ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
本物のゴォール騎士団が到着し、マクール騎士団は偽物の死体を引き渡す。原型を保つ者が僅かなため、阿婆擦れに対しての警告も含めて利用することにした。
「マクール…………」
「謝罪は不要だ。お前達のせいじゃねえ」
ゴォール騎士団はどのみちすぐには来れなかったし、偽物の騎士達に攫われた者は、タイミング的には居ないだろう。
問題は魔物を操る何者か。
偶然な訳が無い。血の匂いをばら撒いた? アホか、そんな偶然あるわけがない。
(人を縛る『誓の剣』のように、魔物を操る
どちらにしろ、まともな輩ではあるまい。魔物によって人類が滅ぼされかかっているというのに魔物を扱うなど気狂いの類いだ。
「………彼奴等か?」
思いつくのはエルフの姉妹。証拠はない。だが間違いなく多くを殺した相手。国を乱す要因になりえる行いは出来ないが、旅人の一人二人を知られず殺すぐらいな出来なくはない。
とは言え、あれも囮の可能性もある。
なんだって犯人の可能性がある奴等が一度に数人現れるんだ。
「此度の件、災難だったな、マクールよ………」
「いえ…………」
玉座の間。グラニエは、やはり血腥い本性を隠すのがうまい。本性を隠しているのは解っても、新しく隠し事ができたのか解らない。
「王より賜った領地を魔物に襲わせるなど」
「所詮は脆弱な
「魔物が減るまで隠れていたのでは?」
ここぞとばかりに嘲り、可能なら揚げ足を取ろうと考える臣下共。国に何の影響もなければ殺せるのに。
「やめなさい、貴方達!」
と、それを諌めるのはグラニア王妃。おとなしい顔をした王妃の言葉に臣下達は固まる。
「マクール様は国の脅威となる魔物を討伐していたのですよ? 卑怯にも、マクール様の留守を狙った魔物の襲撃で誰よりも傷ついているであろう方をそのように…………」
恥ずかしさで黙る者もいれば、お飾り王妃がとバレぬよう顔を歪める者もいる。
「マクール様。貴方の騎士団も、その関係者も疲れているでしょう? 元々の宿舎もまだ空いています。どうぞ、そこでお休みになって」
「…………お気遣い感謝します」
改めて内装を見て回り、裏口を完全に閉じ1階、2階の窓も細工しておく。なるべく大部屋を使うようにも指示。
「…………団長、それはつまり」
「ゴォール騎士団の偽物がまた現れる可能性がある」
何時かは解らない。死に際の言葉通りなら、まだ手を出す気はなかったらしいが、死者が出た今
「…………………?」
買い物も騎士団団員で行う。それ自体は珍しくないが、今日は街の様子がおかしい。
「俺が
「え、あの人他種族にもモテてたんですか!?」
「そのあたりは俺は知らん。そうじゃねえよ。妻も守れねえ奴が英雄を名乗るのが気に食わねえのさ。後は、飯食うより鍛えろってところか」
「!? 崇めたのは、彼奴等じゃないですか!!」
「そりゃそうだろ。英雄だの勇士だのは、周りが決めることだ。周りが見限り名を否定するのも当たり前だ」
民が求めるのは英雄。
自分達を確実に守ってくれる絶対の存在であり、間違っても妻も守れない未熟者でも、大きな被害を受けた後に飯の時間も惜しまず修行をするという当たり前をしない怠け者でもない。
「我々だって家族を喪ったというのに………!」
「関係ねえよ。自分達の家族や命を喪わせないのが重要なんだ」
過去の英雄なら、大切な誰かを喪った事を
「いつか、我々にも寄り添ってくれるのでしょうか」
「たとえ千年先になろうと、民は英雄に、自分を守ってくれる誰かに寄り添わねえよ」
「なら、我々はなぜ彼等を守らねば…………」
「奴等の税が俺達の金になる。守ってやる理由なんざ、それで十分だろ」
だがら気にしない。あれは金の寄越す為のものだから敵対しない限り放置する。不安や不満はあれど、少なくとも石を投げられるほど嫌われたわけではない。
「団長、コーマック王がお呼びです」
昨日の今日でまた呼び出しだ。騎士に休む間などないらしい。
「エルフの里が魔物に襲われた」
「エルフ………?」
「救援を頼まれた。騎士の国として、断るわけにもいくまい」
またエルフだ。ここ最近エルフ関連のなにかに出くわす。というか、エルフが他人種に助けを求めた?
