ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
古代。
神々が地上に降り立つ以前、ダンジョンの闇より生まれた1頭の邪竜がいた。
その邪竜は地上に這い出て破壊の限りを尽くした。
それに抗わんと立ち上がったのは一人の英雄と信愛を尽くし彼を支える稀代の歌姫。
歌姫の歌には神秘の力が宿っていた。神も精霊も一切関与しない、『人の世』の未知。
『凶猛の魔眼』と同じく…………否、それ以上の下界の可能性。
その神秘の歌の力を得て邪竜を追い詰めた英雄は、命の全てを使って邪竜の肉体を滅した。
しかし竜は滅びなかった。
歌姫の歌に宿る力と生命の奔流を与える、第5の源泉。『調和』の歌声…………下界でも特に強力な『未知』と
英雄の名を奪い、英雄の名を冠する邪竜、カドモスとして。
天に帰れず放浪する子供の魂と同じく
「あの粘着ストーカークソ邪竜は、異能の源泉である歌姫の『調和』を求め天空を彷徨い続けた」
「…………おいおい、まさかこの話の『オチ』は…………」
【ヘスティア・ファミリア】
それだけでまさか、とヘスティアはハルモニアの眠らされた部屋を見る。
「正解よ。ハルモニアは古代の歌姫の末裔。正当な血を引く、紛うことなき伝説の再来。そして、あの日、あの子の十歳の誕生日。邪竜はあの子の故郷に現れ…………全てを焼き払った」
成長し潤沢な魔力を宿したハルモニアを……現代に遺された『歌姫』を喰らうために。
たまたまその場に居合わせたアフロディーテは邪竜を『魅了』してハルモニアだけは逃がす事が出来た。幸い、神の力への抵抗力を持たないより古き古代の力ある怪物故に。
「だけど、家族や村人を全て失った、幼かったあの子はもう………完全に、壊れてしまっていた」
邪竜は本能的に
自らの歌が村を滅ぼす邪竜を呼んだと知ったハルモニアは果たして何を思ったのだろうか。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! じゃあ何かい歌姫君はずっと、そんな
あんなに笑顔で、輝きながら舞台に演じきったハルモニアの心にそんな傷があると思えず叫ぶヘスティアに、アフロディーテは笑う。
「それは、簡単な話よ。私が『魅了』したの。あの子が舞台から離れられないように」
「っ!?」
「ベル様! 大変です、ハルモニア様がいません!」
神々の話し合いとは別の場所。居間に集まったベル達の下へハルモニアの様子を見にいった春姫が大慌てで戻ってきた。
「えっ!? そんな、あんな状態で何処に!?」
「ベル。手分けして探しに行こう」
「はい!」
リリウスなら匂いで追えるが追わない。これは邪竜を滅ぼす物語ではあるが、邪竜を滅ぼすだけの物語ではないからだ。
みんな、いなくなっちゃった………みんな、死んじゃった
わたしの歌のせいで………
「泣き言は後っ! あんな不安定な存在、私の『魅了』も何時まで持つか分かったもんじゃない! とっとと逃げるわよ!」
涙を流す
「かみ………さま…………」
「なによ!?」
「………ころしてください………」
「………!!」
「ぜんぶ、わたしのせい………」
自分が歌ったから村は滅びた。自分が居たから人が死んだ。なら、自分なんていないほうが………
「駄目よ」
そんな贖罪を…………或いは逃避を女神は許さなかった。
「自分の罪だと言い張るのなら、自分自身の手で精算なさい」
「あぁぁ…………あああぁぁぁぁ!!」
村を滅ぼした竜を滅ぼせと、あの竜に挑めと言う女神の言葉に少女はただただ叫び首を振る。
罪悪感はある。怒りもある。それよりも恐怖が勝り、そんな自分への嫌悪が心を壊そうとしていた。
「……………そんな覚悟もないというのなら。私が『魅了』してあげる」
女神に瞳が妖しく輝く。
