ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
何度目かの行き止まりに、流石にエピメテウスも焦れてきた。
「………ここは精霊の異界に似ている、だったか?」
「ん? ああ」
「そうか」
身のうちに宿る天の炎が燃え上がり、壁を一瞬で焼き尽くしながら突き進む。
「ん? づぁ!?」
「………………何故」
リリウスの足元から噴火のように炎が出て来た。
「………………エピメテウス?」
「……………すまん」
ジッと見つめてくる火達磨にエピメテウスは視線を逸らした。炎はマーダから現れた
「…………精霊の力ならば、焼き尽くせないかと思ってな」
「狂三お姉ちゃんの世界側の精霊だろうからな。あれはダンジョンも勘違いする程度には
「まあ、たしかに、貴様の天の炎の方が上ではあるがな」
エピメテウスがこの世界を焼き尽くせないかどうかと問われれば、可能だろうとドゥルガーは言う。
「ただ、その規模の炎を使った場合妾達以外に巻き込まれてる奴等がいたら焼け死ぬし、出入り口がダンジョンに繋がってたら神殺しが生み出される」
それも、ダンジョンにとってはよりにもよって古代に我が子達の侵攻を防ぐどころか人類生息権を取り戻していったエピメテウスの炎だ。相当厄介なのが産み落とされるに違いない。
「むろん俺も、更に焼ける。こんがりだ」
「……………すまん」
「まあこの辺りの壁も異界の精霊の力由来だから回復出来るが……………ん?」
道の真ん中に婆さんがいた。汁物を作っていた。
リリウス達に気付くとスッと差し出してくる。エピメテウスは警戒しリリウスは何のためらいもなく飲んだ。
「婆汁飲んだ! 小僧が婆汁飲んだ、やーい! 流しの下の骨を見てみろ!」
「流し? 何処だ」
リリウスはクツクツ煮えたぎる鍋を掴むと一気に飲む。ゲラゲラ走り去る婆に向かい鍋を投げつける。皮が剥がれて狸が出てきた。どうやら生皮をかぶっていたらしい。
正体がバレた狸は何処から取り出したのか杵でリリウスを叩き…………リリウスは杵でついて狸を挽肉に変えて狸汁にして食いましたとさ。
「モグモグ。婆さんを殺して、食わせる…………かちかち山の狸だな」
「残酷な話だな」
「子供相手の寝物語らしいけどな」
「………………流石異世界だな。まあ、この悪を懲らしめる奴もいるんだろ?」
「背中焼いて、火傷に辛子味噌塗って、文字通りの泥船に乗せた後船が溶けて足掻く狸を櫂で叩き殺す兎が出る。この世界にはいないだろうけど」
「……………この迷宮には怪物は出ないんじゃなかったか?」
「ただの動物だからな。ちょっと喋るだけの」
肉を食い火傷も癒えた。リリウス達は再び迷宮から抜け出るべく歩みを再開した。
突如生まれたモンスターを何とか退治したベルと士道。精霊の力が増えた士道もだが、ベルの動きも見違えるようだ。
あっという間にモンスターを倒し、改めて自己紹介を始めた一同。
「それじゃあ、十香さんや四糸乃さんだけじゃなく、七罪さんも精霊なんですね」
「え………っ、いや、ていうか、もっと気にすることない? 今の何? モンスター………?」
「大丈夫だぞ七罪!この世界では力が漲って、《天使》が使える! リリウスが本気を出すと使えなくなるがな!」
曰く、リソースが全て持っていかれているのだとか。
「異世界熟練者こわぁ…………こっちはモンスターとか戦ったことないんですけど。後誰よ、リリウスって………」
「そっか…………そっち、モンスターがいない世界なんだよね。怖いなら、私が守るよ。安心してね!」
「あっ、はい……………陽キャだ」
七罪という少女はアーディからひぃぃ、と目を逸らす。
「教室で自分の立場を確かめるべくウェイウェイ騒いでる陽キャ気取りのクソ一軍と違って、本当に明るい本物だ…………」