元々腐っていた脳だ。とうとう頭の中に蛆でも湧いたか。
死ぬその瞬間まで自分達が絶対の種族であると疑わず、自分達が滅ぶなら劣等種たる他人種が先に滅ぶべきとか無能な神に代わって自分達が世界を統べていたらとか死の間際に寝言をほざくエルフを何度か見たことがある。
魔物に食われて死んだ。当然エルフを殺せる魔物程度マクールにとって雑魚だが。
エルフの里から出るなど自分なら世界を救えると勘違いしたただの馬鹿か、ダーナン姉妹のようなケダモノだろう。後あの詩人のような変人。
個々人ならまだギリギリ可能性があるが、里……という名の国単位で他人種に救援などありえない。それはつまり自分達は他人種に劣ると認めなくてはいけないのだから。
万が一の可能性として、そのエルフが勝手に他人種に救援を求めた場合だが………。
「コーマック王。今この国にはゴォール騎士団に化け王威を貶めようとする者共がいます。ご存知の通り、我々も、つい先日狙われたばかり」
団を分ける余裕なんてねぇんだよクソが。という言葉を丁寧に伝える。丁寧に伝えすぎて愚王には通じてないようだが。
「うむ。そちらはゴォール達に任せておけ。お前はエルフの里を救い、我が国の威を示せ」
「………………」
気づかれないよう、小さく小さく舌打ちするマクール。
コーマック王が兵に命じると、その救援を求めたエルフが入ってくる。
「………………」
マクールは今すぐこの場のほぼ全員をぶち殺して王座をマルディかゴォールに押し付けたくなった。国が乱れるので準備なしに出来ないが。
こんなことならもっと自分に都合の良い『
「お久しぶりね騎士様」
「また会えて嬉しいわ」
入ってきたのはダイール姉妹。以前と異なり、王族と言っても違和感のない聖衣に身を包んだ美しいエルフ達に玉座の間の各所から吐息が漏れた。
「改めて、私の名はエイネー・ダーナン」
「
所作だけなら確かに美しいが、鼻に付く血の匂いとそれを隠すかのような甘ったるい匂いが気持ち悪い。
死骸の匂いを隠し、甘い匂いで餌を引き寄せる食虫植物のようだ。
「彼女達の切なる願いを聞き入れずして、騎士王などと決して名乗れぬ。行ってくれるな、我が至高の槍よ」
「とっととくたばれクソ野郎。かしこまりました、我が王よ」
マクールはこの国を滅ぼせないし乱せないが、自分が離れている間にモンスターがコーマック王を磨り潰してくれないかな、などと考えるマクールであった。
「ねえねえ騎士様、お話しましょう?」
「まだまだ私達の国まで遠いもの。夜も長いわ」
あの国で唯一信頼できるゴォール騎士団にフィアナ達を託した。マニーサには、念の為別のことを頼んでおいた。
後顧の憂いは断てずとも、ゴォールに任せておけば安心感がある。
さて、後はこの鬱陶しいメス共と監視役の騎士を殺して時期を見計らい国に戻るか………。とは考えたのだが、監視役の数と距離………1人も生かして返さなければ、その時点で国賊にされるだろう。
コーマック王の差し金ではないだろう。あれにそんな知能はない。
グラニアあたりが叛意ありとでも入れ知恵したのだろう。反逆の証拠も何も、一切の準備はしてないのだからバレて困るものはない。まあ叛意自体はあるのだが。
「面倒な………」
マクールは勿論だが、あの王妃も必ず殺す。というか『国を守る』ためには真っ先に殺すべき存在なのに『国を守る』為にこっそり殺さなければならないとか何をどうすればこんなに面倒な事になるのか………ああ、王が愚かだとこうなるのか。
