ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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才禍の怪物

 神の恩恵は人の持つ可能性を引き出す物。

 存在しない才能は生み出せない。だが、古来より人は恐ろしい怪物に挑み『覚醒』し抗ってきた。

 

 

 人の持つ可能性は無限の可能性を秘めている。

 

 

 

「カァッ!!」

 

 元はただの微精霊。されど精霊の力は、Lv.5のリリウスと言う増幅器を経て中位精霊と遜色ない雷を放つ。

 

「【魂の平静(アタラクシア)】」

 

 紡がれる一声(ワン・ワード)。たったそれだけで魔法が消し去られる。

 魔法の強さは詠唱の長さで決まる。その道理に逆らうかの如き規格外の魔法。リリウスは距離を取りマーダを構える。

 

 脳裏に浮かべたイメージは、正気を失いながらも確かに残った覇者の記憶。

 

「……………ほう」

 

 突撃と同時に、振るわれる剛剣。アルフィアが回避し、地面が割れた。

 

「あの剣は………!」

 

 その技に、ガレスが目を見開く。体格や膂力で完全再現とはいかなかったが、間違いなくあれはザルドの剣だった。

 

「ザルドの!? たった一夜見ただけで、修得したのか!?」

「あれは一つの究極系だったからな」

 

 流石に雑多な剣技を真似できる程の才能はない。だが、ザルドの剣は無駄がなくだからこそ真似が容易い。

 尤もこれはリリウスの感覚で凡百な才能では道理を理解すら出来ないだろうが。

 

「それより、今は敵に集中しろ」

 

 リリウスの言葉にガレスは斧を握る腕に力を込め、アルフィアに向き直る。

 

「ぬうううん!!」

「【五月蝿い(ゴスペル)】」

 

 対して女は、やはり一言(ワン・ワード)。発生した鐘の音が衝撃波となってリリウスとオラリオでも最硬の耐久を持つであろうガレスを鎧ごと吹き飛ばした。

 

「くぅ………」

「チッ」

 

 ギリギリで回避したはずなのに、余波で喰らっただけでこれだ。

 

 これが最強。千年間君臨し続けた女神(ヘラ)の歴史の集大成の1人。

 

「良く黒竜に痛めつけてもらえた程度で勝てたな」

「本気であっても、全力ではなかったからな」

「本気? どうせ、負けてくれるつもりだったくせに?」

「知って……いや、予想か」

 

 まあその反応からして、推測に大きな誤りはないのだろう。

 

「ふっ!」

「【風よ(テンペスト)】!!」

 

 疾風の如く駆け抜けるリューと言葉通り風を纏うアイズの疾走。迫りくる二人の剣士に、アルフィアは忠告してやる。

 

「そこはまだ『残響』が生じているぞ?」

 

 『音の名残(まりょく)』の中に飛び込んだアイズが目を見開くが、遅い。

 

「【炸響(ルギオ)】」

 

 魔力が爆ぜ……リリウスが飛び込む。

 

「ハッ……!」

 

 【天喰餓鬼(マハーグラハ)】による魔法捕食(マジックドレイン)。分厚い鎧をまとったガレスにもダメージを与えるほどの魔法を余波とは言え確かに喰らい、それでもダメージが少なかった理由がこれだ。

 

 魔力を喰らい、魔法の威力を減衰させる。残響の殆どを平らげ、自らのステイタスに反映する。喰らった魔力を炎に変え……

 

「【魂の平静(アタラクシア)──!?」

 

 炎を纏った左手を後ろに向け、炎を暴発させる。空中で軌道を変えたリリウスは足裏を爆発させ、その衝撃を全身に流し肘鉄をアルフィアに打ち込む。

 

「今のは、私の戦い方!? 見た見た、見たわよねリオン!」

「団長、吹き飛ばされたリオンの心配をしてやれ!」

「悪くない…………」

 

 魔法を囮に打撃を叩き込まれた腹を撫でながら、アルフィアが呟く。

 リリウスが地面を爆ぜ砕かせる衝撃を肘に流したのと逆に、衝撃の殆どを地面に流された。

 

