ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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アイズの英雄(デアラコラボⅡ)

 宣言通り士道と十香は抑えた。ならば、最後の障害は己自身。

 

「どうして! 私は貴方なのに、どうして邪魔するの!?」

「違う! 私は貴方じゃない! 私は、こんな事しようなんて思っていない!」

「嘘!!」

 

 互いに自分(たがい)を否定するべく振るわれる剣。ぶつかり合うアイズと指輪(アイズ)

 

「あのモンスターを見て、何も思わなかったなんて嘘! 何も感じなかったなんて、ただの強がり! だって、そうじゃなかったら私が生まれるはずない!」

「…………!」

 

 霊結晶(セフィラ)の欠片こそ宿しても、ただの指輪。単なるアンティークでしかなかった筈のそれを変えたのは、アイズの嫉妬(想い)

 

「貴女の想いが、私を『アイズ』にした! 『指輪(わたし)』を嵌めてもらった時、貴方は泣いてたんですよ? 驚いて、でも嬉しくて、貴女は救われていた!」

 

 あの時アイズは【剣姫】ではなく、第一級冒険者ではなく、ただの『女の子』だった。

 

「貴女は本当は、『剣』なんて執りたくなかったんでしょう!?」

「──────!」

 

 息を呑む。

 

 泣いて、哭いて、啼いて………涙が枯れたその果てに、誰も現れてくれなかったから剣を取った。自分しかいないから、剣を取るしかなかった。

 

 でも、本当は………

 

「ベルが、『英雄』がいなきゃ、『アイズ』は駄目なの! 誰にも奪わせちゃ駄目! だから、恨んだでしょう? 憎んだでしょう? 私達と約束したベルを、奪おうとするあのモンスターを!!」

「……………………あの竜女(ヴィーヴル)を見て……………『ずるい』って、確かに、そう思った」

 

 助けようとしてくれる人は、アイズには現れなかったから。

 

「それなら…………!」

「でも、私は。ベルを縛ろうなんて思わない」

 

 それがきっとアイズと指輪(アイズ)の違い。

 

「ベルは………約束を、破ったりしないから。もし、誰かの英雄になっても……きっと、私を助けに来てくれるよ。だってベルは…………ベルだから」

「──────」

 

 大切な宝物を大事に慈しむかのように、ベルの笑顔を思い出し微笑むアイズに今度は指輪(アイズ)が息を呑む。

 

「貴方は、私なのかもしれない。貴方の方が、私の裸の心に、近いのかもしれない。でも、今の貴方は………『英雄』を殺そうとする、『怪物』に見える」

 

 何かが砕けるような音が、聞こえた気がした。

 

「………………ワタシが…………『怪物』? …………『英雄(ベル)』を、殺そうとしている?」

「そう。『英雄』を暗い迷宮に閉じ込めて、貪って、殺す…………〝物語の中の怪物(アシュフィリヤ)〟。だから私は………貴方(ワタシ)を止める!」

「────────ァアアアアァァァァァ!! ウルサイウルサイウルサイィィィ!!」

 

 怪物扱いに、醜い本心を隠し身勝手な本音を殺すアイズに、その想いを受け生まれた指輪(アイズ)は叫ぶ。

 

「貴方が私を生んだくせに! 勝手なことを言わないで!! 私はアイズ! 貴方は私! でも、貴方はいらない!! 指輪(ワタシ)だけが、英雄(ベル)の花嫁になる!!」

「そんなこと、させない!」

 

 舞の如き剣が奔る。楽器は剣、音楽は剣戟。

 

 己の醜さを認め、それでも止めると誓ったアイズ。

 己の本音(よわさ)強さ(かめん)に隠すことなど出来ない幼い指輪(アイズ)

 

 ただ静かに相手を見据えるアイズと…………泣き出しそうな顔で剣を振るう指輪(アイズ)

 

誰かに助けて欲しかった──

 

私だけの英雄が、いて欲しかった!

 

 でも『彼』は優しくて、いろんなモノを助けてしまう。例えそれが、ヒトでなかったとしても──。

 

 きっと誰かを救う為に、私から………。そんなの……!

