ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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過去と今

 それを防げたのは偶然だ。

 そもそもこの階層に階層主(バロール)が出現するなど誰が予想できるか。仮に階層主が出現するとしても本来なら躯の王(ウダイオス)神の触手(デルピュネ)辺りが出て来る筈。

 

 誰もが予期せぬ単眼の王(バロール)。咄嗟に回避ではなく防御を選択したのは、槍が反応したから。

 

 共鳴するように魔力を放ち纏う光がバロールの死線を遮る。

 恐らく素材にバロールが使われている。リリウスの帰還の時期から逆算すれば次産間隔(インターバル)が残っているので、似たような状況で現れたであろうバロールを。

 

「バロールか…………階層無視した影響は受けてるな」

 

 本来ならもっと下の階層で生み出すべき怪物。リリウスとヴリトラで殺した漆黒のバロールより弱い。

 

 階層的に現れるのは骸の王(ウダイオス)辺りが妥当なはずだが。ダンジョンが相当過敏になっている。

 

 お前のせいです、あーあ。

 

「まあ、いけるだろ」

 

 あれ、オッタルでもランクアップ確実とされる程(試練になる程)の階層主なんだけど。

 

「君、自分の弟子にも同じ事をしてるのかな!?」

 

 バロールの光線を躱しながら叫ぶフィン。

 

「? しただろ」

 

 18階層で。白兎が黒い巨人と戦った。

 

「してたなぁ、畜生!」

 

 年齢を考えれば幼く、見た目相応の少年のような叫びを行うフィン。

 色々文句言ってやりたいが、考えてみればフィンが憧れた種族最強は何時だってこんな苦難を乗り越えてきたのだ。

 

「オオオオオ!!」

「づぅ!!」

 

 光線はなんとか防げている。この槍のおかげだ。それでも『光圧』によりフィンの小柄な身体は吹き飛ばされる。

 

 直死の魔眼。にらまれた瞬間に跳んでくる光弾は第一級でも反応は難しい。フィンはそれを膨大な経験で予測する。

 

(攻めきれない!!)

 

 だが防戦一方。近付けない。

 

「オオオオオ!!」

「ぐうう!」

 

 素早いフィンに対して放たれる威力は低いが数だけはある無数の光弾。それでも第2級冒険者程度なら消し飛ぶ威力ではあるが。

 

 バロールの攻略法は本来なら死線を防ぐ者と攻撃する者で分かれる。魔導師が決めるか、魔導師の支援を受けた戦士が特攻。

 

 単騎で半死体になりながら半殺しにしたオッタルやかつて単騎で挑んでいた事もある【ヘラ】と【ゼウス】の眷属達がおかしいのだ。

 

 フィンの【ティル・ナ・ノーグ】なら倒しきれるだろうが、問題は発動する隙がない。

 

「……【魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て】」

「【ヘル・フィネガス】!!」

 

 故に、速攻。

 

「オオオオオオオオオオオオ!!」

 

 下層の竜種すら竦ませる咆哮を上げるフィン。駆け抜ける。地面が遅れて爆ぜた。

 

 次の瞬間、防御に回ったバロールの腕の肉の一部が弾ける。一瞬で距離を詰めた狂獣の一撃はバロールの肉体を破壊するだけの力がある。

 

 ドドドド!! と地面が砕ける。壁が弾ける。天井が爆ぜる。バロール本来の階層、広大な広間(ルーム)である「大荒野(モイトラ)」ではこうはいかなかっただろう。

 

 ここもそれなりに広いが、生まれた位置が悪かった。

 

 

 

 

 

「──────!!」

 

 響く、響く。走り抜ける音が。

 紅い瞳が此方を睨む。

 

 魂が震えた。

 

「オオオオオオオオオオオオ!!」

 

 剛腕が振るわれ、()()()()()()()()()()()

 

 

 

(自傷!?)

 

 自らの腕を持って視線を隠し、フィンの反応を超えた光線。回避が間に合わず、光圧がフィンの体を吹き飛ばし槍でも中和しきれない光熱がフィンの体を焼く。

 

「………なんだ?」

 

 何かが変わった。

 神に対する怒り、人類種への敵意とも異なる。自らの自傷も忘却の隅に追いやるそれは……………()()()()()()

 

 殺されてなるものかという生存欲求でも、この敵だけは殺すと言う殺意でもない。負けてなるものかという怪物の王(レックス)の誇り。

 

 階層の橋まで吹き飛んだフィンを睨み、死の閃光が放たれ────外れた。

 

「…………?」

 

 バロールは首を傾げた。

 

「??」

 

