ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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名探偵の本領

「で? その格好は何だ」

 

 『ちょっと待ってくださーい』と店の奥に引っ込んだシルは極東の着物を着て戻ってきた。質の良い、高級な着物。

 

「くノ一が仕えるのは御殿様やお姫様ですからね。どうです? 極東のお姫様みたいでしょう?」

「………そうだな」

「あら、意外とあっさり肯定するんですね」

「外面が良くて中身が真っ黒なのとかそっくりだ」

 

 セシル達は輝夜のことかな、と思ったが口には出さなかった。後で知られたら怖いからだ。

 

 

 

 

「この辺ニャ!」

「この辺り? なんだか寂れてて、中心街から離れているけど………」

 

 歓楽街でありながら人の気配がほとんど無い。確かにアーニャの匂いが残っている。

 

「この辺でミャーのお腹が減り始めたのにニャ! だから通ったところに違いないニャ!」

「このアホは何言ってんだ?」

「ごめんなさーい! もう少し付き合ってあげてくださーい!」

「さっきからお腹が減った場所とかいい匂いに誘われた場所って説明しかないんだけど」

「まあ別に期待はしてないけど」

 

 セシルの言葉にリリウスは失望もなくそう言い切る。

 

「さりげな~く私にも路傍に転がった蝉を見るような煩わしさと鬱陶しさに混じった眼差しを向けるリリウスさん………嫌いじゃないですよ!」

「俺はお前余り好きじゃない」

「そんなリリウスさん! 嫌いじゃないなんて!」

 

 確かに嫌いとは言っていないが…………。無敵かこの人、とイセリナは思った。

 

「あと、もう少し中心街の方に行ってみるのはどうでしょう? 被害にあった遊女の話は、そっちで聞くことが多かったので」

「そうね。あてもなく歩き回るよりは…………アリーゼ先輩達と合流できるかもしれないし」

 

 と、その時…………

 

「はいはい、そこ、割り込まない。ちゃんと並んで」

「ん? あれは………」

 

 歓楽街の一角。極東の遊郭を模したそこで、カサンドラとダフネが遊女達に炊き出しを行なっていた。遊女達にあわせてか、彼女達も着物姿だ。

 

「どうぞ甘酒です。温まってくださいね」

 

 あの2人は確かミアハの眷族になったのだったか。ならまあ、復興支援ぐらいするだろう。

 

「たのもーニャ!」

 

 と、そんな彼女達にアーニャが突撃する。

 

「あ、ちょ、だから割り込んじゃ駄目だって!」

「おミャーら、犯人かニャ?」

「は?」

 

 突然犯人かと尋ねられ困惑するダフネ。そりゃそうだ。

 

「素直になれば『じょーじょーしゃくりょー』も考えてやらん事もないニャ!」

 

 情状酌量を与えるならそれはもう探偵ではないのでは? リリウスは訝しんだ。

 

「なんとかしてこい。お前のけ……らいだろ」

「アーニャ、お願い! 私の弱味を増やすような真似はしないで! さっきからリリウスさんの視線が痛いの!」

 

 そんなシルの叫びは届かずすっかり名探偵気取りの迷探偵アーニャはカサンドラ達に詰め寄る。

 

「さあ答えるニャ! おミャーらが遊女(おんな)に借金押し付けたり、歓楽街を支配しよーとしてる神様の手先かニャ!?」

「あ、あのぉ………お話がよく………」

 

 ドゴォ!

 

「ギニャン!?」

 

 リリウスがバカ猫の頭を叩くとアーニャの体が地面に沈んだ。

 

「あ、リリウスさん」

「この馬鹿が迷惑をかける。ちょっと聞きたいことがあるだけなんだが歓楽街の状況について教えてくれ」

「状況と言っても………見ての通り、としか」

「私達が知りたいのは『歓楽街の新たな神』の事なんです、け………ど!」

 

 埋まったアーニャを引っこ抜こうとしながら尋ねるシル。彼女の細腕では全然抜けないのでリリウスが引っこ抜いてやる。

 

「それで、知ってます? 『歓楽街の新たな神』」

「「!?」」

 

 ビクッと肩を震わせる2人にセシルはジトっと視線を向ける。

 

