ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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英雄時代

 自分はズカズカと踏み込んで本心を語らせたくせに、自分が語らせられるのは嫌らしい。

 我儘な女王だ。

 

「う、うぅ………!」

「くっ………」

 

 と、呻く【アストレア・ファミリア】。原型を保つだけでなく、息もある。ただし、リヴェリアの防護魔法はその役目を終えて既に消えていた。

 

「私の魔法の腕も衰えたか。いや、腕を上げたあのエルフを評価するべきか」

「……………彼奴等がLv.5になったのは」

「我々を都市から追放する際だな」

 

 アルフィアやザルドの年齢から考えて、Lv.5からLv.6。Lv.6からLv.7へのランクアップにかかる大まかな年数は果たして………。

 まあ、【ロキ】も【フレイヤ】も、彼等に比べたら牛歩になる程度には遅いだろう。

 

「…………強くなってるのか、あれ?」

 

 と、デルピュネと戦う【ロキ・ファミリア】のうち2人を見て尋ねるリリウスに、アルフィアは一瞥を送る。

 

「多少はな。だが、賞賛に値するのはあの小娘か」

 

 第一級の二人ですら決め手にかけるどころか有効打を与えられないデルピュネを抑えるのは暴風の化身と化したアイズ。

 その暴風の拘束を引き千切り獄炎を放つデルピュネは、傷ついた端から修復していく。

 

「オラリオの崩壊の前座。これもまた一興」

 

 リリウスはオラリオの戦力なら倒せなくはないと判断していた。それは確かだろう。だが、確実に多くの犠牲を出すと確信するだけの力を持っていた。

 

「…………何も、思わないのか?」

「何をだ?」

「あれを見て………何も思わないのか!?」

 

 明滅する紅蓮の色に照らされアルフィアの横顔には、何の感慨も浮かんでいない。

 

「人々を殺戮し、あらゆるものを壊す! あんな禍々しきものを呼び出して、本当に、何も感じないのか!?」

「限りなく五月蝿い。そうは思う。だが、それだけだ」

 

 たまらず声を上げるリューに対して、アルフィアは何処までも冷静だった。淡々とした返しにリューの目が見張られる。

 

「神を殺す刺客、平等の破壊…………まさに邪悪の化身だ。あれが我々の『失望』を殺す鍵となってくれるなら、我慢もしよう」

 

 アルフィアはそこで己の掌を見る。

 

「私からすれば、この身に巣食う空虚な『失望』の方が耐えられない」

 

 リリウスは失望と聞き地上を見つめる。それからアイズ達を見て、最後にはアルフィアを見た。

 

「自分達が弱かったのが、そんなに辛いか」

()()…」

 

 逡巡もなく返された返答。どういうことだと、リリウスに視線が集まる。

 

「……あの爺は言ってたな、お前達が闇派閥(イヴィルス)に与するとは思えないと」

「……………………」

「なら、与してまでやりたいこと………与した結果、大抗争が起きて、かつ闇派閥(イヴィルス)共にも痛手になる何か……その結果から逆算すれば良い」

「んなこと、出来るのかよ………」

「全くの他人では無理だな」

 

 少しだけ話した、わかりやすい女。そもそも人を騙す必要すらなかった強者だ。隠し事などもとより得意ではあるまい。

 

「そうとも、私達の『失望』とは『私達自身の無力』。まさか、日に二度も小人族(パルゥム)に見破られるとはな」

「どういうことだよっ………アタシ達にも解るように、説明しやがれ!」

 

 既に結論を出しているリリウスに多くは語ろうとしないアルフィアに、ライラが吠えた。

 

「我々の無力など語るまでもない。陸の王者(ベヒーモス)を討ち、海の覇王(リヴァイアサン)を滅した私達は、敗れた。あの禍々しき『黒竜』に」

 

 『黒竜』。最強の眷属達(ゼウスとヘラ)の零落の始まり。Lv.9、Lv.8を有した2つの派閥をして敗走した、『終末』の具現。

 

「神々をも認めさせる実力を有し、自負に溢れた強者(つわもの)共が、いとも容易く薙ぎ払われ、かつて味わったことの無い『蹂躙』に遭った」

「あんたを?」

「粉々にされ、八つ裂きにされ、餌にされ。襤褸屑と化した私の視界には、あの時、血の海しか残ってなかった」

 

 たった2人でオラリオを『蹂躙』する二人に並ぶLv.7や、今のオラリオ最強のLv.6すら抱え、さらにそれを超える団長に率いられた『下界の最強戦力』が逆に蹂躙された。その事実に誰もが固まる中、リリウスはギッと歯を軋ませる。

 

「そして、生き残った者達は………『最強の英雄』と称えられていた眷属達は、()()()()()

 

 陸の王も海の王も滅ぼした英雄達は終末を前に敗走した。

 

「私達はあの時、確信した。『嗚呼、このやり方では駄目だったのだ』と」

「……………なんですって?」

「真の絶望に抗えない冒険者共。世界の悲願に届くことのない、英雄を騙る無力な輩! 神に縋るこの時代では、あの『黒き終末』には決して届かないと!」

 

 世界は英雄を欲している。ならば、その『英雄』とはいかにして生まれるのか。静寂の魔女は問いかける。

 

「………人が助けを求めた時」

 

 リリウスは【アストレア・ファミリア】が民衆を助けたときを思い出しながら、目を細め応えた。

 

「ああ、英雄もどきにはなれるだろう。だが、世界を救う英雄にはなり得ない」

「………………」

「『英雄の時代』………それこそが、唯一世界を救う英雄を生む可能性だ」

 

