ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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アマゾネス狩り

 レナがそれを見たのはイシュタルの隠し部屋。

 フリュネに『イシュタル様の弱みを見つけてこ〜い!』と脅され私刑覚悟でイシュタルの神室(しんしつ)に侵入した際、半開きの隠し扉を見つけた。

 

 様々な宝がある中、箱に入ったミスリルの球体を見つけたとのことだ。しかしそこで副団長(タンムズ)に見つかり『全て忘れろ』と怖い顔で言われたらしい。

 

 タンムズはイシュタル命の団員だがそれ以外は温厚なので注意だけで済んだが。

 そのタンムズも【フレイヤ・ファミリア】襲撃の際行方知れず。

 

 残っているとしたらイシュタルの隠し部屋かタンムズの私室だろう。

 

「行くぞ。案内しろ」

「うん!」

 

 ベートはレナとセレニアを引き連れ歓楽街の復興区に向かった。そういえば【イシュタル・ファミリア】のホームの一角をエピメテウスが焼き払っていたが、鍵は無事だろうか?

 

「……………シャバラ、シュヤーマ」

 

 と、不意にリリウスが顔を上げ撫でていたシャバラの名を呼ぶ。シャバラ、シュヤーマは主の意図を察しすぐにその場から離れる。

 

 

 

 

 音もなく、匂いも消し、気配を周囲に紛れ込ませた暗殺者。世界最強が住む屋敷に訪れながら彼等に恐怖はない。

 

 目的は唯一つ。【イシュタル・ファミリア】から【ソーマ・ファミリア】へ改宗(コンバージョン)したアマゾネス達の抹殺。

 

 『鍵』に繋がりうる情報の完全排除だが、そこはどうでもいい。彼等はただ金を受け取り雇われ、雇い主が『殺せ』と命じた全てを殺す。己の命と引き換えにしてでも。

 

「ガウ!」

 

 足音を立てずに移動していた集団の先頭が巨大な猟犬により噛み殺される。見つかったことへの動揺はあれど反射的に、されど正確にナイフを投げる暗殺者。猟犬は回避し、最後尾が別の猟犬の爪に割かれる。

 

 挟まれた。明らかに自分達より強い猟犬。それでも殺せる。猟犬達を、ではない。抹殺対象をだ。

 

 集団のリーダーの男が視線と顎の動きで指示を飛ばす。弱い、つまりこの場において価値の低い暗殺者2名が猟犬に飛びかかる。殺されるだろうが時間は稼げる。

 その間に残りが散開し……半数が焼き切られ半数の首が力任せに千切られた。

 

「何だ、此奴等は?」

「暗殺者だな。狙いは……たぶんアマゾネス」

 

 まず飛び出したのはエピメテウス。降り注ぐ雨に一切影響されることのない炎の軍勢が生み出される。リリウスもまた濡れた地面を凍らせ無数の氷人形を生み出す。

 

 人手は足りるだろう。ただし、今から足りるようになる。オラリオ中に散らばった元【イシュタル・ファミリア】を守るには遅すぎた。

 

 

 

 

「ちぃ!」

 

 2人の暗殺者がまるで自分からそうしたかのように頭から石畳に突っ込み、1人は首の骨を折る。しかしもう1人はすぐに立ち上がると本拠に出入りしていた高級娼婦へ向かい、再び地面を転がり足の関節を外される。

 

「暗殺者か………」

 

 タケミカヅチが嫌いとするタイプだ。武を極める性質の武神である彼からすれば、鍛錬に明確な『目的』……『果』が存在し目的完遂のために命を捨てる暗殺者の『武』は唾棄するもの。

 

 というか何気に位階を昇華した対人特化の眷族とやり合っているのは何なのだろうか。

 

 しかし下界に来るに当たり神の力(アルカナム)は勿論、言葉通り神がかった肉体の本領も封印しているタケミカヅチでは体力に限界がある。かといって神威で人類を縛れば『お前が先にやったんだからな〜!』と悪神もノリノリでそういう事をするだろう。オラリオ中で襲撃がある以上、敵の神が何処に何柱居るかも分からぬ状況では使えない。

 

「お前達、そこを動くなよ」

 

 不意打ちを食らい血を流す戦闘能力のない高級娼婦達にタケミカヅチは安心させるような笑みを向ける。

 

「何、安心しろ。この程度の輩に、これ以上お前達を触れさせはしない」

「「「タ、タケミカヅチ様〜♡」」」

 

 

 一方別の場所。

 

「すまぬな、私はタケミカヅチのように戦える神ではないのだ」

 

 それでも盾となるだけで死を恐れぬ暗殺者であろうと不用意に攻め込めない。狭い路地の行き止まりに陣取るミアハは気休め程度のポーションを渡す。

 

