ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「
ヘルメスから渡されていた自分が持っていた書の英雄。あれだけ滅茶苦茶な強さを持ち、しかもフィアナの親。そんな存在が何故無名だったのだろうか。
「非戦闘員は下がっていなさい。安心して、貴方達に、一匹たりとも魔物を通す事はありません」
「おお、いい人。戦う聖女だー! むむ、その父親のマクールさんだっけ? まかせてカサンドラちゃん、私が調べて上げる! うおおー! 〈
頗るうるさい。
「出た! ええと、『マクール。親友ゴォールにつられ騎士となった男で主に国防を担って、救国をなしたこともなければ怪物から人の住まう地を取り戻した事もない、妻も守れず、何も成せなかった男』………うわ、ひっどい内容」
なんでこんな風に編集するのかね。この世界、成せなかったとはいえ懸命に戦ったであろう戦士に冷たくない?
「あ? 殺されてえのかてめぇ」
「ひぇ! ちゃうんですよ、この世界で編集されるとこうなるっぽくってえ」
先程までの聖女然とした様子は何処へやら。声にドスが利いたわけでもないのにチンピラよりもはるかに恐ろしく詰め寄るフィアナ。
「落ち着け………まあ、そう記されるだろうよ。だからあの詩人気取りも伝えなかったわけだしな」
「…………………」
リュールゥは無言で
「立って大丈夫なん、ですか?」
四糸乃が尋ねる。マクールは舌打ち。
「無理だ。ああ、俺がマクールであるが故に………」
物語、英雄譚を蒐集し再現する【
「だが、子供達が戦ってる姿を、座して見てられるかよ。俺が父であるが故の、見栄だ…………」
「…………はい、父様」
「なんか………照れくさいな」
「情けねえ動きしたらぶん殴る力もねぇのが心残りだが」
「そうですね」
「うん、フィアナの父親だなあ!」
「そしてお前の父でもある」
「そうでしたー!」
やだ、俺の父さんと姉さん、スパルタ過ぎ?
父が生きてたら地獄のような特訓さらに厳しくなってたんじゃとフィンは戦々恐々。
「守ると言った手前、申し訳ありません。打って出ます」
フィアナは仮面に手をかける。
「まあ、要するにこちらに来る前にぶち殺せばいいのでしょう」
「あらやだ、ノーキン」
「フィアナは昔っからそういうとこあるよ」
と言いつつ、フィンも仮面に手をかける。同時に仮面を取り、顕になる紅い魔眼。内から湧き上がる破壊衝動を制して、2人は魔物の群れへと
戦いではなく蹂躙。規格外の古代の英雄達の中でも、この二人は頭一つは抜けている。
「駆け抜けるぞ、フィネガス!」
突如現れた馬にのるフィン。その馬はただの馬ではない。
精霊。神々の恩恵なき古代、地上を救うべく遣わされた神の分身。騎士の刻む蹄鉄は魔物の海を切り裂いた。
「……………押されてますわね」
際限無く溢れる筈の無限の魔物が次々に屠られていく。供給が追いつかない。当然単独であったマクールよりも殲滅速度が速い。
「…………なんなんですか? 貴方達は、一体なんなんですか!!」
「夢の残骸さ。忘れ去られた後に残る、輝かしい軌跡の源でもある」
「……っ!」
「そんなことより、笑おう! あちらの彼女と双子のように似ている、可憐なお嬢さん! 口を開けて、心の底から! そんな悪い目つきばかりしていたら、可愛い顔が台無しだ!」
「………不愉快です。貴方、とっても不愉快!!」
「はは! よく言われます!」
都合のいいタイミングで、誰かを救いに現れた、それだけで不愉快なのにベルに似ていて、純朴さの欠片もない軽い態度が癇に障る。
「な、なんなの、あれ………?」
「よく喋るよね〜」
「何時ものことです。どうかお気になさらず」
「道化は多くの者を巻き込み、舞台で踊る。狂言を回して、相手を惑わすアルゴノゥトの十八番よ」
「…それって、本当に英雄なのか?」
言葉で相手を惑わすって、大凡英雄らしくないような。
