ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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番外編 時を渡る獣

 カオス。つまり混沌。

 神すら抗えぬ『原初』であり、時の流れに関わるはカオスの御業。神の力を以て成すのなら、その神は粉微塵に消滅するだろう。

 

 神すら………理そのものたる神だからこそ、因果と理はより深くその存在に絡みつき抗えぬ。

 

 神に過去は変えられず、神に未来は確定出来ない。

 

 故にこそ、混沌を超え異なる時空に訪れる混沌(カオス)の落とし子は人であるのだろう。

 

 それでも既に決まった歴史を変えることはやはり不可能。それは全く別の歴史。

 であるなら、何か一つのきっかけで無限の可能性の世界が存在し、カオスのくしゃみで空いた時空の歪を通して迷い込むこともあるかもしれない。『並行している今』が存在する異世界ではなく、とうに『分岐し混じらわぬ筈の今』に訪れることがあるのかもしれない。

 

 無限に存在する星々の中から自分の生まれた日に誕生した星をたった一度で見つけるような、虚数の果ての可能性で穴に落ち、虚空の遥か彼方の確率で生きて何処かに出るかもしれない。

 

 つまりこれから語るのは、時間を超えたある男の子の話ということ。

 

 

 

 

「………………ん?」

 

 目を覚ますと路地裏にいた。寝ぼけ眼をこすりくぁ、と欠伸をしてキョロキョロ辺りを見回す。やはり路地裏。

 

 オラリオであることに間違いない。はて、昨日は何時ものようにシャバラ達と寝ていた筈だが。

 

 体に妙な匂いは残っていない。誰かに運ばれた訳では無さそうだ。寝ぼけて夜ふらついていたのだろうか?

 

 そんな事を考えながら【ソーマ・ファミリア】に向かおうとし、足を止める。

 オラリオの様子が何処かおかしい。なんというか、新しい?

 

「………………?」

 

 だが街を歩く人々の服装は、なんというか古い。

 古着、というわけではない。デザインが昔のものというか。

 

 アフロディーテにファッションを教えられたリリウスに死角は少ない。

 

「十年以上前のファッションセンス………?」

 

 それが、何人も。神々の言う『れとろぶーむ』でも到来したのだろうか?

 

「…………」

 

 リリウスは取り敢えず腹拵えにダンジョンに向かうことにした。と、その時………

 

「邪魔だチビ! ちんたら歩いてるんじゃねえよ!」

「あん?」

 

 特に道を塞いだりせずに歩いていたが背後から怒声が聞こえる。周りの住民はまだやってると呆れる視線と、お気の毒にと哀れみの視線をこちらへ向ける。

 

 振り返ると獅子色の髪の美少年がいた。『この世の全てが大嫌いだ!』と言わんばかりの目を見てリリウスはなんだか懐かしい気分になったが、はて、何時何処で見たのだったか?

 

A.幼少期に、鏡や窓ガラスで

 

小人族(パルゥム)如きが御大層な装備来て英雄気取ってんじゃねえよ!」

「……………」

 

 あれ、こいつ………()()()()()()()()じゃないか。その上で噛みついてきたのか。しかし、この匂い何処かで汗と泥、血に灰で霞む彼本来の匂いにリリウスは既視感を覚え首を傾げる。

 

 その動きをどう捉えたのか………少なくとも馬鹿にされたと思ったであろう手足の長いドワーフの少年はリリウスへ飛び掛かり………空高く蹴り上げられた。

 

「………………………」

 

 数十秒後、降ってきた少年を蹴り飛ばして落下の衝撃から救ってやる。縦から横の動きに変化した少年は街路樹を圧し折りながら速度を落としていき最後に薬の臭がする建物の前の茂みに落ちた。

 

「急患です!」

「またこいつか! 性懲りもなく奴等に喧嘩売ったな!?」

 

 どうやら強い相手に喧嘩を売る常習犯らしい。しかしリリウスは聞いたこともない。本当に何者?

 

「まあ良いか……」

 

 リリウスには関係のない話しだ。周期的にそろそろゴライアスが再出現(リスポーン)する頃だし、それを朝食に深層に潜るか。金も稼いでおきたいし。

 

「まぁぁぁてえええええ! ダァァァァリィィィィィン!!」

「ん?」

 

 と、ダンジョンに向かう途中ものすごい速さで走る男女を見つける。本当に速い………あれ、Lv.6じゃね?