「何か、知ってる?」

「ウ、ウチ等は別に………」

 

 やましいことなんて、と説明しようとするダフネ。その時一人の遊女が「すいません」と話しかけてきた。

 

「え、ああ………甘酒ならもうちょっと待ってて。ちゃんと人数分用意して………」

「そうじゃなくて、このお金を、あの神様に」

 

 神がかったタイミングにセシル、イセリナ、アーニャ、シルがヴァリスの詰まった袋を見てリリウスは甘酒の列が進まない事に少し苛つく。

 

「ま、待って! 別にこのお金は、そういうんじゃなくて………!」

「そういうのって言うのは、どういう意味?」

 

 イセリナ達が疑わしげな視線を向ければ気の弱いカサンドラはダフネにどうしよう、と縋り付く。

 

「バカっ、離れて! 怪しまれる……!」

「詳しく話を聞かせてもらえるかしら?」

「やっぱり、おミャー達が犯人ニャぁ! ミャーの目に狂いはなかったニャぁっ!! ここであったが百年目! 素直にお縄にかかるニャー!!」

「ちょっと、まずは話を聞くだけって………」

「話すニャぁ! 犯人逮捕は名探偵の見せ場ニャあ!」

 

 飛びかかろうとするアーニャをセシル達が慌てて抑え、その隙にダフネとカサンドラは逃げていった。甘酒の列は配給者が居なくなりどうしたものかと困惑し仕方なく1人、また1人と解散していく。

 残った甘酒はリリウスが全部のんだ。 

 

「ミャー! どこいったニャー!」

「騒ぐな。入り組んだ歓楽街で土地勘のない俺達が追えるわけねーだろ」

「匂いで追えないんですか?」

「歓楽街は空気から甘ったるい匂いに満ちてる」

 

 金を渡していた遊女も既に居ない。

 

「場をかき回すだけのインチキ探偵役」

 

 リリウスは甘酒が入っていた鍋を置いてアーニャを見る。猫耳がぺたりとたれていた。

 

「待ってください! アーニャだって役に立ってくれる時だってあるんです!」

「『退屈しない』とかじゃないだろうな?」

「………………あ、あはは………」

 

 図星だったようだ。

 

 

 

 

 

「はあ、びっくりしたあ。【アストレア・ファミリア】が来るなんて聞いてないわよ」

「どうするダフネちゃん。取り敢えずミアハ様に報告する?」

「そうね……なんか、勘違いされたかもしれないし」

「あのねダフネちゃん。それ、逃げたせいだと思うの…………」

 

 

 

 

「ミアハの眷族だし、そもそもあの2人は悪事に手を染めるようなことは…………あまりしない」

「あまり、なんですね………」

 

 まあアポロンの命に従っていたのは無理矢理眷属にこそされたがそれ以外では衣食住、アポロンを敬愛する眷族と差別なく与えるし狂信者との間に溝こそ出来ても対立にならないよう間を取り持ったりと恩があるからだ。

 

 アポロンは『運命の相手』に出会わない限りアストレアやミアハ、タケミカヅチ等と並べたって問題ない程の善神なのだ。色恋にうつつを抜かさなければ。

 

「そしてミアハならそういう事はしない」

「私は詳しく知らないけど、暗黒期に英雄的な行動をしていた薬神様だっけ?」

「どう考えても『歓楽街の新たな神』とは思えませんけど…………」

「そうニャー! ミアハ様ニャー!」

 

 オユキの言葉は届かずアーニャは叫ぶ。何でも忍び込んでいた屋敷で聞こえた神々の声はミアハとタケミカヅチに間違いないと言う。

 

「どっちもとびっきりの善神じゃねえか」

「ミャーの推理力を信じるニャ! 今、ピコーンと尻尾が立ったから、間違いないニャ!」

「役に立たねえ尻尾だな。抜くか」

「ミギャー!?」

 

 リリウスの言葉にアーニャは尻を隠すようにバッと向き合い距離をとる。

 

「ま、まあ聞くニャ! ミャーの天才的推理力で今、ミアハ様と事件が繋がったニャ! 仕方ないから、凡人の助手達にミャーの『かくめーてき』推理を聞かせてやるニャ」

「別にいいかな」

「参考にはならない気がする」

「右に同じ」

「真実は一つなのに辿り着くための道順を変化しても迷うだけだろ」

「また的外れな気も」

 