「なんだか考え事をしているようだわお姉様」
「こちらに全然反応しないわねミルクラ」
ダーナン姉妹は何故かマクールに絡んでくる。いっそ誘惑と言ってもいいそれに、マクールは鬱陶しそうにするばかり。
「おやおや、美姫達の誘惑にも揺らがぬとは、噂の騎士様は随分な紳士のようで」
と、ポロロンと竪琴の音が響いた。
「お前は……………………えっと………?」
「そういえば、名乗っていませんでしたね。私はリュールゥ。ご覧のとおり、旅の詩人です」
そこに居たのは以前出会った緑髪のエルフだ。
「いやぁ、国に入れてもらえないし散々でしたよ。ですがこうして追いつけました!」
「団長、知り合いですか?」
「俺を歌にしたいんだと」
「「へえ、解ってるじゃねえか」」
と、何故か得意げなマクール騎士団達。同族の登場に、ダーナン姉妹は………。
「「………………………」」
ジッとリュールゥを見つめるダーナン姉妹。その目に宿るのは………何だ? 少なくとも、マクールが抱いたことがないタイプの感情を宿していた。
「初めまして、美しい方々。良ければ私に名前を教えてくれませんか?」
気障ったらしい口調でダーナン姉妹を口説くリュールゥ。男にも女にも見える整っているだけあり様になっている。
ダーナン姉妹はニコリと微笑みを貼り付けた。
「エイネー・ダーナンよ」
「義理だけど、妹のミルクラ・ダーナンよ」
「では麗しい美姫達との出会いに、歌を一つ」
やがてダーナンの森が見えてきた。
モンスターに襲われたにしては森が原型を保っている。
「トカゲ共に、犬っころか………種族が違うのに良く群れる」
未来ではリザードマン、コボルトと呼ばれる種族。人間から奪ったであろう武具を装備している姿が木々の影から見える。こちらには、気づいてない。
「ふ〜む。戦闘音が聞こえませんな」
「もう滅んだんだろ。無駄足だな、帰るぞ」
マクールは槍で肩を叩きながら踵を返す。もとより乗り気ではなかったのだ。
「マクール殿、まず見ぬ事には」
と、監視役が言ってくる。面倒くさいことを………。
だが確かに名目上は救援。確認しないわけにはいかない。いっそ全滅してなければ矢でも飛んでくるだろうから、それを理由に帰れたものを………。
「行くぞ………」
「「「おう!!」」」
「おお、では私は勇者達を元気づける歌を奏でましょう!」
「歌うな」
「…………私は悲しい」
身体能力では魔物のほうが優れていようと、マクール騎士団は精鋭。小さな体で懐に飛び込み、胸を穿つ。
核の石が砕かれ灰へと還る魔物達。
「ほほう、本当に石が…………」
「しっかり砕いとけ。それ、魔物が食うと強くなるんだ。アレみたいに」
ついてきたリュールゥ達の護衛の騎士がマクールに襲いかかる蜥蜴人を顎で指す。他の個体より二周りも大きく、素早い蜥蜴人が唾液を飛ばしながらマクールに迫り、胸に風穴を開けられた。
「………里が見えたが………結界はなかったな」
「故郷を捨て逃げ出したのでしょう。もっとも、他種族に保護されるなど絶対に嫌がるエルフが、他の里につけるかは疑問ですが」
リュールゥはエルフのくせにエルフが嫌いのようだ。まあどうでもいい。
「そして、まあ全滅か…………」
破壊された城壁の門。ぬっと、その門より巨大な影が姿を表す。
