ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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最強の騎士(マクール)(デアラコラボⅡ)

「リ、リリウスさん……………? でもなんか、背が」

 

 100C超えるか超えないかと、小人族(パルゥム)としても小柄なはずのリリウスだが、今のリリウスは125Cはある。

 

「大人だー! 大人になったリリウスだ! わー、背ぇ伸びたね!」

「…………………」

 

 ヒューマンの成人女性。若くして上級冒険者になったが故に不変の神に近付き年齢より幼く見えるとはいえ、突然小人族(パルゥム)より背が高いアーディをジッと見つめるマクールと名乗った男。

 

「あれ、でもマクール? それって…………」

 

 カサンドラが持っていた本。ヘルメスがエルフの遺跡で見つけたというウィーシェ著書の《マクールの書》に刻まれた名前。

 

「ウィーシェの書……」

「…………あの物好きが刻んだ『紙片』か。おかげで死後も働かされるとはな」

「…………なら、何故来ましたの?」

 

 狂三が警戒しながら尋ねる。リリウスに似た容姿………リリウスと同等、とは流石に思いたくないがそれでも古代の英雄。神の恩恵なく、その身一つで怪物と戦い続けた戦士なのだ。その規格外さは先程も見せてもらった。

 

「いいえ、なにより、何故現れたの? ここ【幻書館(アシュフィリヤ)】に英雄の存在なんて認めてないのに!」

 

 苛立ったように叫ぶリングアイズにマクールが向けるは血よりも紅い瞳。この世の瞋恚の結晶にして、所有者を狂気に駆り立てる魔眼に確かな老練な理知を宿し、マクールは目を細める。

 

「何度も言わせるな。俺は英雄じゃねえ………国防を担っていただけで、何もなし得なかった時代の端役」

 

 故に、物語の悪役でもないが存在していた。

 

「ここに俺の本があり、後はまあ、俺に似てる誰かでも、お前がこの世界に招いたんじゃねえの?」

 

 全知の書といえど優先されるのは有名な書。後、リングアイズは関係ないが二亜の場合彼女の作品の登場人物(キャラクター)も現れたりした。つい最近ヘルメスが発見し、まだ誰にも読まれていない書のキャラクターがいるのは、それが理由だ。

 

「ここに来たのは………」

「…………?」

 

 アーディを見て目を細めるマクール。

 

「……………感傷」

「っ! ですが、ええ。先程は驚きましたが、所詮英雄ではない古代の戦士! お兄ちゃんなら兎も角、似ているだけの貴方にこの状況がどうにか出来まして!?」

 

 再び進軍してくる魔物の群。マクールはゴキリと首を鳴らす。

 

「お、おい! リリウス………じゃなくてマクール! 一緒に戦って──」

「馬鹿が」

「へ?」

 

 突然の罵倒に固まる士道。しかしそれは、()()()()()()()()自分を圧殺しようとする無知な少女に向けられた物。

 

「国防を担うってことは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「いやそうはならないでしょ」

 

 七罪の突っ込みはマクールに届くことは無い。()()()()()()駆け抜けたからだ。

 

 接触した魔物が爆砕。原型を留めぬほどに細かくちぎれ飛ぶ。速度は変わらない。

 

「うわぁ〜………」

 

 地面に刻まれた文字通りの足跡を見ながらよしのんが声を漏らす。尋常じゃない踏み込みだ。

 音速を超えて駆け抜けるマクールを阻むように立ちはだかる大気の壁を砕く度に、巻き添えを食らう魔物が千切れ飛ぶ。

 

 まるで大規模な魔法を行使しているかの如き破壊は、しかしただの突撃(チャージ)。鈍重だが強固な肉体を持つ魔物が押し潰さんと迫れば槍が胸の魔石を穿ち灰へと還り、集団で迫れば槍の一薙が大気ごと吹き飛ばす。

 

「端役の魔物では、相手にもなりませんわね」

「それなら、リンドヴルム!!」

 

 ダンジョンの希少種(レアモンスター)としてではなく、英雄譚に単なる竜種ではなく一つの種として確立される程の強さを持ったドラゴンが雷と共に呼び出される。

 

 現在のオラリオが確認出来る全階層において最速の竜が駆け抜ける戦士に追いつき牙を振るう。回避したマクールが頭蓋を蹴りつけるも、トンボのように急制動、からの後退、威力を殺す。

 

「リンドヴルム! 距離を取って! 遠距離から攻撃!!」

 