 

「また他の女に手を出して! 今度という今度は許さん! その腕を私の腰に縫い付け永遠に離れられなくしてくれる!」

「待て! 誤解、誤解だ! かっこいいですよね〜とか言われたらちょっと話したくなるじゃん!?」

「死ねええええ!!」

「今死ねっていった!?」

 

 アマゾネスかと思いきや、なんと女の方はハーフエルフじゃないか。詠唱を唱え始めている。

 ハーフとは思えない膨大な魔力は流石第一級。というかこんな街中で魔法を?

 

 リリウスが周りを確認すると住民達はとっくに避難を完了していた。まるでこれが日常茶飯事とでもいうような自然な動きにリリウスは気付くのが遅れてしまったほどだ。

 

「浮気男死すべし慈悲はない! 手足の骨を抜き女に会いにいけぬ体にしてやる!」

「いやだあああ! 俺、生き残って来週主神(おやじ)とメレンで水着チャンネー見に行くんだあああ!」

「【■■■■■■■■■】!!!?!」

 

 高周波のようなヒステリックな叫び声で魔法名らしきものを叫ぶハーフエルフ。放たれる地獄の業火の如き炎。

 

 怒りにより荒ぶる精神力(マインド)をそのまま魔力に変換した浮気を赦さぬ嫉妬の炎。こっちに来たので食べる。

 

「…………は? え、何こいつ!」

「女の子!? ダーリンを守るということは…………恋敵!!」

「よっと」

「げふ!」

 

 リリウスは男を気絶させた。

 

「ほれ」

 

 そして女に向かって投げる。

 

「………コイガタキ、チガウ? ウワキアイテ、チガッタ?」

「なぜカタコト………俺はコイツなんて知らん。よくわからんが捕まえたかったんだろ?」

「感謝します」

 

 ペコリと先程まで階層主すら逃げ出しそうな態度と打って変わってエルフらしく上品さを感じさせる礼を取るハーフエルフ。

 

「後俺は男だ」

「…………ごめんなさい」

「別にいい。可愛い妹と似てるってことだからな」

「……………なんだか、私の知り合いの子に似てますね。あの子も妹がすごく大好きなんですよ」

 

 そうって微笑むハーフエルフ。しかし片手にはぐったり気絶した男の足を握っている。

 

「さあダーリン! 2人の愛の巣に帰りましょう! 二度と他の女にうつつを抜かせないよう家で飼う!」

 

 あれも愛か、と元愛の女神の眷族であるリリウスは思った。

 

「あ………」

 

 人が戻ってきた。

 なんと手慣れた避難と帰還だろう。

 

「…………慣れてるな」

「そりゃお前さん、ゼウスがやらかしてヘラが『狩り』を行うのは日常茶飯事だろ」

「もう慣れちまったよなあ」

「器量は良いんだよなあ。付き合ったらあれだけど」

「男たるもの、そりゃいろんな女の子と仲良くしたいのになあ」

「? 一番に愛すると決めた女が他の女の相手も望むならともかく、自分だけを愛せと言うならそうするべきでは?」

 

 アフロディーテは美と愛を司る女神なのでリリウスにより多くの愛を受け止める事を是とさせるが、もし彼女が『私だけに愛しなさい』と言うのならリリウスはそうするつもりだ。

 

「…………まて、ゼウスとヘラ?」

 

 

 

 

 【神時代最強派閥(ゼウス・ファミリア)】と【神時代最凶派閥(ヘラ・ファミリア)】がどちらも健在。現最強派閥(【ロキ】と【フレイヤ】)は『ああ、あるな』程度。

 

 他にもなかなか有力派閥が存在し第一級もLv.5から6もそこそこ居る。が、余り話題に上がらない。

 『ゼウスとヘラ』か………『それ以外』か。極論、今のオラリオにはその基準しか設けられていない。

 

 それだけその2つは他と隔絶し、超越し、超絶している。

 

