ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「ベル君達に関わる『紙片』? そうだなあ、これなんてどうかな」
「……………んん?」
リリウスは深層に潜り、決戦に備えろと言われても少し寂しいアーディはふと、ヘルメスと一人の女性を見つける。
また何か良からぬことでも企んているのではないだろうか、と警戒するアーディ。ヘルメスの手が女性の胸やお尻に伸びたら直ぐに飛びかかれるように構える。
「ウィーシェの詩篇………世に出ることのなかった《マクールの書》に『語り部のオルナ』が記した《アルゴノゥト》……の、写本」
「!? 世に出なかったウィーシェの本に、語り部のオルナのアルゴノゥト!?」
「ひゃ!?」
「わっ、びっくりした。やあ、アーディちゃん」
が、聞こえてきた言葉に思わず飛び込んでしまった。
「マクール…………マクール? ううん、知らないなあ。ヘルメス様、どんな英雄なんですか?」
「さあ? 遺跡巡ってたらエルフの里跡で見つけただけだからね。途中まで読んだけど、なんというか英雄らしくない英雄だったかな。まあ、口の悪い実は優しい
「むむ。それ、リリウスは英雄っぽくないって言いたいんですか?」
「ああ、いや。少なくとも古代の英雄っぽくはないかな。怪物は殺したけど、結局国は救えないみたいだし…………」
ウィーシェがこれを世に公表しなかったのも、それが理由だろう。エピメテウスではないが、あの時代世界が求めていたのは勝利する英雄だ。アルゴノゥトは喜劇にして英雄だから別として、マクールはそういう性格ではなかった。
「エピメテウスもそうですけど、なんで過程を無視して結果だけを求めるんでしょうね。私はそのマクールって人も英雄だと思いますよ…………ううん、こっちも気になるけど、まずはアルゴノゥト!」
アーディが一番好きな物語だ。しかも三大詩人の一人『語り部のオルナ』作のその写本ともなれば、是非読みたい! 実はアーディ、アルゴノゥトに出てくる意地悪な占い師こそが『語り部のオルナ』ではないかと推測しているのだ。
「あ、あの、ごめんなさい………こ、これ。これから、使うので」
「あ、そうなの。使う…………誰かに読み聞かせるの?」
「いえ、その…………えっと。ダンジョンに………」
「ええ〜!? そんな、ダンジョン!? 破けちゃったり燃えたりしたら大変だよ!?」
「そ、それはそうなんですが………夢のお告げで………」
「夢〜?」
「でも、そっか。じゃあ仕方ないね」
「じゃあ、私もついて行っていい!?」
「ふえ!?」
「これでもお姉ちゃんと同じ
「でも、そんな………悪い、ですよ」
「? 私のわがままなんだし、気にしなくていいよ!」
「ま、まぶしい! こ、これは………陽の波動!?」
ニコリと笑顔のアーディ。太陽のようなその笑みに、陰の者であるカサンドラはひぃぃ、と小さくなる。
「ははは。じゃあ、俺はこれで。やる事色々あるからね…………アスフィに殺される前に帰らないと」
ヘルメスがいなくなる。残された
「…………あの、もしかしてカサンドラさん、私の事嫌い………ですか?」
「殺して下さい」
「カサンドラさん!?」
「あれ、カサンドラさんもう来てたんですか…………って、アーディさん?」
「あ、ベル君!」
「クラネルさぁん………!」
カサンドラの見た予知夢では『狙われし哀れな供物』『餓えし獣の王』………恐らくベルとリリウスに紐付く『紙片』を用意するといいらしい。
というか哀れな供物と聞いて思い浮かぶ僕って、と少し微妙な気分のベル。
「【
「アーディでいいよ」
「ア、アーディさんも………信じてくれてありがとうございます」
「う〜ん。別に、私夢を信じてはないよ?」
「「え」」
ダンジョン内までついてきたのにまさかの言葉。ベルとカサンドラは固まる。
「でも、カサンドラさんはそれを信じて行動するんでしょ? 手伝うって決めたからね。信じる信じないは、関係ないよ」
「いい人………」
「? な、なんで拝むの〜?」
なぜか拝み始めたカサンドラに困惑するアーディ。神様の一部もそうだけど、どうして自分を拝んでくるんだろう。と、その時……
「あ………」
「あれ、アイズさん? 奇遇ですね」
アイズが現れた。何かを探すように下をキョロキョロ見つめ、ベルの姿を見るなりアワアワしだし背を向ける。
「って、アイズさん!? どうして逃げるんですか!?」
「ベル君、アイズちゃんに何かしたの?」
「うっ。してしまったと言えば…………」
と、ベルが異端児の件を思い出し落ち込むとアイズが止まる。
「…………べ、ベル? ぐ、偶然………だね」
「いや、明らかに気づいてましたよね?」
「顔色が悪いというか、汗がすごいですけど…………」
「何かあったの?」
「…………な、なんでもない……………よ?」
何かあったんだ、と3人同時に察した。
「ええっと…………何か探しているように見えたんですけど、落とし物とかですか?」
「………………!!」
アイズはアセアセと視線を泳がせる。
「わ、わかりやすいなぁ………うんと…………それなら、私達も手伝いましょうか?」
「困った時には【ガネーシャ・ファミリア】だよ、アイズちゃん」
