ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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月下の狼

「助かりました、【英傑(ラーマ)】様、エピメテウス様」

「ん」

 

 現在治療中の団長(アミッド)に代わり礼を言う【ディアンケヒト・ファミリア】の治療師(ヒーラー)にリリウスは短く返す。

 

「助けられた、とは言い切れんがな」

「貴方達が応急処置をしてくれたおかげで、助かった命は多い」

 

 しかし助けられなかった命もある。人類最高の治療師(ヒーラー)ですら、蘇生一歩手前までは行えても蘇生は不可能。

 

「まあ、それでも下を向くのはやめたが。救えた命があったことを、今は誇ろう」

 

 エピメテウスの言葉にリリウスは僅かに微笑んだ。

 

「さて、問題はあの男か………」

 

 と、エピメテウスが見るのはベート。

 

「教えないのか?」

「今は少しでも口を減らせとよ。勇者様は、彼奴を囮に使うんだろ」

 

 それはベートの実力を信頼しているからこそだろう。リリウスも同じ立場だったら、きっとそうした。ただリリウスの場合は、噛まれる覚悟で横取りするほど獲物に魅力を感じないからだが。

 

「リリウス………」

 

 と、魔法の行使による疲労と解呪薬(アンチカース)の材料として血を抜いた事による疲労が見て取れるアミッドが現れた。

 

「血を寄越しなさい」

 

 ステイタスは器の昇華の促進剤。本人の性質。ならば当然、アミッドの血や汗に治癒効果があるようにリリウスの血にも魔力を喰らう特性がある。

 

 発展アビリティ【神秘】を持つアミッドが使えば当然呪いを消し去る薬になる。

 貧血と過労でちょっと目付きのヤバいアミッドはブスリとリリウスの頭に針を刺す。アダマンタイト製の針だ。

 

 繋がるチューブが赤く染まっていく。

 

「我々も調薬を!」

「いえ、下手に扱うと投薬した方を餓死させる薬になるので、私一人でやります」

「…………………」

 

 エピメテウスは何とも言えない顔でリリウスを見た。一応、普通に輸血する分には問題ないのだ。調薬する時失敗すると危ないのであって、血そのものに危険はない。

 

 

 

 

 

 ドシャリと仲間の死体が雨に濡れた地面に落ちる。これで何度目か。

 

 警戒はしていた。陣形を組み全方位を監視していた。しかし仲間が死んだ。

 闇に紛れて殺す側の筈の暗殺者達は、闇に引きずり込まれ1人、また1人と絶叫を上げる。短い絶叫の後に響くのは怒れる狼の遠吠え。

 

 獲物共に、自分の爪牙はお前達をすぐに捕らえると警告………いや、それも違う。ただ知らしめる。

 最後の1人、レナの胸に剣を突き立てた暗殺者の長は闇より伸びる手に顎を掴まれ砕かれる。

 

 叩きつけられた衝撃で肩が外れる。

 

 自決用の毒を噛めず、せめてもの抵抗をしようとしても腕が上げられない。

 

「おい、吠えてみせろ」

 

 告げられた言葉にそうだ、と暗殺者は吠えようとした。

 幼少期からの洗脳と訓練により、それが正しいのだと、死を以て世界を導くのだと女神の笑みが脳裏に浮かぶ。

 

 吠えなくては。新たなる世界の秩序の為に。

 だが彼は吠えることが出来なかった。顎が砕けたから、ではない。

 

 琥珀の瞳に恐怖を抱いた。幼き日に消されたはずの絶望を思い出した。殺す為に死ぬ事に価値を見出す暗殺者は、ただ殺されるだけの獲物となり失った筈の感情を取り戻す。

 

「吠えることも出来ねえなら………」

 

 振り上げれる血に塗れた手。同志の命を食い漁った狼の牙。それが振り下ろされる。

 

戦場(ここ)に立つんじゃねえ!!」

 

 その光景を最後に男の意識は二度とこの世界を認識することはなかった。

 

 

 

 暗殺者達の一団が消えても、まだ数は居る。

 雄叫びを上げながら殺していくベートを見下ろす2つの視線。

 

 リリウスとセレニアだ。

 

「ベート………」

「八つ当たりだな、まるで」

 

 暗殺者を憎んでいるだろう。怒りを抱いても居る。それでも、ベートが真に怒っているのは自分自身なのだろう。

 

「お前達を追い出したって聞いた時はどういうことかと思ったが………」

 

 目の前で傷ついてほしくないのだろう。自分が強くなっても守れないと知っているから。そんな『弱い』自分が自分より弱い『雑魚』を守る方法を、遠ざける以外に思いつかないのだ。

 

「………………彼奴口に出さないけど、あの時俺に怒ってた」

「………あの時?」

「治療受けてた時………ああ、違うか。お前みたいに強ければって俺を見て、そう思う自分に怒ってた」

 

