ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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黒の花嫁(デアラコラボⅡ)

ボツネタ

 

愚者エピメテウスとオラリオから追放(自己出奔)した頃の獣リリウスが英雄ではないので登場するという話も考えたけど『うーん、思ってたより弱ぇと思われていたみたいだ』にしかならないしそもそも物語が間違ってるから当然で盛り上がらないな、とボツ

 


 

 ニコニコと無邪気な笑みを浮かべるアイズは、何処か幼女っぽいというか年齢より幼く見えるというか。会った期間は殆ど反転した姿とはいえ、士道はなんだか違和感を覚える。

 

 行方が分からなかったアイズが無事な姿で現れたことにベルはその違和感にまだ気付けず駆け寄っていく。

 

「でも、英雄がいないって……どういう事ですか? 物語の魔物がいるなら、英雄達も…………」

 

 確かにここに来るまで物語の英雄も、主人公も現れなかったが………。

 

「私にとって、英雄は貴方(ベル)だけ………」

「? ぼ、僕………?」

「うん! 後は、お兄ちゃんも、かな………」

 

 困惑するベル。

 彼も段々と違和感に気づき始める。

 

「シドー…………何か、変だぞ。前にあったアイズとは、雰囲気が──」

「五河君!」

 

 と、不意に聞こえた声に振り返れば折紙、二亜、六喰。やはり彼女達も来ていたようだ。そして……

 

「あれ………誰?」

「え?」

 

 ()()()を含めた新たな4人がこの場に現れる。

 

「ええっ!? おんなじ顔の美少女が2人ー!」

「それじゃあ、あっちのアイズは?」

「ベル! その者から離れるのだ!」

「え?」

 

 ベルも漸く騒ぎに気付き振り返る。

 

()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()()

「っっっ!? うわあああああああっ!!」

「ベルー!」

 

 ずぉ、と広がるアイズの影がベルを飲み込む。影が再び平面に戻るとベルの姿が消えていた。

 

 アイズはその場でピョンピョンと嬉しそうに跳ねる。

 

「やった、やったぁ! これで、ずーーっとベルといっしょ!」

「!!」

 

 アイズがアイズに斬りかかる。アイズはアイズと遜色ない剣技でアイズの剣を受け止めた。

 

「貴方は、なに!?」

「おしえなーい♪」

 

 仕返しとばかりに振るわれる剣。アイズと同等の剣をアイズは受け流す。

 

「ベルを返して!」

「やーだよ♪」

「っっ…………なら、無理矢理返してもらう!」

 

 奇しくも2人のアイズは、同時にその詠唱を唱える。

 

「「【目覚めよ(テンペスト)】」」

 

 精霊の風をまとい加速するオラリオでも上位のスピード主体の剣士が縦横無尽に駆け抜ける。

 

 戦いを得意としない者達は、宙に咲く火花を何とか確認するのが精一杯。

 

「な、何がどうなってんのよ!?」

「わからない! でも、アイズに加勢するぞ!」

「どっちのアイズたんに!?」

 

 嵐の中心地のように吹き荒れる暴風に舞う二人の乙女。どっちがベルを取り込んだほうだっけ?

 

「ほ、本物っぽい方だ!」

 

 と、その時一発の銃弾が駆け出そうとした士道達の足元の地面を破壊する。

 

「全く、大人しくしているように言ってましたのに」

「狂三!?」

「御機嫌よう、士道さん。ですが、今はあちらの方々に用がありますの」

 

 優雅に礼をすると狂三は2人のアイズの間に歩む。片方のアイズはパァ、と笑みを浮かべた。

 

「あ、くるみ! やったよ、やったの! ベルはもう、わたしといっしょ! ハナれない!」

 

 母親に、綺麗な石を自慢する幼女のように駆け寄るアイズに狂三は仕方ないとでもいうように肩を竦めた。

 

「はいはい、まったく聞き分けのない子供ですこと。『指輪(これ)』でも食べて、知恵をつけてくださいまし」

 

 そう言って狂三が取り出したのは指輪だ。アイズが目を見開く中、アイズはあ〜ん、と口を開けて指輪をパクリ。

 