「あ、貴方達と…………ベル、も?」
アイズの視線がベルで止まる。アーディはおや、とアイズを見つめる。
「はい。なんだか、すごく困ってるみたいですし………」
「そうですね。皆で探したほうが早いですし」
「!?!?」
「アイズさん。その落とし物っていうのは、なんなんですか…………」
「………………えっと…………大切なモノで……………とっても、大切で………………えっと、大切?」
「僕に聞かれても………」
「ふふ。私、解っちゃったよ!」
「!?!?!?」
アーディの言葉にアイズがビクッと肩を震わせる。ビシッと神々の言うメータンテイのポーズを真似するアーディ。
「ずばり、ベル君からの贈り物!」
「!? な、なんで………」
「ふっふっふっ。私もね、覚えがあるんだ。あの戦いの後、リリウスったらね! 『結局俺一人じゃ大した役に立ってねえ。私情もあった』って、腕の礼だ〜って欲しいもの何でも買ってくれるってねっ! 私、一緒に本屋を巡って本を買ってもらったんだけどつい遠征に持ってっちゃって、
『ん……』と差し出されたのは無くしたはずの英雄譚。新しく買ったものではない。お気に入りのページに貼った付箋。少し汚れているが、間違いなくアーディの物。
『なくしてもいいが、落ち込むな。借りを返せなくなる』と、それだけ言ってアーディに渡す。あの本は、今でもアーディの宝物だ。
「アリーゼが言うにはね! 【アストレア・ファミリア】として潜るたびに何かを探してて、とうとう一人で深層にまで行って見つけて来てくれたの!」
「は、はあ…………これ、惚気なのかなあ……」
「流石、
「………ん、すごい」
カサンドラは困惑するも、ベルとアイズは何処か誇らしげだ。ベルは師弟関係らしいけどアイズも何かあるのだろうか?
「だからね、一緒に探してもらおう? ベル君は怒らないと思うよ?」
「そ、そうですよ! 僕、怒ったりなんてしませんから!」
「……………あの、ね………」
アイズがオズオズ口をひらこうとした時だった。不意に地面が揺れ、辺りが光に包まれる。
「………え? この揺れ、それにこの光は………!?」
「こんな現象見たことない。ダンジョンの
「ま、まさか、これが『
揺れが強くなり、光がいっそう輝く。光が収まると、そこには誰もいなかった。
エピメテウスは海を眺める。海の中で老人がエピメテウスを睨んでいた。
「やい、若造! ワシは海爺だぞ! この小僧よりも立派な馬め、小僧の命惜しくばワシの馬となれ!」
「……………知らんな。向こうの話か」
「ひひひ! 小僧が死ぬぞぉ!」
「……………身の程を知れ、木っ端な悪役程度が、リリウスを乗りこなそうなどと」
「なにぃ!?」
と、次の瞬間海爺がものすごい速さで移動を始める。
「こ、こりゃ!? 勝手をするな! 絞め殺すぞ! ああ!」
そのままグシャリと岩にぶつかり頭が砕ける。死体は荒波騒がしい海面に沈み、リリウスが出て来た。
「やけに苦戦してたな」
「引きはがそうとしても出来ねぇんだよ。たぶん、主人公はこうやって殺したんだろ」
これは狂三からも教わってない物語だ。
「……………………じー」
「ん?」
と、口でじーと言いながら見つめる金髪金目の少女………アイズがいた。
「……なんでお兄ちゃんがいるの?」
「お兄ちゃん?」
こほん、と咳払いすると岩陰から出てくるアイズ。なんだか雰囲気が………?
「あのね、お兄ちゃん。ママね、結婚するの」
「ママ?」
『じゃが丸くんのお兄さん……………私が、お母さんになってあげる』
ふと、昔そんな事を言われたのを思い出す。しかし、結婚?
「誰と?」
「ベル!」
「…………………そうか。それ、ベルは?」
「しらないよ! さぷらいず、だからね!」
クスクスケラケラと笑うアイズは、なんというかやけに幼く見える。しかし匂いや気配は間違いなくアイズ。
「だからね、お兄ちゃん達にも邪魔させないよ! やっちゃえ、ダイダロス!」
「ダイダロス?」
と、次の瞬間周囲の空間が歪む。壁が迫り出し、天井が空を覆っていく。
「そこに、怪物はいないよ〜。
ミノタウロスに肩車されながらアイズが手を振る。怪物………ミノタウロスに、
「ちぃ!」
「ひゃ!?」
何が起きているか察したリリウスはミノタウロスに向かい瓦礫を投げつけるが、アイズが風を使い弾く。空は完全に天井に覆われ、左右に壁。前後に通路…………複数の曲がり角。
リリウスとエピメテウスは、どうやら迷宮に閉じ込められたらしい。
海爺
出典・千夜一夜物語「船乗りシンドバッド」
シンドバッドが難破して流れ着いた島で、老人から「川を渡してほしい」と頼まれる。親切心で肩に乗せたところ、老人はシンドバッドの首に脚を絡みつかせて離れなくなり、夜も眠らせず何日間もシンドバッドをこき使い、食い殺そうとした。
倒し方
酔って眠らせて石で頭を砕こう。流石シンドバッド、寝てる老人の頭を砕くなんて容赦ねえぜ。
ダイダロス
出典・ギリシャ神話
ダンまち世界にも同名の存在がいる工匠・発明家。ミノタウロスを封じる迷宮を作り出した。リリウスとエピメテウスでも脱出には苦労する。
因みにベルだと『幸運』にも正解のルートを選び続けて数分で脱出出来た。