ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
モンスターの横取りは、成る程確かにご法度。
だがそれはダンジョン内での話。地上、ましてや人のいる街中で
聞く必要はないと槍を抜いて逃げたヴィーヴルの追跡を命じたフィン達の邪魔をするように現れた『武装したモンスター』の群。
既に一戦交えたかの如く手負いのモンスターを見たフィンは『リヴィラ襲撃』のモンスターと同一個体と判断。
ヴィーヴルの追跡は第2級に任せて武装したモンスターを第一級で対処…………しかし、強い。
単純な
漆黒の
「ウオオオオオオオオオ!!」
身に纏う鎧は
ベート、ヒリュテ姉妹……オラリオ最強候補たるLv.6が3枚。それでも突然現れた怪物を崩せない。
振るわれる漆黒の斧は受けられず、黄金の
圧倒的な存在。第一級達すら戦慄する中、モンスターが仲間を庇う
アイズの知る『正しい怪物』の姿に『安堵』してしまったのだ。
「やれ、アイズ」
「分かった」
それはとても安らかな声だった。アイズはそれに気付かない。
己が間違えていないことに、地上に現れた怪物がただの恐ろしい怪物であることにグチャグチャになりかけた思考は殺意に染まる。
怪物は殺す。あの恐ろしい雄牛も、ベルに庇われていた竜の娘も。
「【
「……アイズ?」
リヴェリアが思わず振り向く。しかし、遅い。
刹那吹き荒れるのは闇よりも昏い、漆黒の風。
「ヴオ………」
漆黒のミノタウロスは己の右腕がないことに遅れて気がつく。一瞬にして深層の階層主に迫る硬皮が切り裂かれた。Lv.6の出力ではない。
「行くよ」
その言葉とともに風を纏うアイズがミノタウロスに迫る。魔剣を失ったミノタウロスは再び黒い戦斧で受け止める。いかなる素材か…………恐らくは深層の怪物の骨を加工して造られた戦斧はデスペレートと撃ち合い亀裂一つ入らない。
しかし吹き荒れる風はミノタウロスの体を削っていく。
「ヴオオオオオ!!」
速度ならアイズが上。しかしミノタウロスが戦斧を振るうだけで巻き起こる風は巻き込んだ瓦礫を凶器に変える。
ただの小石がLv.6の前衛であるアイズの肌を裂いた。
それでもアイズは微笑んでいた。
この恐ろしい怪物が自分が何も間違っていないことを証明してくれているから。
「フー………フー………! ヴォォオオオオオオ!!」
アイズと戦い敵と認めたのか、或いは追い詰められたのか………漆黒のミノタウロスの身体から魔力が溢れる。腕から滝のように流れていた血が止まり、盛り上がった肉が歪な傷跡を残す。
「アイズ、挟め」
と、周囲で怪しい影を探していたガレスが戻ってきた。
「ガレス! 私は………」
「危ない橋を渡らせられるか。我儘は無しにしておけ………のう、フィン」
「ああ、合わせろガレス」
Lv.6の中でも最上位のガレスとフィン。対怪物に於いては2人を凌駕するアイズ。恐らくは武装したモンスター最強であろう漆黒のミノタウロスと言えど、隻腕となった今勝ち目はない。
ダイダロス通りの住民はミノタウロスの
フィンは唯一人、親指の疼きを感じ取る。
「──────!!」
瞬間、響くのはミノタウロス以上の
そう思える熱線が地面から空へと伸びる。シィィィと独特の音を響かせた熱線は直ぐに細まり消え、空いた大穴を更に広げながら現れたるは巨大な蛇。
「此奴は…………!」
遠征の時の? いや、少し姿が違う。あれは滅んでいる。別個体であるのだろうが、別種? まずい、正体不明の毒が健在なら甚大な被害が出る。
「リヴェリア!」
漆黒の蛇はキョロキョロと周囲を眺め行動に移らない。フィンの言葉にリヴェリアは詠唱を開始した。