「ああ、いますよね。【アポロン・ファミリア】にも居ました。騒がしくすることを人気だと勘違いした…………主にアポロン様を中心に」
「こっちは関わるのが怖いから放置してるだけで、騒がしいのを受け入れてるわけじゃないっての」
「ですよね。二軍ってだけで、発言権なくて………いえ、二軍とか調子に乗りました。ごめんなさい」
「あ、いや。悪いのはほら、騒がしい一軍だから………」
「一軍に何の恨みが」
士道は何故かどんどん沈んでいく二人に、何とか声をかけるしかできなかった。
「……………?」
何故か怖がられていることしか解らないアーディは困ったような笑みを浮かべた。
「ええと…………七罪ちゃんとカサンドラさん、声、なんか似てるね」
ついでに性格も。
「話は、まだ飲み込めませんけど………異世界の精霊さん達、なんですね」
「あったね、そんな話。アイズちゃんを探せ〜って言われてた時でしょ? 詳しくは知らないけど、あの後ガネーシャ様が踊ってたなあ」
「
「けど、アイズを救えたのはベルだからだぞ?」
「士道…………うん。そうだね!」
「…………………」
と、士道はジッとベルを見つめる。
「………どうしたの? 僕の顔に、なにか付いてる?」
「………ベル、お前、もしかして身長伸びたか?」
「えっ? いや………そんな事はないと思うけど」
士道と出会い、別れてから半年すら立ってない。冒険者としても、少年としても成長期ではあるだろうがそこまで変わってはいないはずだ。
「前より一回り大きくなった…………いや違うな。面構えが変わって、なんだか前より、頼もしく見える………」
「…………! …………………色々なことが、あったから。だからなのかもしれない」
出会いがあって、戦いがあって………決意があって、成長があった。目まぐるしく回るその中で、成長したと言われベルは無意識に微笑む。
「…………そっか。色々、あったんだな」
「うん。士道も、変わった気がする」
「俺も、ベルとお別れした後に色々あったからな」
本当に、色々と。お互い、互いを労うように笑みを向ける。
「………………えっ、何この二人。デキてるの?」
「なんでだよ!?」
「士道君、四糸乃達があれだけアピールしても靡かない理由は、やっぱり………!」
「だ、だめっ、よしのん! しーっ!」
「よしのんも四糸乃も絶対に勘違いしてるからな!?」
「うむ、そうだぞ! シドーはただ、前からベルのことをよく見ていただけだ!」
十香のフォローは逆効果であった。
「「やっぱり………!」」
「だから、違うって言ってるだろおおおおお!?」
「二亜がいたら絶対ネタにされたよ」
「薔薇が咲き誇る、あれだね!」
「薔薇とはなんだ?」
「しっ、しりません!」(知ってる)
「おいやめろぉ!」
騒がしい異世界組に、カサンドラは言葉を選びベルに問いかける。
「…………………えっと、面白い人達ですね?」
「あ、はははは………」
「薔薇が咲き誇る…………薔薇? う〜ん? なんで、薔薇ぁ?」
「な、なんででしょうね。わ、私も解らないなぁ」(解ってる)
簡単な自己紹介も漸く済んだ。再会を喜び異世界を楽しむ、と言うわけには行かない。
士道達は同じ光に呑まれた二亜と
「あ、後
カサンドラの『
「そいつぁ、心強いな………また敵対から始まったら今の戦力でも心許ないけど」
「え、どんな化物?」
「うむ! 確か……近接戦で私と渡り合えるアイズよりも強くて、人類で一番硬い体をしている! だいにきゅーでは斧を使っても傷をつけられないそうだ!」
「しかもなんと! 遠距離攻撃しても魔法とか霊力とかは吸収してダメージを減らして、自分の魔力とかを回復しちゃうんだよ〜」
「あ、後、何でも食べれて、た、食べた分だけ傷とかも治る、でしたっけ?」
「え、なにそれ、実は世界樹とか世界の根幹を食ってた系の隠しボス?」
「ま、まあ敵対するとは限らないし………顔見知りだしな!」