 主の言葉に従い上空へ浮かぶリンドヴルム。物語の誇張された怪物は大気を操り嵐を生む。

 雨の如く降り注ぐ雷。マクールはピリッと逆立つ己の毛を頼りに雷が落ちる前にその場から移動し回避する。

 

「さあ、空も飛べない人間が、どう戦います!?」

 

 リンドヴルムが英雄譚に個ではなくとも種として確立する名を与えられる理由。上空からの一方的な落雷。

 

 マクールは庭に植えられていた石像を破壊し、木々を圧し折りリンドヴルムに向かい投げつける。真っすぐにしか飛ばない木々など多少疾くとも回避可能なリンドヴルムは嘲笑する様に口角を歪める。

 

 勢いを失った木々が落下を始めた瞬間、マクールが跳んだ。

 

「!?」

 

 突然の強襲。木々の速度に慣れていたリンドヴルムは面を喰らうが何とか回避………マクールは未だ空中にとどまる木を足場に跳ねる。

 

「ガッ!?」

 

 次の足場へと移るために制限される動きは、しかし一瞬でリンドヴルムの羽と尾と牙をズタズタに引き裂く。

 

 リンドヴルムの感覚では自分の周りにあった木々と石像が吹き飛んだかと思った瞬間には刻まれているという悪夢。

 

 トン、と衝撃を殺しながら一際巨大な石像に天地反転のまま着地したマクールの足にキリキリと溜まる力。

 

 解放され、リンドヴルムの胸を槍が貫きながら地面へと落ちる。

 

 轟音と共に砕ける大地。急激な圧力による変形に赤熱化した瓦礫を槍で弾き蹴りで飛ばし魔物の群をすり潰す。

 

「ピイイイ!!」

 

 地上の英雄譚ではまず見ない閃燕(イグアス)。迷宮攻略譚に登場するであろうモンスターの群が瓦礫を回避しながら自滅覚悟でマクールへと迫り、マクールは飛び散る小さな破片を指で弾く。

 

 四方へ、1秒以下の間に行われた。

 士道の目にはマクールへと迫った小型の魔物の群れが突如弾けたかのようにしか見えない。

 

「……………?」

 

 唐突に、足元が海へと変わり沈むマクール。

 

「どわあ!?」

「み、皆さん! こっちへ!」

 

 四糸乃が氷の足場を作る。

 

「士道!」

「カサンドラ!」

 

 飛行できる精霊達が士道とカサンドラを拾う。アーディは幼い四糸乃や七罪の側に最初からいた。

 

「世界、適当すぎでしょ」

 

 屋敷や屋敷を囲む外壁は沈んでいない。と、水面が爆ぜ巨大な鮫が現れ………背骨を引きちぎりながらマクールが出て来た。

 

 水面を破り殺到するレイダーフィッシュを背骨で破壊していく。

 

「………………!」

 

 水面が丘のように盛り上がり、現れるのは巨大な蛸。

 

「タコー!?」

「小島のような巨大な頭。大海蛇を絞め殺す触手……『船飲み大海魔(クラーケン)』!?」

 

 【ポセイドン・ファミリア】に討たれた、英雄時代を生き抜いた怪物の一柱。

 巨木のような触手が水面を叩く。起きた波だけで氷の足場がひび割れる。

 

「マ、マクールは!?」

「あそこ!」

 

 マクールは水面を駆けていた。

 

「おお、あれが伝説の右足が沈む前に左足をってやつかー!」

「何を言っているのじゃ二亜?」

 

 パシャパシャと水面を駆けながらクラーケンを眺めるマクール。次の瞬間、水面が爆ぜマクールの姿が消える。

 

「ギシィィィィ!?」

 

 クラーケンの触手の1本が弾け飛ぶ。槍についた血を払ったマクールを沈めようと闇雲に振るわれる触手。大型船すら沈む高波、渦潮に士道達は氷の足場から振り落とされないようにするだけで精一杯だ。

 

 マクールは砂丘の如く荒れた海を眺め、加速。

 

 高波が爆ぜる度にクラーケンの触手が千切れていく。

 まともに動けなくなったクラーケンが猛毒の墨を吐き出す。広範囲にばら撒かれる黒雲の如き墨に対して、マクールは槍を一振。光が奔る。

 

 世界が斬り裂かれたかのように墨と()()()()()()()()()

 

「そうはならないでしょ…………」

 