「指輪を食べたー!? なんか背徳的ー!?」

 

 良いよね、妻が他の男の隣で指輪をそっと外すの、と良く解らない事をいう二亜。

 

「その指輪………!」

「おい、あれって………まさか、精霊化したアイズを封印するために用意した指輪じゃないか!?」

「え? それじゃあもしかして、アイズちゃんが探してたのって」

「んく、んく…………コクン♪」

 

 口の中で味わう様にねぶり、飲み込むアイズ。

 

「ダメ! 返して!」

「だぁめ、ですわよ?」

 

 駆け出したアイズを狂三が止める。もう一人のアイズはその間に黒い靄に包まれていく。

 靄は形を整えるように蠢き黒い球体となった。

 

「なんだ、あれは!?」

「もう一人のアイズが黒い卵に飲み込まれてしまったぞ!」

「どうなっておるのじゃ? 何が起こっておる!」

「わっかんないけど、『メインディッシュ』。まんまと持ってかれた感じするよねぇ、これ!」

「あの、もう一人の私はなに? なんで、貴方達があの指輪を持っていたの!? 指輪をなくして、ずっと探していたのに! どうして!」

 

 ベルから貰った、大切な指輪。お守りとしてダンジョンに持ってきて何時の間にか無くなって探していた指輪が突如現れたもう一人の自分によりにもよって食べられアイズは叫ぶ。

 

「貴方は指輪を無くしてなどいませんわ、アイズさん」

「え………」

()()()()()()()()()()()()()()()()()──それが滑稽かつ愉快な、事の発端ですわ」

「何を言ってるんだ、狂三! どういう事なのか、説明してくれ!」

「そうですわねぇ…………『この子』が産声を上げるまで、まだ時間がかかりますし……少し、長話でもいたしましょうか?」

 

 狂三は黒い球体を一瞥し、士道達を改めて見回し嗤う。

 

「さて、リクエストがあるなら、順を追って説明いたしますけど………」

「………指輪が勝手に動き出したって、どういう事? それに、自我を持ったって!」

「言葉通りの意味ですわ。もう一人のアイズ(かのじょ)は指輪を食べたわけではありません。ただ、指輪が()()()()()()()()()()()()──」

 

 何故ならもう一人のアイズは、精霊化したアイズを封印した『()()()()()()』。そしてこの世界に訪れた者達は指輪(アイズ)の意思によって招かれた。

 

「まあ、例外もありますが………」

 

 狂三はクスリと含み笑いを一つ。

 

「馬鹿言うな! ただの指輪に、そんな事………」

「何を言っていますの? あの指輪は元々『精霊の力を封印する器』。ましてや、悍ましい『精霊の集合体』を封印していましたのよ?」

「! そ、それは…………!」

 

 世界を崩壊させかねない怪物。その欠片(セフィラ)を内包していた。()()()()があれば世を揺るがす危険な爆弾に違いない。

 

「…………そうだよな。そりゃそうだったよな」

「リリウスさんに瞬殺されましたけど、感じた威圧感は桁違いでした………」

「うむ………リリウスに一撃でやられていたけどな」

「リリウス君曰く『相性が良かったから勝てた』らしいからね〜」

「………………………」

 

 狂三は無言になった後、コホンと咳払い。

 

「まあ、とにかく。アイズさんを反転させた力が今回の発端ですわ」

「んー…………伝わってくる霊力の波も半端ないし、あのアイズたん、いや、指輪そのものがヤバいっていうのはよく解ったけどさぁ………どうしてくるみんがそんな指輪に従ってるのか解せないよねえ」

「同感じゃ。うぬは他人を主と仰ぎ、従うような者ではなかろう。むしろ背後から撃ち抜き、自らが女王を名乗ってもおかしくはない」

 

 皆好き放題言ってくれる。狂三のイメージは相当なようで、そんな感想にきひひと笑う狂三。

 

「折紙相手に『ずっとこっちの世界にいた』などと言っておったが、それが関係しているのか?」

「………! そうか、だから……その格好だったのか!」

 

 と、そこで士道が気づく。

 

