ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

360 / 386
絶望の竜(デアラコラボⅡ)

 文字通り闇が竜の形を取り上げているかのような姿へと変わる邪竜。

 

 その邪竜を詳しく記した文献は存在しない。

 出会ったほぼ全てが滅ぼされ、生き延び発狂した僅かな者達の証言、遥か遠方から移動する影を見たあと、その先に滅びた国を見つける………文字通りの厄災故に。

 

 或いは大穴(ダンジョン)の門番であった黒竜以上に人類を脅かし続けた存在。ある大神が記した書にのみその滅びが記されているが、邪竜そのものについて分かるのはただただ強く、打ち倒せる英雄がいなかった事実。

 

 故に【幻書館(アシュフィリヤ)】において、その存在は曖昧。()()()()()()、記された書が揃っていたが故に高い再現がなされたマクールと異なり、ただその『概念』を体現する邪竜。

 

 即ち『世を齧る者(ニーズホッグ)』。

 

 【幻書館(世界)】を喰らいし邪竜が翼を広げる。大地が砕け、空が割れ、ドロリとした空間に大地の欠片が舞う。

 

「────!!」

 

 物語の登場人物(キャラクター)であろう手足を白く染めた狼、死の眠りをもたらす醜悪な歌姫、奇跡の泉を沼に変えた肉塊が崩落に巻き込まれ、溶け崩れ闇に呑まれる。

 

雷王の矢(ヴァジュラストラ)!」

炎誅の山(カフカス)!!」

 

 雷轟。轟炎。

 山々すら破壊し尽くす覇者達の攻撃を喰らい…………健在。

 

「ダメージはあるようだが………」

「食らったそばから回復してやがる。ほぼ無効化だぞ、あんなもん」

 

 おまけに闇のようなあの体、触れた瓦礫が消滅した。

 

「どうする、ひたすら削るか?」

「あれは世界の影だ。ただ一匹で、世界に迫る物量の敵…………容易くはないぞ」

「う〜ん。『物語の怪物』である以上、【幻書館(この世界)】の中でしか成立しない存在であるけど………」

 

 と、二亜が言う。

 

「【幻書館(アシュフィリヤ)】、今まさに壊れてるんだけど!?」

「んにゃ、壊れてるのは中身だけだよ。スノードームの中が壊れてもスノードームから水は漏れないでしょ!?」

「なんだ、スノードーム!?」

「卵の黄身は割れても殻は割れてない!」

 

 成る程。とはいえ中で暴れる雛が殻から栄養を吸っていればいずれ割れるだろう。

 

「持久戦か………個人的には気に入らんが」

「ならお勧めしないよ。ここ、世界の間に浮かぶ『島』だからね。橋も繋がず壊したら運良くて全く知らない世界にたどり着くだから…………相当運が良ければ元の世界の何時かの時代に出られるかもだけど」

「なら俺は下手したら永遠に彷徨うな」

 

 選んだルート全部行き止まりに繋がってるもん。

 

「オオオオオ!!」

「話してる場合じゃない、来るわよ!」

 

 先程よりも速い。リリウスはマーダから炎を吐き出させ己を強化。放つは3つの斬光。咲き誇るは六花。

 

 邪竜の咆哮が花を散らせる。純粋な力で打ち砕いた。

 

 再生能力は言わずもがな。速度、攻撃力、防御力が先ほどより跳ね上がっている。

 

「そこの痴女!」

「? あ………あたしか!」

 

 古代居たとされる修道女っぽい清楚な服に見せかけスケスケでパンツも見える二亜はリリウスの呼び方に首を傾げた後、ハッと気付く。

 

「はいはい、それでもゆずるん達よりましな二亜ちゃんに何の御用」

「弱点を教えろ!」

「よし来た! 〈囁告篇帙(ラジエル)〉! 三度目の正直だ!」

 

 2度は失敗してるのか。逸ったかもしれん、とリリウスは思った。因みに最初の失敗はアイズのスリーサイズを言おうとして引っ叩かれ、2度目はマクールの過去をさながら世に伝わるエピメテウスの物語の如く編集してフィアナにブチギレられた。とはいえ今回は敵だ。『弱点なんてねーよ』とでもでない限り怒られないだろう。

 

「出た! 『絶望』の概念………ええっと、希望が強いほどに深くなる絶望。要するにあたしらが『英雄達鬼つえー! このまま邪竜ぶっ殺そうぜ』と思う程に強くなります。はい」