 傷が癒えない。少しばかり体力を回復させるだけだが何時まで持つか。

 

「安心するが良い、これ以上お前達の美しい体を無粋な輩に傷つけさせはしない」

「「「ミアハ様………」」」

 

 アマゾネス達はうっとりと戦う力のないミアハに熱い視線を向ける。間違ってもミアハを弱い男などと思う者はこの場にいない。

 

 さりとて、暗殺者達も引き下がる様子は見せない。ミアハの隙をつき抜け、短剣で傷を増やしてやれば命を取れ──

 

 グシャリと暗殺者が踏み潰される。

 

「リリウス!!」

 

 リリウスは3人いた暗殺者のうち1人を殺す。暗殺者は動揺は一瞬、即座に障害になるであろうリリウスへナイフを投擲し、ナイフは空中で凍りついた。

 

 巨大な氷塊が暗殺者達を飲み込み砕ける。リリウスはそのまま屋根を駆け上がり別の場所に向かった。

 

 ()()()()でリリウスは暗殺者を氷で出来た剣で貫き、1人がやられている隙にアマゾネスを狙った暗殺者は炎の騎馬に踏み潰された。

 

 

 

 

「リリウスが複数いるのはこの際置いといて、この炎は何だ!?」

「私、知ってるわ! リリウスの白の芸術(アルスワイス)とエピメテウスさんの魔法!」

「一体一体あたしより強ぇんだけど」

「大丈夫。ライラだってすぐに強くなるって! バチコーン☆」

 

 

 

 間に合う場所はもちろんある。同時に、間に合わない場所も。

 

「【血と踊れ】」

 

 紡がれる詠唱は異常魔法(アンチステイタス)呪詛(カース)。個を喪い、己の命すら標的を殺す道具にするほど画一的な洗脳訓練をされた暗殺者達は他者をより殺しやすくする魔法をほぼ全員が使う。

 

 重ねがけされる負荷。第一級のベートとセレニアなら、それでも乗り越えられただろう。彼等だけなら。

 

「あう!」

 

 敵の狙いはレナ。Lv.2の彼女はそれでも大半の暗殺者より高い能力値(ステイタス)だが、冒険者とも戦士とも異なる戦い方の暗殺者に対して追い詰められていく。

 

 彼女だけを狙い、他は邪魔させない為の足止め。ベートとセレニアが殲滅のために攻勢に出れば即座に彼女の命を奪われる。彼女を庇い、隙を作った2人は異常魔法(アンチステイタス)に苛まれてしまった。

 

「大変だなあ、足手まといがいるとよお!」

 

 更にここにいるのは第一級(ヴァレッタ・グレーデ)。位階はセレニアと互角でも、ヴァレッタとランクアップしたばかりのセレニアではステイタスに差がある。何より怪物退治が本領のセレニアと異なりヴァレッタは人を殺し続けることで第一級になった生粋の殺人鬼。

 

「セレニア!!」

 

 ベート1人なら或いは暗殺者もヴァレッタも纏めて葬っただろう。しかし、出来ない。守るべきレナが居るから。無視出来ぬセレニアがいるから。

 

 ベートの普段の言葉を使うなら、目の前から消えるべき弱者が居るから。

 

 なのにベートは彼女達を拒絶出来ない。彼女達を見捨てられない。彼の本質は何処までも守る者だから。

 

「……ごめん、ね」

 

 肩に突き刺さった短剣に苦痛の表情を浮かべるレナは小さく呟く。

 

「私が、足を引っ張るから」

 

 ベートとセレニアだけなら、ヴァレッタと暗殺者がセレニアだけ狙おうと対処出来ただろう。ベートだけ狙おうとより楽に殲滅しただろう。

 

「関係あるか! 此奴等は俺の敵だ!」

「私達の敵! だから、謝らなくていい!」

 

 二人の言葉にレナは悲しそうに微笑む。

 

「私が居なければ二人なら平気だったのに………弱くて、ごめん。ベート・ローガに見てもらえるぐらい……セレニアみたいに、強くなりたかったな…」

 

 巫山戯るな! 戦場に出て、何を泣き言を!

 ベートは苛立つ。顔を上げぬ弱者に何時も苛まれる怒りに歯噛みする。それを言わせてしまうのが自分が敵を殺し尽くせる圧倒的な力が無いからと奥歯を噛み締める。

 

 俯くな。後悔するな。吠えろ、吠えてみせろ!

 

「でも………私が居なかったら、2人は強いもんね?」

 

 だが返ってくるのは無情にも己の『弱さ』を悔いるだけの『弱者』の呟き。

 

 おい……

 

 また、ふざけるな。

 何をやろうとしている。何を血迷っている!

