ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
夢を見ていた。真っ白なテーブルクロスが敷かれたテーブルの前に座っている。
「プギ! プゴフゴ、ブィ」
と、コック姿の二足歩行の豚が数匹やってきた。大きな牛もいる。
豚達は牛に包丁を突き刺す。悲鳴と鮮血が部屋に満ちながら、解体されていく。豚達は血の滴る肉を皿に乗せ、机に置く。
「ピギー!」
「……………」
リリウスは肉に齧り付く。口の中に広がる肉の味に、油と血の匂い。柔らかすぎて食いちぎりにくいが、空腹だ。食い難さ等どうでも良い。
最初は渡されたフォークとナイフで食っていた。途中から面倒くさくなり手掴み。
食っても食っても追加される肉。気付けば、二足歩行の豚を食っていた。
「肉!?」
ハッと目を覚ますリリウス。グギュルル、グオオオと腹が鳴る。
「俺の肉は? 牛肉豚肉食べ放題は? ………………何だ夢か」
腹減った。なにか食おう。と、立ち上がろうして立ち上がれないことに気付く。ベッドに縛られていた。それも特殊金属の鎖で。
「ああ?」
何でこんな厳重に縛られている。猛獣みたいなその扱いに眉根を寄せるリリウス。しかもよくよく周りを見ればここは檻だ。
「あ、起きた? 大丈夫? 魔法解けてる、よね? 話通じる、おーい?」
と、ヒューマンの少女が檻の外から手を振ってくる。話したことはないが見覚えはある。
「【
「そう! ここはオラリオの冒険者達に対応できる冒険者であると同時に憲兵の役目も担う【ガネーシャ・ファミリア】! そして私は団長の妹でとってもかわいいLv.3。アーディ・ヴァルマ!」
「……………………」
グウウゥゥとリリウスの腹が鳴る。アーディはん〜、と考え込む。そのまま何処かに向かった。
数分後。
「ただいま〜! ご飯、持ってきたよ! ごめんね、拘束具は外せないから私が食べさせてあげる。はい、あ〜ん」
檻を開けて入ってくるアーディ。手にはスープがあった。
「いるか。他人に借りを作るなんざごめんだ」
「借りだなんて気にしなくていいのに」
再び盛大になるリリウスの腹。スキルで常に飢え続ける上に、美味そうな匂いをかがされては体が反応してしまう。
「ほらほら、あ〜ん」
「…………!」
肉の乗った木の匙ごと噛み砕く。塩のスープに野菜の甘さが溶け込んだスープ。なかなか美味い。
匙がなくなりどうしようと困惑しているアーディから器用に口だけで皿を奪い中身を口に流し込んでいく。
「ありゃりゃ。口元汚れちゃってる! ええと、ハンカチハンカチ…………」
ハンカチを探すアーディ。と、新しい足音が聞こえてきた。
「アーディ?」
「あ、お姉ちゃん」
こちらを警戒しているその女はシャクティ・ヴァルマ。【
「何故ここにいる?」
「いや〜、この子寝ている間もすっごいお腹鳴らしてたから」
「だが冒険者殺害の容疑者だ」
「冒険者殺害?」
何の話だと首を傾げるリリウス。
「貴様が全滅させたファミリアのことだ。場所を変えるぞ、ついてこい」
鎖を解く。身体の確認をするリリウスはジトリとアーディを睨むと、アーディは笑顔で首を傾げた。
「なあに、リリ君?」
「リリく………借りは借りだ。いずれ返す」
そう言うと大人しくシャクティの後についていくリリウス。アーディはじゃーね、と手を振った。
案内された部屋にはソーマ、ガネーシャ、男神、アミッド、そしてぶくぶくと肥えたエルフと思えぬ肥満老人、ギルド長ロイマンがいた。
「良く来てくれた。座ってくれ」
リリウスは座ると机に置かれていた茶を飲む。
「では聞こう、君が冒険者10名を殺したというのは、本当か?」
「なんだそりゃ? 知らねー」
と、耳をかきながら応えるリリウス。神の目から見て、嘘はない。
「昨日私達を襲ってきた冒険者達です。覚えてないんですか?」
「ん? あ〜………ああ。思い出した」
アミッドの言葉に暫く考え込んだリリウスは、唇に手を当て漸く思い出す。
「そうだった。俺が殺してたな。美味かった、特に団長の男」
「おいおい、俺のかわいい子供を食い殺したってのに、そんな反応なのかよ? 具体的にはどれだけ美味かったか教えてくれよ!」
ケラケラと笑う男の主神と違い、ガネーシャは仮面で顔の上半分は解らぬが口元をきつく結びシャクティとロイマンは顔を顰める。
アミッドは殺害したことは報告していても食い殺したことまでは言っていなかったのか何処か悔しそうに俯いていた。
