ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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GW特別編 後編

 時が経つのは早いもので、フィアナは立ち上がり、言葉も覚え、美しい少女に育った。

 栗色の髪を持つ、顔立ちはマクールに似た少女だ。

 

「ううむ、お前の血が濃いな」

「まあ、元々マクールは女顔だったしな」

「違いない」

 

 ゴォール、バリファ、ダイールは母の背に隠れたフィアナを見て、槍を磨いているマクールを見る。若い頃の彼の顔立ちを知っているが………というか今も十分若く見えるが、やはり似ている。

 

「誰が女顔だ」

「ああ、いや。すまん。整った顔立ちという意味だ」

「まあ確かに女顔ですよね〜」

 

 ゴォールがせっかく取り繕ったのに、それをあっさり無駄にする女が居た。

 金髪碧眼の美しい小人族(パルゥム)のマニーサだ。来世は手足がスラっと伸びた他種族になると宣う変わり者。

 

「そこがかわいいんですけど。ね、サーバ!」

 

 ちなみにサーバとは仲が良い。体の弱いサーバをおぶり良く駆け回っていた。

 

「まあ…………」

 

 女顔という部分は強く否定しないサーバに、マクールは鏡で己の顔を見る。

 

「父様は、フィアに似ているのは嫌ですか?」

「…………嫌ではない」

「………………!」

 

 パァ、と笑みを浮かべマクールの背中に飛びつくフィアナ。可愛い姿に一同ほっこり。

 

「そう言えば、王もそろそろ結婚するな。産まれてくる子が俺達が新たに仕える相手になるわけだが」

「? 何の話だ?」

「おい、忘れたのか? もうすぐ予言の刻が過ぎるから、コーマック王がかねてより見初めていた后を娶るのだろう」

「……………………………………ああ」

 

 忘れていたのか、と呆れるゴォール。仮にも仕えている王の婚姻だと言うのに。

 

「こういう時、騎士は詩を届けたりするのだとか」

「吟遊詩人にでもやらせてろ。だが、そうだな……『いい歳して盛ってんじゃねえ、気持ち悪いんだよクズが』とでも言っておくか」

「言うなよ!? 絶対言うなよ!!」

「マクール様。フィアナもいるのに、そういう言葉は使わないでください」

「そーだそーだ!」

 

 マクールの素直な感想にゴォール、サーバ、マニーサが反対した。

 

「お前は本当に王が嫌いだな」

「俺は王に仕えるために騎士になったわけでもねえしな」

 

 そもそもマクールの『誓約(ゲッシュ)』は『国を守る』であり、『王に忠誠を誓う』ではない。この国を誰が一番滅ぼしそうかと言われれば…………。

 

「内側は兎も角、外からは幾らでも殺せる自信があるんだけどな」

「…………お前はそうだろうな」

 

 この国の最強は誰か、など……立候補する者は居るだろう。民が選ぶ者も多いだろう。

 だが、あの日あの時の騎士達は知っている。この国の最強は………

 

「俺達マクール騎士団と、お前達ゴォール騎士団………コーマック王国の最強の両翼が揃ってんだ。化け物も人間も、等しく返り討ちにしてやれるさ」

「………………」

「お、ゴォールが照れてる」

「やかましいわ!」

 

 バリファの言葉に思わず叫ぶゴォール。

 マクールはその光景を見ながら微笑む。遥かな未来を思うというのは、まだ良く解らない。だが、この光景が続けばいいと思うのも未来を思うということなのだろう。

 

 

 

 

 

 コーマック王が后を迎える。赤子の頃、『我が妻となれ』と言う『誓約(ゲッシュ)』を刻まれた結果『あらゆる災と悲しみを招く』と予言された后だがその予言の時は過ぎた。

 

「父様達は何処に居ますか?」

 

 騎士達は護衛として駆り出され、残ったマニーサはフィアナと一緒に行進(パレード)を窓から見下ろす。

 マクールは勿論、サーバも元小姓(ペイジ)とは言え騎士団の1人だからだ。

 

「う〜ん、お父さん達よりお妃様見てあげよう?」

「フィアは興味ありません」

 

 と、キョロキョロ探すフィアナ。やがて見つけた。

 

「…………父様?」

 