「フハハ! アレがマトモな英雄であるものか!」
「だが、何時も通り敵の和が乱れた。ならばこの後も、何時も通りだ」
「何時も通りじゃと?」
「ああ………
英雄達が加速する。打ち砕き、引き裂き、吹き飛ばし、焼き尽くし、轢き殺し、貫き、叩き潰し、切り裂き、投げ飛ばし、宣言通りの殲滅。
あれだけいた魔物があっと言う間に………
「地獄など見飽きた。そして、この地獄は生温い。私達が見てきたものより、ずっと」
「単眼の王も、骸の王すらいないと来た。事前に、
フィンの言葉に士道はチラリとマクールを見る。彼相手に3体ほど、名持ちの怪物を召喚していた。速攻で殺されてたけど。
「魔物も粗方片付いた。そろそろ頃合いよ、アル。囚われのお姫様を助けに行きましょう……………少女でなく、男の子のようだけど」
「ああ。分かっているとも、オルナ」
アルゴノゥトは黄金の剣を構える。
「轟け! 雷霆の剣よ!」
雷が轟き雷鳴瞬き、空間に穴を空けた。
「精霊の雷が指し示したこの先に、君達の友が囚われている。行くといい」
「「「!!」」」
士道、十香、アイズが直ぐ様穴のそばへと駆け寄る。
「ちょーっと待って。さっきからコソコソ、少年二号が何処に閉じ込められてるのか〈
ペラペラとページを捲りながら顔を歪める二亜。
「少年二号を見つけても、深部に潜るほど空間が捻じ曲がって決して戻ってこれない。自由に行き来できるのは、くるみん達だけ………あ、でも〈時喰みの指輪〉? ってアイテム持ってれば攻略出来るって」
「そんな…………それじゃあ、どうすれば良いんだ!?」
「何も迷う必要はない! ここには『綴り手』が居るのだから! そうだろう、語り部のオルナ!?」
悔しそうな士道に、アルゴノゥトが笑い詩人の名を呼ぶ。
「そうね。私は見守る側だけれど、お節介を一つ、させてもらうわ」
スイッと指が宙を撫で文字を描く。文字の帯が十香に巻き付くと、十香の姿が古代の姫のような高貴さを感じさせるものとなる。
「おお、なんだこれは!? 霊装が変わったぞ!」
「私は観測者。本来は物語の住人ではなく、綴る者。そこにいるエルフと同じ」
「なぁに、私は歌を口遊むだけの吟遊詩人。書き記す者はオルナ殿を措いて、他にいますまい」
「よく言うわね………兎も角、私は詩人としてここに呼ばれたけれど、新たなページを書き起こすくらいなら訳はない」
「おお、同じ畑の人間だったんだ! ちょっとお話聞きたいな〜!」
書き記す者と聞き作家の二亜が親近感を覚える。
「ええ、機会があれば」
「あー、それ業界用語! 一生こないやつだ! あたしは知ってるんだぞー!!」
「黙っておるのじゃ、二亜」
「でも、この服っていったい何なんだ? ドレスみたいに見えるけど」
「その衣の持ち主は、王女『アリアドネ』。アルゴノゥトの喜劇に巻き込まれた、表の
後世において迷宮脱出の寓話となった彼女は『道標』の概念そのもの。ダイダロス通りに刻まれるルートを示す看板も
「その衣を纏う限り、赤い糸が導きとなって、出入り口に帰還出来る」
「もしかして、
「アリアドネ王女! そっかあ、こんな服を着てたんだなあ」
アーディは興味津々。十香も両手を広げて見やすくしてあげる。
「おお! オルナと言ったな! よくわからないが、ありがとうだ!」
「よし……! いくぞ、十香! アイズ!」
「ああ、任せろ!」
「ベル、待ってて」
3人は空間に空いた穴に飛び込んだ。
「もう、本当に何でもありですわね」
それも【
「物語の世界という都合上、呼び出される者は例外なく全盛期。おまけに後世が讃えれば讃えているほど『伝説』や『概念』なんて
オラリオの世界に於いて『英雄』は神とも異なる特別な扱いを受けている。この空間に於いて、彼等こそ全能に近い存在。
「…………自分で言ってて末恐ろしいですわね」