「懐に入りすぎたな」

 

 剣を使えばもっと明確にダメージを与えられたかも知れないが、ステイタスの上がり幅が想像以上で目測を誤った。

 

「【福音(ゴスペル)】」

「ぐっ!!」

 

 距離を取ろうとするも魔法で吹き飛ばされるリリウス。

 

「第一級のリリウスやガレスおじ様を吹き飛ばすなんて、私が食らったらバッキバキのボキボキになっちゃうわ!」

 

 種族特性と戦闘スタイルから『耐久』の強いガレスと常に魔法を食らうスキルで魔法耐性の高いリリウス。第一級である彼等相手にこれだ、第二級のアリーゼ達ならもっとダメージを負う。

 

「だが、()()()()()()()()………魔道具(マジックアイテム)か」

「おうとも! 【万能者(ペルセウス)】特性の耳飾り(アクセサリ)よ! お前の正体を知り、フィンがあの娘っ子に作らせた!」

 

 アルフィアの魔法の属性は『音』。オラリオ最強の魔導士であるリヴェリア並の高火力の不可視の破槌。

 それに対応するために作られたのが『サイレンス・リラ』を改造した竪琴を模した紫色の『耳飾り』。

 

 固有振動数(ヴァイブレーション)同調拒絶(キャンセル)はもとより音量そのものの減衰させる加護を全身に張り巡らせ、音に付属するのならば衝撃波はもちろん壊滅的な歌の効果も減少させる。

 

 対アルフィア用の決戦防具。ちなみにリリウスはつけていない。魔力を食うリリウスは、意識しなければ魔道具(マジックアイテム)や魔剣はもちろん自身の魔法以外回復魔法すら喰らって効果を落としてしまうからだ。

 

 身につけていれば、やがて魔道具(アクセサリ)はただの飾りに、魔剣は脆い剣に成り下がる。なのでリリウスだけスキルで耐えているのだ。

 

「喧騒は直ぐに収まらないと言う訳か……煩わしい。だが、懐かしくもある。我々に打ち負かされる度に、お前達は対策を講じたものだったな、エルフとドワーフ。剣ならば障壁を、魔法ならば精霊の護符を、そして私の『音』にはそんな小細工を。かつての雑音は無駄ではなかったというわけか。救われたな、お前達自身の過去の遺産に」

 

 敗北の歴史。挑み続け、命を見逃され続けた……弱者として潰さぬよう撫でられた屈辱の歴史が、アルフィアへの対策を編み出した。

 

「ならば、その遺産が何処まで持つか、試してやろう」

「俺は関係ないがな」

 

 耳飾り(アクセサリー)からわかる通り、フィンもまたリリウス同様地下に来るのはアルフィアだと推測していたが、それはそれとしてどちらであろうと魔法に耐性のあるリリウスは地下に向かわせた。

 

 強いてザルドだった場合の違いを挙げるとするなら、暴走による巻き添えを避ける為に第二魔法を最終手段にするよう制限したことぐらいか。

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 放たれる大鐘楼の音色。如何に耐性を得ようと、近づいたそばから剥がされる。リリウスは水晶の柱を破壊するとアルフィアに向かい投げつける。

 

 魔法により破壊された水晶の向こうから飛び出してくる影。アルフィアが殴り飛ばすそれは………剣。

 缶切りとしても使える柄の先端に鎖が引っかけられている。

 

「!」

 

 背後から迫り絡みつく鎖。『釣り針』を持ったリリウスが鎖を引き寄せマーダを再び手にして突っ込む。

 

「【炸響(ルギオ)】」

「!!」

 

 効果が減少してもなおダメージを与える魔法を、あえて被弾。【天喰餓鬼(マハーグラハ)】の3つの捕食能力の一つ、損傷吸収(ダメージドレイン)によりステイタスの向上。

 

「があ!!」

「っ!!」

 

 上がりたてでありながら、熟練のLv.5のドワーフであるガレスにすら匹敵しうる剛剣。アルフィアは自由な足を開き蹴りで剣を逸らす。

 