「狂三………お前は『分身』なんだな? 【八の弾(ヘット)】で生み出された再現体………」

「流石に愛する方の目は誤魔化せませんわね。士道さんのお察しの通り、わたくしは『本体』ではございません」

 

 前回の騒動でアイズに切り捨てられた分身の一人。

 アイズの暴走をとめるべく奔走していた狂三。この狂三が覚えているだけでも44回ほどのループ。狂三の分身はアイズの霊結晶(セフィラ)に取り込まれた。

 

 そしてその世界線でアイズはベルにより救われ、精霊の集合体はリリウスにより滅ぼされた。時間逆行による事象改変は行われることなく狂三の分身は道連れとなった。

 

 つまり彼女は言葉通り『ずっとこちらの世界にいた』。ただし、指輪の中に。

 

「でもさー。やっぱり六喰ちゃんの言う通り、狂三ちゃんなら子分になんてならないで、後ろからパァン! しちゃわなーい?」

「仕方がないではありませんの。アレの正体は、いわば『精霊殺しの指輪』。本体のわたくしから切り離されたこの身は、彼女の庇護下に入る事でしか、存在を繋ぎ止められない………まったく、士道さん達も厄介なものを作り出してくれたものですわ」

「しょ、しょうがないだろ! あの時は非常事態だったんだ! それにあの指輪を作ったのは、確か………【万能者(ペルセウス)】って奴だぞ!」

 

 異界の精霊も封印できる指輪………そんなものを作れるアスフィが一番滅茶苦茶なのかともカサンドラは思うが口には出さない事にした。

 

「一番滅茶苦茶なのって、異界の精霊も封じれる指輪作れるアスフィさんなんじゃ…………」

 

 しかしアーディが口に出した。

 

 兎にも角にも、この世界に則り言うならば今の狂三はリングアイズの眷族(ファミリア)。彼女の恩恵により存在を保証され、力を与えられ、彼女に従う存在。この世界では当たり前の光景。

 

「………まぁ、それにこちらにつけば、士道さんをいじめられますし?」

「それが本音かよ!」

「ええ、ええ、本音ですわ。ここで貴方がたを始末すれば、アイズさんがベルさんを、わたくしが士道さんを好きなだけ貪れる。本体(わたくし)には悪いですけど、それも一興ではありませんこと?」

「めっちゃ怖いんですけど!?」

 

 中々倒錯した趣味をお持ちのようだ。

 

「待ってよ、くるみん。まだ肝心なことを聞いてない」

「くるみん…………まぁ、いいですわ。なんでして?」

「自我を持った指輪ちゃんの行動理由。あたし達をここに呼んだ目的は、なに?」

 

 ベルに執心のようだが、たまたま近くにいたカサンドラやアーディ、アイズは兎も角態々異界の精霊達も呼んだ理由が分からない。

 

「………それは、この子の口から直接聞いてくださいまし」

「! 卵が!」

 

 ビシッと球体に亀裂が走る。

 

「何番煎じかは分かりませんが、様式美のようなものですもの。言っておきましょう──」

 

 ドグンドグンと拍動するように霊力を放つ球体を背に、狂三は両手を広げ笑う。

 

「控えなさい! 魔王の凱旋ですわ!」

 

 十香が称したように、卵が割れるかのごとく球体が砕け散る。

 

「ん、ん〜〜っ。嗚呼、気持ちいい………力を得て、想いは募り、世界は広がった。これで、ベルとも沢山お話し出来ます♪」

 

 反転した折紙の霊装を纏ったリングアイズ。ただし、感じる霊力は其の比ではない。

 何よりも変わったのは威圧感よりも纏う雰囲気。子供らしさを残しつつも何処か妖美な気配を漂わせる。

 

「な………っ!」

「ア、アイズなのか?」

「本物とかけ離れているのもそうだけど、さっきと雰囲気が全然違くない………?」

 

 精神年齢が上がった? なんだか今の折紙に口調が似ている気がする。

 

「!! ま、まさか、『元の私(わたし)』から力を奪ったのは!」

「はい。霊力が欲しかったんです。純粋な霊力がないと、私は不安定。指輪以上の存在になれない。この世界には魔力しかないから、『精霊の結合体(ユニオン)』の力を引き出して、精霊(あなた)達を呼び出しました」

