ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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カドモスと歌姫

「おい、あの馬車か!?」

「そうよ! 本当に来たんだわ! 『メイルストラの歌姫』が!」

「歌劇の国の巨星(ビッグスター)! まさかオラリオに来てくれる日が来るとは!」

 

 オラリオの門で住民達が近づいてくる馬車を見てテンションを上げる。リリウスも建物の上から眺めている。昼寝をしていた猫がリリウスの頭でくぁ、と欠伸をする。つられてリリウスも欠伸。

 

 

 

 一方は馬車の中。気怠げな美しい少女と、さらに美しい『美』そのものの女神が会話していた。

 

「はぁ………何処に行っても同じ声。つまらない台本をなぞるだけ。 世界の中心(オラリオ)でさえ陳腐の極み」

「この私と貴方が来訪するのだもの。これぐらい当然よ!」

 

 美の化身たる女神らしく傲慢な物言いに、しかし対面する少女はふん、と生意気に鼻を鳴らす。

 

「皆が見たいのはこのわ・た・し。アンタはオマケ、自覚して」

 

 美の女神に劣らぬ傲慢さ。美の女神を己のオマケ扱いするなど、それこそ同じ美の女神ぐらいしか出来ないだろうに女は人の身で神を見下す。

 

「最強無敵の美を司る私相手になんて口きいてんのよ、このクソジャリ………! …………だけど、いいわ、見逃してあげる」

 

 対する女神は寛大にも人類の不敬を許す。

 

「けれどもし、舞台の上で私の顔に泥を塗ったら………シバキ倒すからね?」

「誰にものを言ってるの?」

 

 馬車が止まり、少女は民衆の前にその姿を晒す。傲慢な笑みは鳴りを潜め、美しい歌姫の笑みを浮かべて。

 

 誰もが彼女に魅了されるその光景に女神は自慢げな笑みを浮かべていた。

 

「私はハルモニア! 唯一無二の輝き、絶対無敵のトップスターよ!」

「「「わああああああああああああ!!」」」

 

 

 

 

 大劇場(シアター)

 オラリオが建設された時、しかし荒くれ者の冒険者達だけでは用意できぬ物があった。それが娯楽施設。

 

 中でも有名なのが大賭博場(カジノ)大劇場(シアター)娯楽施設(サントリオ・ベガ)歌劇の都(メイルストラ)から派遣された施設は本都市・本国に勝る発展を遂げ、常日頃から人に溢れているが今日は連日の比ではない程人に溢れていた。

 

 多くの【ファミリア】の冒険者や主神も訪れている。

 

「あ、ベル君、ヘスティア様!」

「アルゴノゥトく〜ん!」

 

 そして当然英雄譚大好き少女アーディとティオナも仲良く揃って現れた。リリウスもアーディに抱き抱えられダラリと足を伸ばし売店のポップコーンやコーンドッグを食っている。

 

師匠(せんせい)! アーディさんにティオナさんも」

「やっぱり来るよねえ。楽しみだもんねえ」

 

 英雄譚を演じる歌劇。そこに幾度も噂を耳にするほどの歌姫、ハルモニアが主演となれば見に来ないわけにはいかない。

 

「もっもっ………ゴクン。あむ、もぐもぐ………」

 

 コーン・ドッグを一つ食い終え新たなコーン・ドッグ(期間限定メイルストラ特製ソース味)を食うリリウス。リリウスは興味なさそうだ。

 

「う〜ん、あれ? リリウスって英雄譚、好きじゃなかった?」

 

 リリウスによく読み聞かせていたアーディは不安そうに尋ねた。同じ時間を共有しているつもりで、ただ時間を奪っただけなのではと不安になる。

 

「知らん奴等がゴチャゴチャしているより、アーディとかに一人で読んでもらってる方が好きだ」

「リリウス……」

 

 アーディが感激のあまりギューと強く抱きしめる。食事がしにくくなったリリウスがジタバタ暴れる。本気でやったらアーディが吹き飛ぶので本気ではないのだろう。

 

「アーディ! そろそろ始まっちゃうよ〜!」

「うん! 行こっか、リリウス」

 