 苦虫を百匹は同時に食い潰せたかのような嫌そうな顔で何かを見つめるマクール。その視線の先を追うと………コーマック王? 違う、その隣。

 美しい笑顔を民に振りまく王妃グラニアを、まるで汚物でも見るかのような目で見ていた。

 

 

 

 

 

「我が国を支える両翼よ。今日この時を迎えられたのは、ひとえにお前達の活躍あっての事」

 

 コーマック王は上機嫌に語る。これまで空席であった后の位についた女は、美しい顔で微笑みを騎士達に向けていた。

 

「故にお前達に褒美を与える」

「………………」

 

 マクールは胡散臭そうに周囲を静かに睨んでいた。

 

「ゴォールよ。今よりお前は、王家を支える近衛騎士とする」

「………! ほ、本当ですか!?」

 

 王の近衛、それはつまりこの国一番の騎士団となることと同義。騎士の国の騎士団の頂点、英雄願望を持つゴォールからすれば、予想もしなかった報奨。

 

「そして、マクールよ。余もグラニアに言われるまで失念していた。赦せ」

「……はあ」

「この街は、小人族(パルゥム)には規格が合わぬだろう」

 

 それはまあ、そうだ。とは言えこんな時代に身体能力の劣る小人族(パルゥム)だけの国などあるわけも無く、役立たずの小人族(パルゥム)の為に家や家具を造る者達も居ない。

 

「故にお前には領地を授ける。小人族(パルゥム)の街を造るが良い」

 

 近衛騎士団となったゴォール騎士団と、コーマック王国が大国になってから、初めて領地を与えられた騎士団長マクール。なるほど両翼差別なく破格の報奨だろう。

 

 

 

 

 

「気に入らん」

 

 マクールは果実水(ジュース)を飲みながら忌々しそうに呟く。

 

「何が領地を与えるだ。城壁もねえ平野でモンスターに食われろってか」

「穿った見方をしすぎたマクール。お前達騎士団の強さを信じての事だろう」

「どうせあの蜘蛛女の入れ知恵だ」

「蜘蛛女………グラニア様のことか?」

 

 両翼などと言われたり、今日この日近衛騎士団になったりしたゴォール、マクール騎士団だが新参も新参。遠くから眺めていただけだったが、マクールはグラニアの姿を確認した瞬間から顔をしかめていた。

 

「予言の刻は越えたと言っていただろう」

 

 ゴォールはマクールが『災の娘(ディオンドラ)』の噂を信じているのかと責めるように諌める。

 

「『災の娘(ディオンドラ)』ねえ………あれもあの剣の影響か?」

 

 だとしたら………。

 

「あら、貴方はもしかしてマクール騎士団?」

「マクール騎士団よ、きっと。噂の通り、可愛くてかっこいい!」

 

 マクールが考え事をしていると姦しい声が響いた。振り返るとそこには踊り子のような格好をした美しい少女達が居た。

 

「…………妖精(エルフ)?」

 

 ゴォールが呟いたように、彼女達は尖った耳を持つ妖精(エルフ)だ。双子のように良く似ているが、褐色の肌と白い肌を持つ黒妖精(ダーク・エルフ)白妖精(ホワイト・エルフ)

 

「しかし、妖精(エルフ)にしては…………」

 

 肌の接触を嫌い、露出を嫌うエルフらしくない、男の情欲を誘う艶やかな衣装を纏っていた。

 

「はじめまして騎士様。私はエイネー・ダーナン」

 

 と、白妖精(ホワイト・エルフ)がお辞儀した。

 

「お会い出来て光栄ですわ。私は妹のミルクラ・ダーナン」

 

 妹を名乗る黒妖精(ダーク・エルフ)もお辞儀した。

 

「失せろ」

「お、おいおいマクール。騎士たるもの女性に優しくせんか」

「森の獣にもここまで血腥い奴は居ない。災い女(グラニア)といい、どうなってんだ今日は」

「それはどういう…………?」

 

 と、ゴォールが困惑する中、マクールは酒を飲みながらダーナン姉妹を睨む。

 

「そもそも何故ここに臆病者(引き篭もり)が居るんだ」

「あらあら、エルフ(私達)が臆病者ですって、お姉様!」

「うふふ。でも言い得て妙ね、ミルクラ!」

 

 種族を侮辱された誇り高き種族(エルフ)とは思えぬ態度だ。服装といい、かなり異端だ。

 

