ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「──【ダインスレイヴ】!」
ヘグニは魔法を使った!
「孤独を恐れる迷い子よ、我が元に集え! 我が贄となるがよい!」
そしてガリバー兄弟は歌っていた。
「「「「ワン、ツー、いやほい♪ 飲んで飲〜んで飲んで♪ 飲んで飲〜んで飲んで♪ 飲んで飲〜んで飲んで、飲んで♪」」」」
「ヘグニ様! ヘグニ様!!」
リズミカルにヘグニの名を呼ぶホワイトエルフ。
「捧げますぅ! 貴方様に全てをー!!」
目をハートにするヒューマンのスカウト。
「この圧倒的コンビネーション! 目が離せなーーい!」
「【
ヒューマンの魔導士とアマゾネスも大喜び。客が東へ移動すると、フィンはサングラスを取りウィンク。客が西に流れる。
「ちょっと押さないでよ!」
「そっちこそ!!」
「こらこら、折角の可愛い顔が台無しだ。どうか僕のために争わないでおくれ」
「「「は〜〜〜い♡」」」
ライラはうわぁ、と呆れていた。地位と名声と顔を利用して女達を侍らせる。一族の英雄の姿か、あれが。
まあ親しみやすい一面も売りに出しておきたいのだろうが。それにあっちはまだマシかもしれない。
「あ、なんかこれ………いい………えへへ〜」
「次! 次、私!」
「お姉ちゃんは逆に撫でてあげる!」
幼女(♂)に頭を撫でてもらって幸せそうな正義の女神の眷族のアマゾネス。順番待ちする都市の憲兵に、頭を撫でる正義の派閥の団長。
無言で見つめる副団長。
「つか、何で女の格好? アーディの持ってる『ぶろまいど』の奴は潜入とかで正体隠してるからしいけど」
「アーディが持ってる? ぶろまいど? よくわからねえけど、今日はアフロディーテが男に飢えた女に目をつけられないようにって」
アリーゼ達以外にも結構目をつけているように見えるが、と周りを見るライラ。幸い話しかければ返してくれるイケメンどもがいるおかげで大事ないが。
「まあリリウスなら危ない女に目をつけられても大丈夫でしょ!」
リリウスを抱き寄せ頭を撫でるアリーゼの言葉に危ない女が何か言ってら、と思うライラ。
「そうですねえ。そもそもこの男に性欲があるとは思えませんし」
「え、あるわよ普通に」
輝夜の言葉に。アフロディーテが反応し、え、と振り返る一同。
「何ならむしろ強いわよ」
「あ、あの…………アフロディーテ様。まさか」
「抱いたわ。むしろ抱かれたわ! というより貪られたわ!」
「むぅ…………」
シルは兄のように慕っている近所のお兄さんの彼女が生々しい交際事情を話しているのを聞いてしまったみたいな顔をしている。
「嘘、リリウスの初めてが……」
「アーディ、狙ってたのね」
「うん」
「此奴都市の憲兵だよな」
落ち込むアーディを慰めるアリーゼとドン引きするライラ。
「お前等は良いのか?」
「ン〜? 強い雄がいろんな雌に求められるのは当然じゃない?」
おしゃれ好きの正義の味方でもやはり根はアマゾネスなイスカ。
「等? 私を含めているのか?」
輝夜は心外な、と言うが今彼女が持っているグラスはとっくに空だ。
「貴方達も相手するなら複数同時のほうがいいわよ?」
と、アフロディーテが笑う。顔を真っ赤にするアーディ。はーい、と素直なイスカ。アリーゼと輝夜はよく分からない。
「ま、今はこの店を楽しみなさい。ここは女の子達が笑顔になる店なんだからね」
「女が笑顔…………」
リリウスはふと客の一人を見る。その客はヘディンを睨んでいる。
「グラスが空いている。何か新しいものを頼みましょう。貴方のための、特別な一杯を」
「ヘディン〜♡ 早くこっちに来て〜」
「──ヘディン、次の卓へ」
「承知した。直ぐ戻って来ます」
「え〜〜……」
そう言ってヘディンは席を離れる。
(………あたしの時もそう言って席を離れて、もう随分と長い時間戻ってきてないような気がする。酷いよ、ヘディンくん………あたし、こんなに待ち焦がれているのに)
薄い笑みの奥にある愛情深さ。その眼差しは自分一人のものじゃない。
そんな事は解っているつもりだ。ヘディンにとってこれは仕事で、自分達はこの店でしか繋がれない関係。
泣こうが、その事実は変わらない。ヘディンの深い愛が本当は誰に向いているかも、彼女は解っている。
でも………どうしょうもなく好き。好きなんだよ!