漆黒の巨人が、ギロリとマクール騎士団を睥睨する。
「あれは俺がやる」
「………… 巨人殺し」
胸の石は深く沈み、首が飛ばされようと再生する漆黒の巨人。その咆哮は木々を吹き飛ばし大地を砕く。そのどれも、マクールに傷一つつけることなく背中から胸の石を貫かれて死んだ。
一応は、マクールが殺し方を選ぶ程度には強かった。だが、それだけだ。
「お見事! いやあ、これはいい歌になりそうだ」
「………………」
マクールはリュールゥの言葉を無視して城の中に入る。魔物に食い荒らされた死体ばかり。だが………
「人に殺されてるな」
「それも、随分と
手足が柱に縛られた死体を見つけた。魔物か獣に食われたようだが、縛ったのは間違いなく人間。手足の傷から、かなり暴れたようだ。もしかしたら生きたまま貪られたのかもしれない。
「で? これはお前らの仕業か?」
と、マクールが視線を向けたのはダーナン姉妹。
「マクール殿!? 貴方は王の名代として来ているのですよ! そのような………!」
うざったい監視役の喉を槍で貫く。幸いにも、ここは城の中。他の監視役はこの光景を見れていない。
「あら、気づいてたみたいだわミルクラ」
「最初から血なまぐさいと言われていたものね、エイネー姉様」
否定することも、慌てることもなく、クスリクスリと微笑むダーナン姉妹に、すぐさま槍を向けるマクール騎士団。
「ああ、そうそう。思い出しだしました! ダーナン王家には娘はいません。聞いたこともない。ですが、まあ………浮気をしないダーナン王家も、
「…………エルフが人間に産ませた
「ついでに言えば、ダーナンの森はダークエルフもエルフと認めていないようで」
そして、ハーフだからこそ王家として数えられなかった。この里滅んで良かった、と考えるマクール。
ダーナン姉妹は、先程までの笑顔が嘘のように無表情となって目を見開く。
「
「酷い酷い酷い! どうして皆、そんな事を言うの!」
「「私達だって
「…………? 何の血が混じってようが、お前等はエルフだろ?」
もしここに、この時代におけるまともなエルフがいれば憤慨しているであろうことを淡々と返すマクールに、ダーナン姉妹は再び目を見開く。
「ふふ…………あっはっは! そう、そうよ! やっぱり、貴方なら解ってくれると思ってた!」
「だって騎士だもの!
ダーナン姉妹。厳密には血のかなり離れた血縁の二人は、産まれた時から蔑まれていた。
人の血を引き、ダークエルフの血を引く2人はまだ生きてるだけで罪深く、故に彼女達に何をしても許された。
2人の他にも混ざり者達が居たが、全員死んだ。2人はずっと、お互いだけが支えだった。
偶然力を手にして、小屋から逃げ出した2人はその力を使い魔物達を従わせ、故郷を滅ぼした。
その後は、結界に守られた森から出た物好きな同胞や、騎士を殺した。
高い誇りとやらを知りたくなったからだ。それが自分達にはないからと、焼かれ、切られ、叩かれてきた。
それがあれば、自分達は普通の子供として扱われたというのなら………知りたい。だから、教わる。
「ああ、私達をエルフと言うのね」
「貴方なら、きっと………!」
これまで出会った『誇り高き者達』は、ダーナン姉妹の本質を知れば化け物と罵り妖魔と嫌悪した。自分達の在り方を知ったうえで、エルフと認めてくれた彼なら…………!
