ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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魔女の福音

「というわけで、みんな! 連携、行くわ! 作戦は『蝶のように舞い、蜂のように刺す』! リリウスは自分の判断で!」

「「「了解!!」」」

「雑だな」

 

 前衛3、中衛5、後衛3の【アストレア・ファミリア】と遊撃のリリウス。

 【アストレア・ファミリア】はもちろん、リリウスも中々どうして、彼女達に合わせている。

 

「あれ、待って? 今リリウス手を貸せっていった!? あのリリウスが!? これって、成長!」

「団長、後にしろ!」

 

 ハッと気付いたアリーゼに叫ぶ輝夜。このタイミングで何を抜かしてやがるんだ我等が団長は!

 

「そうね! 後で撫で回すわ!」

「…………」

 

 リリウスは色々諦めたような顔をした。

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 障壁魔法を発動させぬために次々と迫る疾風も炎の壁も、その一言で前衛ごと吹き飛ばされる。魔法を食らうリリウスが『残響』を喰らいながら迫るも躱され、ヒールが腹にめり込む。

 

「かっ、ふ……!」

「マリュー、回復!」

「任せて〜! 【レア・ヴィンデミア】!」

 

 間延びした声で了解したマリューの治癒魔法が前衛達を包む。リリウスは一瞬光に包まれたが、怪我が少しも回復する前に消えて魔力が少し回復する。

 

「やっぱりリリ君には無理〜!」

「アミッド並になってからかけろ」

 

 それなら食い切る前に少しは回復する。後、アミッドは治癒範囲を持続できるのもでかい。

 

回復薬(ポーション)万能薬(エリクサー)も【勇者(ブレイバー)】から山程分けてもらってる!」

 

 と、ネーゼが投げてきた瓶を受け取り開ける時間がもったいないと瓶ごと口に含むリリウス。

 音の砲弾を躱し、瓶を噛み砕き中身を啜る。

 

「『氷嘴(ピッケル)』」

 

 氷で作られた巨大な鶴嘴。やはり詠唱はなく、しかし魔力は感じる。

 ザルドから聞いていたが、目にして確信したアルフィア。

 

「【暴食(ザルド)】でも、そこまで【悪食】ではなかったぞ。【魂の平静(アタラクシア)】」

 

 魔力で構成された氷は消え去り………迫る水晶の刃。氷の中に混ぜていたのだろう。

 掴み、投げ返せばリリウスは氷で出来た道を氷の刃を生やした靴で滑る。

 

「…………………」

 

 応用なら雷、使い勝手なら氷………炎は──

 

「アリーゼ」

「え?」

 

 アルフィアに向かうアリーゼの肩を軽く叩く。困惑しながらもアルフィアに駆けるアリーゼが足に纏っていた炎が爆発し加速し……

 

「ちょっ!?」

 

 想像以上の加速にアリーゼが目を見開く。が、仮にもオラリオでも上位の武闘派派閥。直ぐに対応して剣を振るうも、アルフィアはあっさり受け流す。

 

「すごい、今のどうやったの!?」

「………精霊の加護か」

 

 アリーゼの疑問に答えたのは、アルフィアだった。

 精霊と聞きエルフの二人がギョッとリリウスを見る。

 

「神々でさえ予想しなかっただろうな、お前のような存在は」

「そうか? 探せば案外いるかもしれん」

 

 なにせこの世には喋るモンスターもいるぐらいだし、と心の中で呟くリリウス。そも、予想出来ぬ未知があるから神々は降りてきたのだろう。

 

「会話に応じるのは、()()()のためか?」

「あら、作戦バレバレ!!」

 

 フィンが授けた作戦は持久戦。徹底的な魔法対策に、付かず離れず常に迎撃をさせるアルフィアにとって『嫌な間合い』を維持する事。

 その理由は…………

 

「…………ん?」

 

 ピクリとリリウスが新たな気配に振り返る。敵の援軍だ。一番近い位置にいるのは輝夜。ライラに何か言った後輝夜が迎撃に向かった。あちらは任せていいだろう。

 

「ちょっとリリウス! そろそろ戻ってきて、輝夜がどっか行っちゃった!?」

「……………」

 

 リリウスもリューとアリーゼと共にアルフィアに接近戦を仕掛ける。第一級1人と第二級2人に、アルフィアは息一つ乱さず冷静に観察していた。

 