何故動かないのか。そんな疑問は後でいい。優先すべきはこの蛇竜を滅ぼすこと。
「【レア・ラーヴァテイン】!!」
召喚されるは極大の炎柱。深層の階層主すら消し去る獄炎。
「
「────へ?」
漆黒の蛇を討滅するべく放たれた炎は、その言葉と同時に掻き消えた。
間抜けな声を漏らすラウルは、靡く灰色の髪を呆然と眺める。
「馬鹿、な……何故お前が!!」
混乱、困惑、混迷………理由もわからず叫ぶリヴェリアを見つめる2色の瞳は、しかし億劫そうに閉ざされる。
「騒がしいぞ、
傲慢に命じる。不遜に佇む。言葉が紡がれる度に、抗う意志が失われていく圧倒的な存在感。
「団長に命令すんな!!」
「くたばれ!!」
「こんにゃろおお!!」
迫りくるLv.6の戦士達に、しかしやはり目を開け視界に収めることすらしない。ただ短く、一言。故に全てを蹂躙する。
「【
響き渡る禍々しい鐘の音。
回避、これを叶えず。
反撃、これを認めず。
防御、これを許さず。
絶対強者の蹂躙。
7年前の如く、灰色の魔女が奏でる音色が冒険者を蹂躙した。
「耐えるか、
「ふざ、けおって…………魔法無効化に、音の魔法……何故、お前が…………
ガレスの叫びに
「あ、あの魔法………あの魔法!? そんな、嘘だ!」
「ラウル!?」
炎の悪夢を思い出し顔を青く、白く変えるラウルの叫びに事情を飲み込めない団員が知っているのかと視線を向ける。
「リヴェリアさん達を『瞬殺』した、【静寂】の魔法!?」
「口を閉ざせと言ったが?」
再び瞳を伏せ、煩わしいと、己の言葉を聞いていなかったのかとラウルに問う。
意識を向けられた、それだけでミノタウロスの
高慢にして傲慢。それを行うだけの力を持ち理不尽に命じ、しかし存在するだけで心弱い者に服従を誓わせるその圧力にフィンとリヴェリア、ガレスは一人の女が脳裏に過ぎる。
「さて、手酷くやられたな、アステリオス」
そう言うと斬り落とされたミノタウロスの腕を拾うリリウス。
「戒めだ。今回の騒動が終わるまで隻腕で過ごせ………」
「むぅ…………」
「
「「「!?」」」
瞬間、リリウスの体から光が溢れる。象られるのは、
そのうち1つが一際強く光っている。その光が消え薄暗く染まり、代わりに別の円が光る。
再びリリウスの体へと吸い込まれる光。髪の色が灰から銀に変わる。
「【
「なっ!?」
その詠唱を知っている。その魔法に何度世話になったか。故にこそ驚愕する。まさか、レフィーヤと同じ? しかし、事前詠唱らしきものはなかった。スキル? 或いは、持続時間中なら何度でも変更可能な反則的な魔法なのか。
「【光の涙、永久の聖域。
「っ! とめろ!」
フィンの叫びに反応する【ロキ・ファミリア】。しかし第1級は殆どがボロクズのように成り果てた。
第2級が放つ魔法も矢も、リリウスは踊るように回避しながら、或いは尋常ならざる蹴りで大気を揺らし触れることなく破壊する。
「【三百と六十と五の調べ。癒しの
「【
発動する全癒魔法。広範囲に広がる聖域の如き光。
範囲内のモンスター達の傷を癒す。ベート達と戦っていた武装したモンスターの主戦力達の軽傷から、一般団員の相手にもならなかったアルミラージ等の重傷まで例外なく。
「…………どういうつもりかな?」
困惑だらけの内心を悟らせぬように訪ねるフィンにリリウスが向けるは
「………………」
「…………?」
リリウスが、言葉に迷っている? ある意味獣並みに素直な彼にしては珍しい。
向けられる視線が向かうはヴィーヴル………いや、ベルが逃げた方向。彼を気にしているのだろうか?