 

 と、まさにその瞬間。轟音が響き廃墟全体が震える。そして………

 

「ぐあ!」

 

 壁を突き破り床を破壊しながら柱にぶつかる影。柱は崩れ、天井が落ちてきた。

 

「くそ、まだ強く………」

「リリウス!?」

「あ? ここは………まだ無事だったか。それもこれ迄みたいだが」

 

 瓦礫から這い出してきたリリウスは周囲を確認し呟く。一体何が、と聞く前に、答えは直ぐに姿を現す。

 

 壁や天井が、ひび割れ砕け、何もない空間を漂う廃墟の残骸。見下ろすは竜の形をした闇。

 

「な、なんだあれ!?」

「敵」

「そりゃそうだろうけども!?」

 

 ちょっと離れている間に一体何があったんだ。

 

「って、リリウス!? お前、腕!」

「ああ。消し飛んだ」

「なんで落ち着いてんだよ!?」

「後で狂三お姉ちゃんの力使って治す」 

「【四の弾(ダレット)】」

 

 と、響く銃声。

 

 リリウスの腕が再生した。

 

「狂三お姉ちゃん…………」

「勘違いしないでくださいまし。何やら異常事態(イレギュラー)が起きたご様子。敵対している者とも、一時手を組むのも必要でしょう?」

「? 俺は狂三お姉ちゃんの味方だが?」

「……………!」

 

 狂三は無意識にリリウスを撫でようとしていた腕をハッととめる。撫でられ待ちだったリリウスが首を傾げたので撫でた。実は甘えたがりなリリウスが撫でてほしそうだったから仕方なくね。仕方なく!

 

「ニーズホッグ!? 何をしているの、裏側(ここ)にまで来ていいなんて、許可してません! 貴方は英雄達を………!!」

 

 返答は、砲撃。防ぐは炎。

 

「この娘が死ねば、ここはどうなる?」

「壊れるんじゃねえ」

 

 それを知ってか知らずか……どちらにしろ、創造主にさえ逆らい始めた。

 

 食らいつこうと大口を開けた邪竜を炎が吹き飛ばす。どれだけ早く再生しようと、勢いまでは無効化できないようだ。

 

「な、なんで…………」

「黒い…………竜!」

 

 指示に逆らう邪竜を呆然と見つめる指輪(アイズ)。黒き竜に嫌悪を向けるアイズ。邪竜が見つめるのは指輪(アイズ)。この世界の主だから…………ではない

 

汝、望みを抱く者。一切の望みを捨てよ、我は望みを絶つ闇なり

 

「なんか知能レベルが上がってきてんな」

「【幻書館(世界)】の影でしかなかったが、リソースが反転している。この世界が今や奴の維持のために存在する。世界の一部から、世界を一部とする〝個〟ともなれば知恵もつくだろ」

「俺が強すぎたばっかりに………ってことか」

「ん? いや、うん………そう、だな」

 

 しかし実際そういう理由だ。『凶猛の魔眼』、或いは『瞋恚の槍』………古代、とある神が欲しがった下界の未知。限りなく本物に近いそれを受け取り通常攻撃が全体攻撃(斬光)猛攻(連続攻撃)になったリリウスに、これなら勝てるかもと思うほどに力が上乗せされた結果なのだから。

 

 ただ、知能が上がろうと邪竜のあり方は『絶望と闇』の象徴。光を奪う絶望にして、希望を呑む闇。今この世界で、強い願いを持つ者は…………。

 

「っ!!」

「アイズさん!」

 

 狂三が指輪(アイズ)を押しのける。先程までアイズがいた瓦礫が撃ち抜かれた。狂三の分身が消滅した。

 

「狂三っ! いい加減に、しなさい! ニーズホッグ、私が貴方に命じた事は一つ、英雄達の………!」

 

聞かず。我が滅ぼすは全て。我が奪うは全ての望み。しかし、想いを踏みにじり、命を喰らう、(貴様)の願いだけは、我が引き継ごう

「っ! 私の、願い………? 違う………違う! 私は、ただベルと居たいだけなの!」

 

 叫ぶ指輪(アイズ)の訴えなど無視して攻撃を放とうとする邪竜。立ちはだかるは2人の英雄。

 

「斬光…………八垠(やさか)

 

 4()()()の斬光が重なり合う。山々を八等分にする斬撃を受けて押し戻される邪竜。相変わらずすげぇ、と士道が思った瞬間、邪竜は翼を広げ斬光を散らす。

 

「最悪の選択肢も考える必要がありそうだな」

 

 即ち【幻書館(アシュフィリヤ)】を破壊し世界の狭間に彷徨う選択肢。幸運の兎(ベル)に引っ付いていれば元の世界に辿り着けるだろうか。

 

「オオオオオオオオオ!!」

 

 ビリビリと世界を震わせる咆哮。黒い竜の威容にアイズの記憶を全て知る指輪(アイズ)の顔色が変わる。

 

「これで、わかったでしょ? 貴方の願いは、誰かを傷付ける………!」

 

 間違ってないと認めてしまった竜の少女の願いとは異なり、明確に人に害をなし、脅威を生み出した指輪(アイズ)を放置できない。

 

「今、ここで………!」

 

 と、そんな2人のアイズ達のやり取りなど知ったことではないと邪竜が再び迫り………

 

「させ、ない………!」

「ベル!?」

 

 士道がベルが倒れていた瓦礫を見る。どうやら何時の間にか目覚めていたらしい。

 

「僕が、相手だ………!」

「っ! 駄目、ベル!!」

 

 黒き竜を前に剣を取るベルに、アイズが叫ぶ。リリウスとエピメテウスが斬ろうとするも邪魔をする分体。僅かに、間に合わない!!

