ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
出会いあれば別れあり。
アレスの残党の捕縛も終え、【アフロディーテ・ファミリア】はオラリオを去る。
ハルモニアはベルとアイズ、アフロディーテは当然リリウスと最後の言葉を交わす。
「ふふん。私達はフレイヤに勝った、それを宣伝してやるわ!」
「あれは勝ちなのか?」
「勝ちよ勝ち。確かに最後は全員気絶してどっちの席もあれだけど、最後に女の子の心をつかんだのは貴方だもの」
「そうか………」
「………………よくやりましたリリウス。また一つ、貴方は過去より続く黒き厄災の一つを滅ぼした。神アフロディーテの名において、称賛しましょう」
「彼奴は弱っては居たがな……」
既に一度死んだ身。肉体を取り戻した瞬間、はい全盛期ですなどにはならないだろう。そのうえでこちらには歌姫の加護、あちらには歌姫の迫害。
そのうえで怪物で蛇で竜。あれはこちらに有利な条件だった。
「
「それでもよ。
リリウスが滅ぼした。
「ま、そっちは私は関係ないし、貴方達で頑張りなさい。神々も予想だにしなかった異端の英雄になるか、人類の敵になるか……どちらにしろ、これだけは覚えておきなさい? 仮令貴方がどんな道を進もうと、このアフロディーテが貴方を愛してあげる」
「ついていかなくてよかったのか?」
そう尋ねるのはフェルズ。リリウスは去りゆく馬車をみながら肩を竦める。
「いいさ。俺がアフロディーテを愛していることは変わらないからな」
「そうか」
「俺は暫く潜る。彼奴がいるかは知らないが、これまでを考えればいるとすれば戦力になる」
「ああ、頼んだ」
輪廻の中で、それが果たしてどのタイミングで生み出されるか………それはウラノスですらわからない。或いは
これまでから推測してこいつなら可能性があるとリリウスが深層へ潜る中、全く別の場所で、別の情景を持つそれが産み落とされるのは何もおかしな話ではない。
事実として『群』や『隠れ里』から攫われずとも生まれたての右も左も分からぬ彼らの同胞が攫われる。カールなどがその例だ。
だから『彼女』も追われていた。
それは少女の
光る苔に照らされた青銀の髪は艷やかで、瑞々しい肌も青白い。エルフのように長く、エルフと異なり歪に伸びた耳に、肩や腰に生えた
人ならざる器官を持つ怪物は、しかし醜悪な怪物の顔ではなく息を呑むほど美しい顔をしていた。
その顔は今悲痛に歪み。
爪で、牙で、剣で傷付けられた少女は目から溢れそうになる何かに必死に耐えて逃げ続ける。
怪物は彼女を嫌悪し、人間は彼女に恐怖し、狩人は彼女を欲する。
下卑た欲望を隠さぬ顔は怪物よりも悍ましく、怪物たる身体能力で逃げる彼女も、しかしやがて足を縺れさせ坂道から転げ落ちる。
涙が溢れた。なぜ泣いているのか自分でも分からず、蹲る彼女の耳朶を打つのは新たな足音。
人の足音。ビクリと震える。剣で切られ矢で射られた痛みを思い出す。怯えるしか出来ない怪物を前に、白い人影は困惑の声を漏らす。
「モンスター………『ヴィーヴル』?」
「は、ベルが
ダンジョン深層。アイレンの
「まあ俺もすぐに戻りたいが……………後でな」
アイレンが拘束を破る。
本来なら巨人の内臓をこねてかろうじて女体に見える程度の、モンスターの中でも取り分け醜悪な怪物である筈のアイレンだが、その姿は異端も異端。
彼女自身が巨人の如き体躯。蛞蝓のような腹側の下半身は蛇を思わせる長く太い一本の尾。赤黒い触手のような髪は真っ黒な長髪。額から生えた1本の角。
アイレンというよりは、今まさに連絡があったヴィーヴルの
そして異端故に人類のみならず怪物もその命を奪わんと迫り…………
「ラアアアアアアアア!!」
響く歌声が全てを眠らせる。その本来のアイレンに比べると精神を侵すような不快感がないが、眠りにいざなう歌は間違いなくアイレン。
「がぁ!」
「と…………」
あとアイレンは炎を吐く。それから、剛腕。叩きつけられた腕がダンジョンの地面を砕く。
「足が埋まった…………」
「────!!」
が、リリウスは無傷。地面の方が柔く足が埋まる。
「まあ何千年も人の敵であり続けたわけだからな。人に憧れました、人と歩きますなんてすぐには思えねえか………」
ブシッと指が拳に食い込む。痛みに腕を引こうとした瞬間ぶん投げられた。
立ち上がるアイレン。その隙にリリウスが影から取り出したるは新たな特級
アイレンの爪とぶつかり、キィィィンと涼やかな音を響かせる。
「で、その後は?」
「止まったけど、すぐにでも地上に向かおうとしたからボコった」
暫くは動けまい。世話と今後の説明は他の
「リューはどうしてる?」
「まずはアリーゼ・ローヴェルに相談し、知らない体で接するらしい。
まあベルなら問題はないだろうが。だってベルだし。
「しかし何かと縁があるな」
実を言えば、ベルは既に別の
ラキアが攻めてくる間に、シルと孤児達と共に地下通路で遭遇したのだ。
バーバリアンの異端児。カール同様、ハンターに捕まっていたが何とか逃げ出したのを偶然見つけたリリウスがダンジョンへ案内する途中遭遇したのだ。
変装はしていたリリウスだが、まあシルとシルを護衛していたチビネコには気付かれていただろう。
「俺はまた深層に潜る。その辺りの見極めは任せたぞ」
「またか?」
「アリの巣をぶち抜いたバケモン。それに対抗するためにステイタスを極めておきたい」
それは
ベルがミノタウロスでランクアップしたように、オッタルは恐らくバロールを倒さなくてはランクアップ出来ぬように、『因縁』は結ばれた。
存在を知覚しただけで、リリウスは姿も知らぬ竜は己が超えるべき試練と感じとって。だからこそ解る。Lv.9の自分ではあれには勝てない。第三魔法を使い、
あの大型達のみならず小型の力を全て加算した悪竜しか比較対象にならない。そういう化け物だ。
「なのにお前、アフロディーテの店手伝ったのか」
「実際俺のステイタスはそろそろ頭打ちだし…………」
あとアフロディーテがいるのを知りながら探索とか絶対気が散るから。
「極めるだけ極める。あの魔界も超えるから、
「なるべく地上で問題が起きないことを祈ろう」
「彼が魔界を超えてさらなる深層に向かったか。【ゼウス】と【ヘラ】ぐらいだろうね、そこを修行場に出来るのは」
如何に彼と言えども地上にはすぐに戻ってこれないだろう。自分が用意し、制御出来ないから封印するしかない『あれ』に備えているのだろう。つまり作戦通り。通りったら通りなのだ。
「………レヴィスを呼んでくれ」
「レヴィスを?」
「彼をオラリオから孤立させてみよう」