 リリウスは困惑した。

 

「……………っ!!」

 

 フィンは駆け出した。

 

 

 

 数は複数。大きさは馬。

 騎馬隊? 動きは、素早い。乗せている騎手は軽く………軽装の女、子供…………いや、小人族(パルゥム)

 

 それがバロールが見ている()()だとフィンは推理した。

 

 過去の記憶を持つ異端児(ゼノス)の存在を知ったからこその推理。今この瞬間、理由は不明だがバロールは過去と今が繫がっている。 

 

 自身の何かが永劫に迷宮を輪廻転生する魔物の魂の、消えきらず刻まれた記憶を刺激した。

 乗馬した小人族(パルゥム)の一団。たったそれだけの情報。顔も知らない彼等を信じる。

 

 その勇気を信じる。怪物の王の記憶に刻まれるほどの一団は、きっと臆すことなく向かったのだろう、と。

 

 そしてそんな一団を()()()()()()()()()

 

「オオオオオオオオオオオオ!!」

 

 バロールの咆哮と共に安全階層(セーフティーゾーン)に生まれる筈無き獣蛮族(フォモール)の群が現れる。

 

「どけぇ!!」

 

 槍の一振りで薙ぎ払う。

 

「【(あらた)なる契りを此処に】」

 

 紡がれる詠唱。

 聞こえるはずも無い馬蹄の音がフィンの耳朶を震わすことなく、魂に伝わってくる。

 

「【捨てられし真名、刻まれし光。右腕(うで)は裂け、傷口(きず)は哭き、五の一が開く】」

 

 高まる魔力にバロールが散弾を放つ。フィンは左に転身。

 

「【語れ賢者(フィネガス)よ、神工輝斧の担手(にないで)よ。騙れ偽者(フィアナ)よ、汝は赤を名乗る者。報いし猟犬は既に数多の槍とともに】」

 

 襲い来る怪物の群を突き破りながらフィンは駆ける。

 

「【轟く馬蹄、終わらぬ蹄跡、騎士達の歌は今もなお高らかに響く。すなわち誓約、小人(われら)が誇り。すなわち狼煙、小人(われら)は守護者】

 

 バロールの狙いが正確さを増していく。過去の幻影から現代に戻ってきた………訳では無い。()()()()()()()()

 

「っ!!【一族よ、集え! この御旗のもとに。同胞よ、続け。聖烈の光は今も先前に】」

 

 知りもしない過去。怪物相手に馬に乗る一団。間違いなく古代の話。過ぎ去った変えようもないその事実に苛立つのは、それが同胞だからだろうか。

 

「【我が名は一走(いっそう)、蹄鉄とともに駆ける者】」

 

 だけど同時に()()()()。怪物の魂に刻まれるほどの偉業を成した同胞が過去にいたことに。ただの記憶なれど、彼等と共に駆け抜けられることに。

 

 いいや、嘘だ。

 本当は彼等と共に最後まで駆け抜けたい。共に怪物の喉元に槍を突きつけたかった。

 

「【大いなる勇気(いし)のもと、今一度。もう一度。聖約(ゲッシュ)をこの手に】!!」

「オオオオオ、オオオオオアアアアア!!」

 

 バロールが叫ぶ。それは己に近付く死への恐怖か、或いは向かい来る勇者への称賛か。

 

 ビギリと地面に亀裂が走る。生み出される新たなる王。躯の王が迫りくる冒険者を貫こうとした瞬間、迫りくる雷を見た。

 

「空気を読めよ…………【常勝英傑火天】」

 

 何時の間にか詠唱を終えていたリリウスが曼荼羅に刻まれし覚者(カクシャ)の名を呟きその力を己に宿す。

 

 炎が怪物の群を焼き尽くす。咄嗟に生み出された神殺しの力を持たないただの階層主は即座に焼け死んだ。

 

「【もし許されるならば】」

 

 バロールの瞳が現代(いま)を駆けるフィンを捉えた。

 

「【今ここに、女神の一槍(いっそう)を】!!」

「オオオオオオオオオオオオ!!」

 

 放たれる死の閃光。放たれる、勇者の槍。

 

「【ティル・ナ・ノーグ】!!」

 

 小人の勇者が放つ激槍と怪物の王が放つ光がぶつかり合い周囲に光が撒き散らされる。近距離で放たれた槍の勢いを削ごうと魔力を絞り出さんとするバロールの瞳から赤い涙が流れる。

 

「オオオオオオオオオオオオ!!」

「貫けぇええええええ!!」

 

 突き進む槍はバロールの光線を打ち破り、バロールの上半身を消し飛ばした。

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