ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
邪竜カドモスの強化経緯
アフロディーテ曰くアイズ達のほうが強いのに不死身で攻めきれないらしい。
アイズ達のほうが強い? 漆黒の竜種なのに? しかも一時的にでも魅了が効くなら神の力に対する対抗力を持たないニーズホッグ同様ダンジョンの後出し前のただ純粋に強い竜なのに?
ふむふむ、分身? そういや地上のモンスターの繁殖は魔石を切り分ける………これだ!
「【永争せよ、不滅の──】………何?」
滅ぼすこと叶わずとも原型留めぬほどに消し飛ばすことで再生するまで一時的にでも戦闘不能にしていた邪竜の
「も、もしかして終わった? 俺帰って良い?」
「黙れ愚図。終わっただと? まさか………」
あり得ない。
ダンジョン内から『竜血』を持ち帰ったのなら、その報告が上がるはずだ。ましてやヘディンは有事に備え邪竜と
「オオオオオオオオオ!!」
「「!?」」
オラリオ外部から響く咆哮。音圧が衝撃となって外壁やその近くの物を吹き飛ばし、それなりの距離があるヘディン達の立つ建物の窓ガラスも砕け月明かりにキラキラと輝きながら地面に落ちる。
「……………なんだ」
翼を羽ばたかせ夜空へと浮き上がる邪竜。その姿は先程と
体が肥大化したわけでも、筋肉の膨張もない。溢れる魔力が輝くことも無く、先程と同様の邪竜がそこに居た。
「なんだ…………これは!」
だが、この威圧感はなんだ!?
精々がウダイオス程度の力しか感じなかった。名の通り
だが今は、押し潰れそうなほどの威圧感を放つ。まるでオラリオ中に現れていた竜全ての存在感を一つに押し固めたかのような………。
「【永伐せよ、不滅の雷将】!!」
判断は早く、即座に詠唱される超短文詠唱でありながら砲撃魔法が装填される。
「【ヴァリアン・ヒルド】!!」
極大の迅雷が邪竜へと迫る。Lv.6の時点で第一級冒険者ですら消し飛ばす超短文詠唱の魔砲。Lv.7へと至った今ならば、深層の階層主すら焼き殺すであろう砲撃は………竜鱗に触れ弾ける。
カドモスは意にも介さない。
不滅だからではない。分身体を思えば、黒い靄となって霧散し再生するだけのはず。その鱗は刹那の時すら歪みもしなかった。
「オオオオオオアアアア!!」
咆哮を上げ、赤雷を放つ。四方に放たれるそれはヘディンの魔法にも劣らぬ破壊を振りまく。
第一級とて飛び込めば死を免れぬ破壊の渦に飛び込むは世界最強。
「【
奔る雷光が赤雷とぶつかり合う。カドモスはガバッと大口を開き炎を吐き出した。
濁流の如く溢れた炎は民家を焼き、石畳を融かし突き進む。黒い風が炎を散らした。
「ガアアア!!」
「わあっ!」
音の砲弾が突進しようとしたカドモスへと迫る。音圧に僅かに速度を鈍らせたカドモスをリリウスのマーダが斬りつける。
カドモスは頭を伏せ、一気に持ち上げ角で剣と打ち合う。体重差からリリウスが空高く跳ね上げられる。
カドモスが翼を振るうと巨大な竜巻が生まれリリウスを飲み込んだ。
「チッ、あのチビ…………」
アレンが竜巻に飲まれ上空へ吹き飛ばされていくリリウスを見て情けねぇと舌打ちする。
ベートが翼を食い破らんと駆け抜ける。フィンが、オッタルが、リヴェリアが、ガレスが、アイズが……第一級が即座に動く。
カドモスは再び咆哮を上げた。
「オオ、オオオオアアアアアアア!!」
「「「「!!」」」」
嘗てモンスターの流出を防ぐ為に建てられた都市の外壁すら砕く音圧が冒険者達に襲いかかる。原型を保てるのは高位の眷族故。
灰色の魔女の魔法を思わせる音の暴威が冒険者達を吹き飛ばし、それだけでは終わらない。
「………ワイヴァーン!?」
「だけではないぞ………ブラッドサウルス、インファント・ドラゴン………竜種の群だ!」
その咆哮は竜の王の号砲。規模こそ違えど嘗て竜の谷が生まれた時同様、オラリオ周辺の竜種が集まってくる。邪魔をさせぬとばかりに竜の群れはオラリオの冒険者達に襲いかかった。
「……………」
赤雷が何百もの蛇の如く泳ぐ竜巻の中でリリウスはギョロリと漆黒の風の向こう、カドモスを睨む。