 

 この【幻書館(アシュフィリヤ)】も『精霊の結合体(ユニオン)』の権能の一つ。(マザー)以外の精霊の力を持つ、悪意に染められた精霊の力の一端。

 

「そう。魔力も霊力も、たくさん欲しかった。ダンジョンからモンスターを沢山呼んだのも、そのため……」

「! それじゃあ………」

 

 ベルとアーディが困惑していると称したモンスター達は、突然【幻書館(アシュフィリヤ)】に取り込まれたある種被害者達だったのだろう。

 

「十香さん達を呼ぶためにも、力をいっぱい蓄えておかないといけなかったから。魔力もいっぱい食べさせてもらいました」

 

 ペロリと小さな舌が唇を舐め湿らせる。

 

「………ダンジョンからは、モンスターが無限に産まれる、だっけ? 餌が無限なら、そりゃ力も溜まるってもんか」

「ダンジョンのモンスターを半永久的に呼び出して、制限なく力をかき集める。これが、私の見た悪夢の正体?」

「! お前の目的は何だ、アイズ!」

 

 無限に蓄えることが可能な魔力のみならず霊力まで求め、指輪以上の存在とやらにならんとするリングアイズに士道が問う。世界を揺らがす力を使い、何を求めるのか………。

 

「ベル」

 

 リングアイズは短く、だが迷いなく告げた。

 

「…………は?」

「ベルが欲しい。それだけです」

「え…………?」

「だって、ベルは私の英雄ですから。また、彼の温かい胸に戻れるなんて、夢のようです」

 

 祈るように胸の前で手を合わせ、うっとりと頬を上気させ目を細めるリングアイズ。怪しい光が揺らめく瞳は、過去の情景と、望む未来を眺めているのだろう。

 

「ちょちょ………!? あんた元々指輪でしょ!? そんなの妄想じゃん!」

「失礼な方ですね。指輪(わたし)が生まれて以来、私はずうっと彼の胸に(いだ)かれていたんですよ?」

 

 それは『抱擁』ではなく『所持』では、と呟く七罪の言葉など聞こえていないかのようにリングアイズは続ける。

 

「あの温かい胸も、優しく私に触れる繊細な指も、汗ばんだ時の湿度も、人知れず葛藤していた横顔も……もう、全てが尊いです! 全てがたまりません!」

「な、なんだか………既視感が?」

「こうして自由になる身体と、彼と離れなくて済む能力を手に入れたからには──もう、いっぱいペロペロして! ハスハスクンカクンカして! ベルの細部、分泌物まで余す事なく愛することが出来るんです!」

「……………………………神様?」

 

 アーディは首を傾げながら一部の女神達を思い出すが、士道達は別の存在を思い浮かべる。

 

「折紙だ………」

「折紙だな」

「折紙さんです………」

「うーん、これはオリリン」

「悍ましいのじゃ」

「やめてぇっっっ!」

 

 一同の評価に折紙(清楚(嘲笑)ver)は顔を押さえ叫ぶ。

 

「よりにもよって、折紙ちゃんの力を取り込んじゃったばっかりに、潜在的な口調だけじゃなく〈超変態性(オメガ・カルマ)〉まで同調(リンク)しちゃうなんて」

「よりにもよって、ってどういうこと!? 超変態性(オメガ・カルマ)ってなんなの!? 違うよ、私はそんなんじゃあ──!」

「私の顔で、変なことを言うのはやめて! 私はおかしくない…………!」

「だから私がおかしいみたいに聞こえるんですけどぉ!?」

「充分おかしいんだよなあ…………」

 

 七罪は叫ぶ折紙に残酷な真実を告げた。

 

「あ、あの………! その言い方だと、貴方はずっと自我を持っていたんですか?」

 

 何時でもアイズの下から勝手に動き出せる存在だったというのなら、何故これまで何もしていなかったのか。

 

「いいえ? 元々、私に自我はありませんでした。ただ、思慕の念があっただけです」

 