「!!?」

 

 どころか、その際踵でリリウスの顎を蹴り脳を揺らす。

 

「リオン、輝夜! 合わせて!」

「私もいく!」

 

 Lv.3きっての前衛が同時に迫る。ただの上級冒険者なら、第一級でも無傷では済まない。だが、眼の前の女は正真正銘最強。

 

「遅い。掠りもしないなら、得物など振るうな」

 

 四人懸で、言葉通り掠りもしない。頭をたたき無理矢理脳の動きを止めたリリウスがその中にまじろうと駆け出す。

 

()()()()()

 

 おもちゃを振るう子供から奪い取るように、アイズから剣を奪うアルフィア。前衛の如き動きを行える後衛が剣を取った。たったそれだけで、リリウスの本能がアルフィアの脅威が強まるのを感じ取る。

 

「私の剣……! 返して!」

「剣とはこのように振るう」

 

 咄嗟にガレスが盾を構え…

 

「リオン! アリーゼ、輝夜!?」

「──!」

 

 瞬時に回避に移っていたリリウスを除き、ガレスごと纏めて吹き飛ばされた。

 

「今の剣は……!?」

()()()()()()!?」

 

 たった今振るわれたのは、間違いようもなく覇者の一閃。

 

「ふざけるなっ【暴食(ぼうしょく)】の剣だと! ヤツは魔導士ではなかったのか!?」

「一度見た動きは模倣できる性質(たち)でな。膂力までは真似できんが、『太刀筋』程度ならば、この細腕でも再現出来る」

 

 魔導の覇者が見せた覇者の剛剣。その理不尽に叫んだ輝夜にアルフィアは淡々と返す。

 

「『才禍(さいか)の怪物』………!」

「化物め!」

 

 リューと輝夜が表情を歪める中、ガレスは過去の敗北の日々を思い出しながら理不尽さを知らぬ後進に助言する。

 

「あの女を普通の物差しで測るな! 【ヘラ・ファミリア】の中でも異端だった、正真正銘の規格外だ!」

 

 魔導士であり、前衛。『魔法剣士』という万能職すら劣化版に変えてしまう完全なる『個』。

 

「才能とかいう理不尽な武器で敵を蹴散らす、暴力の化身よ!!」

「そうか。なら離れて近づいて潰す」

 

 バチチとリリウスの体から紫電が迸る。周囲の地面から浮き上がる黒い煙………否、砂鉄の霧。

 

「──!!」

 

 『精霊の雷』により発生させた磁力で操る質量攻撃。砂の如き粒の塊故に弾くこと叶わず、魔法を無効化しようと勢いは消しきれない。

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 ならば、魔法で諸共吹き飛ばす。

 

「しかし、やはり剣は合わんな。こんな小枝の如き細枝で振るっても滑稽なだけだ。返しておけ」

 

 と、剣をリリウスに向かい投げ付ける。腹を突き破り鍔がめり込みながら吹き飛ばされ水晶の柱に激突する。

 

「ジャガ丸くんのお兄さん!!」

 

 アイズが思わず振り返り、怯えた目でアルフィアを見る。心臓が早鐘を打つ。はじめて、人を怖いと感じた。

 

「安心しろ。私も子供が苦手だ。今のお前のように、()()()()()()()()()()()、私を見上げてくるからな………」

 

 と、そう呟いたアルフィアは水晶の柱が倒れ土煙が立ち上る場所に顔を向けた。

 そして、再開する轟音の砲渦。

 

「アリーゼ、皆! 離れて!」

「詠唱完了、打ちます!!」

 

 リャーナとセルティの言葉が響き、リヴェリアも続く。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 炎と雷、そして群を抜いた三条の吹雪。階層主さえただではすまぬ一斉射撃に、アルフィアは片腕を突き出し呟くように超短文詠唱を紡ぐ。

 

「【魂の平静(アタラクシア)】」

 

 不可視の壁に遮られるがごとく、魔法が全て霧散した。

 

「そ、そんな!」

「弾幕も、砲撃も、一定の領域に達した瞬間無効化される!?」

「あまつさえ、魔法を行使した直後でさえ障壁を発動させるか……!」

 

 魔法の切り替えが早すぎる。完全に隙を突いたはずのタイミングでなお、防がれた。

 

「ありえねえ! あんなのもう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 ありえない。

 理不尽だ。

 魔法は詠唱を行わなければ発動しないのだ。それこそ魔法の前提を覆す無詠唱の魔法でもなければ!