味方なら本当に心強いんだ。ほんと、味方なら。
「とりあえず、折紙ちゃん達を探すのが先かな〜。で、その次は、よしのん達の世界に帰る方法?」
「うん………わー異世界だー………とか二亜みたいにはしゃぐの、ムリ。ていうか怖いんだけど、その隠しボス。お家がいい、お家に帰りたい………ミジンコでカタツムリな私が異世界で俺ツエーなんて無理………寧ろ異世界に来てしまってゴメンナサイ、って感じ………」
七罪が何故か勝手に落ち込んでいく。
「えっと、七罪さんって………神様達の言うねがてぃぶって奴ですか?」
「ザッツ・ラーイト。よしのん達とおしゃべりしてる時は大丈夫なんだけどね…」
一先ずこの場にいない者達を探しつつ、帰る方法も調べる。前回と同じならば士道達が呼ばれた原因を見つけ、それをどうにかすれば元の世界に帰れるはずだ。
「原因か………あ、そうだ。カサンドラさん、何か心当たりはありませんか?」
「ええっ!? わ、私ですか?」
「そっか。私達、カサンドラさんの『
アーディはムムム、と唸る。こうして
「まあ良っか」
「良いんだ!?」
「夢を信じられなくても、夢を信じて行動するカサンドラさんの為に動けば結果は同じだしね」
「ま、眩しい!」
「? どうしたカサンドラ。別に眩しくないぞ?」
十香は首を傾げた。しかしすぐにカサンドラに問いかける。
「それで、カサンドラ。どうすればいいのだ?」
「そ、そのぉ…………えぇっと、初対面の人に夢の内容言っても、冷たくされるだけだし…………最初にリリウスさんが信じてくれた後も結局ベルさんしか信じてもらえなかったし、夢を覆すのは本人が前に進むしかないって、リリウスさんが示してくれたけどそれはそれとして人間関係は別だし…………結局あれ以来自分から話しにいけない私の言葉なんて、アテにしないほうが…──」
「……………あー………」
「七罪さん?」
勝手に落ち込んでいくカサンドラを見て、七罪がトテトテ歩み寄る。
「……あんた」
「はっ、はい?」
「カサンドラって言ったわね…………さては……トイレでお弁当食べるクチでしょ」
「ふぇっ!?」
「………それだけじゃないわ。普段から机で昼寝して陽キャの輪に入れない言い訳したり、修学旅行のグループ分けが憂鬱だったりするはず………」
「しゅ、しゅうがくりょこう?」
「お、おい…………七罪?」
「……………ああ、うん、ごめん。なんか同じ魂の波動を感じて………」
先程アーディも言っていたが、声だって似ている。生まれ変わりか何か?
「………いや、私なんかと似てるって言ったらいくらなんでも失礼か………ごめん。取り消すんで訴えないで。名誉毀損するつもりはなかったの」
「………そ、そんな事しませんよぉ………それを言うなら私の方が………」
「いや、私が………」
「いえ、私が……」
そしてお互いに相手を気遣わせたことに罪悪感を覚え更に沈み、己をより深く下に置こうとする。
「うーん、見事なネガティブスパイラル。放っておいたら、2人で地の底まで潜っていっちゃいそうだネ!」
「うむ! 七罪もすっかりカサンドラと仲良しだな!」
「ほ、本当に………?」
「声も似てるし、いいんじゃナーイ」
「なんだか、前にも見たぞこんな光景。耶倶矢とか、リリルカとか………」
主に声的な意味で。
「………二人共、時間があったら、一緒にお洋服買いに行かない?」
「「え?」」
「カサンドラさんは綺麗だし、七罪ちゃんは可愛いし、少し格好変えたら、気分もあがるよ!」
「いや、無理。無理です……ほんと、おしゃれとか勘弁してください」
「そ、そういう善意からの行動が………断りにくいというか」
「……………あ、その…………なんか、ごめんね」
善意を押し付ける気はないアーディは、少し悲しそうに俯いた。
「「殺して下さい」」
「なんで!?」
と、その時響く怪物の声。モンスターが現れた! ラッキー!
そして倒した!