 因みに今回は無料公演なので好きな席に好きなように座る。アーディはリリウスを膝に乗せるつもりだ。

 

 リリウスは興味なさそうに食事を続けた。と………

 

「暗がりの舞台は、夜空の如く………そこで煌めくは選りすぐりの我が眷属達」

 

 一柱(ひとり)の女神が現れるとリリウスは顔を上げる。リリウスの一時期の主神アフロディーテだ。

 

「どうか今から繰り広げられる星々の輝きを、お見逃しなきよう。退屈などさせないと、この美の神アフロディーテが約束するわ」

 

 劇団そのものが彼女の眷族。救世(マキア)ではなく娯楽目的で降りてきた神だ。

 

「神の口上なんて聞き飽きたでしょぅ?だから、目ぇかっぽじって楽しみまくりなさい!! 至高の舞台を!」

 

 

 

 カドモスと歌姫。

 ダンジョンに存在する竜種の中でも強力な種族カドモスの名の元となった英雄と歌姫の英雄譚。

 

 瓦礫を前に歌姫が嘆き、英雄に尋ねる。貴方は悪しき竜と雌雄を決するつもりなのかと。

 英雄は歌姫の歌を取り戻すために戦うと宣言した。

 歌姫はそんな英雄を支えるべく英雄と共に竜を討つ旅に出た。

 

「おお、英雄よ! 我を屠る一角の竜殺しよ。只では死なぬ! 貴様の命も道連れよ!」

 

 演出で竜が人の言葉を喋るが、異端児(ゼノス)を知るリリウス達は何ともいえぬ顔をした。

 

「その魂共々名を喰らい、我が悪名こそ時を超える歌としてくれよう!」

 

 英雄は名を奪われようと破滅に屈さぬと叫び、歌姫の精霊の加護すら超える歌を願う。

 本来の流れでは歌姫の加護を受けた英雄が己の命と引き換えに邪竜を討つのだが…………。歌わない?

 

 英雄役も困惑している。

 邪竜も困惑している。

 観客も困惑している。

 

「────飽きた」

「「「…………え?」」」

「毎度毎度同じ筋書きに、陳腐な涙。きっと天におわす神々も退屈していることでしょう」

「え? え? ええ!?」

 

 アーディもティオナも困惑している。

 

「悲劇のヒロインなんて時代遅れ! 英雄倒れるならば、私が剣を! 歌を捨てて、邪竜を討つ!」

「「「えええええええ!?」」」

「邪竜よ、牙を剥け! 爪を鳴らせ! 今より砕く鱗こそ汝の悲愴! 我が雄叫びは竜の咆哮にも勝る! いざっ!」

 

 歌姫が竜と戦い始めた。

 旋律が変わる。さらに歌。

 

「歌姫の歌! あの詩がこうなって、ああなって、ここに重なって!」

「すごい解釈! 新発見だね!」

 

 アーディとティオナはテンションを上げる。耳を澄ませばベルの方からもそんな声が。

 

「……………?」

 

 リリウスは歌姫ハルモニアを見て舞台裏を見て首を傾げた。

 

「これぞ我等が絶対歌劇! 神々よ、ご照覧あれ! 竜の屍を越えた先、伝説の幕開けを! 悲劇は要らず、惨劇も不要! 精々喜劇程度がちょうどいい! 道化の手を取り、さぁ、さぁ、さぁ!」

 

 アルゴノゥトの流用にアーディとティオナがおお、と楽しそう。

 

「これぞ我等が絶対歌劇。今宵の物語は此処まで。どうか次の項で新たな伝説が紡がれんことを」

 

 拍手と歓声が響く中、リリウスはやっぱりアーディや輝夜などに一人ずつ読み聞かせてもらうほうが好きだと再認識した。

 

 と、ハルモニアが再び舞台に現れた。カーテンコールと言う奴だろうか? ベルやアーディ達を含めた観客達が彼女の名を叫ぶ。

 

「センキューセンキュー。で、話は変わるんだけど、ちょっと驚かせちゃう報告をしてもいいかしら?」

 

