ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「歌に誘われた邪竜が何をやらかすか、わかったもんじゃない。オラリオ側の準備は大丈夫?」
「任せておけ! ハルモニアたん大ファンのガネーシャが! 総力を上げて力を貸すぞ!」
「私も、頑張るぞー!」
「おー!」
ハルモニアの公演ですっかりファンになったアーディとティオナも凄いやる気だ。
ギルドの協力も得て、住民は安全な場所に避難している。後は冒険者達と歌姫の時間。
「助かるわ。それじゃあ、いよいよ最終章ね。必ず、ハッピーエンドで終わらせるわ!」
「「「おおおおおおおーーーー!!!」」」
冒険者達へ叫ぶアフロディーテを見て、ハルモニアはふと昔を思い出す。
カドモスが現れる前、一度彼女の前で歌ったことがあるのだ。
『今の歌、何!? なに一瞬で神のハート鷲掴みしてくれちゃってんのよ!?』
『あはは、お姉ちゃんおもしろ〜い!』
その後直ぐに有名になりたくないか聞いてきて、神プロデューサーを名乗りスターにすると叫んでいた。
当時の自分にはスターなどよく分からなかったが………。
ならばとアフロディーテは大きくなったら、眷族に迎えにいくと約束をした。
(出会った時からうるさくて。何時だって私に夢中で、無茶ばっかり言って、困らせてきた)
だったら、『最初の歌』は……貴方に。
「ちょっと、そこで何しているのよ。準備はもうできているんでしょうね?」
「──愚問だわ。そこで呆けながら聞いてなさい。私の始まりの歌を!」
バベルの屋上へ移動したリリウス。その下、
「っ!!」
眼前に火の海が広がる。
あの時の
そうだ、あの竜が来る。あの邪竜が全てを破壊しに!
頭が、喉がぐちゃぐちゃに………。
「ハルモニアさぁぁぁん!」
「……!」
その声にハルモニアの意識が現実に戻る。振り返れば、こちらを見つめる複数の目。
「僕たちがいます!」
「頑張って………」
ベルと、アイズ………そして、何も言わず頷くアフロディーテ。
そうだった、今、自分は………
「──独りじゃない!」
もう喉は引きつらない。歌える。歌う!
「────♪」
奏でられる旋律は優しく、温かく、そして美しい。
「…………歌ってる。あの子が………ハルモニア!」
「これが、歌姫の本当の歌声?」
「すごく………温かい」
「ああ。聞き入っちゃう……人も、神も、モンスターすら…………」
そして殺戮を是とする精霊すらも。
「こちらも上がるな」
「さらに上がるぞ」
と、リリウスが夜闇の向こうを睨みつける。現れたるは赤雷纏いし邪竜。
その姿をどう呼び表すか。宙を泳ぐ巨大なエイ、翼を広げた竜、空を這うコブラ………。異様にして異形。
不滅の竜はバベルに立つリリウスに目もくれず宙を旋回し、極上の餌の周りに犇めく
「あれが、原初の
尋常ならざる威圧感。あれこそが本体。
「やるわよ! ハルモニアの歌はあんたの餌じゃない! 往生際が悪い
バサリと羽ばたくと無数の
あまりに大量でいて、不滅。リリウスをして滅ぼす事敵わぬ不滅の軍勢。
「馬鹿が」
雑兵を雑兵で相手し己は歌姫を食らわんと迫るカドモスは、しかし次の瞬間強烈な蹴りを喰らう。滅びぬ身であろうと、肉体も魔石も失った存在であろうと触れ合えるなら吹き飛ばせる。
絶大な『力』はカドモスの巨体をオラリオの外まで吹き飛ばす。
「オオオオオオオオオオッ!!」
「……………?」
リリウスは手応えに違和感を覚えるも、しかしすぐに追撃を行う為に弓を取り出す。月光を浴び輝く弓だ。
空へと撃つと花火のように弾け無数の魔法陣が空に浮かぶ。大小様々な魔法陣が折り重なり描かれるは満月。
「既に歌姫と英雄に敗れた死にぞこないが………頭がたけえ」
降り注ぐ豪雨のような光の矢。
アンタレスの子、シャウラの外殻から作られたアルナスルの効果は生命力を吸い取り矢を生み出すと言うものだが、真価は月の輝く夜にこそ発揮する。
取り込んだ月精霊の力に、混ぜ込まれた
強いて言うならその矢を操るために必要な膨大な魔力が使用者に負荷をかけるがリリウスからすればノーリスクだ。
「ガ、ガ…………アアア!!」
滝のような矢の雨に地面に押さえつけられるカドモス本体。リリウスはバベルから跳ぶと頭蓋を蹴りつける。
「まだ高い」
「────!!」
衝撃で地面がひび割れカドモスの顔が半分以上地面に埋まる。
「………?」
やはり違和感。なんだ、この違和感は?