「いい? 貴方は傲岸不遜で生意気な悪女になるの」
そうでなければ狂ってしまうから。
「歌が歌えないくせに『歌姫』を名乗り──」
歌から離れれば彼女は『自分』を捨ててしまうから。
「誰も彼も虜にする『女優』に」
人に愛されなければ、彼女が自分を愛せないから。
「貴方は未来永劫、舞台から離れられなくなる。貴方は、何があっても──」
「とけた…………解けちゃった」
自分にかけられていた魔法が。醜い『魅了』の力が。そうしてほら、我儘な舞台の女王は臆病な小娘に元通り。
「あははっ…………はははは…………!」
過去そうであったように泣く事も出来ず、代わりに笑う。と…………
「ハルモニアさん!」
「………ベル?」
声がかけられた。振り返ればそこにいるのは純白の少年。
「……だめ、みないで…………みないでよぉ……! ほんとうの『わたし』を、みないでぇ!」
「ハ、ハルモニアさん?」
無力な少女のように怯え叫ぶハルモニアにベルは困惑する。ベルの知る
「やだよっ! いやだよぉ………! ちがうのっ、女優なんかじゃないのぉ………! みんなを殺した、人殺しなのぉ………! わたしに、ちかよらないで……!!」
「っっ………ハルモニアさん!」
怯える少女の拒絶に怯んだベルは、しかしすぐに駆け寄ろうとして………。
「なに、そのザマは? あんだけ生意気なことを言っておいて、化けの皮1枚剥がれたらソレ?」
現れたのはアフロディーテとリリウス。そしてヘスティア。
「アフロディーテ様!? それに、神様、
「…神、様………」
怯えるような弱々しい目を向けるハルモニアの前に歩み寄るアフロディーテ。
「自分に命令出来るのは自分だけ………自分の劇場は自分で決める。これまで貴方が言ってたことよ。なんて体たらく。自分の哲学一つも守れないなんて、情けないったらありゃしないわ」
「ちがうっ………ちがうもんっ! それは『わたし』じゃない! ぜんぶ、神様が言わせたんだ! 『わたし』じゃない!」
これまでの自分を捨てる言葉にアフロディーテが柳眉を逆立てる。
「──ざっけんじゃないわよ!! 台本を捨てるな! アンタの脚本はアンタだけのものよ!! 全部全部、アンタの中に埋まっていた宝石なの!」
『歌姫ハルモニア』を否定させるなどハルモニアにも許さない。
「立ちなさい! 立て! 立って、歌うの! あのフザケた竜を討つのは他でもない、アンタの『歌』よ!」
「やだぁ! やだあぁ!!」
しかしハルモニアは立ち上がらない。神の言葉では、彼女は立ち上がれない。
「アフロディーテ様! やめてください! 神様、どうして黙って見ているんですか!? やめさせてください!」
下界の民は神に手を出せない。ロキとかよく眷族にシバかれてるがそれは親しいからだ。神を神として崇めるベルは同じ神であるヘスティアを頼る。
「…………」
しかしヘスティアは口を挟まない。
「なくなっちゃう! 歌ったら、私の村みたいに、みんな! たすけてっ、だれか、たすけてぇ!」
「………っ! アフロディーテ様!」
とうとうベルが飛び出した。アフロディーテは慌てることなくベルを見つめる。
「手出しするんじゃない、チビジャリ! 邪魔するなら──跪きなさい!」
「あっ! アフロディーテ、ベル君は──」
「あー………」
「たっくる!」
「ぶっとばっ!?」
ベルの謎の雄叫びを上げたタックルにアフロディーテは謎の悲鳴と共に吹き飛んだ。
「っ!!」
「あ………! ハルモニアさん!」
ハルモニアが逃げ出しベルが慌てて追いかける。
「なっ………何よっ、彼奴〜〜〜!? なんで私の『魅了』が効かないわけ!? ヘスティア、アンタ自分の子に一体なにをしたの!?」
「ボクは何もしてないよ。説明は省くけど、ベル君は『魅了』が効かない体質なんだ……」
スキルになるほど一途すぎて。
