ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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邪竜(デアラコラボⅡ)

 氷結の戒めを破壊した邪竜が狙うは、己を封じたリリウスと四糸乃。

 

「っ!」

「うひゃあ、お助け〜!」

 

 六翼で大気を掻き乱し迫る邪竜に身を竦ませる四糸乃。よしのんが見た目通り、兎の如き俊敏さで回避するも、邪竜は巨大過ぎる。

 

 大怪獣の如きサイズの〈氷結傀儡(ザドキエル)〉が己の全長の数倍を跳ねてもなお、邪竜の攻撃範囲。

 

「下がってろ四糸乃、よしのん」

 

 間に割り込むリリウス。バチリと紫電が弾け、夜闇を払う雷光が灯る。

 

 敵は破壊本能のまま暴れる怪物であり、長大な身で大地を蹂躙する蛇であり、世を滅ぼす邪竜。

 

 条件達成(完全解放)、『雷性付与(ヴァジュラ)』!

 

雷霆(バジリー)……威哮(ラヴァ)!!」

 

 ゴアアアアアアァァァァンンッッ!!

 

 獣の咆哮のような雷轟が響く。空気の振動そのものが物理的な破壊力を伴う。

 

「きゅ〜」

 

 間近で雷光と轟音を浴びた四糸乃は内臓を揺さぶられ目を回す。リリウスは四糸乃を折紙に向かい投げ渡す。

 

「ゴルル………ガアアアアアア!!」

 

 ギョロリと四つの目がリリウスを睨みつける。口内に膨大かつ禍々しい魔力が溜まり………

 

「わっ!」

 

 音の砲弾が喉奥へと突っ込み、魔力暴発(イグニス・ファトゥス)。己の魔力に焼かれた邪竜が魔力の煙から飛び出しリリウスを探そうとして、右両目に突き刺さる2本の槍。

 

「刺さってはいますが、効いていません!」

「治るにしてもせめて痛がって欲しいけどな!」

 

 二人のフィアナによる精霊の槍。現在を生きる精霊であるドゥルガーの武器でも『英雄』が使った時点で無効化される。確かに刺さっているのに傷ではないという矛盾。それでも、四つ目の内右両方が一時的に視認不可能になった事には変わりない。

 

「ブラフマーストラ!」

 

 リリウスは拳大の石を握りつぶし、無数の小石に変え放つ。光の軌跡が幾何学模様を描き、死角から殺到したただの小石が大爆発を起こす。

 

「え、何あの人。厄災の化身ですか?」

 

 七罪は引いた。ASTにあんなに強い人いなくてよかったなぁ。え、待って? 士道達あの人と一時的にでも敵対してたの? 生きてて良かった。

 

「グルルルル!」

 

 鱗が砕け、肉が弾け、骨を剥き出しにされてなお苦痛ではなく怒りで唸る邪竜。紛い物なれど漆黒種らしく、膨大な魔力を燃やし傷を癒やしていると、周囲に浮かんだ無数の瓦礫に火が灯る。

 

鍛冶の炎(レムノス)

 

 炎は瓦礫を溶かし、組成と形を変えていく。黒曜石のような漆黒の光沢を持つ無数の武具が炎を灯したまま邪竜へ殺到した。

 

 竜の鱗を貫き肉を裂き、骨を削る。傷口から炎が侵入し、火山の噴火のごとく爆発。

 

「オォ──ガアアア!!」

「浅い、か」

 

 リリウスのブラフマーストラを食らった時もそうだが、骨を完全に破壊し内臓に届くほどの致命打にならない。英雄には概念で殺されず、リリウス達に強さでも殺されぬ不滅の竜(ニーズホッグ)は再び傷を癒す。

 

「ぬううん!!」

 

 距離を取らせるのは不利と判断したのか、その巨躯による質量攻撃に切り替える邪竜の顎を槌でぶん殴るガルムス。

 

「ふん、ぬらあああああ!!」

 

 全身に血管が浮き出て目が血走り額で血管が切れる。限界以上の力を込め、振るわれる怪力自慢の土の民(ドワーフ)の一撃。

 

「……………うっそ〜ん」

 

 山のような巨体が打ち上げられた。二亜は漫画みたいな光景にぽかんと口を空けた。

 

 大きく仰け反った邪竜が晒すのは、どんな生物も大概弱点。内臓の伸縮、体の曲げ伸ばしの為に骨が存在しない腹。

 

 向けられる2人の覇者の得物。

 

厄火の陽(ミノア)

雷光投槍(シャクラ・シューラ)!!」

 

 炎の厄災。雷の大槍。

 業火と轟雷。鱗を焼き尽くし肉を消し去り内臓を焼く。邪竜の体内を駆け巡り口と眼球から雷と炎が噴き出る。

 

「ガ、ガ…………ガガガアアアアアア!!」

「ちっ、不滅か、此奴………!?」

 

 炭化した内臓が零れ落ちたまま翼を広げる邪竜。魔力が固まり、現れる複数の黒紫の光球。

 

「避けろ!」

「オオオオ!!」

 

 追撃をさせぬと放たれる砲撃の雨。四方に広がる破壊の散弾。

 

「攻撃規模は単眼の王の散弾なのに、威力は最大砲撃以上だぞ!?」

「ははは! いやはや、この怪物に挑む最古の英雄達は、決して弱くはなかったのでしょうな! 我々の株も下がらず済んだと言うもの!」

「言うとる場合か! 儂等も最古の英雄達のように嬲り殺されるぞ!?」

「っ! 防ぎきれない!!」

 