 

「………!!」

 

 と、不意に飛んでくる水晶の欠片。矢の如く迫りくる軌跡は歪曲せず真っ直ぐにアルフィアに向かい……

 

「【福音(ゴスペル)】──!?」

 

 アルフィアが奏でた音を()()()。そのままアルフィアの皮膚を抉り血を流させる。

 

「………振動か」

「ああ、水晶に電気流すと、振動するんだ」

 

 まだ残っているモンスターを食いながら傷を癒やすリリウスはアイズに剣を渡しながら、複数の水晶の欠片を握り締め電気を流す。

 

 振動する水晶同士がぶつかり合いギィィィと不快な音を奏でる。

 

「博識だな。どこで学ぶ」

「今知った」

「……………」

 

 精霊の力も、陸の王を模倣する力も、手にしたばかり。何が何処まで出来るのかリリウスは知らない。何なら砂鉄操作すら吹き飛ばされた後残っていた雷に反応したのを見て知った。

 

 だからこの戦いで、己に出来ることを把握する。

 今この場で最も未知数なのは、間違いなくリリウスだろう。

 

「面白い。が………」

「………チッ」

 

 燃え盛る業火が、階層の地面から天井へと突き立った。階層の中央に空いた『大穴』、その奥から感じる気配はアンフィス・バエナすら超える。

 

「破壊に苦しむダンジョンの慟哭。そして、誕生祭(バースディ)

 

 絡み合う炎の唸り声と、迷宮の苦鳴を縫って聞こえてきた声にリリウスは振り返る。

 

「邪悪の胎動。最悪の顕現。原初の幽冥の名の下に、契約をここに果たす」

 

 先程の炎は神を狙っていたらしい。立ち上る炎の柱を背に、僅かな手勢を率いて神がゆっくり歩いてくる。

 

「邪神、エレボス!!」

 

「さあ、終焉を連れてきてやったぞ」

 

 大穴より現れる巨大な影。湾曲した角と裂けた大顎を持つ、悪魔の仮面を被った竜頭。

 巨躯でありながら前肢や後肢は細く、やせ細った蛇と人の合成獣(キメラ)を思わせる。

 歪な翼からは漆黒の粒子が撒き散らされている。

 

「神威によって引き寄せられ、37階層より生まれた黒き異形。名をつけるとしたら………そうだな、『神の触手(デルピュネ)』といったところか」

 

 神を殺すために生み出されたモンスターは、神たるエレボスを忌々しそうに睨み目を細める。

 

「蛇みたいな竜………」

 

 アンフィス・バエナを思い出す。あれよりも強いのだろうが……………。 

 

「【月を喰らい太陽を飲め暴食の化身】」

 

 紡がれる詠唱。Lv.7の腕を鎧ごと噛み千切る、硬度無視の下界きっての攻撃力を誇る魔法が装填されようとして………

 

「っ!!」

 

 音の砲弾が飛んでくる。詠唱を邪魔され乱れた魔力をなんとか抑え、魔力を散らすリリウス。暴発は抑えられても、詠唱を再開する技量は持ち合わせていない。

 

「…………ふ〜っ!」

 

 持ってないなら、今習得する!

 精霊の力と同じだ。してなかったから出来なかったことを初めてして出来るようになるだけ。

 

「………………」

 

 アルフィアはリリウスの動きを見て、一瞬だけ目を開こうとしたのか瞼が僅かに震えた。

 

 並行詠唱を習得し、あのモンスターを食らい(殺し)階層をぶち抜ける力を手に入れる。

 

「見せてみろ、リリウス・アーデ」

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