英雄(おれ)達の期待度がそのまま強さに反映される、か。喜べばいいのか」

「まあ要するに………期待度を遥かに上回る力でぶちのめすしかねえわけか」

 

 この強さの英雄を殺す怪物の強さはこれぐらい、となっている内にその強さを超える力で消す。それが最適解。

 

「あ、あぅ………ごめんなさい」

「ん?」

「リ、リリウスさん、なら………あの時みたいに、何とか出来るって…………」

 

 四糸乃が申し訳なさそうに言う。つまり最低限【我が雷鳴、天地に響け(ブラフマーストラ・メーガナーダ)】を耐える程度の強さはあると見ていいのだろう。

 

「後追い詰めるたびに『これなら勝てる!』って思っちゃいそうなので、なるべく一撃でお願いします」

「……………………」

「うひぃ! ゴミを見る目! あ、あたしのせいじゃないもーん!」

「二亜、せめて場に沿った態度を取らぬか」

 

 おちゃらけるから怒られるのだ。

 

「おい、(小人族(パルゥム)としても)チビ」

「なんだ(小人族(パルゥム)としては)デカブツ」

 

 といいながらも素直にマクールの立つ瓦礫へと移動するリリウス。マクールはリリウスの頬を鷲掴みリリウスのブラウンの目を見る。奥の、その奥まで。

 

「…………残骸で良くやる」

「ああ、なに、を………」

「俺の槍を貸してやる」

「あらやだ、なんかエッチ」

「? ええと、二亜さん? 槍を貸すのが何でエッチなの?」

「やめてくれアーディたん。その瞳はあたしに効く」

 

 外野が良くわからない会話をする中、マクールは紅い瞳にリリウスの瞳を映す。

 

「って、危ない!」

 

 フィンが慌てて叫ぶが遅く、邪竜がリリウスとマクールの乗る瓦礫を噛み砕く。アーディが叫びかけたその瞬間、ゴガン! と邪竜の上顎が跳ね上がった。

 

「ぐ、ぁ………ぐううう!?」

 

 【狂化魔法(ラーヴァナ)】を発動した時のように、しかしそれ以上に紅く染まった瞳を妖しく輝かせ蹲る。

 

「ぁ…………ああ、あか…………(あか)、が…………(あか)い………(あか)………」

「リリウス!? だ、大丈夫!?」

「ぎぃ!」

 

 別の瓦礫に落ちたリリウスに駆け寄ろうと跳ぶアーディ。ギロリと音に反応した獣のように得物を振るう。アーディの真横の地面が消し飛んだ。

 

「ち、かづくな………あ、あぁ………ああああああ! した、い………殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい!!」

 

 目につく全てを破壊し殺し尽くしたいと、紅に染まる視界が訴える。殺戮衝動(ほんのう)のまま暴れまわりたいと訴える視界に、リリウスが感じるのは……………()()

 

「だま、ってろ…………」

「……………ああ、そうだろうな」

 

 マクールは笑う。

 

「どこの誰かも知らん糞共(奴等)の、俺達の代わりに殺せなんて願いなど知る物かよ。成せなかったことを誰かに押し付ける屑どもが」

「守れなかったのはてめぇ等だ…………奪われたのは、てめぇ等だ。俺じゃねえ………俺は、守る。奪わせねえ……当たり散らすだけの、残骸共」

「黙って俺に使われてろ!」 
「黙ってそいつに使われてろ!」

 

 再びリリウスを食らわんと迫る邪竜。アーディが動けないリリウスを庇うように前に立つが、リリウスはその横を通り過ぎる。

 

「くたばれ、(くそ)が!!」

 

 斬光!!

 

 紅に染まる光が闇の塊たる邪竜を切り裂く。直ぐに再生。ならば、何度でも。

 

「らあああああああ!!」

 

 紅に染まる世界。一撃で滅ぼすに至らず、邪竜を押すその姿に確かな希望を持ってしまう。されど、皆が想像する希望は今のリリウスを指すにはまだ足らない。

 

 確かに耐え始めているのに、それでもなお邪竜が押される。

 

「…………ええ、あの『目』って、そうやって使うもんだっけ? もっと、こう………自分の怒りと同調させるとか、より一つに向いた怒りで押さえつけるとか、視界の色覚を変えるとかさぁ」

「父様曰く自分の中の怒りを他人と分け合ってどうすんだ、との事です」

 

 同じ目を持つ者としてドン引くフィン、流石ですと誇らしげなフィアナ。とはいえ、それでも滅ぼせない邪竜。

 