ただしマクールは誰にも知られていなかった『過去の実話』。伝説なんて付与されず、実は女神かもなんて後付けもない。純粋なる『過去の再現』にてあの無法な強さ。弱点が突けたのは自分の運がいいのか彼の運が悪いのか。
「狂三、追って! 早く!!」
「はいはい。まったく、
思い描いた結果とは異なるが、まあ結果は望む形に進みつつある。狂三は己の影の中へと沈んでいく。
「おやおや、よろしかったのですか? 自身の右腕を遣わせてしまって」
「魔物は全て片付けた。残りはお前だけだ、黒い花嫁」
最後の魔物を屠り、人狼の青年がリングアイズを見据える。無限に存在した魔物は供給をやめ、全て灰に還り、灰の砂漠が辺りに広がる。
「えっへっへ!! この数相手に敵うと思うなよぉ!ここからはずっとあたし達のターンだぜ!」
「優勢になった途端調子づくでない」
「追い詰めましたよ、アイズさん………!」
唯一残った最後の敵に向けられる数多の視線。それらを受け入れ、リングアイズは嗤う。
「…………追い詰めた? 誰が? 誰を? この世界の支配者は私。そしてこの世界は、私とベルが永遠になるまで──決して敗れはしない!」
「っ! 親指が、疼く………」
「年頃ですか? ディム」
と、周囲の
「……………なっ!」
翼を広げ大気を蹂躙する。地を踏みしめた爪が大地を砕く。
「グオオオオオオオオ!!」
「「「─────!!」」」
世界を震撼させる咆哮。歴戦の英雄達が息を呑む圧倒的な威圧感。蛇とも竜とも付かぬ長大な漆黒の体を持つ怪物。
「うわー! なにあれっ!? またドラゴーン!?」
「ちょ、ちょっと………デカすぎじゃない!?」
ベヒーモス程でなくとも、山よりも巨大なその姿によしのんと七罪が叫ぶ。
「く、黒い竜? まさか………!」
黒の竜。その恐ろしさを知るオラリオの住民たるカサンドラの顔が蒼白に染まるが、リングアイズは嗤う。
「『黒き終末』を呼び出せば、この世界諸共滅ぼされる………」
あれは長い歴史の中、『終末』の概念を得るに至ったが故にこの世界に存在させた瞬間、【
「ですから、その『邪竜』を差し上げましょう。『闇と絶望』の象徴に、どうか呑み込まれてください。私もベルの下へ行かせてもらいます」
そういうとリングアイズも影に沈み世界の裏側へと潜る。
「逃げられた! 五河君達が危ない!」
「待て、折紙。あの女の置き土産を何とかしなければ、追うこともかなわん!」
邪竜は己を呼び出したリングアイズが居た場所に尾を叩きつける。轟音と共に大地が揺れ、屋敷を囲む外壁、屋敷そのものがそれだけで崩れる。
「待ってよぉ………あれ、絶対ヤバイやつじゃん!」
「き、きます!」
咆哮をあげ英雄と精霊へと襲いかかる邪竜。巨大な爪が大地を引き裂く。余波だけで屋敷だった瓦礫が吹き飛ぶ。
「竜種か! 私達の時代でも、これ程の大物に出会したのは数える程しかないぞ!」
「嗚呼、思い出しますなぁ、騎士達の歌! 単眼の王に挑みかかった日が懐かしい!」
「単眼の…………フィン!」
「なんだ、エルミナ!?」
「やはり今すぐまぐわるぞ!」
「お前ほんとふざけんなよ!!」
ごぁ、と邪竜の口内に魔力が溜まり、放たれる。世界を黒く照らす破滅の光。大地を抉り、空間が歪み周囲の景色が混沌とかす。
「階層主…………ううんっ、もっともっと強くて、デタラメです!」
「リオンから聞いた
「〈
現れるのは巨大なパイプオルガン。
「〈
奏でられる音が精霊達に力を与える。
「〈
万物を凍てつかせる吹雪が迫る。
「〈
全てを破壊する闇が放たれる。
「グルオオオオオオ!!」
「「くう………!」」
煩わしいとばかりに放たれる砲撃。大精霊に迫る彼女達の力が、拮抗すら許さない。
「嘘!? 〈
「流石は竜! 魔物の王! ちびりそうになるぐらい強い! よって私に出来ることは応援することぐらい! みんなガンバレ〜!」
アルゴノゥト の おうえん!
「って、あんたも戦ってくんない!? 英雄なんでしょ!」
アルゴノゥト は なつみ を おこらせた!