まあ、シャクティが人肉食ってるところを見てるのだが。
「お前は、お前はなんということをしたんだ!」
「うるせえ豚だな。身を守っただけだっつーの。ザニスのカスが後先考えず酒を他のファミリアに流すから酒を狙ったボケ共が現れるんだ」
「ああ、この前も倉庫が襲われていたな。彼処には失敗作しかおいてなかったが」
「そのへんの管理はしっかりしてんだよなあ」
だからこそ完成した
「うひひ、サーセン」
「つまり君は、正当防衛で殺したと?」
「それと、私を助けるためです」
事前に聞いていた。本当なら話したくもなかったであろう男の欲のはけ口にするために攫われそうになった事を話したアミッド。
ガネーシャはううむ、と唸る。
「殺すのはやりすぎだろう!」
「黙れ豚。治安を乱すゴミを街に入れたのはてめえだろうが。そのせいで俺がゴミ掃除する羽目になったんだぞ」
「も、もとはと言えばお前のところの団長が
「それをまた呑みてぇと他派閥を襲わせたのはそこの神だ」
「テヘペロ」
「ぬ、ぬぅ………!」
明らかに反省した様子のない男神にロイマンも言葉に詰まる。
「だ、だがお前の派閥の連中も他派閥に迷惑をかけることもあるだろう!」
「んなこと派閥の団長どころか幹部でもねえ俺に言うな。その神の派閥が幹部と団員で、しかも地上で他派閥に襲撃したのが問題だろうが」
ロイマンは
今回も、Lv.3がオラリオに入るのならと多少の素行の悪さを見逃した結果がこれだ。下手をすれば治療系派閥の大手の一つである【ディアンケヒト・ファミリア】とギルドの関係は最悪になっていただろう。
「だからといって………それに、そもそもお前人肉を食っていたんだろ!?」
「ああ、魔法の影響でな」
「後、スキル………」
と、ソーマが付け足す。
「え〜? どんな魔法とスキル? 誰にも言うから教えてよ〜」
「ああ? スキルも魔法も冒険者には守秘義務があるだろうが。それを言いふらすとか、てめぇの残りの眷属ぶっ殺されてえか」
「殺させてあげるから教えてよ」
面白いことを眷属より優先する神にチッと舌打ちするリリウス。
「教えるかボケ」
「……………我々には教えてもらおうか」
「嫌だねバァカ」
べぇ、と舌を出すリリウスにプルプル震えるロイマン。
「聞かせてくれ。ステイタスを明かしてもらうだけの対価は払おう」
「じゃあそのカス追い出せ」
「
「そこに加えて狂化魔法。倫理が吹き飛んだ結果の人食いか」
「いや、人は結構前から食ってたぞ?」
ガネーシャとシャクティの言葉にリリウスはなんでもないかのように言い放つ。
「………は?」
「? そんなに不思議なことか? 殺そうとしてきたんだ、殺し返すのは当たり前だろ」
「いや、え………く、食った? 何故食う!? 人だぞ、モンスターではない!!」
「食える肉を殺したから。後、常に腹減ってるからな俺。そもそも、生きる事は食うことだ。食うことは奪うことだろうが」
リリウスのこれまでの人生に味方など居ない。
まともな飯など食えず、常に飢え、飢えを満たすために食料を手に入れても奪われ目の前で食われ、時には踏み潰される。
踏み潰された飯を食い、虫やネズミ、生ゴミを漁り食ってきた。生きるためには食わねばならない。食うためにはモンスターの命を奪い金を集める。命を奪うというのは、食うための作業の一つ。
「人類だろうがモンスターだろうが、俺のスキルの前には等しく肉だ。区別する理由がわからん」
人類だろうとモンスターだろうと等しく己の生命を脅かす。こちらがそれより強くなったのなら、脅威を排除し喰らうことにリリウスは何の疑問も抱かない。
その異常性が今日までバレなかったのは、偏に襲われる場所がダンジョンだったから。人の目がなかった。ただそれだけ。
【ラーヴァナ】を使わずとも、あの場で勝つことが出来たならリリウスは人目も気にせず回復のために
「………? ああ、成る程」
周りの反応に、漸くそれが異常なのだと自覚したリリウス。
「今後はなるべく人目を気にしてやる」
「そういう、問題では………人を食うことに、抵抗はないのか?」
「あー………そういうまともな倫理観は、まともな生活を送って来た奴にだけ求めろ」
んなもん学ぶ暇ねえし、と頭をかくリリウス。
「ああ、でも一般人を食っちゃならねえってのは解るぜ?」
そういう感覚があるのではなく、そういうものだという知識がある。