「この国で妙な騒ぎを起こせば殺す」

「ええ、心しておくわ」

「私達、誇り高い騎士様と仲良くしたいだけだもの」

 

 笑顔で去っていくダーナン姉妹。その美しい容姿と肌を曝け出した格好に多くの男達が視線を奪われる。ちょうど酒場に来たサーバもその格好にギョッと固まる。

 

「………す、すごい格好の方々でしたね」

「サーバよ、今マクールがナンパされておったぞ」

「そうですか………」

「………ん? その、怒らんのか?」

「? 先程の方達がマクール様に好意を寄せただけですよね?」

 

 マクールが靡くとは微塵も思っていないその態度に、ゴォールは「おぅ………」と声を漏らすのが精々だった。

 

「まあ、マクールももう怒られるのはごめんか」

「マニーサの件については、怒ってませんよ?」

 

 ゴォールとサーバの言葉にマクールは再び果実水(ジュース)を煽る。

 

「…………生まれ変わるなら酒に酔わなくなりたい」

「酔った勢いってお前、騎士としてどころか男として最低だぞ」

「まあ飲ませ続けて酔わせたのはマニーサですが」

 

 ジロリとサーバが睨むと赤ん坊を抱えたマニーサがビクッと震えた。

 

「サーバだって黙認したくせに………」

「それは………」

 

 自分も酔わせて抜け駆けしたから、とは流石に我が子の前ではいえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃー………!」

 

 ドワーフ達によりあっという間に作られた小人族の集落。自分達のサイズに合った家具や扉を珍しそうに見て回るフィアナ。

 

「すごいですねえ、ブラン、スコローン!」

「ワフ」

「バフ」

 

 フィアナの言葉にぐでっと寝転がっていた老犬達が応える。元気がない。まあ、犬として破格の寿命だ。きっともう長くない。

 

「暫く交代で見回りをする。お前達は寝てろ」

 

 集落を囲う壁は木々で使った杭のついた簡易なもの。たしかにこの程度の堀や塀で存在している村は多々あるし、この集落にはマクール騎士団が在住しているが…………。

 

「あの阿婆擦れが…………」

 

 マクールが滅茶苦茶キレてる。

 マクール騎士団に出撃せよとの王命だ。あのクソ后の仕業に違いない。ただの頭お花畑ならまだアホ后で済むが

 

 まだまともな防壁を築けていないというのに。

 

「団長、どうします? 団を半分に分けて残しますか?」

「必要ない。全員防衛に当たれ」

「…………は?」

「討伐は俺1人でいい」

 

 

 

 「もう全部彼奴1人に任せて防衛に回ればいい」とは、誰の言葉だったか。カルノノスを瞬殺したマクールを見て騎士の誰かが呟いた言葉だ。

 

 それを証明するかのように、周囲に広がる屍の山。

 苛立ちがそのまま魔眼と共鳴した結果、何時もより荒々しく、しかし圧倒的な力で群れを滅ぼした。

 

「いやはやお見事! 聞きしに勝る勇猛ぶりでしたなあ!」

「……………………」

 

 と、ハープを鳴らす吟遊詩人。周りには魔物に殺されたエルフの死体が転がっている。

 

「助かりました。追手に追いつかれ、魔物に襲われ。さすがの私もここで旅を終えることになると思居ましたが、まさか噂の勇者殿に会えるとは」

「勇者?」

「まだコーマック王国の周囲にしか広まっていない噂ですよ。小さな体で、勇気を与える小人族(パルゥム)の勇者! 貴方を歌にしても?」

「断る」

「ではまず、出会いの章から! あ、嘘です。謝るので槍向けないで」

 

 何だこいつ。

 

「いつからお前達エルフは開放的になった」

「はて………お言葉ですが、私は森の外を出た恥知らず(引き籠もり)など追手ぐらいしか見ていませんが………まあ、風の噂程度で大国で偶に見かけるそうですが」

「…………ダーナン姉妹を知っているか?」

「ダーナン………ああ、エルフの国の、王族の一つですね。例に漏れず結界に引きこもって怯えるくせに誇り高いと自称しておりますよ。しかし姉妹………彼処は王子が数人おりますが、娘は聞いたことがありませんなあ」

 