 

───君は、自分を呑み込もうとした指輪(彼女)の為にも命を懸けられるんだね

 

 その一瞬、ベルは確かにそんな言葉を聞いた。

 

 邪竜のアギトがベルと指輪(アイズ)のいた瓦礫を噛み砕く。

 

「ベル!」

「大丈夫」

 

 叫ぶアイズの隣に降り立つベルを見て、目を見開くリリウスとエピメテウス。動きは目で追えたが…………明らかにLv.4の動きではない。

 

 【幻書館(アシュフィリヤ)】内での出来事なのだから物語が関係しているのだろうが…………。

 リリウスが『魔眼』で強化されたのと同様、ベルも何かの英雄の力を借りている…………魂が似ているとかいうアルゴノゥトでないなら、別の理由でベルの属性と合う英雄(だれか)

 

「………………ぁ」

 

 黒き竜と相対するベルの背中を見て過去が蘇る。大切な人。アイズにとって誰よりも鮮烈な英雄の、最後の背中。

 待って、駄目、行かないで!

 

「アイズ………」

「ベル………?」

「母さんの(ちから)を貸してくれるかい?」

「──────【母の風よ(テンペスト)】!!」

 

 ベルが抜いたヘスティア・ナイフに絡む風。風は白く光り、収縮していく。

 

 リンリンと響く(ベル)の音。立ち上る光の粒。

 

「偉大なる先達よ」

 

 エピメテウスを見据え、ベルは言う。

 

「心強い後進よ」

 

 リリウスを見据え、ベルは笑う。

 

「『英雄(同胞)』達よ。()が振るえるのは一撃だけだ…………勝利すること叶わなかった私に、あれを倒す力はない。それでも、奴を()()()()()()()()()を示そう」

 

 ゴォォォォン、ゴォォォォンと響く大鐘楼(グランド・ベル)。警戒するように距離を取っていた邪竜も、これ以上は余計に危険と判断し英雄(ベル)と背後の指輪(姫君)ごと喰らわんと迫り

 

 世界が斬れた。

 

 そう錯覚する一撃。精霊の加護を受けた純白の旋風は邪竜を絶つ。直ぐに再生を始めるが、全身を覆っていた闇は消え、元の姿に戻る邪竜。鱗を砕き突き刺さる槍。放ったフィアナは叫ぶ。

 

「『英雄殺し』の概念が、消えています!」

「押し切るぞ!!」

 

 リリウスは叫ぶ。邪竜へと迫る英雄達。その背中を眺めながら、ベルは笑う。

 

「古の英雄達か。私も彼等と肩を並べてみたかったな」

「………ベル? ……………もし、かして」

「アイズ」

「っ!」

()()()()()()()と、巡り会えたか?」

 

 それ、は……その言葉、は。

 

「お、と………」

「………時間だ」

 

 申し訳なさそうにベルは言う

 

「え………」

「元より私は、()()()()()()()()()()()………」

「待って………待って! 私は、まだ!」

「私はただの残響。記された物語に刻まれた、影…………でも、ああ……こうして大きくなったお前を、一目見れるのは………物語に刻まれた(頑張った)甲斐があったなぁ」

 

 懐かしさを覚えるその笑顔に、アイズは何も言えなくなる。

 

「次は、お前達だ。頑張れ」

「あ…………」

「…………あれ、僕は」

 

 再び憔悴したベルは、状況を理解できずに困惑する。咆哮に振り返れば英雄達と戦う邪竜。

 

 聖女と勇者の槍に貫かれ、ドワーフの大戦士に鱗を砕かれ、(ろう)の部族が肉を引き裂き、アマゾネスの争姫(そうひ)が剣で斬り裂く。

 

 依然、邪竜は脅威。ただの攻撃の無効化のみが強みではないのだ。その竜の本物はそのような概念を纏っていなかったのだから。

 

 ただただ純粋な強さで世界を絶望に落とす怪物。されど相対するは人類の希望、英雄達。

 

 迫る炎雷の眩しさに邪竜は目を細めた。

 

見事だ

 

 かくして邪悪なる竜は英雄達によって討ち滅ぼされた。

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