 英雄時代。まだ神がこの世に降りる前に、モンスターに抗った人々を讃える時代。

 王都の雄牛退治から始まった時代。

 猟犬と槍を掲げる大陸の守護者。

 大山脈(ロンザ)の奪還。

 (じゅう)の部族を立ち上がらせた偉大なる狼砲(ろうほう)

 滅国の地(オルランド)再興。

 歴史を繋いだ光の軌跡。

 そして、恩恵なき時代において『黒竜』の片眼を奪った『最強の英雄』。

 

 今の時代の冒険者をしても霞まぬ偉業。語り継がれる伝説を、遥か遠き『古代』は生んだ。

 

「まさか、てめぇ……!」

「そう、迷宮からモンスターを解き放ち、再び『英雄』が生まれる時代に戻す」

 

 『億』という命が犠牲になる中、再び黒竜にその刃を届かせる『一』を生む。それこそが下界を救う唯一の方法。

 

「私達では届かなかった。あれほどの風格を誇っていた最強の豪傑(おとこ)が! あそこまで傲慢な最恐の暴君(おんな)が!」

「血を吐いて、腕を失い、悲鳴あげ、最後にはみっともなく敗走した!」

「無様とはこのことだ! 私はつくづく絶望したよ!」

「私達自身に! この神時代(せかい)そのものに!」

 

 だが、希望がある。希望の名は『英雄神話』。

 精霊の手助けがあったとは言え、その身一つで大穴より溢れた化物と渡り合った古代の人類。

 『始まりの英雄』から言葉通り始まり、最後には一人の英雄が黒竜より片眼を奪いオラリオから追い払った。

 

「今の我々では届かなかった偉業を、嘗ての英雄達は成し遂げた………それが全てだ」

「それでは、貴方の『失望』とは…………貴方達の『目的』とは………!」

「ああ神工(じんこう)の英雄では駄目だった。ならば、神時代から解き放たれた、純然たる英雄を生むしかあるまい……………そのために、もう一度『英雄の時代』を取り戻す」

 

 震える唇で問うたリューの言葉に返された返答に、ネーゼが声を漏らす。

 

「な、なんだよ………それじゃあ、お前達がオラリオを滅ぼそうとしてるのは……!」

「この下界を救うためだ」

 

 闇派閥(イヴィルス)に与したのも、『絶対悪』に落ちたのも、全ては下界存続のため。

 

「結局、てめえ等も世界の平和を望んでるって事かよ……! それなら仲良しこよしに、手を取り合えねえのか!!」

「無理だな。お前達は()()を見ていない。あの『終末』の竜を、圧倒的な絶望に対し、あまりにも無知だ」

 

 ライラの非難めいた訴えを、アルフィアは取り合わない。

 黒き竜はそれほどまでに超越していると、言外に告げる。

 

「お前は…………っ!?」

 

 リリウスが何かを言うとした瞬間、唐突に固まり振り向く。一瞬遅れて階層に轟く風の嘶き。

 

「ジャガ丸くんの娘ぇ…………あのガキ!」

 

 一つ下の娘に向かいリリウスは叫ぶ。猛毒を含んだリリウスの黒風(かぜ)とは異なる『黒い暴風』。共鳴するようにリリウスは何処か忌々しげに睨む。

 

「素晴らしい。悍ましき力………黒の風。ヘラが欲しがったわけだ」

「スキルと、血の力か………」

「あれだ。あれこそが『奪われた者の力』。恐怖と絶望、その先で手に入れることが出来る至境の咆哮!!」

 

 かつての人類もまた負の連鎖の中にいた。奪われ喰われ、それでも抗った者の力。

 

「数多の犠牲を乗り越え、選ばれし者達があそこにたどり着けさえすれば! 『黒竜』を討てる! 世界の終末を乗り越えられる!」

「そんなことっ──!」

「間違っている。そう言うか? ならば、提示してみせろ」

 

 反論しようと身を乗り出したアリーゼに、アルフィアは要求した。

 

「あれ以上の力を。あれ以上の証を」

「「「!!」」」

 

 『覇者』は水掛け論に興味などない。

 『覇者』の目的を打ち砕くには………

 

「────!!」

 

 ギィッと金属音を立てリリウスの剣がアルフィアに受け止められる。

 

「………お前が力を証明するか?」

「五月蝿え」

 

 アルフィアの問に、リリウスは吐き捨てる。

 

「やっぱり俺はお前が嫌いだ。お前の、そんな願いなど踏みにじってやる」

「そうか、嫌われたものだな。騙していたのだ、仕方はないが」

「騙す? ああ、そうだ。お前、俺に隠し事をするなと言っときながら、自分は嘘ばかりつきやがって………」

 

 それは、明らかに正体を隠していたことに対してではない。

 

「英雄の時代なんざ、興味もねえくせに」

「……………」

「お前の言葉は嘘ばかりだ。『奪われた者』の力? 英雄の時代に何の関係がある。始まりは喜劇だぞ」

 

 道化の英雄譚(アルゴノゥト)………リリウスが知る唯一の英雄譚。昔、物語に簡略化された話を読み聞かせたし、アーディに散々散々語られた。

 

「建前どれだけ騙ろうと、ようするにただ超えろってだけだろ。8年前も、()()()()()立ちはだかったのか?」

「……………………」

「ふざけるなよ。一度託しておいて、また託すなら、最初から都市から出て行かなければ良かった。お前たちの一人でも残っていれば、こうはならなかった………!」

「────」

 

 その言葉に一瞬固まるアルフィア。リリウスはそれを見逃さなかった。

 

「…………お前の罪悪感は、そっちか」

「………本当に、聡い子だ。環境が違えば、賢者にもなれただろうに」

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