ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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早すぎるバレンタイン騒動

「ばれんたいんです!」

「ばれん、たいん?」

 

 全てはここから始まった。

 

 とても楽しそうに叫ぶフィアに、コテンと首を傾げるウィーネ。

 

「ああ、あれか……」

「ラーニェ、知ってるの?」

「アーディが年に一度ちょこれいととやらを持ってきていた」

「ちょこ、れいと?」

「黒くて甘くて、硬くてとろける甘いお菓子!」

「甘いって、2回も………ごくり」

「でもフィアちゃん、バレンタインにはまだ早いわ?」

 

 エウロペはあらあら、と頬に手を添えながら言う。

 そもそもバレンタインが近くなれば、エウロペ、アーディ、フィルヴィス、異端児(ゼノス)女子組で迷宮豆(ダンジョンカカオ)迷宮天草(ダンジョンリコリス)等を取りに向かうのだ。

 

「ですが、アーディも言っていました。バレンタインとはチョコを親愛、有愛の証として見境なくばら撒くと!」

 

 アーディは本当に誰にでもあげる。沢山作って欲しい人に配ってる。バレンタインの日、バレンタインの聖女と呼ばれている。

 

 そんなアーディが『ごめんなさい。今年から、男の人の分は、一つだけなの』と主張し多くの男達が絶望するまで後……………話がそれた。

 

「多少時期がズレていても、思いを伝えることこそが重要なのです!」

 

 なんか言ってら。

 

「それはそうだけど………」

 

 エウロペは基本的に子供達の自主性を否定しない優しい親なのである。

 

「アーディは日頃の感謝を『ギリ』なるチョコで示しているようです。地上の方々も、『ギリ』でも良いから欲しいと聞きます」

 

 そいつ等はダンジョンに来てまで何を話題にしているんだろうね? しかし、それだけ彼等にとっては切実なのだろう。

 

「私が目にしたあの熱気! 地上の方々はチョコを切望されています! それはもう、狂おしいほどに!! 我々もばれんたいんをすると、どうなるのでしょうか。ワクワク!」

「まーた始まったかぁ………好奇心の塊(フィア)興味の暴走(ワクワク)が………」

「今は【ロキ・ファミリア】との共闘もある。余計な騒ぎは起こすな」

「いいえ! 今だからこそ、です!」

 

 グロスのもっともな指摘に、フィアは反発した。

 

「都市最強の…………さい、きょー? あれ、リリウスが居るのは………都市最大派閥のうち2つ、【ガネーシャ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】が私達と手を組んだ今こそが好機! ばれんたいんを決行するのです!」

「………そのばれんたいん……『ちょこ』をあげると、みんな嬉しくて、仲よくなれるの?」

「ええ、ウィーネ! ダンジョンに訪れた方に、チョコを欲しがらない殿方はおりません!」

 

 きっと仲良くなれるとフィアは笑う。そして、皆が笑顔になったら必ず言う言葉がある。

 

「ハッピーバレンタイン! ですよ!」

「…………………はっぴー、ばれんたいん」

 

 

 

 そしてフィアはウィーネと共に里から出ていった。その後すぐ地上で噂が広がる。ダンジョン内で、何者かがバレンタインでもないのに『はっぴぃばれんたいん』と書かれたチョコの包みを渡してくる、と。中には可愛い声を聞いた者も居るとか。

 

 Lv.2冒険者【()チョコ】のモルドにまで配られたとか。

 

「誰が【()チョコ】だ! 二つ名みたいに言ってんじゃねえ! 俺だって毎年一つはもらってるわ!」

「「「いやいや、アーディたんは母チョコ枠(別枠)だから」」」

 

 あれはもうそういうカウントであると言うのがオラリオの共通認識である。

 

 とまあ、そんな騒ぎがありつつも地上では『ダンジョンに潜ればバレンタインチョコ』が貰えると話題に。

 

 『次は、俺だ』とダンジョンに向かう男達。そして………

 

「どこのどいつよ!? ジョンにチョコを渡したのは!?」

「ダンジョンで密会ですって………! 何処の女狐なの…………ギリィ!」

「泥棒猫………! たとえダンジョンの深奥でも探し出して報いを受けさせてやるわ! 彼は私のものよ!」

「許せない許せない許せない! 私というものがありながらチョコのために何時もより深く潜るなんて!」

「これって、浮気だよね。浮気だよねぇ!?」

「ゔわぎだよ!」

 

 嫉妬に狂った女達が意中の相手にチョコを渡すという抜け駆けを行った不届き者を探すか浮気者を制裁するために追うかでダンジョンに潜る。【ヘラ】の残した意思は、決して消えることはないと証明された。

 

 アーディ? あの子のはギリ以前に母チョコと同じ枠だから。

 

 とはいえ異端児(ゼノス)は数こそ少ないが精鋭揃い。フィアに至っては推定Lv.4という、第一級の領域に迫る強者。そうそう遅れは取らない。ただし、相手もLv.4なら話は別。

 

 なかなか捕まらない泥棒猫(仮)に女性冒険者達が業を煮やし、凄腕のハンターを雇った。

 

 情報によれば第2級冒険者。フィアでも万が一の可能性がある。たとえ勝利したとしても、喋るモンスターの存在が広まる可能性もある。

 

 しかしそれでも捕まらず、噂はどんどん広がっていく。

 

 正体は顔を見せない謎の美少女だとか、迷宮に眠っていたチョコの精霊(エクアハウ)だとか、想い人にチョコを渡せず死んだ女冒険者の幽霊だとか噂されている。

 

「と言うわけで、ウィーネ達を止めるぞ!」

「それは良いのですが…………なんですか、この格好?」

 

 フリフリの服を着たリリがフェルズに胡乱な目を向ける。まあ、でも…………

 

(兄様と同じ格好なのはうれし……………嬉しくていいんですか、この場合)

「どうした、リリ?」

「まあ可愛いから良いか」

(なんでもないですよ兄様)

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