「でも、まだ。ねえ、お姉様?」
「ええ、だってまだ、貴方を苦しめてないのだもの」
ガクリと、マクールが膝をついた。
「「「!?」」」
「……………?」
あり得ざる光景にマクール騎士団の誰もが驚愕し、マクール本人も槍を取り落とした己の腕を不思議そうに見つめる。
「『栄光の杯』…………あの人達はそう呼んでいたわ」
「『衰退の杯』…………私達はそう呼んでいるのよ」
2人が何時のまにか持っていた銀色の杯。それはダーナン王家の秘法。
ダーナン王家の血を引く者にしか使えず、しかし血筋が使える回数には限度があった。そこでハーフの彼女達に白羽の矢が立ったのだ。
「能力は衰退。第1段階で、力を奪う」
「それにしても、すごい力。たった1人から、ここまでなんて初めて」
ゴボゴボと銀の杯から溢れ、こぼれる赤黒い液体。口元を血に染めるように赤く彩りながらそれを味わうダーナン姉妹。
こうやって魔物から力を奪い、再び与えて、自分達には逆らえないと刷り込んだのだ。あの黒い巨人は知らないが………あんなものが留守の間にやってくるなんて予想外も良いところだ。
「この!」
「魔女め!!」
直ぐ様飛び出すマクール騎士団。ミルクラは一人の槍を片手で掴むと、薙ぎ払うように他の騎士達に叩きつける。
「いったでしょう? 力を
「私達、とっても力持ちなのよ?」
握力だけで槍の穂先を握り潰すミルクラ。その光景に、誰かが化け物めと呟いた。
「第一段階?」
「ええ、二段階めで、
「シワシワになって、立てなくなる姿は面白いのよ?」
「なる程、ハイエルフでもないダーナン王家がハイエルフすら見下していたのは、それが理由ですか」
リュールゥは力を得た途端に何もかも見下すエルフの傲慢さに顔を歪める。だがその怒りは、すぐに霧散した。近くに自分以上の怒りを感じたからだ。
「……………そうか。俺の妻を殺したのはお前等か」
「あら、それは誤解よ。あれは自殺だもの」
「年老いて醜くなった姿をあなたに見せたくなかったのね」
サーバの死体は、まるで数十年も一度に年を取ったかのように年老いていた。ダーナン姉妹が衰退の杯で寿命を奪ったからだろう。
なる程、女が自殺する理由としても、まあ分かる。だが…………
「その程度で彼奴が死を選ぶか。なめるな、あれは俺が選んだ女だ」
だから誇り高い、ではない。その程度で折れるような女に、惚れないだけだ。
衰退の杯から、赤く黒い液体が吹き出し、ひび割れる。
神の作りし力は、神の全知に宿らなかった未知に対応出来ていない。
「!?」
ダーナン姉妹は咄嗟に逃げようとして、次の瞬間にはエイネーの首が飛ぶ。
それを認識する間もなく、ミルクラの頭部が踏み潰された。
ひび割れた衰退の杯は床に落ちると砕け、地面に広がる液体は蒸発するように消えた。
「マクール殿はあれですね、騎士達を率いる者にはなれても、英雄を導く者にはなれません。貴方は強すぎるし、他人に興味がない」
「何を今更」
「ですが、私が導きの英雄を見つけた暁には、是非ともその者の力になっていただきたい!!」
リュールゥはそう言い残して去っていった。最後の最後まで、良く解らない女だった。
「………果たして俺が、それまで生きてるかは知らんがな」
野盗、というのは決して雑魚ではない。魔物溢れるこの世界で、国という加護を持たずに略奪を繰り返す者達が弱い訳が無いのだ。
だからもし、弱いとしたらそれは…………
「あの女の私兵………いや、俺達の活躍が気に入らねえ騎士達か?」
野盗の頭目の首を掴み尋ねるマクール。生憎と、国の騎士などゴォール騎士団以外に顔を覚えてない。
ちょうど野盗の報告を受けたゴォールも来たようだし、後は任せよう。
「マクール、もう戻ってきたのか」
「ああ、本当に面倒だった。あのクソ王が、死ねばいいのに」
「お前は本当に…………」
ゴォールは呆れたように言うが、長年の付き合いからどうせ行っても無駄だと肩を竦めた。
そしてマクールに剣を突き刺した。
「「…………は?」」
疑問の声は、2つ。一つは刺されたマクール。
殺気もなく、唐突なその凶刃に対しての困惑。もう一つは、ゴォール。
「…………!?」
ゴフッと血を吐いて膝をつくマクール。団員達が振り返りゴォールに槍を向けようとした瞬間、ゴォール騎士団が襲いかかって来る。
「………何故、何故だマクール! 俺程度の動きなど、お前なら………!」
「貴様! 自分で刺しておいて、何を寝言を!!」
マクール騎士団の騎士は激昂するが、マクールは血が溢れる胸を抑えながら別のものに怒りを向ける。
人の意志に反して、人を操る
「コーマック!!」
「ああ、そのとおりだマクール」
ゴォールの騎士に扮していたコーマック王が姿を表す。その腰に刺された『誓の剣』により、ゴォールはコーマックの命に逆らえず、伝えることも出来ずに剣を振るった。
だが、マクールならこの程度かわせるという信頼が殺気を消し、マクールはマクールで想像以上に力を喪っていた。
「マクールよ、国家反逆罪で貴様を処刑する!」
「ああ?」
たしかにコーマックをぶっ殺して剣を砕くつもりはあるが、まだ何もしていない。準備するも…………いや、あのクソビッチか。
「我が賢妃が気付いてくれた。そして、ゴォールならば貴様の背後を取れると助言をしてくれたのだ」
あのアバズレが? 多少なりとも戦いに精通してるあの女が、弱体化する前のマクールがゴォールに遅れを取ると判断するか?