 そのままニコリと微笑むハルモニア。

 

「私、ハルモニアは………今日の公演を以て引退しまーす!!」

「「はあああ!?」」

「明日からの有料公演の払い戻しとか苦情とか、そーいうややこしいことはぜーんぶうちのポンコツ女神までお願い!」

「ほあぁ!?」

 

 突然の問題に押し付けにアフロディーテも思わず叫んだ。

 

「それじゃあ皆々様、アディオスアデューさよーならー! 今まで応援、本当にありがとー!」

 

 

 

「?」

 

 何やら騒がしい。見ればベルの腕にハルモニアが抱きついていた。なんだ、よくある光景かとリリウスは特に気しない。

 

 何やらアフロディーテの眷族に追われているようだ。そりゃそうだ。

 

「アルゴノゥト君、ハルモニアさんと知り合いなのかな?」

「そんな感じじゃなさそうだが………」

 

 ヘスティアが不機嫌になっており春姫とかいう娘が涙目だ。大方人の良さそうなベルを偽の恋人にでも仕立て上げて、それを引退理由にするつもりなのだろう。

 

「今の私のお腹には、ダーリンとの愛の結晶が宿っているの!」

「そうなんです! ハルモニアさんと僕の子供が…………って、ええええええええええ!?」

「「はああああああ!?」」

 

 ハルモニアの爆弾発言にベル、ヘスティア、リューが叫ぶ。

 

「ククク、クラネルさん!? いっ、いったい何時から!? 何時その身を汚された!?」

「処女神のファミリアに反逆してレジスタンス決め込むつもりか君は!?」

「ない、ない、ないです! 誰の子供も出来てませんからあああ!!」

「アルゴノゥトくん、パパになってたんだ………」

「ベル、何時の間に、お父さんになったの?」

 

 リューとヘスティアが動揺しベルが慌てて否定する。ティオナとアイズもベルをジッと見つめる。

 

「違うんですうううううう!?」

「特ダネきたああああああああ!!天才女優ハルモニア、年中手出し盛り兎こと【リトル・ルーキー】のおめでた婚!?」

「世界に激震来るぅうううう!!」

 

 何処からともかくパパラッチと神が現れた。

 

「はわわわわ! ハルモニア様とベル様……何時の間にあんなことやこんなことを、ああああああ!?」

「春姫殿!? お気を確かにー!」

「こ、こいつ………! 処女神の眷族の癖に、俺達の一等星にファイアボルトかましやがってー!!」

「許さねえ! お前達、やっちまうぞ!!」

 

 と、【アフロディーテ・ファミリア】の団員がベルへ迫る。

 

受付嬢(エイナちゃん)といい大女優(ハルモニアたん)といい……なんで俺の好きな女は次から次へと【リトル・ルーキー】の毒牙に!?」

「うおおお! 兎死すべし慈悲はない!!」

 

 さらに冒険者達までもが向かってきた。

 

「くっ、野次馬まで! このままでは収集がつかない! ベル君、ここは何とかするから君達は逃げろ!」

「あら、これって愛の逃避行? 楽しくなってきたわね! よろしくね、ダーリン♪」

「火に油を注がないで下さい!」

 

 リリウスはその光景を遠巻きに見つめる。

 なんだか妙なことになってきた。

 

「あんのクソジャリいいい! よくも私の舞台を!

ああん、もう! パトロン共に頭を下げなきゃならないのよおおお!!」

「あ、アフロディーテ」

「ん? リリウス……」

 

 アフロディーテはツカツカリリウスに近寄り持ち上げると髪に顔を埋めスー、と吸う。

 

「…………ふう、落ち着いたわ。まあ『計画』なんて貴方とエピメテウスがいる以上成功は確実。うん、ええ、捕まるまで自由ぐらい許してあげます」

 

 まだまだ不機嫌そうだが先程よりはマシのようだ。

 

「さ、リリウス。久々に沢山話すわよ」

「……………あ」

 

 女神に連れられていくリリウスに思わず手を伸ばすアーディ。アフロディーテはん?と振り返り、何やら考え込む。

 

「……………あんたも来る?」

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