「うぅ…………」
「──涙を拭くのです」
「えっ………」
と、差し出されるハンカチ。顔を上げるとアスフィがいた。
「泣いてる
アスフィの後には女性客と同じ目をした女達が、
「アルフリッグ君………私のこと愛してるって言ってくれたのに。照れ隠しなのか、コールの中に織り交ぜて(空耳)……でも、全然そばにいてくれない!」
「王子様は……自ら振り向かせなきゃいけないの。私達、
「男の人に、あんなに真剣に見つめられたの、初めてだった。貴方の強引さが、私の心をこじ開けたんだよ。私を捨てないでアレン!!」(そもそもお前はアレンの物じゃない)
「……………皆、貴方と同じです。無能キャスト共に弄ばれた悲しき姫君。さぁ、立って。私達と共に、奴等に思い知らせてやりましょう! 貴方達の、愛の重さを!」
アスフィの言葉に、下を向き涙を流すだけだった女は顔を上げた。
「そう、だわ。あたしの気持ち、分かっていながらあの人は…………もっとあたしを見てよ! あたしを感じてよ!! あたしは此処に居るよ! ヘディンくん!!」
「………………アフロディーテ様〜。リリウスがソファの下に隠れて出て来ません」
「構いすぎちゃったかしら?」
アーディとアリーゼがフランクフルトを揺らしながらソファの下に引っ込んだリリウスを呼ぶが一向にでてこない。アフロディーテはどれどれ、とリリウスをみる。
「怯えているわね。何か恐ろしいものを思い出しているわ」
「恐ろしいもの? 怯えるって、
女の客の中に【ヘラ】の眷族でも混じっていたか、と冗談を言おうとしたライラだったが、突如店の中に絶叫が響く。
「!? いったい何が起きた! アフロディーテ陣営の奸計か!?」
ヘディンが慌てて振り返ると、そこには女を引き連れたアスフィ。目がやばい。
「感情は、いとも容易く凶器となる。
「【
アレンが忌々しげに睨む。
「寝てなかったっけ、あいつ」
「というかメッチャ目ぇすわってる」
「何で客の女共従えてんだよ」
「奴等、すげえこっち睨んでいるぞ」
ガリバー4兄弟の横で魔法が解けたヘグニは、ふぇぇぇと顔を青くして震える。
「そうか! 店が流行りすぎて客が増えるのに反比例して、キャストが席に着く時間が短くなっていった…………不満をためた
「平等に回転させていたつもりだが………」
オッタルは料理や酒を運びながら、席の一つ一つを確認し時間配分をキッチリしていた筈。
「そんなの
「「「「ぁぁぁああああああああああぁあああああああぁぁあああああ!!」」」」
地の底から響く亡者の慟哭のような女達の叫びにリリウスはさらに奥に引っ込む。
「「「「「私を見て。私の側にいて…私を…………裏切らないでぇぇ!!」」」」」
リリウスは身を縮みこませて完全にソファの下に籠城した。
「ああっ、なんて罪作りな皆さん!」
「急にワクワクしないでください。しかし何故、【
「彼女達とアスフィさんの共通点………それは、『都合のいい女』である事!」
『都合のいい女』同士共鳴した結果が目の前の光景。
「つまり全部ヘルメス様が働かせすぎたせい!」
「ほんとバッカみたいですよ! 何のために働いているのか…………いっつも言うこと聞いて、死に物狂いで他派閥のイザコザに巻き込まれたり、色んな神の御用聞きしたり。働きに合った見返りをくれって話ですよ〜!!」
「その怒りは主神にぶつけろ、馬鹿め!」
「これ以上ぶつけたら、ヘルメス様粉微塵ですよ!」
もうぶつけていたらしい。
「ぶつけますよ。前にもいいましたよね??? ここはいろんなことを忘れさせてくれる場所じゃないのかって。貴方達が無能キャスト過ぎて寝ても覚めても現実。少しは私の心を軽くしてくださいよ!!? 能天気主神のせいでボロボロになった私を────楽しい気分にさせてくださいよ!!」
心からの叫びだった。
「「「「そう、だからぁぁ!! あたしの側に来てぇぇぇぇ!!」」」」
「「「うわあああああ!?」」」
オラリオの女冒険者達に【アフロディーテ・ファミリア】が飲まれた。
逆に言えばオラリオでトップのステイタスを誇る【フレイヤ・ファミリア】にとっては問題ない。推しピと推しピの亡者達の戦いが今始まる。
「……………なんなのこれ」
ライラはそれしか突っ込めなかった。