 巨大なクラーケンを飲み込む大峡谷でこそないが足を失い遊泳が不可能になったクラーケンの巨体が水を裂きながら奈落へ落ちていき、空へと触手の残滓を伸ばすクラーケンの視界に映るマクール。

 

 鉄の如く硬い鱗を持つ筈の魚型の魔物の肉体に指を食い込ませ、槍のように放つ。グシャリとクラーケンの頭部と魚型の魔物が仲良くすり身に変わり()()()()()()()()()()()()海になっていた地面が戻る。

 

「だ、だったら! 殺せない怪物で!」

 

 現れるのは9つの首を持つ大蛇。マクールを噛み殺そうとした牙を回避すると地面が黒く染まりグズグズに溶ける。

 

 マクールが地に牙を突き刺した間抜けなその首を槍で抉り飛ばせば、傷口から首が2本生えてきた。

 

「ヒュドラだ! 気を付けて、首を飛ばしても増える! 後、不死身の首がある! 傷を焼けば再生しないよ!」

 

 そこは作家の二亜。弱点はしっかりしっている。

 

「でも焼くったって、ここに火なんて……………」

 

 士道が〈灼爛殲鬼(カマエル)〉の力を使えば、と思っていると、唐突にマクールは己の手を軸に槍を回転させ始める。

 

 ヒュンヒュンと大気を斬る音は、槍の加速とともにシイィィィィと甲高い音に変わり、円の淵が赤く輝いていく。

 

「…………まさか、空気との摩擦熱で?」

「いやだから…………そうはならないでしょ!?」

「でもなっているぞ?」

 

 七罪の突っ込みに十香は天然で返す。槍を止め、赤く赤熱化した穂先を確認するとヒュドラに向かい駆け出す。

 

 1本目の首が吹き飛んだ。断面は焼け焦げ、再生は不可能。それを確認したマクールはあっと言う間もなく全ての首を切り飛ばす。

 

「シャアアアアア!」

 

 だが一本だけ焼かれてもなお再生。

 

「それか」

 

 マクールは再び首を斬り落とし、再生を始めた断面に斬り飛ばしたヒュドラの首を叩き付ける。牙が傷口を黒く染め、ゴボリと沼のように泡立たせる。

 

 ビクビク痙攣したヒュドラの身体はやがて動かなくなり消滅した。

 

「……………つ、強すぎる。古代の戦士って、あれがデフォなの? 私、この世界の古代行きたくない」

「不死身のヒュドラに、ヒュドラの毒かー。今度の漫画の参考にしていいですか?」

 

 この間、10分すら経ってない。

 2つの異世界の伝承に刻まれるレベルの怪物を容易く屠ったのは、無名の戦士。

 

「こんなもん、時間稼ぎにしかならねえよ」

「……………………ええ、時間稼ぎ、ですもの」

「…………………」

 

 ガクリとマクールがその場で崩れ落ちる。

 

「え? 何が…………っ!」

「うっ…………力、が」

 

 マクールだけでなく士道達異世界の霊力を持つ者、アーディ達冒険者までもが唐突な虚脱感に襲われる。

 

「な、何が………」

「きひひひ、わたくしの力を、お忘れですか?」

「くる………み………!」

 

 クスクスと笑う狂三を睨みつけるマクールは両手をついてなんとか倒れないようにするのが精一杯。

 

「この、倦怠感と…………虚脱感は、まさか!?」

「ええ、お察しの通り。〈時喰みの城〉で皆さんの時間を頂戴していますわ」

 

 狂三の持つ能力。影を広げ、その影に触れている存在の時間を吸い上げる。以前学校でも使用したがその後の生徒達を思えば『時間』とは生きるためのエネルギーとでも言うか、恐らく寿命とは異なるエネルギー。むしろ寿命だったならマクールとしてはマシだったろう。

 

「い、いつから……いいえ、まさか、()()()()!?」

「そうですわ、折紙さん。この【幻書館(アシュフィリヤ)】はそもそもわたくしの〈時喰みの城〉を媒介にしています」

 

 本来分身のこの狂三は天使の権能を使うことはできないが、主の指輪(リングアイズ)から眷族(ファミリア)として力を分け与えられることでなんとかここまで漕ぎ着けた。

 

「大変でしたのよ? 碌に〈時喰みの城〉も【幻書館(アシュフィリヤ)】も機能せず、モンスターを攫ってせっせと力を掻き集めるのは」

「狂三は私のために、たーくさん頑張ってくれましたもんね?」

「こき使ったの間違いでしょう? まったく……」

 

 おまけに『はやくーはやくー! ベルにあいたいよー! まぁだー!』と駄々をこねると来た。新米ママ狂三の子育て記録はまた何時か。

 

「くっ、それじゃあ………俺達はこの世界に来てから、ずっと…………」

「ええ。静かに、少しずつ少しずつ、力を奪われていましたわ。気付いた時には沼から上がれなくなるように、じっくりと」

 

 ベルだけは違和感に気付いていたようだが、何か特別な『幸運(かご)』でも持っているのだろうか?