「力と速度が上昇しているな。特に、紅い髪のお前。『魔法』の効果だけではあるまい。稀有なスキルを持っているな」

「フフン、良くぞ見抜いたわね! その通り、私のレア・スキル【正華紅咲(ルブルード・べギア)】の効果は──」

「アリーゼ、敵にスキルをバラしては駄目だ!」

 

 アルフィアの考察に自慢するようにスキルの詳細をバラそうとするアリーゼをリューが諌める。

 ステイタスが上昇と言えば………

 

「【炸響(ルギオ)】」

「ぎっ!?」

 

 リリウスも同様。魔法の通りからして、魔法吸収(マジックイーター)……少しアルフィアが知るそれとは違うが、魔法を喰らうと同時にその魔力を吸収し威力を下げ、精神力(マインド)と魔力に還元している。

 

 それと損傷吸収(ダメージドレイン)。明らかに負傷を調整している。

 

「リリウス、リューにも風あげられない!? ちょっとで良いから!」

「本当に、お前達は特別にやかましいな。早く消し去るに限る」

「あら、やかましいのも捨てたものじゃないわ? だってこうして、貴方の注意をひきつけられるもの」

 

 と、アリーゼ達に魔法を放とうとしたアルフィアの背後に現れるは小さな影。盾を持ち、突っ込む。

 

「おっらあああああ!!」

盾の突撃(シールドバッシュ)? ドワーフでもない小人族(パルゥム)のお前が、何の真似だ?」

 

 よろけることもなく、突っ込んできたライラに尋ねるアルフィア。それほど行為の意味が理解できなかったのだろう。

 

「うるせーな。頼まれちまったもんは、仕方ねえだろ……ちくしょう、解っていたが、何も効いちゃいねえ。が──今の『盾』の()()()で、確信したぜ」

 

 にぃ、と悪童の如く笑うライラ。

 

「なに?」

「お前の『無効化』の魔法は、『障壁』じゃねえ。『付与魔法(エンチャント)』だ」

「──」

「どういうこと、ライラ?」

 

 思いがけぬ言葉に肩を震わせるアルフィアに、困惑するアリーゼ。

 

「片腕を突き出して、呪文を唱える。それは全部偽動作(フェイク)ってことだ、さも逐一、『障壁』を展開しているように見せかけるためにな。アリーゼや【剣姫】の魔法と同じ。こいつは不可視の、そして魔法を打ち消す『鎧』を常に身に纏ってんだよ」

「…………ああ、あの時の感覚………魔法を食ったからか」

 

 アルフィアの腹に肘鉄を打ち込んだ時に感じた妙な感覚を思い出すリリウス。あれはアルフィアの纏う『鎧』を食った感覚だったのか。食いきれなかったらしいが。

 

「気付けよ!」

「無茶を言うな」

 

 そもそも魔法を被弾しながら食っていたのだ。ただ触れただけで食う感覚と結び付けろと言う方が無理がある。

 

「そうか、法外の攻守の切り替えの『絡繰』は、高速の詠唱の魔法執行ではなく、『防御』を常に発動していたから」

 

 魔法の同時発動は出来ないが、同時使用は行える。『防御』の魔法を常に纏い、『攻撃』の魔法で一方的に吹き飛ばしていたのだ。

 

「………それがどうした? 気付いたところで何も変わるまい?」

 

 相手の魔法は発動するが、こちらの魔法が防がれる、その事実は何も変わらない。むしろ隙を突こうがこちらの魔法は通じないという絶望的な事実が明らかになっただけだ。

 

「だが、お前は『魔法』を警戒する限り、その『鎧』を解除できない。永遠に消耗し続ける。魔法の『無効化』だなんてとんでもねえ代物だ。その涼しい顔に見合わねえ精神力(マインド)が、今もゴリゴリと削られてるんだろう?」

 

 つまり、魔法攻撃を続け『鎧』の使用を強制し続ければ確実に精神疲労(マインドダウン)に追い込むのも不可能ではない。

 

「私達が力尽きるのが先か、相手がバテるのが先か。うん、わかりやすくて良いわ! そして、勝機の材料も増えた!」

「リリ坊、奴の『鎧』を食い削ってやれ!」

 

 リリウスが触れれば、それだけで『鎧』は食われ精神力(マインド)の消費は加速するだろう。

 

「雑音を嫌うあまり、沈黙の楽園に代償を支払い続ける………それが貴方の弱点か」

「………正解だ。腹立たしいが、その洞察眼()は認めるしかあるまい。Lv.2の、しかも小人族(パルゥム)に二度も出し抜かれるとは。やはりただの腕力と、『技と駆け引き』だけで物事を測るべきではないな。お前のような小虫に足をすくわれかねん」

