ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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英雄譚の怪物(デアラコラボⅡ)

 グシャグシャと執拗なまでの文字通りの死体蹴り。

 リリウス曰く魂レベルで気に入らない。食う気にもならないらしい。

 

「………………ふぅ」

 

 返り血で真っ赤になったリリウスは漸く足を上げる。

 

「そいつも向こうの世界の悪役とやらか?」

「フィアナとか言ってたからこっちの世界のだろ……………ゴォール…………は、ねえな。絶対ねえ」

 

 フィアナ騎士団の伝説において、仮にもフィアナ騎士団と並ぶ騎士団の団長が見て分かる戦うものではない弱さなわけがない。となると、小人族(パルゥム)の一部に伝わるウィーシェの騙るフィアナ騎士団伝説の王だな。名前は忘れた。あまり興味ないからだ。

 

「フィアナ…………まさか、コーマック王か?」

「知ってるのかエピメテウス」

「まあ、フィアナは俺の生きた時代の中の出来事だからな。フィアナが仕えていた国の王だ」

 

 流石、生きた歴史の証人。

 

「こいつの名前だけだが、フィアナに関しては全く知らぬ訳でもない。しかし、悪なのか、この男」

「ウィーシェの詩篇ではな…………だが確かに、あの英雄譚の敵と言ったら…………」

 

 と、リリウスとエピメテウスがその場から飛び退く。次の瞬間、光線が大地を抉る。

 

「オオオオオオオオオオオ!!」

「単眼の王!」

「屍の王もいるな………!」

 

 漆黒のバロール。分かりにくいけどたぶん漆黒種のウダイオス。それに従う怪物の群。

 

神の力(アルカナム)への耐性、あると思うか?」

「所詮は再現………だがまあ、ある前提でいいだろ」

「そうか……【英雄(わがみ)に宿れ、永炎(えいえん)の炎】【サタン・エンテカ】」

 

 エピメテウスの周りに現れる11の火球。一つ一つが精霊の分身(デミ・スピリット)の長文詠唱に匹敵する魔力が込められた規格外の魔弾。

 

 現在エピメテウスが扱う炎は3つ。一つはパンドラが身に宿った事により得た原初の炎。ダンジョン内で使うとダンジョンが怒る。

 一つはスキルによる炎。詠唱を必要とせず魔素への変換も行わない、リリウスの雷と似た炎。

 最後が魔法による炎。詠唱によりスキルで放つ炎よりも威力は上がる。

 

 そしてスキルと魔法は、当然だがデミ・アルカナムではない。故に神殺しの特性を無視して屍の王を焼き尽くす。

 

 単眼の王が光を放つ。二撃目の火球とぶつかり合い相殺。迫る怪物の群れを3つの火球が消し飛ばす。

 

 広がる炎を突き破り現れるリリウスが単眼の王の首を切り飛ばす。この程度なら相手にもならない。

 

「まだ来るぞ」

 

 と、エピメテウスは空を見上げながら言う。黒い影がこちらへ向かって飛んでくる。

 

「ゴアアアアアア!!」

 

 ドラゴンが現れた。漆黒のドラゴンだ。

 

「カドモスと邪竜の邪竜!」

「あれが? お前から聞いた姿と違うぞ」

「アフロディーテとアーディが見せてくれた本の挿絵と一緒だ!」

 

 ズウウン! と轟音を立て()で大地を踏みしめる。オラリオでやった舞台のカドモスは新デザインで本物に近い姿をしていたが、世間的に有名なのはこちらの姿だからだろうか。

 

「オオオオオ!!」

 

 牙を剥き、爪を鳴らす。

 吐き出す炎が岩をも溶かす。『歌姫と英雄』に討たれるまで、数多の英雄の命を奪う恐ろしき竜。その信仰にも似た畏怖を体現する邪竜。

 

 されど、此処にいるは剣をとった三千年間、最も多くの怪物を殺し最も多くの人を救った大英雄と、神時代に於いて最強へと至った英雄。

 

「力不足なんだよ、偽物。本物の方が強かったぞ」

「この程度の怪物退治をしろと言うなら、俺達では役不足も良いところだ」

 

 斬光と炎斬が邪竜の巨体を切り裂く。グラリと倒れる邪竜の頭蓋をリリウスの蹴りが砕いた。

 

「──────【おお、英雄よ。我を屠る一角(ひとかど)の竜殺しよ只では死なぬ。貴様の命も道連れよ】」

「あ? 舞台の台詞?」

「【その魂共々名を喰らい、我が悪名こそ時を超える歌としてくれよう】!」

 

 何か来る。リリウスは何かをさせる前に邪竜の頭を縦に割る。

 

「喋るのか、此奴等…………まるで舞台劇の…………リリウス?」

 

 その瞬間に、リリウスの心臓は止まっていた。

 

「!!」

 

 しかしすぐに氷の心臓は動き出す。血液が全身を周り、リリウスはゲホゲホと咳き込む。

 

「どうした!?」

「えほ………ちょっと、心臓とまって、た………」

「ちょっと心臓止まってた?」

 

 心臓ってちょっと止まって良いものだったか。

 

「何が起こった?」

「……………カドモスの『道連れ』だろうな」

 

 カドモスと邪竜の邪竜カドモスは『英雄と共に死んだ邪竜』。つまり、邪竜の死は英雄の死を意味する。そんな英雄譚の特性が反映されているのだろう。

 

「場合によっては本物以上に厄介だろうな」

 

 過去の再現ではなく物語の再現ならば、本物以上に作られている可能性が高い。

 

「臆病者の弱いものいじめしか出来ねえクランプスも、伝承だと悪い子を懲らしめる英雄殺しの怪物だしな」

「クランプス? ああ、あれか…………随分な言いようだな」

「たまたま殺せる英雄がいない時代に生まれただけだ。今のオラリオでも、なんなら俺とお前2人でも殺せる」

 

 まあバロール通常種よりは断然強いが。

 

「泉の女神を考えれば、この世界は悪役だけじゃないかもな。厳密には『悪を打ち倒す者』…………『英雄』が存在してねえのかも」

 

 まだ断言するほど情報を集めたわけではないが、この可能性が高いとリリウスは思ってる。案外狂三がリリウス達を招いたのは『英雄役』を欲したからかもしれない。

 

「取り敢えず、倒すべき怪物を探すぞ。それが今回のように英雄を道連れする類いなら警戒しろ」

「ああ、心臓が止まるだけなら問題ないが、頭潰れたら流石に死ぬしな」

「それと、最悪弱点以外効かない、なんて性質もあるかもしれん」

「……………………その場合…」

 


 

【サタン・エンテカ】

サタン(土星)11(エンテカ)

土星の第11衛星エピメテウスの事だよ。

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