「アルゴノゥトは逃げ足だけに定評がある男! 私が正面から戦っても、それは自殺行為だ!」
「英雄名乗ってて恥ずかしくないのあんた!?」
「全然っ!!」
「もうなんなのこいつぅぅぅーーーー!!!」
「畜生、幼少期一瞬でも憧れた俺の憧れ返せー!」
七罪とフィンの慟哭にアルゴノゥトは呵々大笑。
「私のファンの君! 後でサイン上げるから許してネ!」
「いままさにファンをやめたわ!」
そんな茶番を他所に邪竜は迫る。アマゾネスの剣、精霊馬に跨った聖女の槍も等しく弾く。
「………斬撃は通らん。龍鱗が硬すぎる!」
「4つもありますから、1つぐらい奪ってやるつもりでしたが痛みを感じる様子もなく抜いた後には癒えています。いえ、何か………」
エルミナとフィアナの攻撃をものともせず身を動かすだけで大気を蹂躙する邪竜。
「………ムックちん、そっちは!?」
「無駄じゃ。あの指輪もどきが何か細工をしたのじゃろう。むくの〈
「ヤッバイな〜。あたし達だけじゃなくて、ヒーローズの攻撃も効かないみたいだし……! このままだと………!」
「【フレア・バーン】!」
業火が龍鱗の表面で爆ぜる。
「フィーナ、どうじゃ?」
「駄目です。
「そうか。あれは………無理だな。我々では倒せん」
と、ガルムスが断言する。確信を持った言葉だ。
「ええー!? 諦めちゃうのー!? それじゃあよしのん達、踏み潰されちゃうよ〜!」
「蛇に、竜………リリウスがいたらなぁ!」
詩人のオルナを抱えながら邪竜の猛攻を回避し叫ぶアーディ。ただ動くだけで飛んでくる瓦礫ですら凡百の冒険者の体を貫く散弾となっている。
「あれは俺達の時代よりも以前、遥か太古の『邪竜』だ」
「ア、アルゴノゥトの時代よりも、もっと前の魔物?」
神時代以前の英雄時代…………それよりも古き、『炎』なき時代の邪竜。
「聞いたことがあるわ。大陸を破壊し尽くし、当時の英雄達ではついぞ討ち倒せなかった『闇と絶望』の象徴……」
あの竜が存在した時代、何度も地図が描き直された。国が消えるから、だけではない。山脈が湖に変わり、内陸が海に沈み、割れた大地が海を飲んだからだ。
「……あの竜は所謂『英雄殺し』よ」
「『英雄殺し』? ど、どういう………」
「要するに、この【
英雄故にその龍鱗を砕くこと叶わず、英雄故に仮に付けた傷も存在しなくなる。精霊たる四糸乃達の力が効かないのは、純粋に地力の差。
「ヤバヤバのヤバじゃん! そんな怪物、どうやって倒したわけ?」
「笑顔の素敵なお嬢さん、先程言っていたリリウスとは、今の時代を生きる戦士かな?」
「え? あ、はい………」
「ならばよし! フィーナ、どうか導いておくれ! 私がいない先の世にて、偉大なる英雄を戦場へ遣わした時のように!」
「え? ええ? でも………!」
「さあ、綴ろう、我が英雄日誌! 『アルゴノゥトの最高に最強の可愛い
フィーナの周囲を光り輝く文字が覆い、足元が光る。大英雄を戦場に導く者。与えられた役割に、フィーナは叫ぶ。
「も、もう! どうなっても知りませんからね!?」
「…………右だ!」
迷宮の中、リリウスの案内の下正解のルートを選び続ける。
魂の波長とでも言うか、目に見えない何かの繋がりを
目の前の上下の階段、左右の路へと繋がる広間にて、一つの道が光る。
床が輝きエピメテウス達の足元に達した。
「これは…………?」
「『導き』の概念………」
答えたのはドゥルガーではなくエピメテウス。光に触れた瞬間に、悟ったからだ。何故ならこの光の概念を持つ少女を、彼は知っているから。
「行くぞ。どうやら、俺達を必要とする戦場がある。出遅れたようだな」
「オオオオオオオオオ!!」
光り輝くフィーナを見て警戒するように吠える邪竜。その尾がフィーナを叩き潰さんと迫り……
「!? ギュアアアア!!」
炎と雷を纏う二振りの剣が弾く。龍鱗に刻まれる傷。
英雄として時代を作り、『英雄として確定した者達』には不可能な『これから英雄になる者達』の地力による偉業。
「………………この姿、ニーズホッグか」
「知ってんのか?」
「名前と、姿だけな。モンスターの侵攻初期に現れたとされる怪物だ。暴れた跡と言われる魔界を巡ったが、災害跡の方がマシだったな」
業火纏う、炎の大英雄。
雷放つ、若き英雄候補。
エピメテウス、リリウス・アーデ。迷宮を抜け、漸く戦場へと現れた。