 世界最強。それがリリウス・アーデ。その強さがあれば暗殺者から少女を庇いきれただろう。その強さを羨んだ、そんな自分を許せなかったベート。

 

 自身の惰弱もそうだが、リリウスが何も失ってないと決めつけた事が何よりも許せなかった。

 

「面倒」

「面倒って………」

「彼奴はちゃんと強いだろ」

「……………そうだね」

 

 ベートは強い。ヴァレッタがどれだけ策を弄そうと、月の光に……()()まであるベートが負けることはなかった。

 

 

 

 

「…………ベートの魔法」

 

 燃え盛る炎の狼を見てセレニアは悲しそうな表情を浮かべた。

 聞こえてきた詠唱はベートの『傷』を示す。本来なら唱えたくもない呪文だっただろう。

 

魔法吸収(マジックドレイン)に………損傷吸収(ダメージドレイン)か?」

 

 魔法を喰らえばその魔力を吸収し、被弾の傷すら力に変える。傷付きながら進み続け、強くなる度、強くなるために傷を増やした彼の人生そのもののような魔法。

 

「鍵も燃えたなありゃ…………回収できないならもういいや」

「………回収が目的?」

「ああ」

「……………やっぱり貴方、ベートにそっくり」

 

 心配などしていないと言い張るリリウスに、セレニアはそう言って笑った。

 

 

 

 

「えっほえっほ………」

 

 タケミカヅチの「極東おにぎりセット」を報酬に復興区の瓦礫を運ぶリリウス。小柄な体躯に見合わぬ大量の巨大瓦礫を頭上に掲げ運ぶ姿に思わずぎょっとする視線が集める中、悲鳴が聞こえた。

 

 見ればベートが【ロキ・ファミリア】の連中をボコボコにしていた。あ、こっちに飛んできた。

 

「よっと」

「ぎゃふん!」

 

 蹴り返した。

 

「ラウルー!?」

「ああ?」

「がふ!?」

 

 蹴り返された。

 

「ラウルー!」

 

 瓦礫の山に突っ込んだ地味な男。ベートは自分が蹴り飛ばした相手に一瞥もくれずリリウスを見る。

 

「…………?」

「………あん時、睨んで悪かったな」

「………ん」

「それから………」

「?」

「このクソ女が生きてたこと知ってたな?」

 

 ベートが指差す方向には腹を押さえて蹲るレナ・タリー。えへへ、と恍惚とした表情を浮かべている。

 

「知ってた」

「黙ってやがったな………」

「予断を許さないから死んだ事にして匿うと、【ロキ・ファミリア(お前達)】からの通達だ」

 

 厳密にはフィンの。そしてアミッドやライラもそうするべきと言ったから、リリウスもそうした。

 

「…………良かったな、助けられて」

「別に俺は何もしてねえよ」

 

 してねえ、と言いつつ出来なかった、と本人は言いたいようだ。

 

「お前がいたからだ」

 

 後、セレニア。

 こっそり教えてくれた彼女のスキル【群狼守護(イアールンヴィズ)】。効果は一定範囲の一定の好感度の眷族の『耐久』及び体力の上昇。

 

 仲間を失う度に傷つく狼の仲間を守るための常時発動(パッシブ)スキル。アーディと同じく全眷族を例外なく、対価なく強化する希少(レア)スキルだ。

 

 もっともセレニア自身、治療するレナの傷の深さに反して体力が残っているというアミッドの言葉を聞いて思い出していたが。

 

 ベートに傷ついてほしくない。そう思う女が居たから………ベートがそう思える男だから、レナは助かった。

 

 実際解呪薬(アンチカース)自体は人造迷宮(クノッソス)で使ってしまったのだから、暗殺者達は確実に殺そうと苛烈に攻めていたのだから。

 

 セレニアの加護を受けられない範囲のアマゾネス達はリリウスやエピメテウスが傷口を凍らせたり燃やしたりして対処した。一先ず血さえ止めればアミッドなら火傷も凍傷も例外なく癒すのだ。

 

「お前が助けたんだよ」

 

 胸を押さえるリリウスにベートは一瞬訝しみ、詳細は理解せずとも、何があったかを理解した。

 

「そうか………お前もか」

「俺は、救われたな………」

「お前を? どんな女だ」

「いい女」

「………………そうかよ。うらやましいね………俺にはこんなんだぞ」

 

 とベートは何時の間にか足元に這いずるレナを見る。リリウスは何も言わず瓦礫撤去を再開した。

 

「お、そうやリリウスたん。そろそろアフロディーテが来るそうやな。惚れてるってホンマなん?」

 

 リリウスは何もない場所ですっ転び持っていた瓦礫に埋まった。

 


 

お姉ちゃん(リュー)もベルに堕ちた後、名前聞いただけで何もないところでスッ転ぶんだよね。

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