ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
話し合いなどする気はない。
話させるだけ情報を話させて、こちらが話さなくてはならないタイミングで狂化魔法を発動する。
向こうがまだ話し合いをするつもりの間に手傷の一つでも負わせられれば上々。
極めて冷徹に、合理的に、確かに手傷を負わせた。
誤算なのは強さ。甲殻に罅を入れただけ。動きは少しと鈍らない。
寧ろやる気になっている。本当にさっきまで遊びだったのだ。いや、或いは今も。
「オオオオ!」
「ははは! いいぞ、来てみろ!」
刺突、防がれる。薙ぎ払い、弾かれる。石突、受け止められた。
拳、吹き飛ばされる。踏みつけ、地面にめり込む。爪、裂かれる。
光も映さぬ深い闇の目を持つ少年は、この世の全てを憎んでいた。誰にでも噛みついて誰も彼も嫌いで、喧嘩の絶えない彼は何時だって
一線引いた場所からかける言葉なんて届く訳もないのに。
あ、これが走馬灯か。
懐かしい、なんて何処か他人事のようにその光景を眺める。
そうだった。彼との始まりはこんな感じ。
一方的に知った自分が、闇を進む彼に道を示すふりだけして、勇者の義務を、小人族の代表の体裁だけ装った。
客観的に自分を評価できるのは、フィンの長所であり短所だろう。だから雁字搦めになって自分で自分を苦しめるんだこの男は。
昔はもう少しマシだった。これは客観的に見ても事実だと思う。
侮られる
何時から………自分は何時からこうなった。
こんな英雄になってやる、から………
『タクシャカ君置いていってよかったのかい?』
「タクシャカは逃げに徹すりゃリウっちからも2分は逃げられる俺達最速だ。多分途中で飽きて戻って来る」
と、ヘスティアの疑問に答えるのはリド。今回は誰も殺せない。厳密には【イケロス・ファミリア】は殺したが、それ以外を殺す気は
リリウス相手でもあるまいし、殺せない殺し合いほど彼等が飽きるものはない。仮に殺されてもヴリトラ同様蘇ってくることだろう。
「まずはオレっち達が帰らねえことには地上の戦力引き受けてくれたケートゥ達にわりぃ!」
まあ彼奴等は彼奴等で戦いたいから、とかいう理由なんだろうけど。と、パーティーメンバーのマナサーは思った。
とにかくまずは自分達が帰還しその報告をすれば彼等も戻ってくるだろう。一人、怪しいのがいるが。と………
「っ!? い、行き止まり!?」
と、『ダイダロスの手記』に記された
と、マナサーが振り返る。何もない空間から滲み出るように、
「やあ、ゼノス諸君」
「神ヘルメス? どうしてここに。いや、それより! どういうことだ、『扉』がない! 貴方の手に入れた『ダイダロスの手記』には………!」
「『ダイダロスの手記』ねぇ……誰か持ってるんじゃないかな」
でもヘルメスは持ってない。
ニコニコ笑みを浮かべるヘルメスは、とどのつまり
ヘスティアに渡した『ダイダロスの手記』はアスフィが不眠不休で現在確認できる範囲を書き一部を改変した偽物。アスフィは今日も激務です。
フィンの包囲網は完璧だったが、完璧が故に存在しない『扉』に向かうリド達は包囲網を一時的に抜けることができた。
「唯一の抜け道を用意できるのは俺だけさ」
「…………何が目的だ神ヘルメス」
「取引…………いや、お願いかな。死んでくれ、異端の怪物達」
ヘルメスの言葉に
「何、全員死ぬ必要はないよ。3、4匹犠牲になってくれればいい」
死を要望しながらもちっとも声色に変化がないヘルメスに、リド達は知らず一歩後ずさった。
「君達を救うためにたった一人の男の子が窮地に立たされている。もう一人は最強だから問題ないけど、ほら、ベル君は英雄の器だけどまだ英雄じゃないからさ」
ベルの名が出てリド達は今度は固まってしまう。ベルが今置かれている状況は理解している。それが自分達が原因であることも。
ベルに救われておいて、何もせず地下へ帰るのか?
「ごめんなさい」と謝罪だけして「ありがとう」とお礼だけ言って「助かった」と感激だけする?
「そんな事不誠実な神だってしないぜ」
恋人を騙す話術のように、体に染み込む毒のように、神の言葉は怪物達の心から罪悪感という膿を取り出す。
「神ヘルメス!」
彼等の心をもて遊び、ベルの覚悟に泥を塗るヘルメスにフェルズが激昂しても取り合わない。たかが八百年しか生きていない子供の言葉だと耳を傾けるに値しない。
「ベル君が選んだ、なんていうんじゃないぜ?
「……………」
「まあ、別に安心してくれ。リリウス君を怒らせるのは怖いからね。脅しじゃない、君達がどう答えようと、抜け道は用意するとも。偽りなく…………だから君達が選ぶんだ。ベル君を救うか、見捨てるか、ね…」