 

 事実として、アルフィアの魔法は魔力を湯水の如く消費する。いかにアルフィアがLv.7の魔導士に相応しい膨大な精神力(マインド)を保有しようと、いずれ尽きる。

 

「Lv.7に褒められるなんて、光栄すぎてションベン漏らしそうだぜ。で、良いのかよ女王様? 付与魔法(エンチャント)を解除しなくて。雑音を嫌ったままだと、アタシ達にいいように弄ばれちまうかもしれないぜ?」

「──何か勘違いしていないか?」

 

 ゾワッと、リリウスは思わず距離を取る。

 

「私が真実、煩わしいと思っている『雑音』とはお前達、有象無象の奏でる不愉快な旋律ではない。私自身の、この呪われた『福音』の音色だ」

「なに………?」

 

 呪われた『福音』。

 『音の魔法』。

 『静寂の魔法』。

 

 それらが意味する事に、真っ先に気付いたのはリリウス。

 

「お前の言う通り、私の【静寂の園】(シレンティムウ・エデン)付与魔法(エンチャント)。身に纏っている間、あらゆる外部の魔法を無効化する」

「『内部』もか………」

「………ああ、そうだ」

「…………は?」

 

 リリウスの言葉を肯定したアルフィア。その言葉に、誰もが固まる。

 

「無効化とまでは言わないが、私の放つ『魔法』まで()()()()()()()()()()()()()()

「「「──────」」」

 

 魔法種族の第一級(リヴェリア)の魔法にすら匹敵する超短文詠唱という法外が、それでもなお制限されていた。

 

「私の『静寂』は『鎧』などではない。煩わしき音を抑え込むための『封印』だ」

 

 ライラの指摘がそもそもの的外れであると、魔女は無意識に突き付ける。

 

(待って、それじゃあ──)

 

 アリーゼが絶句する。

 

(今までの、あの馬鹿げた砲撃でさえも──)

 

 ライラが戦慄に襲われる。

 

(──力を封じ込められた()()。『真の威力』ではなかった!?)

 

 リューが、絶望の気配に四肢を凍結させた。

 

「聞かせてやる。私が忌み嫌う、真の『雑音』を」

 

 次の瞬間。鼓膜を滑り抜ける甲高い音が鳴り響く。

 アルフィアを包んでいた不可視の力場が透明の輪郭を持ち、まるで陽炎が溶けるように一瞬揺らぎ、凄まじい魔の風が吹き荒れる。

 

付与魔法(エンチャント)を解いた!?」

「この風………! まさか、全部抑え込まれてた『魔力』だってのか!?」

 

 リリウスに遅れてアリーゼの本能が絶叫を放った。

 

「ッッッ! みんな、退避──!!」

「遅い」

 

 だが魔女は、冷酷にそれを遮る。

 静寂の封印を破った魔女は、冒険者に片腕を突き出した。

 

「【福音(ゴスペル)】────【サタナス・ヴェーリオン】」

 

 魔法の威力は上がった。それでも変わらぬ超短分詠唱。

 告げられた破壊(まほう)の真名。

 全ての音を奪う空間の震撼の後、極大の『福音』がかき鳴らされた。

 

「「「──────」」」

 

 破壊。

 衝撃。

 滅音。

 

 鐘の音に似た魔力の叫喚。冒険者の悲鳴を許さぬ音の極撃はあらゆるものを撃砕の渦の中へ押し流した。

 

 破壊され尽くされた、巨人の足跡の如き破壊の痕。

 襤褸屑のように倒れ伏す冒険者達。

 

「産声を上げる前から、私が犯した原罪の証………嗚呼、やはりこの音色が一番忌々しい」

 

 自らが作り上げた光景に、アルフィアは達観とともに吐き捨てる。

 

「今も昔も、全て奪うことしか出来ない」

「──────!!」

 

 土煙の中から飛び出してきたリリウスの剣を受け止めるアルフィア。

 一瞬だけ【ラーヴァナ】を発動し『耐久』を含めたステイタスを底上げした、魔法を二重の意味で喰いながら突き進んだのだろう。

 

「………奪う……産まれる前………あんたが俺に向けた罪悪感はそれか?」

「…………………」

「俺はあんたの妹の子でもなければ、才能を奪われた記憶もない」

「…………踏み込みすぎだぞ、小僧」

「お前が言うな」




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