 そしてクソだった。力さえあれば許されるとばかりにゼウスの眷族は女関係で騒ぎを起こし、主に手を出されたヘラの女達がヒステリックに追いかける。

 

 リリウスが知るゼウスとヘラは『色気より食い気の武人(ザルド)』と『男?妹さえいればいい(アルフィア)』だけだから、なんというかイメージが壊れた。

 

「もぐもぐ………他の連中だったら暗黒期が別の意味で混沌と化していたかもしれん」

 

 ゴライアスの腕を食いながらそんな事を呟くリリウス。『嘆きの大壁』に刻まれた崩落と斬撃の跡は、ゴライアスが生まれた瞬間『誕生日おめでとう。死ね!』と初手即死が決まった事を知らしめる。

 

「お前は、何者だ………!」

 

 迷宮の孤王(モンスターレックス)という経験値(エクセリア)を求め、独占する為に他者に剣を向けていた猪人(ボアズ)の少年は剣で倒れそうな体を支えながらリリウスを睨む。

 

 先に居たのはリリウス。後から来た青年とブッキングして、譲れと言われ断ればならばと剣を向けてきたので軽く撫でてやった。

 

 剣の冴えは未だ未熟。能力値(ステイタス)も極まっておらず、位階(レベル)だってリリウスが知る彼より3つばかり低い。

 

 それでも目だけはリリウスが知るより燃えている。

 

最強(ゼウス)でも最凶(ヘラ)でもない。お前程の強者が、何処に隠れていた………」

「まだ生まれてないからな」

「………?」

「そう警戒しなくても、別に邪神側じゃねえよ。殺さないでやるからさっさと帰れ」

 

 リリウスはゴライアスを食い終えると立ち上がる。この時代ならまだ『魔界』はないし、モンスターの血をシロップにかき氷でも食いに行こうか………。

 

「うおおおおお!!」

「ああ?」

 

 振り下ろされた大剣を小指で弾く。ただの一撃でボロ雑巾のようにされ、彼我の差などという言葉すら陳腐な断崖を前に、少年の心は尚折れない。

 

「気丈だな。褒めて(撫でて)やろうか」

 

 首だけ振り返っていたリリウスは体ごと振り返り少年と対面する。ダンジョン内で死にかける事がどれだけ危険か理解した上で挑む意思を微塵も緩めぬ少年に一歩踏み込む。次の瞬間には少年は壁まで吹き飛び少年の立っていた場所にリリウスが立っていた。

 

「たく。こんだけ燃えてるくせに、上を見失っただけで燻るんじゃねえよ」

 

 瓦礫の中から少年を掘り起こし、リヴィラに向かう。ゴライアスの魔石を金代わりに治療を任せリリウスは今度こそ深層へと向かった。

 

 蒼と白の氷河の階層が赤く染まる1時間前の出来事であった。

 

 

 

 

「あの悪童(ワルガキ)と猪がやられた?」

「別に珍しくもないだろう。あのガキ共程度、俺等じゃなくてものせる」

「まあなあ。だがよ、()()()()()()()()()()んだ」

 

 存外あのドワーフと猪人(ボアズ)のガキどもの評価は低くない。自分達以外であの斬撃の極みに到れるのはあの2人だろうと思われる程度には評価されてる。

 

 小人ともう一人のドワーフは斬るのではなく丘や城を穿つか砕くは出来るようになるだろうが、斬るとなるとあの2人。

 

「オマケに『嘆きの大壁』に刻まれた斬り傷。ありゃあ間違いなく俺達の技だ……」

「僕達以外にも使えはするだろうさ。結局ただの技なんだから」

「それぐらい解っている。問題は、何処で私達の技を盗んだかだろう。そんな事も解らんのか間抜け」

 

 年若い獣人の言葉に潔癖そうな3桁エルフが呆れながらいう。ああ? と立ち上がる獣人。腰の刀に手を伸ばすエルフ。

 

 喧嘩が始まるのか、と逃げる酒場の客と酒の肴にしようとする同派閥の男達。酒場で暴れんなと迷惑そうなバイト。

 

 もちろん止まるわけがない。オラリオとはそういう街だ。力ある者達の言葉が優先される。

 なので止まらず………()()()()()

