街の支配者ではあった。最低限の秩序(ルール)は存在したが、今は………。

 

「………う〜ん」

 

 シルは何とも言えない顔で何やら考え込んでいた。

 

 

 

 さてその頃、歓楽街のとある遊郭。

 極東風の建物の中でダフネは今回分の金貨を神に差し出す。

 

「随分と多いな。出処は、やはりアレか?」

「はい。遊女の数も増えてきたので」

 

 極東の神の言葉にカサンドラが頷く。

 

「ふふ。計画は順調ということか。この調子で頼むぞ」

「が、頑張ります!」

「ふふふ…………ふはははははははは!!」

 

 

 

 

 何にせよ、事の発端は四日前の【フレイヤ・ファミリア】の強襲。

 それでもここまで事が動くのは、事前に計画だけは立てて居たのだろう。

 

 店同士利権を求め仲違いを始めたのも理由の一つ。

 

「何やら事件の匂いがするニャあ?」

「ん?」

 

 人の数だけ秘密がある。

 秘密の数だけ謎がある。

 

 何やら口上が語られる。

 

 尻尾がなければ猫ではない。

 耳がピクピクしなければ、猫でいる資格がない。

 

 でも内容はとても適当だ。こう、言葉の端々から知恵のなさが滲み出ている。

 

「えっ? えっ?」

「え、何この茶番」

「ごめんなさーい、付き合ってあげてくださーい」

「ミャーの名前は名探偵、改め、くノ一名探偵アーニャ!」

「……………なんの遊びだ?」

「この前クロエがスパイっぽい事したら、アーニャが『ミャーもやるニャー!』と張り切りだしたんです」

 

 くノ一までは分かるが何故名探偵。ああ、探偵小説にでもハマっていたのか。

 

「やれやれ…………今しがた事件を解決してきた所だっていうのに、この街はミャーを休ませてはくれないのニャ」

「休んでいいぞ」

 

 邪魔だから。

 

「ニャー! ここはしょうたいふめーの美少女名探偵に『かっさい』を浴びせる所ニャ!」

 

 正体不明も何も今自分で堂々と名乗っていたのだが………。

 

「ほら、マグロ節やるから黙れ」

「ニャー♪ って、ミャーを馬鹿にしすぎニャ! カンナがないと削れないのニャー!」

 

 そこなんだ。

 

「もうアーニャ。くノ一としての仕事は取ってきたって言ってなかった?」

「ふふん。ミャーの頭脳を使うまでもない事件と気付いたのニャ」

「飽きたんだな」

「飽きたんだね、アーニャ」

「ち、違うニャ! ちょっとお腹が減って帰ってきただけニャ!」

 

 アーニャに冒険者依頼(クエスト)の類を任せるのは危険である事だけは分かった。アーニャ曰く浮気現場の調査してたら甘い匂いがしてお腹が減ってきてしまったとの事だが…………そもそも浮気現場ですらなかった可能性が高い。

 

「た、確かに変な男神二柱(ふたり)が『金はもうすぐ届く』とか、『そなたも悪よのう』とか言って、笑ってただけだったニャ」

「「「!?」」」

 

 リリウスは誰も手を付けない飲み物を冷める前に飲み干していく。

 

「アーニャ、それって歓楽街で遊んでる神様じゃなかったってこと?」

「ニャア? 遊びに来てる感じじゃなかったニャぁ。なんか隠れ家っぽい館だったしニャ………」

「まさか、それが『歓楽街の新たな神』!?」

「えっ!?」

「そういえば………どっかで聞いたことがあるような声だった気が………誰だったかニャぁ?」

 

 飲み終えたリリウスは角砂糖の入った壺を取り中の角砂糖をシャリシャリ食べていく。

 

「アーニャ、その館の場所覚えてる? どの辺の区画だったとか」

「ニャア! 急に質問されてもミャーのめーせきな頭脳はすぐに動かないニャ!」

 

 

 

 

 アーニャのめーせきな頭脳が起動したのはそれから約十分と少し。

 

「にゃふーん! 流石はくノ一名探偵ニャ! 知らない間に事件の重要な手がかりを掴んでたニャんて! きっと、そいつらが『歓楽街の新たな神』とか言うのに間違いないニャ! すぐに急行ニャぁ!」

「でも、場所がどこか覚えてないんだよね?」

「にゃふん!?」

「その男神様達が誰かも思い出せないんですよね?」

「………えっと、どうやって探すんでしょう?」

「そ、そこはミャーの推理でなんとかするニャ! ミャーはくノ一名探偵ニャ!」

 

 誰一人信頼の目を向けることはなかった。

 

「ふふ。まずはアーニャを追いましょう? 歓楽街の皆さんのピンチですし」

「お前………どの面下げて言ってんだ」

「この顔でーす♪」

 

 シルは両手の人差し指で己の笑顔を指して言う。

 

「………なんだか的外れなことをしているだけな気が」

 

 オユキは気合い十分なアーニャの背を見てポツリと呟いた。

 

「一応、アリーゼ先輩達に連絡しとく?」

「そうね………広い歓楽街で動いてるから、見つけられたらだけど」

 

 リリウスは空っぽの角砂糖の壺を机に戻すとアーニャの後を追うことにした。

 


 

ダンメモイベント! まあ1日で終わる事件だしね。

 

しかし次回、300話!

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