角が生え髪が黒く染まり、逆回転の
「っ!!」
放たれる光線。空中に乱立する無数の赤黒い柱の隙間を通り抜けるリリウスに迫るカドモス。翼を腕のように振るう。リリウスが建物をいくつもぶち抜き市壁を破壊しながら4枚目で漸く止まる。
切り落とされた翼はすぐに戻った。
(……………あれ、食ったらどうなるか)
見てくれだけ戻して力の総量が減った弱体化になるだろうか? 問題は、食っても問題ないかだ。
神の分身たる精霊の力を超え、ダンジョンの力ある怪物のカドモスに不死を与える下界の未知でも特別な力。それが魂だけのカドモスの存在を保証している。
天の炎を食えても人の魂が食えなかったように、リリウスは魂を喰らうことは出来ない。それは恐らく、怪物であってもだ。
(食うのは殺してからだ)
とか言いつつさっき撃ち合った際にカドモスの翼の一部を食っていたリリウス。味はしたが何も取り込めなかった。食うべき肉体がないのだから当然だが。
「ガアアアアアアア!!」
「頭がたけ……図に乗るな」
ぶつかり合う赤雷と雷霆。風と
カドモスが赤雷纏う鱗の欠片をばら撒く。触れた瞬間赤雷が弾ける。
中に浮かび上がる無数の魔力球。放たれる光線が先程の仕返しとばかりにリリウスを地面へと叩きつける。
集中状態のリリウスの耳朶を打つ男の悲鳴を無視して地上から響く竜の咆哮を頼りに姿の見えぬカドモスの位置を測り、掘削しながらカドモスの背後に移動した。
「!?」
「らあああ!」
背後から現れたリリウスに反応が遅れたカドモスをドゥルガーに作らせた斧で撃ち付ける。カドモスの鱗が砕けオラリオの外壁を乗り越えなお突き進む。
漆黒の竜巻が横向きに伸びる。リリウスが風で加速しながらカドモスに蹴りを放ったのだ。再びオラリオから距離を取らされるカドモス。
砕けた鱗を瞬時に治し、リリウスを睨みつける。
(……………勝ち目がないな)
と、リリウス。
カドモスは勝てる、と確信する。一方的ではない。戦いになっている。そして、戦いが成立するなら此方が勝つ!
ならば恐怖しろ! 絶望しろ! 悲観し、生を手放せ! 死なぬこの身を、殺せぬお前が滅ぼす道理などありはしないのだから!!
「聞いてないぞぉ! なんだよ、あれ!」
「カドモス本体の強さは、そこまでじゃない筈じゃ………」
少なくともこれまでの目撃情報と被害規模からして、そう判断されていた。その筈なのにリリウスと互角以上。
「肉体を失ったがゆえの弱体化だと思っていたけど、分身を自分の力を割いて生み出していただけのようね」
普通はそんな、本体が殺される可能性が増えることはしない。不滅故に取れた手段を、下界の未知が与えた不滅を神ですら見誤った。
「ていうかあのクソ竜! あんだけハルモニアの歌に執着しといてなぁに他のことに心奪われてんのよ! ハルモニアの歌を聴きなさいよ〜〜!!」
「何に怒ってるんだい君は………」
当初の予定では邪竜が逃げないようハルモニアが歌い続ける予定だったが、どうも今の邪竜はハルモニアではなくリリウスに執着しているようだ。
「後何回か得意げに吠えるのがムカつく! なぁに勝ち誇ってんのよ! 不滅じゃなきゃリリウスに殺されまくってたくせにぃ!」
アフロディーテはご立腹である。肉体も魔石も持たぬ魂だけの存在。古来食らった英雄から奪った調和と旋律の力で存在を続けるカドモスは、幾ら傷つけても再生する。
「そうか、ならば肉体があればいいのだな?」
「ガアアアアアアア!」
「ああああああ!!」
既に何度打ち合ったか。
リリウスの牙がカドモスを抉り、カドモスの牙がリリウスを貫く。
リリウスの剣がカドモスの鱗を切り裂けばカドモスの爪がリリウスを裂く。
赤雷と雷霆、炎と氷、風と黒風、光線と斬光。
近付くことすら許されぬ破壊の応酬、絶死の領域。
「……………はぁ」
一方的に傷を増やすリリウス。不滅のカドモスは、どれだけ傷をつけようとすぐに再生する。
対して肉体なきカドモスを幾ら食らったところでリリウスは傷を癒せない。
ダメージをリリウスだけが蓄積する。
勝てる!