「どういうつもりかと聞いている! それに、その魔法は何だ!? 何故、アルフィアの…………いや、アミッドまで!!」
「騒がしいことこの上ないぞエルフ。無駄に生きてきた年月で貯めた知識は何のためにある。少しは自分で考えろ………見目だけ保ち中身は相応にボケたか、老害」
ブチィとリヴェリアの中で何かが切れるような音が響く。
「きさ、貴様!? 今度はアミッドのようにおとなしくなるのではないのか!?」
「勝手に俺の魔法を決め付けるな。それとアミッドはあれはあれで意志が強い」
「ええい落ち着けリヴェリア! お前はどうして何時になってもその手の話題に惑わされる!」
「老け顔のドワーフの言う通りだ。まあ、見た目にふさわしい小娘らしさと言えばそれまでだが」
「誰が老け顔じゃい! 儂はリヴェリアと違い見た目通りの年齢じゃ!」
「氷漬けになりたいかガレス!」
騒がしい、と眉根を寄せるリリウスはモンスターの内1体に近寄る。ハーピィだ。
困惑したようにリリウスを見つめる顔はエルフのように整っていた。
「…………ぁ………」
声を出そうとして飲み込むハーピィに目を細めたリリウス。と、ハーピィが目を見開く。
「
背後から迫るはアイズ。
風を纏う神速の一撃をリリウスは歯で受け止める。
「……むぐ? ぇぅ………ああ、そうか、今は」
口の中に流れ込む風に首を傾げたリリウスはうぇ、と剣を吐き出す。アイズの追撃に対し、懐に入り込むと風を纏わぬ肘にトンと軽く触れ脇に腕を伸ばし………投げた。
「!!??!」
勢いそのまま空高く浮かび上がるアイズ。迫る壁に慌てて着地する。
「い、今あのモンスター………」
「喋った?」
「………あっ!」
リリウスの突然の凶行を忘れさせる程の現実に誰かが漏らした言葉にハーピィは慌てて口を押さえる。その仕草が、今のは気の所為でないと保証する。
「………………」
ピコン、とリリウスの頭に小さな魔石灯が光る幻覚を、ハーピィは見た。
「聞け、オラリオ」
それは命令だった。
「聞け、冒険者」
敵意も恐怖も、その声一つで鎮められる。
「暗黒を超えた先に光なく、暗愚を晒し時代の影を見つめるだけの愚物共。他ならぬお前達により、希望は摘まれた」
脳裏に過ぎるは7年前の悪夢。燃え盛る都市の中響いた声を、当時を知る者達は思い出す。
「
その声は高慢だった。
しかし彼は確かに最強。かつての時代を並び立った唯一。
そんな英雄が行う凶行に道化の眷族は困惑し恐怖する。
白き未熟な英雄の為に奸計を巡らさんとしていた旅神は脳裏に浮かんだ全ての案を踏みにじられた。
幸いなのは心弱いが故に蛇竜の咆哮に耐えられず何も聞くことのなかった住民だけ。
「全てはお前達が成すと嘯く救世、黒竜の討伐の為」
黒竜という言葉に、冒険者は誰もが反応する。決して聞き逃がせぬ、下界の滅びの象徴を討伐すると言ったのか? 今まさに人類への裏切り行為を行っている男が?
「彼等の名は
おい、と誰かが叫ぶ。それはやはり怪物が発した
冒険者達の顔に浮かぶは
「お前達では及ばぬ、【力】持つ者」
と、その言葉と同時に穿たれた大穴から複数の影が飛び出す。
美しい金の髪を靡かせる翡翠の鱗に、竜の角と尾、4枚の翼を持つ女。
青い髪と平たく伸びる竜の尾を持つ美しい女。
二足で立つ全身鎧で身を包んだかのような人型の蟲。
以前仮面の人物を背に乗せていた犬竜。
「俺と共に歩み、隣に立ち、黒竜を討つ同胞」
中には漆黒のミノタウロスに匹敵する存在感を放つ個体もいる。その背後で身を捩る蛇はそれ以上。
「故に告げよう。今のお前達に相応しい言葉を。怠惰なる者よ、お前達こそ【冒険者】。これまで通り、堕落を貪れオラリオ。下界は俺達が救ってやる」
オラリオを代表する【ロキ・ファミリア】。
今代の最強にして、現在の下界にて英雄とされる者達を、堕落したと下界最強の英雄は吐き捨てた。