 精霊化したアイズを封印してからは想いだけが宿るただの指輪(アンティーク)

 

「──けれど、そこに『毒』が一滴」

「『毒』だって?」

「ええ。貴方の事ですよ……」

 

 リングアイズの嘲笑する様に細められた瞳が見つめる先に立つのは………

 

「もう一人の私、アイズ・ヴァレンシュタイン」

「私………? 私は、『毒』なんか知らない。私は、あなたに何もしていないっ!」

「嫉妬したでしょう? 怪物に」

「──────」

 

 脳裏に過る、竜の少女。

 

「ベルを恨んだでしょう? アイズ(わたし)の英雄じゃなくて、怪物の英雄になろうとしたあの子を」

 

 そして、少女を守ろうと己の前に立つベル。

 

「貴方の欠片が封じ込まれている指輪(わたし)にも、貴方のドロドロとした『劇毒(もの)』が流れ込んできたんですよ? そこで初めて、私には自我と呼べる強烈な思念が芽生えた───そう─────〝発狂〟です」

「「「「「は?」」」」」

 

 黙ってリングアイズの言葉を聞いていた一同が思わず声を漏らす。

 

「英雄になって、私を助けてくれるって誓ったのに! ベルは『怪物の英雄』になろうとしてる! 嘘つき、嘘つき、嘘つき!! 貴方は本当に愚かで優しいね! でもいや、そんなの嫌! 今回は大丈夫だった、ベルは遠くへ行かなかった! でも私は考えました!! 善人で愚者なベルはまた誰かを救って誰かの英雄になるかもしれない! いいえ、そうに決まっているっ!! なら今度こそ私を置いていってしまうかもしれない!! それが怖い! そんなの認めない! そんなこと許さない!!」

「「「「…………………………………」」」」

 

 士道の喉から掠れるような呆れ笑いが小さく溢れた。

 

「だから、()()()()()()()()()()()()!! ベルを囲うために、私の下で閉じ込めるために!! そうすれば、ベルは私との約束を(たが)えないから!! 健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も──」

 

 婚約を誓い結婚を前にした花嫁のようにうっとりと虚空を見つめるリングアイズ。その瞳に段々と粘つく執着の光が宿り始める。

 

「愛し、敬い、慰め、助け、貪り、啜り、縛って、噛み千切り、その命ある限り、真心を尽くす! 死が二人を分かつ時なんて、永遠に訪れない!! だって、私は彼が作り出してくれた指輪(ちかい)そのものだから!!」

「うぉぉぉ…………まさかの、ヤンデレ!」

「本当に、子供でしょう? 使役されるわたくしも、すっかり手を焼いていましたの」

 

 狂三は育児疲れを報告する若妻のようにため息を吐いた。

 

「勝手なこと、言わないで! ベルを返して! あの子は、誰のものでもない!」

「何を言っているんですか? 私は貴方。私はアイズ・ヴァレンシュタインの、本心の代弁者」

「!!」

 

 ダンジョンでの出会い、ミノタウロスとの戦い、闇派閥(イヴィルス)の残党から精霊の少女を救いに行く戦い、市壁の上での鍛錬、水の女神がいる異世界への転移、遠征後の18階層での思わぬ再会、メレンでの遭遇、神の宴での踊り、黒竜の鱗に守られた村での日々…………初めて敵として斬り結んだ騒動。ベルとの、様々な記憶が蘇る。ここ数ヶ月、ベルと沢山過ごした記憶。

 

「…………何を、言ってるの? 私は……そんなこと………思っていない!」

「ほら、貴方は何も気付いていない。だから指輪(わたし)がするの。指輪(わたし)は、ベルじゃないと嫌なの」

「っ……!?」

「無意識、無自覚、無秩序。なんて罪深い。あんな黒い業火と絶望を、体の内で飼っておきながら。でもいいです、貴方はそのままで」

 

 スルリと黒い手袋に包まれた指が下着よりも少ない布面積の霊装を纏う己の身を撫でながら、自身を抱擁する。

 

「だって、ベルはもう私のものだから──」

 

 瞬間、地響きを立てて現れるモンスターの大群。

 