 

「オヤジ、これで飯代にはなったか?」

「あ、ああ…………」

 

 食事代の代わりに働いていたバイトの正体は、誰も気づかないかもしれないがなんとリリウスであった。気絶させたゼウスの眷族を店の外に放り出し財布を奪い店主に渡すと残りの金は全部自分の影にしまった。

 

 

 

 さて、()()()Lv.6と言えども【ゼウス・ファミリア】の団員がやられたとなれば、話題はその話で持ちきり。

 

 どの神も接触したがる。当然だ、どの神も、邪神も善神もゼウスとヘラには勝ったことがないのだから。

 少なくともLv.6。ゼウスを恐れない。求める理由などそれで十分。さっそく捜査が始まる中、エロ爺(ゼウス)は何時もと変わらない。

 

「ふふふ。儂が見つけた穴場じゃ。誰にもいうでないぞ?」

 

 赤目の眷族は当然! と頷く。全体から見れば少ないが料理が一番上手い武人を筆頭に生真面目な団員の耳に入れば対策されてしまう。

 

「しかものぉ、この時間デメテルが来るんじゃ」

「か、神デメテル(おっぱい)が!?」 

 

 最低だこの男。

 

「……………ゼウス?」

 

 

 

 

 

「ぎゃああああああああああ!?」

 

 老神がとびっきり美しく、しかし見てるだけで背筋が寒くなる程恐ろしい気配を放つ女神に追いかけられている。

 

 リリウスはオラリオも昔は変わってたんだな、と思った。今もなんか男に馬乗りになって顔の形が変わるほど粉砕している女がいるし。

 

「酷い、酷い……ずっと一緒っていったノニ。君しか居ないって言ってクレタノニ。もう無理、病む………ピエン」

 

 レオンが昔のオラリオはゼウスが問題を起こしヘラが狩りに行くといっていたがこんな感じだったのか。

 

「ふぅ………さっぱりしたわ。おまたせ、リリウスちゃん」

「ん………」

 

 浴場から出てきたデメテルを見てリリウスは立ち上がる。ご時世なのに派閥の証文、或いは門を通る際に渡される滞在証明書が無ければ宿も取れぬらしく路地裏で飯を食っていたらデメテルに拾われたのだ。

 

 なんとなく眠る気になれないリリウスは何処の世話になる気も無かったがデメテルは別だ。ご飯が美味しいし。

 

「貴様がゼウスに喧嘩を売ったという子供だな? 我が主が貴様を求めて──」

 

 やせいの やみはばつ が とびだしてきた。

 

「逆らおうなどと思わぬことだ。私はメルティ・ザーラに継ぐ──」

「邪魔」

 

 ほしに なった!

 

 

 

 

 

「ありがとうリリウスちゃん。収穫まで手伝ってもらっちゃって」

「デメテルの野菜と料理は美味いからな」

 

 この程度苦ではない。規格外野菜や野菜についてた虫などはその場で食っていいと言われたし。

 

「あらあらまあまあ」

 

 とても嬉しいデメテル。

 

「あ、そこの箱は置いておいて。今日取りに来る予定なの」

「取りに?」

「ええ、病気の妹のために栄養たっぷりな野菜を食べてほしいんですって」

 

 噂をすれば影というか、扉がノックされる。リリウスがステテと扉に向かい開ける。と………

 

「…………え」

「神デメテル。約束通り受け取りに来た」

「時間ピッタリね()()()()()ちゃん」

「……………」

 

 灰色の髪の少女は扉を開けたまま固まるリリウスに気付く。

 

「何を見ている小僧」

「ちっさ」

 

 音速の拳が飛んできた。リリウスはおっと、と受け止める。

 

「ここに神デメテルがおらず、お前が白髪じゃなかったら吹き飛ばしてやるところだ」

 

 彼我の差は歴然。リリウスの方が遥かに強い。なのに、彼女なら出来るかもと思ってしまうのはリリウスが彼女を好きすぎるゆえだろうか?

 

「…………お前、なんだその目は」

「?」

「何故あの子のような目を……………私はお前を知らん。だが、お前私の何を知っている」

 


 

400話か350話か333話か301話に続く!

 

次話

 

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