 

 何を勝手に決めている! てめぇは『雑魚』だ、勝手なことをするな!

 

 動くな。いくな。ここにいろ!

 

「2人は、死なないでね…………」

 

 雑魚はすっこんでろ。

 足手まといは消えろ。

 

 

 普段彼が吐く暴言とは真逆の矛盾に気づかないベートは去り行く背中に向かい叫ぶ。

 

「レナァ!」

 

 彼女の名をベートが初めて呼んだのは、よりによってこんな時。

 

「くひ……ひひひひひひ。ひゃはははははははははは! 暗殺者(アサシン)共、あの小娘を追ええ!」

 

 ヴァレッタの号令に背を向ける暗殺者共を狩らんとするベートをヴァレッタが足止めする。少女を守ろうと追いかけるセレニアに自爆兵共が立ちはだかる。

 

「なあ? あの女は死んだかあ!?」

「!?」

「クノッソスにいた生意気な治療師(ヒーラー)だよ! 弱ぇくせに必死に仲間守ろうと、うざったいたらありゃしねえ! もっともっと苦しめたかったんだぜぇ!」

「…………じゃ、ねえ……」

「でも何かやべえことが起きてるからよ。逃げざるを得なかった、てめぇ等は解呪薬持ってたし、生き残っちまったかあ!?」

「………るんじゃねえ」

「あ〜あ! だとしたらもっと雑に殺しておけばよかったぜ! あんな雑魚甚振るより、お前等が苦しむ姿のほうが面白いだろうからなあ!」

「喋るんじゃねえ!!」

 

 リーネ達を甚振り殺そうとしたと楽しそうに告げる女の笑みにベートの怒りが許容範囲を超える。

 ヴァレッタは舌打ちして瓦礫の上に駆け上がる。

 

「助けに行ってやれよ! どうせ間に合わないだろうがなあ!! はっ、はははははははははは! はははははははははははははは!!」

 

 高く跳躍しヴァレッタは雨の奥に姿を消す。そんなもの見届けもせずにベートとセレニアはレナが逃げた方向へ駆け出す。

 

 雨粒さえ煩わしい。そんな怒りに怯えるように雨脚が弱まる。

 

 駆けて駆けて駆けて。

 少女に一矢報いられながら傷をつけた暗殺者の死体を道標(アリアドネ)代わりに雨の廃墟を駆け抜け退廃の都を突き進み、2人が見つけるのは石畳の上に倒れる少女。

 

 墓標の如く突きつけられた短剣が腹に刺さり、濡れた石畳に赤を広げる。彼女は最後まで戦い続けた。裂傷だらけの四肢がそれを物語る。

 

「………ベート・ロー、ガ………? いる、の?」

 

 駆け寄り跳ねた水滴にレナは薄っすら目を開ける。

 

「セレニアも、そこにいる、かなあ………?」

 

 緩慢な仕草で左腕を持ち上げる。

 

「目が、ね? ぼやけちゃって、よく見えない………の………」

 

 ベートとセレニアがその左手を掴むと細い指がそっと曲がる。

 

「………おい」

 

 ベートはいった。

 

「やだ…っ」

 

 セレニアが震えた。

 

「おいっ………」

 

 ベートの震える唇は、壊れたようにその言葉しか吐き出せない。

 

「ベート、ローガ………弱っちくて、ごめん………」

「約束、無理だった………」

 

 それはダンジョンでの出来事。弱い女など嫌いだ、隣に立たせたくないと言ったベートに、レナは「なら強くなったら隣においてくれるってこと!?」と、嬉しそうに笑った。

 

 セレニアに「あなたより強くなって隣を奪う」と宣言した。

 

「あなたの隣に、立ちたかったなあ………セレニアとさ、3人で………またダンジョン潜って、今度は………守られるだけじゃなくて、私が背中………守ってあげるの……」

 

 Lv.6のベートとLv.5のセレニア。Lv.2のレナは当然セレニアに守られて、ベートの望むであろう強い女に嫉妬しながら感謝して………でもとても楽しくて。

 

「強くなって、みんなで………」

 

 その言葉が最後。それ以上の言葉を少女が続ける事はなかった。

 命の灯火が溢れるように、血が流れ続ける。

 

 セレニアは雨とは別の雫で頬を濡らす。

 

 ベートは笑わなかった。

 ベートは哭かなかった。

 

 ただ時を止めて髪が顔にかかる少女を見下ろして………そこにレナの名を叫ぶアマゾネスが現れるまで動くことはなかった。

 

 


 

これは関係ない話だけど、傷口って焼くか凍らせれば取り敢えず血を止められるよね。いや、本当に関係ないんだよ? ホントだよ?

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