「ふふっ。どうか貴方達の霊力も、魔力もください。その力を使って、私はベルと永遠の楽園を作ります」

 

 永劫たる神ならざる身で、寿命の先である天界に戻った魂の状態でない男と永遠に過ごそうとする黒の花嫁。その歪んだ愛を叶えるべく彼女が求めるのは更なる力。

 

「も、もしかして………私達をこの世界に呼んだのは………『養分』になれ、っていうことですか!?」

「はい♪ お残しはしないので、私に食べられてください。私は、私だけの英雄(ベル)がいてくれればいい」

 

 雄たけびを上げ、怪物の群れが贄へと襲いかかる。

 

「こんな時に思うのもアレだけどさぁ…………リヴェリアさんいたら、絶対気絶してたよね」

 

 

 

 

「……………リリウスが通気口に隠れたぞ」

「ふむ。何か、力でどうにかなるけど関わりたくない存在に怯えておるな」

「早く迷宮から抜けるんだろ。ほら、出てこい」

「エピメテウス、何か食べるもの持っておるか?」

 

 通気口の奥から爛々と覗く()()()を見つめ互いに顔を見合わせるドゥルガーとエピメテウス。

 目に熱を感じていたリリウスは、ピクリと肩を揺らすと己の背中を見る。【ラーヴァナ(魔法)】がチリチリと痛む。

 

 

 倒しても倒してもキリがない怪物の津波。一匹一匹がダンジョンのモンスターよりも遥かに強い。それはそうだろう。嘗て地上で猛威を振るった怪物に対する恐怖を記した具現なのだから。

 

「がんばりますね。ですが、どうかがんばらないで? 皆さんから頂いた養分は、決して無駄にしないと誓います。霊力は私達を導く愛の路(ウェディング・アイル)! 魔力は祝福の豊穣の雨(ライスシャワー)! 空っぽになった(みなさん)に贈るのは、紅い紅い返り血(ブーケ)! ベルも私の中で待っています。さぁ早く! もう諦めて!」

 

 愛おしそうに己の腹を撫でるリングアイズ。とどまることなき怪物の波濤に飲まれんとしている士道達などまるで見ていない。

 

「愛し合う、彼と指輪(わたし)永遠(ベーゼ)を邪魔するなんて、野暮でしょう?」

「うわぁ、なんて悍ましい! 純粋という名の邪悪! 無垢の怪物! 次回作のヒロインの参考にさせてもらってもよろしいですか!?」

「二亜さん! こんな時に職業病を発症させないでください!」

「これだからネタに飢えている漫画家って奴は!」

 

 四糸乃と七罪が呆れながら二亜を守りつつ戦う。

 

「気を付けて、一匹一匹の強さもそうだけど…………更に強いのが交じってる。多分英雄譚のネームド!」

 

 と、まさにその時………

 

「………………はえ?」

 

 アーディに迫っていた怪物の群れが槍の一薙で吹き飛んだ。

 

「…………は?」

 

 あまりに現実離れした光景。怪物の高波を突き破り現れる黒い巨人の腕を、突如割り込んだ影は蹴り上げる。

 

「……………は?」

 

 子供と見紛う体躯の戦士が放つ剛力に、士道はポカンと固まる。怪物の群れもあんぐりと口を開けていた。

 

「……………(くそ)が」

 

 疾走。

 爆砕。

 血風。

 

 白が過ぎ去った空間に空気すら残らず、飛び散った血飛沫ごと戻ろうとした空気の動きで大気が歪む。無限に湧き続ける怪物の波が、確かに僅かな時、凪いだ空間を作り出された。

 

「……………ま、まさか………物語の英雄!?」

「そんな筈…………ここに、英雄が現れるなんて」

「英雄じゃねえからな。所詮、物好きが(ページ)に刻んだだけの端役だ」

 

 槍を振るい、バシャッと地面に半円の赤い線を刻む小人族(パルゥム)は己の身の丈よりも長い槍を肩に担ぐ。

 

「……………何者ですの、貴方」

 

 吹き荒れる血の霧の向こうの影を睨む狂三に、白髪を靡かせた男は一言。

 

救えぬ騎士(マクール)

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