「ようし皆、彼が抑えている間に知恵を絞ろう! どうしよう!?」

「最悪運に任せて世界の外に漂う」

「七罪さぁん…………」

「冗談よ冗談………でも実際どうすんのよ。あれでも倒せてないのよ?」

「わ、私達が目を閉じてリリウスさんにこれ以上期待を持たないようにする、とか?」

 

 あの光景に希望を見出すからこそ、あの光景を超える絶望が産まれるのだ。確かに四糸乃の案も一つの手だが………。

 

「気配だけでも今の少年3号が半端なく強いの解るのに? 今この世界で少年3号に期待しないで済む場所って何処よ」

「みな、むくが封印するのはどうじゃ?」

「おそらく俺があぶれる」

 

 天の炎をその身に宿すエピメテウスを封印するには高位の神造兵器が必要だ。

 

「それ以前に押しきれてない以上無限の回復力を持つ向こうがいずれ押し切ります。リリウスさんを置いてはいけません」

「ほう………」

 

 己より強いリリウスを心配する折紙に感心するエピメテウス。前回に比べ痴女のような格好をして雰囲気も変わっているが、ペロペロだのクンカクンカだのハスハスだと言ってた頃に比べ成長したようだ。

 

「貴方は後世で相応に名が知れたとか………『英雄殺し』の概念を逆に打ち破れるだけの『竜殺し』の英雄はいませんか?」

「おりませんねえ!」

「いないわ」

「私の日誌にそのような英雄影も形もない! ほら、アルゴノゥトは雄牛退治の後、獅子退治であっさり死んだからネ! それ以前に、詩人だけではこの世界に新たな英雄を呼ぶことは出来ないだろう! 私が皆に助けて貰ってばかりの英雄だから出来たのさ! ありがとう、私の英雄達!」

 

 テレるが八方塞がり。こうなれば士道達がリングアイズを説得する可能性に賭けるしかないか?

 

 それか七罪の言う通り運に任せて世界の狭間を彷徨うか。

 

「考え事をしている時間をくれるほど、甘い絶望ではないらしい」

 

 と、エピメテウス。千切れ飛んだ闇が無数の魔物となって辺りを囲んでいた。

 

「オオオオ!!」

「ぬぅん!」

 

 迫りくる闇の巨人をガルムスの槌が打ち砕く。どうやら分体にまで『英雄殺し』の概念は付与されていないようだ。

 

「叩けば殺せるだけありがたいが、此奴等一匹一匹が先程より強いぞ!」

「泣き言を言うなドワーフ。口より手を動かせ!」

「まあ俺も文句の一つぐらい言いたくなるけどね」

「そうだな、フィン! 先程より強くて鬱陶しいな!」

「おい………」

 

 

 

 

 時を少し遡る。

 『道標(アリアドネ)』の概念を纏った十香の案内に従い進む士道とアイズ。

 

 

「透明で、ドロドロして、炎みたいに熱い………ベルはあっち!」

 

 アイズもまた、『指輪』の繋がりを辿り、二人は確信を持って進む。

 

 やがてたどり着いたのは廃墟のような屋敷。倒れるベル。助けようと駆け出した士道の足元を弾く弾丸。狂三だ。指輪(アイズ)も追いついてきた。

 

 アイズは指輪(アイズ)と、士道と十香は狂三と狂三の分身達と交戦を始める。

 

「なぁ狂三! 祭壇への路(ヴァージンロード)の先には牧師も必要だろ!? 俺くらいなら、許してくれてもいいんじゃないか!」

「その牧師は結婚を祝福しないどころか、花婿を連れ去ると? 冗談は物語の中だけにしてくださいまし。そんな展開を喜ぶのは、鍛えられた腐女子の方々か、倒錯した趣味をお持ちの折紙さんだけですわ!」

 

 今の折紙が聞いたら血を吐きそうな残酷な事実を告げる狂三。

 

「ですが、そうですわねえ………護衛(エスコート)役の唇を、牧師が奪うなら、あるいは………」

「上等だ……! 無理矢理奪って、こんな結婚式無茶苦茶にしてやる!」

「だ、ダメだぞ! シドー! デートでもないのに、狂三と接吻など!」

「真に受けるな、十香! ただの売り言葉に買い言葉だ!」

「いーえ、本気の本気ですわ。ただし、私が士道さんを押し倒す側ですけれど! 士道さんの初めても奪い尽くし、十香さん達どころか本体のわたくしも出し抜いて、高笑いして差し上げますわ!」