 誰一人アーニャの革命的な推理とやらを聞く気はないようだ。アーニャは憤慨した。

 

「おミャー等、助手のくせに名探偵に意見してるんじゃないニャ!」

「ここに名探偵はいない。自称探偵は馬鹿だし」

「ミャーは推理の天才なのニャー! あらゆる謎がミャーにひれ伏す、この時代を代表する名探偵なのニャ」

「じゃあな天才名探偵。生まれるべき時代を持たない馬鹿」

 

 それこそ石器時代の殺人事件に出会し血だらけの石斧を持つ男が目の前に居ても明後日の方向に犯人探しに向かいそうなアーニャの推理など聞く気が微塵もわかないリリウスは、さっさとその場を去ろうとする。

 

 シルが無言でミア母さん特製弁当を出したのでその場に留まる。

 

「いいニャ? 耳の穴かっぽじってよく聞くニャ。ミャーの推理ではニャ……」

「勝手に語りだした………」

「シル………」

「こうなったアーニャは、ミアお母さん以外止められません!」

「開き直るな」

 

 取り敢えず、聞かなければ延々と語ろうとし続けるのだけは理解した。

 

「えーと、ごめんなさい。本当にあとちょっとだけ、付き合ってください」

 

 

 

 事の発端はオユキが身に覚えがない借金を背負わされたこと。取り立てから逃げる日々、オユキは最後の希望に名探偵の下に転がりこんだ。

 

「転がり込んでませんけど」

「遮っちゃだめです。どうせアーニャは止まりません」

 

 そして歓楽街で何やら悪巧みをするタケミカヅチとミアハ。この2人の共通点は………

 

「男前ニャ!」

「……アーニャ」

「悲しそうな目でこっちを見るんじゃないニャ、シル! こっからが推理の本番ニャ!」

 

 まだあるらしい。

 

「天の神々よ、ごしょーらんあれニャ! これより、くノ一名探偵の推理の時代ニャ!」

「だからお前に推理を任せる時代は永遠に存在しない」

 

 しかしアーニャは得意げに語る。

 ミアハとタケミカヅチは男前。男前は女をヘロヘロにする。実際ミアハとタケミカヅチが女や女神をヘロヘロにする現場の目撃情報は絶えない。

 

 つまりヘロヘロメロメロになった女にこっそりと借金を背負わせる程度わけはない。というのが名探偵アーニャの推理。下界に向かった神の仕事を押し付けられた天の神々も思わず仕事の手を止め腹を抱えて笑っている事だろう。

 

「…………推理?」

「推理なんです………アーニャの中では。はい、きっと………」

 

 流石にシルもそろそろ手に負えないという顔をしていた。

 

「ニャニャー! なんニャそのビミョーな反応は! ここはミャーの推理に感動してしょーさんするところニャ!」

「落ち着いてよく聞いてねアーニャ。その推理は穴だらけだよ?」

「ニャニャ!?」

「誰も会ったことがない『歓楽街の新たな神』がどうやって雌をメロメロにすんだ」

「そ、そこはあれニャ! 神の力(アルカナム)とかで何とかするニャ!」

「天界に送還されちゃうね?」

「美の神と違って純粋に神性(にんげんせい)でモテる神だぞ。魅了しても魅力で完全支配は出来ねえだろ」

 

 2柱(ふたり)は武神と薬神。武術、薬学で人智が及ばずとも魅力のみで人を支配することは出来ない。

 

 シルはニコニコ笑っている。

 

「そもそも動機は?」

「そ、それはぁ…………えっと、にゃあ………お、お金ニャ! ミアハ様もタケミカヅチ様もびんぼーだからお金が欲しくて借金を押し付けたニャ! これで納得ニャ!」

 

 誰一人として納得していないがアーニャは犯神(はんにん)を追い詰めたと駆け出していった。

 リリウスは仕方なく後を追う。

 

「追いかけるんですか? 徒労に終わりそうなんですけど……」

「甘酒のおかわりありそうだし、タケミカヅチがいるならジャガ丸くんもあるだろ」

「ぶれませんねえ……」

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