 なら、勝手に名乗っているだけか? 見たところ、顔立ちこそ似ているが化粧や格好でそう感じる部分が強い姉妹だったし本当の姉妹ではないだろう。

 

「ただまあ、彼処は…………」

「………………」

 

 と、2人は会話を止め振り返った。

 暗闇の向こうから聞こえる蹄の音。すぐに馬に乗った小人族(パルゥム)が姿を表した。

 

「だ、団長! 大変です、魔物が!!」

 

 その言葉に、マクールは舌打ちしながら走り出そうとする。

 

「私もついて行っても?」

「馬なら貸してやる。勝手にしろ」

「? 馬は二頭しか──」

 

 エルフの言葉が終わる前に、マクールは駆け出した。一度の踏み込みで大地が砕け、押しのけられた空気が大地を抉る。

 

「ははぁ、猟犬より疾く駆けるとは聞いていましたが、そんな程度ではありませんなあ」

 

 

 

 

 普段のマクールは、流石にここまで無茶苦茶ではない。だが、魔眼と怒りが呼応する。無能な王で同族が危険に晒された。毒婦の思惑通り、妻と娘が危険に晒された。

 

 もとより世界を嫌い、それでも世界は自分の意志で嫌うと魔眼を抑えているマクールではあるが、同じ感情である以上、どうしても共鳴してしまう。

 ここ最近魔眼を抑えるのに苦労しなかったのと、今回は寧ろ魔眼の力を利用するつもりなのもあるだろう。

 

 道中存在した岩も木々も魔物も、等しく消し飛ばしながら凶猛の槍が突き進む。

 

 

 

「くそ! なんだってこんなタイミングで!!」

 

 団長であるマクールが居ないタイミングで現れた魔物の群。魔物が守りの薄い村を襲うなど珍しくもない光景だとは言え、最強の戦力が居ない中に襲われるなど作為めいたものを感じてしまう。と………

 

「ガアアアアア!!」

「しま──!!」

 

 後ろから迫る魔物の牙。この距離では、槍は間に合わない!!

 

「させん!!」

「ギャウ!?」

 

 突然現れた黒衣の人物が魔物を切り裂く。

 顔すら確認出来ぬ、死神のような出で立ちの騎士。

 

「ゴォール騎士団?」

 

 コーマック王国の近衛騎士に与えられるという黒衣を纏った騎士団。国にも連絡を飛ばしたが、思ったより早かった。

 

「…………獣共が、獲物を譲り渡すと思うか」

 

 苛立ったように呟く黒衣の騎士。と…………

 

「………ん?」

 

 魔物達の動きが、唐突に止まる。一様に同じ方向を向いて、カタカタと震えだした。一歩動き、音を立てることすら恐れているかのようだ。

 

「─────死ね」

 

 人と魔物の戦場はなく、処刑場という上等なものですらない。紅眼の猛獣の狩り場となった集落の中で、赤黒い花が咲き乱れ、灰へと還る。

 

「団長!!」

「フィアナ達は!?」

「!? ひ、非戦闘員は広場に!」

 

 その言葉にマクールは直ぐ様広場に向かう。机や椅子で簡易的に作られた防御陣地を守るマクールの騎士達。それを襲う魔物共がすぐさま弾け飛ぶ。

 

「父様!」

「マクール!」

「フィアナ、マニーサ……サーバは?」

「母様は、他の人達を探してくるって…………」

「………………」

 

 ものの数分、どころか数秒で村を襲った魔物は灰に還った。

 直ぐ様集められる村人とマクール騎士団。騎士は当然として、村人も何人も死んだ。死体の見つからぬ行方不明者もいる。サーバも行方不明者の1人だ。

 

「俺は森を探す。お前達は血の匂いに誘われる魔物に備えろ」

 

 苛立っている。嘗て無い程に………森の獣どころか、事実血の匂いに誘われた魔物すら逃げ出す程に。

 マクール騎士団は初めて見る団長の怒りについていくと言い出す者が現れなかった。そんな中………

 

「では、我々もついていこう」

「……………誰だお前は?」

 

 黒衣の騎士達がついていくと言い出した。

 

「ゴォール騎士団の者だ。団長の旧友で、コーマックの誇る槍を危険に晒すわけにはいかない。何より、この村を守るなら村を良く知ったマクール騎士団に任せるべきだろう」

「……………ゴォールは……まあ、簡単には動けねえか」

 