いや、マクールが親友であるゴォールを殺すならそれはそれで良かったのだろう。ふざけやがって、くだらねえ趣味に俺達をつきあわせやがって、殺す!
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
強い怒りが凶猛の魔眼と呼応する。殺意が、抑えられない。
「ガァアァ!」
突き刺さったままの剣を握り砕き、槍を振るう。
邪魔なものをどかす程度の動きは、しかしゴォールの片目を抉り取り吹き飛ばす。
「我を守れ、我が騎士達よ!」
コーマックは直ぐ様大盾を構えた重装歩兵2人に身を守らせ、勝ち誇った。
勝ち誇った顔は、すぐに絶望に染まる。鎧も盾も、マクールの蹴りで薄氷のように砕けたからだ。
「ひ、ひぃ!?」
己を射抜く紅い、この世の何よりも紅い瞳に騎士王などという大層な二つ名に相応しくない悲鳴を上げるコーマック王。
そう、王だ。
動きが一瞬固まるが、この愚物は間違いなく国を殺すし、取り敢えず口に出すであろう目撃者全員殺せば良いと判断すれば再び体は動き出す。
「ゴォール! 殺せえ!」
『
「こっちを見ろ、マクールゥ!!」
と、一人の騎士が叫ぶ。ゴォール騎士団ではない。ゴォール騎士団に扮した外道の騎士。
その腕の中で震えるフィアナ…………!!
「てめ──!!」
一瞬の硬直。されど、十分な硬直。もとより衰退し、腹に穴が空いたマクール。ゴォールが追いつき、再び剣を振るい地面に縫い付ける。
「んん〜〜!!」
「! この、大人しく──!!」
「────!!」
ゴォールの予備の剣も握り砕き、娘を殴ろうとした外道の騎士を殴り殺す。
そのまま肺に溜まった血を吐き出す。
しくじった。コーマックを殺してからでも、十分フィアナを助ける余裕はあったのに!!
「っ! お父様!!」
口に巻かれていた布を取り父に駆け寄るフィアナ。マグマのように傷を焼いた血は、今は凍えるように冷たい。
血を流しすぎた。これは死ぬ………。
「………マニーサと、あの子、は………?」
「……………………」
首を横に振る。わからない、という事だろう。
マニーサとの子に関しては、マクール騎士団の一部とゴォール騎士団の一部にしかまだ知られてない筈。
「なら、逃げられたか…………」
事前にサーバに人目につかないように、マクール騎士団から離すように言っていた。もしもの時のために顔を、存在を知られないためだが、あたってほしくなかった。
「ふ、ふは…………ふはははは! 愚かだなあ、マクール! ゴォールよ、これでお前が最強の騎士だ!」
「お、俺は…………!!」
あのクソ王。笑ってやがる。ぶち殺してやりたいのに、怒りが湧かない。湧いてはいるが、これまでのそれと比べて少ない。
理由は、考えるまでも無く間もなく死ぬマクールから凶猛の槍が抜け出ようとしているから。次の主………怒りに染める器を探して………その可能性が高いのは…………!!