「…………?」
「よし、やったか! ………どうした、ベル?」
「あ、ううん…………何でもない………」
「……………う〜ん。なんか、今のモンスター………戸惑ってた?」
「あ、やっぱりそう思います?」
自分だけの感想なら飲み込むつもりだったが、アーディまでも同じ意見だったようでつい反応してしまう。
「私、これでも世界一の
「歩いても歩いても岩の壁。どんだけ広いのよ………」
「うむ! ダンジョンはすごいぞ! 森や水晶に包まれた場所もあったりするのだ!」
「なんで十香が誇らしげなの………? けど、こんな場所が50階以上もあるって話だし………私、冒険者にならなくていいかな………」
一同は一先ず地上に向かう。原因が分からぬ今、神々に話を聞いてみるのが早そうだと判断したからである。
「神様かー………ま、神様なら何でも知ってるよね」
『
「神様とか、全然想像できないんだけど。どんな存在なの? 士道達は前に会ったことがあるんでしょ?」
「………………どんな存在か。う〜ん…………六喰みたいな感じ?」
身長は低いのに胸が大きいところとか、とある神に似ている。もしここに琴里がいれば服を貸した結果胸囲的な格差社会を味わった身として暴れていたことだろう。
「あ、その先の坂、登ります………」
と、上に続く連絡路が見えてきた。
「確か次は『霧の階層』だったな! 前にフィン達に地上へ連行された時、がらっと景色が様変わりしたのを覚えているぞ!」
「連行って………十香達本当に何をしちゃったのさ………」
「まぁ、その話は後で。十香さんの言う通り、この連絡路を登れば『上層』に出られます」
強いモンスターも減り、この面子なら問題なく地上に戻れるだろう。と、連絡路を登っていき………
「………………………えっ?」
目の前に、樹海が広がる。
「お、おい、ベル? 次は『霧の階層』じゃなかったのか? 何だか、樹海みたいな場所に出ちまったぞ?」
「そ、そんな! おかしいですっ! だって、ここは!」
「
「ダ、ダンジョンだから迷った………って話じゃなくて?」
「違います! 僕達は連絡路を上った! 下の階層に出るわけがない! そもそも、いきなり20階層だなんて………!」
と、その時……再びモンスターの群が襲いかかってくる。
「っ! 突破します! ついてきてください!」
戦闘ではなく退避。ダンジョンで何か、おかしなことが起こっている。それを確かめなくては。
「19階層の連絡路! また上に行けるよね? 深層に出たら一先ず引き返すよ!」
「はい!」
アーディの言葉に再び上に向かう連絡路を駆け抜ける。そして、目に映ったのは…………。
「……なっ?」
「これ、は………」
「お城?」
ある筈のないもの。
「ここは……………………ダンジョンじゃ、ない?」
「ダンジョンじゃないって…………どういう事だ、ベル!」
「解らない。けど、ここは僕達の知ってるダンジョンじゃない!」
「ダンジョンはモンスターの巣窟なんです! あんなお城、存在する筈………成立するはずがない! 階層がズレていることもそう! まるで、この場所が『悪夢』そのもののような………」
「…………『悪夢』」
アーディはふと、滅茶苦茶なこの状況が成立する嫌な記憶を思い出した。と、その時
「
「え?」
「のこったーーーーーー!」
「「「「熊ーーーーー!?」」」」
「えいや!」
飛び出してきた熊をアーディがコロンと転ばせる。
「な、なんですか、今の!? く、クマが、喋ってました!」
「ゼ、
「はっけようい、のこった………うむ、相撲をとる熊だったな!」
「その字面、意味わかんないよ!」
アーディに転ばされた熊は起き上がるとアーディに向き直り、そのまま伏せる。
「ええと…………背中に乗せてくれるの?」
「相撲する熊? 相撲に勝った相手を背中に乗せるって…………まさか!」
と、茂みがガサガサ揺れる。寝間着を着た狼が現れた。
「私の口が大きいのわねぇ…………」
「ふぇ………?」
「お前を美味しく食べるためさあああああ!!」
「うひゃああああ!? 今度は狼〜〜〜!?」
「えいや!」
アーディが狼の顎を蹴り飛ばした。