ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
怪物とは下界の毒だ。
怪物とは人類の敵だ。
怪物とは存在が害だ。
それは潔癖なエルフだからではなく、人類なら誰もが思って当然の価値観。エルフとしては解放的で他種族への偏見が少ないウィーシェの森のレフィーヤでも持っている。
だからベルの行動が理解出来ない。怪物を庇うなんてどういうつもりなのか、と。
自分の獲物だと主張していた。
つまり、
何時だって自分の事より他人のため。他人のためなら自分が損したって、助かった誰かを見て自分も得したみたいに笑う人。そんなライバルがベル・クラネルというヒューマンだ。
じゃあ、何のために?
他の冒険者に魔法を撃って、罵声を浴びせられてまで怪物を追いかけて。
何がしたいの? ちゃんと話して!
そしたら少し怒って、小言を言って、注意して、貴方を許してあげれる筈だから! だから……
「…だから……っ………そんな、顔………」
そんな顔、しないで。そんな悲壮な顔は貴方には全然似合わないから!
「【解き放つ──】」
詠唱を唱えようとした、まさにその時だった。
地の底から響く咆哮に、多くの一般人が意識を手放し冒険者すら立つ力を失う。
続いて空高く伸びる光の柱。神の送還にも似た光景の後に響く轟音。ダイダロス通りの方角から…?
「アアァ!?」
冒険者のみならず怪物も怯えたように蹲る。攻撃するチャンスではあるが、ただの咆哮一つでそのチャンスを活かせるものはただ一人を除き居なくなる。
「【──ッ! 一、条の光!】」
意識と共に手放しかけた魔力の手綱を握り詠唱を続ける。同じく意識を手放なさずに耐えたベルが慌てて叫んだ。
「やめてください!」
無茶を言うな!
そのモンスターの爪がいつ一般人に向くか分かったものじゃない。四の五の言っている時間はない!
そのモンスターが人を傷つければ、
レフィーヤは杖を突き出し魔法を放った。
「【アルクス・レイ】!」
一度放たれれば標的を追尾し必ず当たる必中の光の矢。曲線を描きながらヴィーヴルへ向かう。絶望したような表情の少年は魔法の射線上に身を飛び込ませた。
「!? ア、【
モンスターの盾とならんとする少年に瞠目するレフィーヤは咄嗟に魔法を爆散させる。
至近距離で起きた爆発に吹き飛ばされるベルは、しかし直ぐに立ち上がりヴィーヴルを追いかける。
「………どうして」
呆然と足を止めてしまうレフィーヤ。しかし、直ぐに追いかける。多くの冒険者が気絶した今、少年を追いかけるのは自分だけ。
それは一つの分岐点。
「ウィーネ………!」
冒険者も一般人も気絶した広間に逃げたウィーネ。先程の悲鳴に怯え体を丸める彼女にベルが駆け寄ろうとする。
頭を抱えていたウィーネは虚ろな瞳をベルに向け震える唇を開く。べる、とそう言葉を漏らそうとした彼女に駆け寄るベルは、目を見開いた。
もしここに他の冒険者がいたのならそちらに意識が向けられていたかもしれない。或いは数多の魔法が振り注げば間に合わなかったかもしれない。
しかしそうはならなかった。だから間に合う。
間に合ってしまう。
「ウィーネ!!」
飛来する紅の槍。呪詛の込められた怨念の穂先は竜の少女を庇う少年へと突き刺さる。
「クソガキがぁ! 邪魔しやがって!!」
顔の半分を失った大男………
まさにその瞬間、巨大な何かが地を貫くような振動がオラリオを揺らし地面が崩れベルとウィーネは奈落へ落ちていく。
「殺す! 殺してやるぜぇ! 怪物を守るあのガキも! 怪物なんざ、人を殺すだけの化け物だろうがよぉ! そうだ、だから殺す! ひひ、ひひひひひ!!」
狂ったように笑う。否、狂った男は笑う。その背後に降り立つのは
「なら死ね。
放たれる死の光。肌が爛れ内臓が腐り血を吐き倒れる大男は苦しみを紛らわせようと叫び声をあげる………事すら出来ずに苦しみの中時間をかけて命を失う。
「…………クソ」
まだ間に合うか?
「死なせはしない」
崩落した穴に飛び込もうとしたリリウスは、しかしその声に止まる。振り返り、声の主に道を譲った。
「やだ! やだよぉ、ベル! ベルゥ!」
血と共に熱と生命が溢れているかのように冷たくなっていくベルに、ウィーネが出来ることなど何もない。
「ベル………おねがい。おねがい……! いっしょにいてよ! 一人は、やだよぉ!」
「1人じゃ、ないよ………」
泣きつく少女をあやすように、ベルは弱々しく少女の頭を撫でる。
「神様も、春姫さんや、リリ………リューさんたちだって………僕も、大丈夫だ、から…………少し休んだら、直ぐに」
嘘だ。
ベルは嘘をついている。優しい嘘だ。残酷な嘘だ。
「だか、ら………先に行ってて」
「やだ! 離れない! ベルとずっといるの!」
しかしその願いは叶わない。
切り替わった歯車は、そのまま進む。
故に………
「【未踏の領域よ、禁忌の壁よ。今日この日、我が身は天の法典に背く】」
それもまた、一つの運命。そこに愚者がいる事だけは決まっていた。
「【ピオスの
白の
「【王の審判、断罪の
神の送還と見紛う光の柱。天へと至る魔力の本流。オラリオの誰もがその光景を目撃する。
リリウスも黙ってその光景を眺め、隣をフラフラと進む妖精を見送る。
「【開け
下界の理を捻じ曲げる悪行がなされようとする中、しかし響く
「【止まらぬ涙、散る
超長文詠唱からなる禁忌の魔法。決定された運命に逆らい不可逆に叛逆する秘技。
「【光の道よ。定められた過去を生贄に、愚かな
古の賢者のみに許された『
「【嗚呼、私は振り返らない──】」
魔力の臨界。詠唱は完成した。フェルズの全
「──【ディア・オルフェウス】」
光の柱が砕け、無数の光が雪のように降り注ぐ。
螺旋をなし甲高い音と共に収束する。
少女がいた。少年に抱き着き、涙を流す少女。
自分でない誰かが生きていることを喜ぶ少女。
誰かの為に流された涙を見て、レフィーヤはもう少女を怪物と思えなかった。
「ベル………」
「っ!? レ、レフィーヤさん!?」
驚愕に震え言葉を探すベルの前で膝を崩すレフィーヤ。訳が分からない。何を言えばいいのか。
生きててよかった? その娘はなんですか。どうして骨が動いている。
聞きたいことが多すぎて、知らないことばかりで…………だから。
「全部、説明してください………そうじゃなきゃ怒れない。そうじゃなきゃ、許せない………ちゃんと、教えてください」
【サンサーラ・マンダラ】さらに追記
マンダラに描かれた人間は一度使うと暗く染まり使えないが、使用中は何度でもスキルや魔法が使えるのでアルフィアになればオラリオをほぼ殲滅可能。鐘の音が響きまくる。
後悟りに至るための行程として覚者の真似をする魔法なのでどんなに影響を与えようと悪影響は刻まれない。逆に魔法が発現した後に新たに刻まれることはある。