「それかわいい弟(リリウス)の前でも言えるのか!?」

「教育に悪いことを提案するのは止めてくださいまし!」

「言い出したのお前だろ!?」

 

 因みにリリウスは非童貞であることをこの二人は知らない。

 

「いけませんよ、狂三! 私より先にだなんて! 私とベルがチューする方が先です!」

 

 折紙の力を取り込み倒錯的な趣味を持った淑女(?)に成長しても、チューなどと所々幼女の面を見せる指輪(アイズ)

 

「私の顔と声で、変なこと言わないで!」

 

 アイズが真っ赤になりながら斬り掛かった。滅茶苦茶である。

 

 響く剣戟の音に、銃声。氷の盾が弾丸を防ぎ、大剣が振るわれる衝撃が駆け抜ける。されど数で押しているのは狂三である。だが…………赤い糸が宙を舞う。

 

「はあああああ!!」

「!? 分身ごとわたくしを………! 赤い糸、いえ、まさか道標(アリアドネ)!?」

 

 複数いる分身の中から『指輪の眷属(ほんたい)』を見つけ出した赤い糸。切れることなき糸を引き寄せれば他の分身を絡め取る。

 

「せやあああ!」

「ぐぅぅぅ!? まっ、たく………ほんとうに、遠慮がありませんわね………」

 

 浅くない傷を負う狂三。

 

「なあ、狂三…………リリウスが居ること、あっちのアイズは予想外だったみたいだけどさ、あれ、お前が呼んだんじゃないか?」

「…………………」

「え、狂三?」

 

 士道の言葉に指輪(アイズ)は狂三を見つめる。だが、言われてみればそうなのだ。〈時喰みの城〉を媒介にした【幻書館(アシュフィリヤ)】に入れるのは、指輪(アイズ)か、或いは〈時喰みの城〉の支配者である………。

 

 前回だって狂三が何度でもやり直したのは、自分達の世界由来の厄災が他所の世界に迷惑をかけないようにする為で、その為にリリウスと組んだ。ならば……今回も…………

 

「お察しの通り。あの子には、後始末をしてもらうつもりでしたわ」

「狂三!?」

「…………指輪のアイズの行動だって受け入れてるわけじゃないんだろ? なら、俺とパスを繋げば消滅しないで済む。言うことを聞く理由はなくなるんじゃないか?」

「…………!」

 

 そうすれば士道達と元の世界に帰り、本体と合流も可能だろう。断る理由は、無いだろう。

 

「………! 狂三………!」

「……………」

 

 まるで手を繋いでいた母を見失ったかのような顔をする指輪(アイズ)を見て、狂三は嗤う。

 

「たしかに、士道さんがおっしゃる通りですわね。アイズさんを裏切った方が、わたくしにとっても都合がいい。ええ、ええ。それがもっとも合理的な判断ですわ」

「! じゃあ、俺達と一緒に………!」

「ですが、()()()()()()()()()!」

「「なっ!?」」

 

 合理的と肯定しながら、狂三は非合理的にその提案を却下した。

 

「お気遣いいただきありがとうございます。士道さんのお気持ち、光栄至極ですわ。わたくしは幸せ者ですわね…………でぇ、もぉ。残念ながら、駄々っ子の世話が残っておりますの。面倒で面倒で仕方ありませんけれど、ここまでわたくしが永らえたのは、彼女のおかげですもの。やれることはやった………後は、この子の為に。それに、理由はどうあれ、恋する乙女が誰からも顧みられないだなんてあんまりではありませんの」

 

 ましてやその恋する乙女は自我を持った(うまれた)時からずっと世話を焼いていた相手なのだ。

 

「狂三………」

 

 指輪(アイズ)は安堵のため息をこぼす。

 

「…………………………………ああ、そうだな。本物のお前でも、きっとそう言うよ」

「うふふ。褒め言葉と受け取っておきますわ。では……」

「ああ」

 

 士道と狂三は互いに微笑む。

 

「さぁ、さぁ、おいでなさい! 〈刻々帝〉(ザアアアアフキエエエエル)!」

 

 巨大な文字盤が現れる。〈天使〉の顕現。人知を超えた霊力が満ちる。

 

「さぁ、行くのです、アイズさん! 力尽きるその時まで、貴方の想いを貫いてくださいまし。邪魔物は全て、わたくしが取り払って差し上げますわ」

「狂三っ!!」

「きひひひっ………さあ、わたくし達の『戦争(デート)』を始めましょう?」

 


 

俺は思うんだ。アイズが求める英雄しかいない、過去の英雄の再現が可能。なら………

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。