 近衛騎士団の団長だ。今やゴォールの地位は建国時の臣下達にも迫る。故に、簡単には動けない。

 

「好きにしろ」

 

 

 

 

 

 マクール達が森へと入る。月明かりが葉の影に遮られ世界は黒く染まり、黒衣の騎士団の連中は今にも見失ってしまいそう。騎士というより、暗殺者と言ったほうがしっくり来る。

 

「で、これはお前達の仕業か?」

「……………は?」

「俺は今、ちょっと抑えられそうにねえんだ。潰しかねねえから、さっさと応えろ」

 

 黒衣の騎士達はマクールの言葉に戸惑うように互いを見つめ合う。

 

「マクール殿、なにを? 我々は同じコーマック王国の騎士ではないか! ましてや、我等がゴォール団長と貴方は知己の(ともがら)! 何を持って疑われるのか!!」

「ゴォールの騎士にてめぇ等のような弱卒がいるか!」

 

 ビリビリと大気が震える。葉鳴りの音は、まるで森のそのものが怯えているようだ。

 

「………弱卒とは侮ってくれる。勘が良いだけの、小僧が!」

「気付きながら誘いに乗るとは。勇気と蛮勇を履き違えたか!」

 

 嘲り笑う黒衣の騎士達を、マクールは紅い瞳で睨みつける。

 

「何を馬鹿な。勇気? 蛮勇? 俺のこれは、ただの慢心。恐怖を知らぬ俺に、勇気が宿るわけがないだろう」

「慢心と来たか! ならば、その慢心がお前を滅ぼす!」

 

 と、剣を構えた黒衣の騎士達…………の反対方向。物陰に隠れていた黒衣の騎士の一人が背後から襲いかかり………爆散した。

 

「……………は?」

「暴力に酔い、弱者を嬲り、見た目で選び、危機感すら捨てたか。畜生にも劣る屑どもが………」

 

 彼等は、弱い者を殺すが好きだった。抵抗する力のない者を………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それを繰り返し、何時しか自分より小さい者が自分達より弱いと疑わなくなっていた。今もその鈍った感覚が、逃げるという選択を選ばせない。

 

「死ね…………」

 

 

 

 

 

 

「た、助けて! 助けてくれ、頼む!!」

 

 最後の一人となった男は両足を失った体を引きずりながら、紅眼の獣から必死に逃げようと足掻く。

 

「お、俺達は守りに来たんだ! 本当だ! まだ時ではないから、摘まれぬように………だから、何も知らない! 魔物共の仕業なんだ!!」

「そうか」

「頼む! 命だけは!」

 

 グシャリと脳髄が森の中に散らばる。無駄な時間を使ったと、マクールは直ぐ様動き出す。

 折れた枝、引きずったような後、足跡………暗闇の中見落とさぬよう、それでもギリギリまで疾く。

 

「……………………」

 

 コーマック王に『誓約(ゲッシュ)』を刻まれた時、マクールには同時に呪いが刻まれた(未来を告げられた)

 

 『守ろうとした者達、尽く守ることが出来ない』という予言(呪い)

 

「────」

 

 マクールは首吊り死体を見て、その予言を思い出していた。

 魔物の仕業ではない。先程の外道でも………()()は出来まい。

 

「────ああああああああああ!!」

 

 叫び、大木を殴れば森の一角が吹き飛ぶ。この力を使えば、すぐにでもあの阿婆擦れを殺せるだろう。だが、出来ない。

 それを行えば間違いなく国は乱れる。故に『国を守る』という『誓約(ゲッシュ)』が刻まれたマクールは途端に動けなくなる。

 

 何より、今回の黒幕はあの阿婆擦れとは別にいる。

 

 そんなことは関係ないとばかりに魔眼が疼く。誰でもいいから殺せと、何でも良いから滅ぼせと殺戮衝動が喚き散らす。

 

「………………黙れ」

 

 それら全てを抑え込み、自らの目の一部を爪で抉りながらマクールは立ち上がった。

 

「壊すか、あの剣」

 

 感情が振り切れ、逆に冷静になったマクールのその言葉は、夜風よりなお冷たく森に響いた。




次回『終編』

なお、来世では神の酒飲んでも酔えなくなるらしい。


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