負ける道理がないカドモスは勝利を確信し………
パリン、と瓶が割れる。赤い液体がカドモスの体を濡らす。
「!!?」
カドモスの体が光り、リリウスは
「エピメテウス」
「遅れたか?」
「早かったら、この戦いは何の糧にもならなかったな」
「あの光! ビンゴよ! 竜に血と肉が戻った! 竜の魔石が復活した!」
「もう敵は不死じゃない!」
その光景を見て神々が騒ぐ。とは言え油断は出来ない。敵は邪竜カドモス。嘗てその一身に歌姫の加護を得た英雄と渡り合い相討った真性の怪物。
「リリウス……ぶっ飛ばしてやりなさい!」
だが相対するのも都市最強にして世界最強。神時代最高位に至った地上に於いて最も神に近付いた眷族。アフロディーテは、彼の勝利を疑うことなどしなかった。
数千年来の肉体の感覚。心臓の鼓動、魔石の存在感。カドモスは己の生を実感する。
常に死と隣り合わせ。それが生きるということ。
「…………!!」
バサリと空高く浮かび上がるカドモス。魔法の範囲からも離れる。ここにきて『恐怖』の本能を思い出し逃走を選んだのだ。だが、止まる。
「…………歌」
再び響くハルモニアの歌声。竜達が動きを止める。
「………これは、聞き惚れている? 此奴等全部が」
「信じられん。モンスターが『聞き入る』だと?」
そう呟くヘディンすら、その歌に耳を傾ける。女神の『美』とも異なる、されど人の心を震わせる美しい旋律。
「…………なによ、超いい歌じゃない。ハルモニアァ………あんた、どんだけ感動させるのよお」
神すら聞き入る歌にアフロディーテは涙を流し、邪竜すらも振り返り固まる。と………
「ガッ………ガアアアアアアア!?」
カドモスが荒れ狂う。鱗がひび割れていく。歌に体を破壊されている。対して、人類にはその傷を癒やす歌となる。
カドモスと言えど………『調和』の力を取り込んだカドモスだからこそ、その力はより深く内部へ響く。
「オ、オオオオオオ!!」
逃げるべきだ! ここから離れるべきだ! しかし、この歌を聴いていたい。そう思うカドモスが見るのは、小さい英雄。蘇る古き
「────!!」
魔石を砕かれて尚、死にゆく身体でその英雄に牙を剥いた邪竜に、調和の力を取り込み不死になろうと言う考えも、知識もなかった。
だが戦った。何故? 勝てると思ったから? それはそうだろう。だから目の前に現れた英雄達から逃げなかった。
死にかけて尚、向かった。
そうだ、勝ちたい。偶然手にした
この小さき英雄に、加護を与える歌姫に、今度こそ!
「………変わった?」
気配が切り替わる。
カドモスが取り込んでいた『調和』の力を捨てる。
栄光の英雄が纏っていた力を捨て、奪った名を捨て………嘗ての名もなき邪竜へと回帰する。
無論それだけではない。
不滅に酔うだけの怪物。戦いを忘れ、ただ一方的に破壊衝動を振りまくことだけを快感とする覚悟もない怪物…………
「オオオオオオオオオオ!!」
浮かび上がる無数の魔力球。それ等が邪竜の眼前に集まり圧縮される。
尋常ならざる魔力は周囲の理を歪め、調和の力がカドモスに届かなくなる。漆黒種らしい再生能力で傷を癒やしていくカドモスはしかし己の魔力で焦げ付くほどの魔力を捻り出す。
この戦いにおいて最強最大の一撃。都市を吹き飛ばし
「『斬光』……………いや」
それだけでは足りない。これは対黒竜の
腰を落とし剣を添える。極東の居合の型。
ソーマ曰く、極東の武神は身体能力で一刀で同時斬撃を放つ。
タケミカヅチ曰く、神の身体能力で振るうのに慣れすぎて人の身体能力で放つには鍛錬の時間が足りない。つまり鍛錬さえすれば人の身で放てる。わけわからん、何言ってんのあの武神。
まあ重要なのは、神の身体能力でなら振るえる。そしてこの身は今下界において最も神に近い肉体。敵は竜。
「オオ──アアアアアアアアアアアア!!」
放たれる竜の一撃。リリウスは剣を振るう。
雷速瞬動!
75分の1秒。刹那。
「
同時攻撃などと烏滸がましい。ただただ速くて捷くて疾い三連撃。
放たれる雷の斬光は重なり合い六花を象る。
竜の砲撃を切り裂き、邪竜の肉を斬り、雲を断つ。
「──────!!」
魔石が6つに分かれ竜の体が灰へと崩れる。まだ、まだだ! 調和の力纏う英雄を食えば、もう一度………まだ戦える!
戦う? 誰と? 食えたらそこに、英雄はいないのに。
そうか………なら、もう決着はついた。
最期に名もなき邪竜は響く歌姫の旋律に耳を傾けながら完全に灰へと散った。
その魂は、今度こそ彷徨わずダンジョンの輪廻へと戻った。
この世界線でのカドモスの通常討伐はつまり分身作って本体の総量が減ってる間に実体を戻し本来の力で復活出来なくする。
リリウスが強くてカドモスの弱さに落胆した結果カドモスが全力で戦うスタイルに変わった。
因みにリリウスも歌の加護がなければ第三魔法使った上でエピメテウスに協力してもらわないと勝てないレベルだよ。推定Lv.9階層主。ステイタスは極めに極めた。後は試練だな!