「で、結局俺は罪に問われるのか?」
「………………いや。先に手を出したのが向こうであるなら………ただ、その魔法について詳しく教えてもらう」
「教えるってもな……理性と引き換えに能力値を上げるってだけだ。ああ、でも理性が完全にぶっ飛ぶのは今回が初めてだな」
「かなりの深手を負っていたのだろう? 命の危機に、無意識に最大出力になったのかもしれん」
「そういうもんか?」
「スキルや魔法は本人の経験、意思により発現する。お前にとって、敵を殺し腹を満たすための手段であるならそういうこともあるだろう」
ソーマの言葉にガネーシャも特に何も言わなかった。否定するつもりはないのだろう。
「ならば、その魔法は地上では使うな!」
「ああ? んでんなことを指図されなきゃならねえ。その地上で襲われてんだぞ、てめぇが脂肪の詰まった頭でなんも考えず受け入れた冒険者にな。大人しく殺されろってか? 食い殺すぞ、豚が」
ザワリと部屋を包む殺気や怒気。それに交じる純粋な殺意にロイマンは椅子から転げ落ちシャクティが拳を構える。
「き、貴様は危険だ! 人と獣、モンスターとの
「そりゃそっちの都合だろうが……」
ゴキリと指を鳴らすリリウス。シャクティも直ぐにでも飛び出せるよう足に力を込め………。
「ま、待ってください!」
アミッドが叫ぶ。
「リリウスさんの魔法は、確かに理性を奪います。ですが、だからといって無差別に人を襲うことはないと思います」
「………何故そう言い切れる?」
「リリウスさんは、私を襲いませんでした。どころか、その………食糧を分け与えようとも」
常に飢えている。ただ本能に従うだけなら、自分が狩った食糧を他者に渡さずむしろアミッドすら餌と認識してもおかしくない。
「敵味方の区別はつきます。それに、ああなること自体稀なのでしょう?」
「………フィンの魔法も、完全に理性を失う訳では無いが」
「ああ、まあハイにはなるが目に映る肉が元々人間だった事まで忘れるのは初だな」
肉に見えることは前々からあった。
「それでも、ギルドは一冒険者の魔法に制限を設けますか?」
「ぬ、ぐぐ…………」
正直【ソーマ・ファミリア】の不興を買うのはまだいい。だが【ディアンケヒト・ファミリア】の不興は買いたくない。
「…………解った。だが!」
と、ロイマンは叫ぶ。
「一般人、お前と敵対していない冒険者に牙を剥けば、その魔法の使用は今後一切認めんからな!」
「? 俺のスキルは強い奴や珍しい奴のほうが美味く感じるのに、恩恵のねえ奴襲うわけねえだろ。冒険者だってこっちから襲う理由がねえ」
何故そんな当たり前のことをと首を傾げるリリウス。ある意味、彼が誰かを傷つけたとしたらそれは間違いなくその誰かが彼に敵対したのだろうとその態度から確信してしまう。
「なー、俺もう入っていい?」
と、男神が扉を開け顔を覗かせる。
「………貴方のファミリアは騒ぎを起こした罰としてギルド、【ソーマ・ファミリア】、【ディアンケヒト・ファミリア】に賠償金を払ってもらいます。払えぬのなら」
「あ〜、追放? ロイマンちゃん欲しがったLv.3の彼奴も今やその子の腹の中だもんね〜!」
あっはっはっ、と笑う神。子供が殺されたことを少しも気にしていない。
「面白いからソーマにはお金あげる。他は払えないから、追放でいいよ〜」
「金はギルドを優先して払ってもらいます。今の資産から徴収するので、金を使わず本拠で待機してもらいますぞ」
「まじぃ? ごめんねおチビちゃん」
金払えなさそう、とリリウスに謝る男神。自分の眷属が乱暴しようとしたアミッドには、まるで目もくれない。
「死ね」
「神は死にましぇ〜ん!」
「ランクアップ出来るぞ」
「そうか」
ソーマの言葉にリリウスはあっさり返す。半年でランクアップ。それも、上級冒険者が………。その異常事態に神も眷属も特に驚かない。
そもそも成長補正スキルがあるのもあるが、どちらもそういう性格ではない。
「発展アビリティは、『耐異常』と『悪食』だ」
【リリウス・アーデ Lv2→3
力∶A801→I0
耐久∶S989→I0
器用∶B784→I0
敏捷∶S941→I0
魔力∶D556→I0
捕食者G
悪食I
《魔法》
【ラーヴァナ】
・狂化魔法
・詠唱式【傲慢なる悪意の王。血の河を啜れ、肉を貪れ】
【】
《スキル》
【
・
・強者を食らうことによりステイタス成長速度向上
・食事による回復
・常に飢える 】