 回避する英雄達。非戦闘員の七罪や二亜達を守ろうとする折紙だが、砲撃の圧力に徐々に押される。

 

「【原初の死。夜の訪れ。昼夜はここに、死を過去とせよ】」

「【死の国に至りし死者の王。築き上げる楽土は、不浄を祓う】」

 

 リリウスとドゥルガーが詠唱する。精神力(マインド)が魔素へと変換され、精霊の奇跡が紡がれていく。

 

「「【如何なる罪過も通るに能わず】」」

「【死王の城壁(ジャムシード・チャットラ)】!!」

 

 空間が切り離される。

 生と死が混じわらぬが如く、二つの空間は断絶され、破壊の雨が途切れる。

 

「おい、亀裂入ってんぞドゥルガー」

カーリー(はは)が使っておった力の模倣だし」

 

 流石に世界を断絶する本物と比べれば脆い。

 

「無論、主様の位階が上がり神に近付けば別じゃがな」

「解ってんよ。永遠にいてやる………それが俺とお前の契約条件。とはいえ死んで魂だけで天界に住む気はねえ。長く持たせるだろうが、永くは待たせねえ」

「〜〜〜〜〜〜!!」

 

 ギューッとリリウスに満面の笑みで抱きつくドゥルガー。ムムム、と顔を歪めるアーディ。

 

「戦場でイチャイチャしちゃいけないと思いま〜す!」

「あ、あの、アーディさん。治療を………」

 

 カサンドラとアーディは回復要員。どちらも治癒魔法の使い手なのだ。

 

「よし、傷も癒えたわい! ほら、ぼさっとするな犬っころ!」

「吼えるな、鈍重なドワーフめ!」

「フィアナ、その馬貸せ」

「どうぞ」

 

 盾が消え去り再び接敵。あれだけ膨大な攻撃を放ちながらも己を回復させる余力を残していた邪竜は迫りくる英雄達を迎え撃つ。

 

 ダメージはなくとも衝撃が鬱陶しい。

 痛みはなくとも視界を一時的に封じられるのが面倒。

 

 ならば、まずは邪魔な羽虫を踏み潰す!!

 

「舐めてんじゃねえぞクソミミズ」

英雄(我等)を侮るな、邪竜」

 

 フィアナの槍とユーリの蹴りが邪竜の巨体を地に叩き落とす。轟音と共に大地に沈む邪竜を抑えるように氷が覆う。

 

 空を駆けるフィネガスに乗ったリリウスはフィネガスの背中から飛び出し片手を持ち上げる。

 

「え………()()()()()()()()()()()()

 

 七罪がドン引きしながら言う。

 

「【幻書館(アシュフィリヤ)】を構成する霊力を支配してる? ええ、何ナノ、あの子」

 

 何かと問われれば、最強の冒険者。

 

「ブラフマーストラ!!」

 

 落ちる巨大な光の矢。対策前の邪竜故に、神業を無効化出来ない。

 

 黒紫の蒸気を放ち傷を癒しながら耐える邪竜は、地に伏せたまま四つの視界の一つで、もう一人の己の天敵を捉える。

 

「【世滅の洪水(ガフ・デュカリオン)】!!」

 

 迫りくる炎の洪水。目に映る景色を焼き払いながら迫る業火が邪竜を飲み込んだ。

 

「オオオオオオオオオ!!」

 

 己を地に押さえつける戒めが消え、再び身を持ち上げる邪竜。

 全身の鱗は砕けるか熔け崩れ、4つの目のうち残るのは一つ。翼は骨と僅かな皮膜。満身創痍。回復もままならない。

 

「じゃあな、絶望………」

「俺達がいない時代に猛威を振るった、厄災」

 

 とどめを刺すべく互いに全力の雷と炎を得物に込める。油断はない。なかった………

 

「すごいぞカッコイイぞー! ほら、フィーナも見ろ見ろ! やっぱりカッコイイなぁ、エピメテウスは!」

「見てますよ! 知ってますよ! 何度も聞かされましたし、見ましたから」

 

 あれこそが英雄。人々の心に希望を照らす者。

 救いを希う民の望みを叶える者。嗚呼、故に………望みを絶たれる事を絶望と呼ぶのだ。

 

「「────!!」」

 

 ゾアッと肌が粟立つ。歴戦の戦士の勘。本能に従う野生の獣の勘。

 根本異なれど、どちらも何か良くないものを感じ取り中途半端に溜めた力を解放する。

 

 それでも凡百な竜どころか国を呑む厄災すら消し飛ばす一撃。英雄の一撃に相応しい2つの破壊は………打ち消された。

 

ワ、レ……ハ………

 

 地の底から響く様に禍々しく、空を落とすかの様に重苦しい声が響く。

 

我ハ、光奪ウ絶望………希望呑ム闇………

 

 世界が剥がれる。邪竜に吸われる。

 

 (リソース)を独占し、希望を消し去るだけの絶望へと進化していく。

 

 輪郭は崩れ、全身が暗く黒い純黒へと染まり赤い光だけが目の在り処を示す。

 

 希望が提示された。故にこそ、『闇と絶望』の象徴はより濃く、深く、破滅を齎す。

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