 

「むしろマクールさんにすぐに効いたことのほうが驚きですわ」

 

 本来なら登場人物でしかないマクールを、狂三は〈時喰みの城〉の効果から除外していた。あれだけの力を持つマクールがこんなにも早く動けなくなるとは思えない。

 

「貴方の『死因』に、何か関係があるのでしょうか?」

「…………………」

 

 マクールはジッと狂三を睨みつけた。

 

「最初から、罠を仕込んでおったということか………! おのれ!」

「うげー………だめだぁー………締切前の三徹くらい、力が出ない………」

「それってまだ、余裕あるってことじゃないの?」

「やーん………なっつんったら鬼編集ぅー」

 

 二亜はなんか余裕がありそうに見えるが彼女の性格と、徹夜続きで仕事したりする精神的な慣れだ。肉体を動かせる訳ではない。

 

「アイズさんを成長させる為、霊結晶(セフィラ)に『指輪』を接触させ直接取り込む必要こそありましたが、後はこの通り………そろそろチェックメイトと参りましょうか?」

「くっ、まだ!」

 

 再び迫りくる魔物にアイズ達は倦怠感に崩れ落ちそうになる体を立たせ剣を振るう。死因が『力を奪われ弱体化した所を殺された』マクールは動けずアーディが慌てて保護した。

 

「随分あがいたようですけど、もう終わり。この世界で許される英雄はベルだけ。お兄ちゃんも、迷宮から出てこれない。どうか皆さん、英雄がいない物語の中で、朽ちてください」

 

 咆哮上げながら迫りくる魔物の群にカサンドラは己の『予知夢(ゆめ)』を思い出す。

 

 左に回る時の針 数多の魔物は蘇り 昏き花嫁が嗤う

 

「これが、お告げが示していたこと? 私が、もっと早く詩の内容に気づいていれば………!」

「…………夢。そうだ、カサンドラさん…………紙片!」

「紙片………? あ!」

 

 マクールを抱き寄せたアーディは、その事を思い出す。

 

『ベル君達に関わる『紙片』? そうだなあ、これなんてどうかな』

 

 ヘルメスが渡した、ベルに関わる英雄譚。アルゴノゥト………その紙片が…………なんか輝いていた。

 

 

「!? なんですか!?」

「この、光は………?」

 

 紙片の光は強さを増し、周囲が無垢なる白い光に包まれる。光の奥に、誰かがいた。

 

「嗚呼、喜劇! なんて喜劇! 時代を超え、夢想を経て、再び舞台に躍り出るとは!」

 

 呵々大笑の声はまるで舞台役者かのように良く通り、その場の全員の耳朶を震わせる。

 

「あの『人物』は………カサンドラさんの英雄譚(ほん)から、現れた…………」

「………『英雄』? ありえない! 私は許していない! 【幻書館(ここ)】でベル以外の英雄の存在なんて、許可していない!」

 

 誰にも知られていない、何かを成してない故に英雄として伝わっていなかったマクールは兎も角、英雄譚から人が現れるはずがないとリングアイズは叫ぶ。

 

「誰!? 貴方は、誰!?」

「ヘルメス様の…………じゃあ、もしかしてあれって…………」

 

 アーディがその本を思い出しながら目を見開く。

 

「おお、誰何(すいか)の声が聞こえる! ならば答えるのが我が定め!」

 

 光の奥からその人物は姿を現す。汚れなき純白の髪に、マクールとは異なる紅い瞳。兎を思わせる、幼さを残した青年。

 

「我が名はアルゴノゥト! 始まりの英雄だ!」

 


 

Q.こんなに強いのに殺されたの?

 

A.はい。ダーナン姉妹が持つ天授物(アーティファクト)は大精霊よりも格が高い、神の授けた杯ですので。むしろ杯が罅割れる(オーバーフローする)程力が吸われた後でも並の怪物より強いマクールがおかしい

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