「ああ、くそ…………滅びちまえ、こんな世界」
最期の最期で、マクールの怒りを感じたのかそれだけは啜ろうと戻って来る凶猛の槍。次の所有者を狂わせ、怒りで飲み込み、殺人衝動のまま死ぬその時まで暴れさせるのだろう。
好きにさせてたまるかボケが。
バキリと、何かが砕けるような音が聞こえた。
「ひ、ひあああああああ!?」
マクールの娘を戯れに支配したコーマックは涙と鼻水と涎を撒き散らしながら走っていた。逃げているのだ、支配したはずのフィアナから。
徹底的に支配して裏切る事も傷つける事も出来ない哀れな人形を手に入れたはずだった。だが、与えられた予言は『満月の夜に解き放たれた紅い瞳に殺される』というもの。
紅い瞳をもつ男は殺したばかりだというのに、何故と娘を見れば、紅い瞳がこちらを睨んでいた。
「ああ、紅が………! 血のような紅が、来るぞ! 私を殺しに! ああ、あああああああああ!?」
愚かな王。大王になど
フィアナよりも前に紅い瞳を持っていた勇士は、しかし誰かに語れることはなく、歴史の中に消えてゆくだろう。
墓を作ることすら許されず、死体はとっくに焼かれた父を思い、聖女は祈る。どうかその魂に安らぎがあらんことを、と。
叛逆……まあ、父の性格を考えれば、しただろう。自分の為ではなく、家族の為に。
世界が嫌いな彼が、こんな瞳に抗ってでも戦い続けた理由は家族なのだから。
「…………それでも……私は、もっと一緒に居てほしかった!」
騎士の娘だ。父が早々に死ぬなど珍しくもない。ならばそう、姉か妹ならば話は違ったかもしれない。そばで支えて、こんな未來にならないよう動けたかもしれないのに………。
「…………きっと貴方は、復讐など望まないでしょう。安心してください、私にも、守る者が出来た。復讐などより、優先するものが出来た」
きっと父も同じだったはず。この狂いそうになるほどの殺人衝動を、仮面もなく抑えていたのは、強い精神と、守りたいものの存在のはず。
「最後の家族………必ず、守ってみせます。どうか、見守ってください」
「おい、お主……」
「ん?」
「【
【ロキ・ファミリア】の老兵の言葉に、ああと思い出したように呟くリリウス。
「面倒くせえ………」
でもサボるとアリーゼあたりがメッ、と叱ってきそうだし、出れば飯をくれるだろう。
「…………本当に子供だよな? フィンのように、見た目だけでないのか?」
「何だいきなり」
「少し、羨ましいと思った…………お前はまだまだ未来がある。英雄にだってなれるだろう」
「……………………」
「いや、望んでもないのになってしまうのは、不幸か。すまんな、浅慮だった」
「お前は英雄になりたいのか?」
馬鹿らしい。そう思いながらもつい尋ねてしまった。
「何故? 候補として扱われて、【アストレア・ファミリア】を見て理解した。碌なもんじゃねえ………」
「だが、憧れた。憧れたんだよ、俺は……それに英雄は女にもてる! あの時助けてくれ貴方に恋をしましたなんて言われたら、最高だぞ!」
「言われたことあんのか?」
「フィンがな。儂も助けたのに、視界に映らなかったんじゃなあ………」
しょんぼり落ち込む老兵。モテなかったらしい。
「だがまあ、もう良いんだ。英雄になれずとも………次の命が、次の物語が紡がれていくのならそれで」
「…………………………」
「だから勝たねばならん。超えねばならん。守らねばならん。お主のような子供にすら背負わせる今を、終わらせねばならんのだ」
「そうか。お前は、死ぬつもりか」
「場合によってはな。儂等は………
「………………」
「だがやはり、死にたくはないな」
「なら、死ななければ良い」
「そうだな。頑張る………【
「飯も奢るんだろうな?」
「ああ、奢らせてくれ」
ちなみにダーナン姉妹の元ネタであるダナン族のミルクラとはフィン・マックールに見向きもされず、誰のものにもならないよう老人に姿を変えた。
本来のケルト神話ではエイネーの黄金の杯で若返る。衰退の杯の力はそこから来てる。
マクールを怒らせたばっかりにあっさり殺されたが、マクールを大きく弱体化させた。
衰退の杯/栄光の杯
ある日ダーナンの里に降ってきた『
近親婚を繰り返してきたダーナン王家は本来より早めに制限が来て混じり物に使わせてみようとして滅びた。