同時刻51階層。カドモスの泉の源泉が赤く染まる。
竜血と呼ばれるダンジョンの採取物だ。
百年前ゼウスとヘラの眷族が確認した赤く染まるカドモスの泉。
それは肉体を失い彷徨う我が子を哀れんだダンジョンがカドモスに血と肉を戻そうとするアイテム………とされている。誰も確かめてこなかったのだ。ただの予想。
それでも精神体となった竜がオラリオ……ダンジョンの近くに現れるとカドモスの泉が赤く染まり竜血となることだけは間違いない。
「ふむ……」
チョロチョロと流れる『竜血』を瓶に収めていくエピメテウス。時間がかかりそうだ。
「グゥアアアアアアアア!!」
呼応するように壁を砕き生み出される
「シャバラ、シュヤーマ………」
相対するは
その中でも上位の力を持ち、2対1。それでもなお勝ち目は薄いだろう。だがエピメテウスは瓶に竜血を注ぐのみで炎の一つ与えない。
「……………」
ある程度溜まった瓶に蓋をする。
「グオオオオオオオ!?」
「ここは任せたぞ」
エピメテウスの足元に炎が宿る。次の瞬間、炎の軌跡を生みながら地上に向かい爆走した。
「ゴルルルル!!」
本能と怒りで地上の生き物に殺意を向けるカドモス。すぐに此奴等を殺し、あの不届き者を追わなければならないというのに。
「オオオオオオオオオ!!」
「「グオオオオオン!!」」
猟犬と竜が、人知れずぶつかった。
カドモスの
リリウスが
漆黒の怪物相手に?
寝起きのクランプスや力を削いでいたアンタレスと異なり、肉体を失いながらも活動を続けていたカドモス。しかし、その本体の力は良くてLv.6。いくらなんでも弱すぎる。
「……………ああ、お前……
モンスターにモンスターを生む能力はない。地上の繁殖個体は、厳密には己の魔石を分け与え生み出した分身に近い。生み出された方も生んだ方も当然弱体化する。
無論魔石を喰らい魔力を溜めたり、或いは大地から栄養や生命力を奪うなどの方法で失った分の力を補填する方法はあるが、魔石も肉体もないカドモスは不滅なれど補填する方法はない。
文字通り体を分けて生み出される分身。カドモスの力を千とすると百の兵を生むのに百を失う。強い個体を産めば更に。
不滅でゴリ押しし暴れ回っていたから誰にも知られなかった事実。リリウスは…………落胆した。
竜の軍勢に、漆黒の竜種。黒竜程でなくとも予行戦闘程度にはなると思っていたが。
「………………なんだ」
「────!!」
カドモスは人の言葉など知らない。怪物なのだから。
カドモスはその感情を知らない。向けられたことがないから。
それでも目の前の敵が、こちらを最早敵としてみていないことだけは解る。しかしそれは今までと違う。
恐怖から敵わぬと、敵として見れなくなるのではなく、戦う存在と認められない。
ビキリと、龍の中の何かが刺激された。
「オ、オオ…………グオオオアアアアアアアアアアアアア!!」
オラリオ中に響く咆哮。散っていた
立ち上る黒い靄は蛇のように空を泳ぎカドモスへと殺到する。
「──────」
「オオオオオオオオオ!!」
再び咆哮。ただの叫び。
それだけでオラリオの外壁が吹き飛ぶ。
翼を広げる。ただの飛び立つ事前運動。
それだけで矢の雨が弾かれ上空の魔法陣が砕かれる。
散りばめた力を全て我が身に戻し、邪竜は敵を睨みつけた。