「どんな体質よ!? そんな男リリウス以外知らないんだけど!? 『美の神』絶対殺すマンじゃない、そんなの〜! ていうかリリウス、何で助けないの!? あんた私のこと大好きなんでしょ!」
「ああ、愛してる」
「…………ぅ…………おぅ…………」
リリウスの言葉にアフロディーテが顔を赤くしてたじろぐ。美の女神なのに。
「俺はアフロディーテとの出会いが
「…………アンタって意外とSなのよね」
と、その時轟音が響く。続いて悲鳴。
「モンスターだあああ!?」
「な、なんでモンスターが空から!」
晴れときどきモンスター。
肉体を持たぬ滅ばぬ竜の
「リリウス様!? それにアフロディーテ様とヘスティア様も…………! 申し訳ありません、ハルモニア様が………」
「知ってるわよ! ハルモニアが逃げ出したことぐらい。今はベル・クラネルと愛の逃避行を続けてるわ」
「あいの! とうひこう!? ベル様とハルモニア様が! ほっ、本当にベル様はダーリンになってお子様は七人も!?」
「この狐何言ってんの?」
「春姫君、マジレスするけど今は暴走しないでくれホント。アフロディーテも変な言い方はしないでくれ」
「ふん! 私は私の言うことを聞かない男が一番嫌いなのよ!」
リリウスも結構逆らうが、言葉は聞く。
「…………ヘスティア様。私もハルモニアさんを追いかけていいですか?」
「ヴァレン某君?」
「さっき、フィン達から聞きました。アフロディーテ様の………『計画』。ベルに『これから起きること』を、説明できます。だから………」
「わかった………行ってきてくれ」
アイズはヘスティアの言葉に頷くと駆け出していった。
「なんなんですか、この状況。兄様が殺さず蹴り飛ばすだけの竜と関係が?」
「殺せない竜を殺すために歌姫の歌が必要なんだよ。よくある話だ」
と、その時。
「アフロディーテはここにいたか。もう状況は動いている前提でいいのか?」
現れたのはヘルメスとロキ。
「……ええ。あっちは完全にハルモニアを捕捉したわ」
「ほんなら急がんとなぁ。こっちの準備は整ってるでー」
「一体、何が始まるのですか?」
「決まっているでしょ。ハルモニアの『歌』で、
「ハルモニア様の歌に、そんな力が?」
「ふんじばってでも歌わせるわ。
今回の公演を含めたすべてが都市側と結託して行われた大規模
強力な
「で、ですがハルモニア様はそれを知らない様子でございましたが………」
「あのヘタレに本当の事を言ったら、逃げ出すに決まってるでしょう? 今この状況が何よりの証拠」
「野暮なこと質問していいか、アフロディーテ? 昨晩みたいに『魅了』をかけて、強制的に事を済ませるルートはなかったのか?」
『魅了』されたハルモニアの歌でも来ることは証明された。それが一番手っ取り早いだろう。
「本当に野暮ね、ヘルメス。だから貴方は何時まで経っても三枚目なのよ。それじゃあ意味がないのよ。なんのために、ここまでやってきたと思っているの………」
アフロディーテは不機嫌そうにその場から離れた。リリウスは直ぐに後を追う。
「どーしよーリリウス! ハルモニアに、凄く嫌な態度とっちゃったー!」
と、アフロディーテはリリウスに抱き着く。
「何時もみたいに売り言葉に買い言葉で………だって仕方ないじゃない! それで何時もやる気になるんだもの、つい癖で!」
そもそもハルモニアは『魅了』
「…………リリウスゥ………ハルモニアと話す時、横にいてね? 私に勇気ちょうだい? いなくなったら許さないわよ?」
グリグリと頭をリリウスの胸に擦りつけるアフロディーテ。ハルモニアに嫌われたかも知れないと思うととても不安になるようだ。
「うううう………! ああああー! リリウス、頭撫でてよしよししなさい!」
「…………よしよし」
リリウスは小さな体でアフロディーテの頭を包み、落ち着くまで撫でることにした。