ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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「そうとも。それで? 乗り越えなければ、結局私達はオラリオを滅ぼすしかないぞ?」

 

 リリウスの言う通り、アルフィアもザルドも、自分達を超えて欲しいと思っている。だがそれは、決してオラリオを滅ぼさない理由にならない。

 

 本気で滅ぼし、全力で潰す。そうでなければ、立ちはだかる意味がない。

 

()()()()()()()。私達の意思を………」

「──!!」

 

 その言葉に、まずリューが反応した。

 

「……ああ、そうだ。どんな方法であれ、下界を救おうというのなら、それが間違いだとしても、その意志だけは巡らせる。億の犠牲など………『未来』も見ず、『現代(いま)』から目を背け、過去に還るなどあってはならない!」

 

 続いて【アストレア・ファミリア】が反応した。

 

「だから私は、貴方に敗れるわけにはいかない! 死んでいった者達、命をかけている者達の全てが無駄になる!」

 

 今この瞬間にも、地上では死者が出ているかもしれない。ここにいる者達も、死なぬ保証など何処にもない。

 

「正しきも、過ちも、全て背負って私達は『未来』を掴みにいく!!」

「────」

「それが、託された者達の使命だ!!」

 

 正義の妖精の言葉に、正義の眷属達も立ち上がる。

 

「言うじゃないか、末っ子」

「はっ。一番下の妹が、一番単純(ばか)だってな〜」

「賛成! 私はリオンの意見に大賛成!! そう、未来っ、未来よ! 取り敢えず未来って言っておけばすごく正義っぽい! 完璧だわ!」

「あ、訂正。一番上の姉も特大の馬鹿だった」

 

 アリーゼの言葉にライラが呆れたように笑う。

 

「でも、『答え』、出たね」

「うん、リオンちゃんのおかげ」

「どんなに辛くたって、『未来』、目指そう!」

「託してくれた皆を覚えてあげられるの、私達だけだもんね」

「いつか私達が、星に還る日が訪れても──」

「皆さんとなら、進んでいけます」

 

 正義の眷属達に闘志が戻っていく。アルフィアとリリウスはそれを横目で見つめた。

 

「……使命を果たせ。天秤を正せ。いつか星となるその日まで。女神の名の下に、この大地に『未来』への『希望』を綴りましょう!」

「「「正義の(つるぎ)と翼に誓って!」」」

 

 『過去』ではなく未来。証明された歴史にすがらず、まだ見ぬ可能性を信じ戦う正義の乙女達。

 

「──良いだろう。ならば、その『希望』を証明してみせろ。これで最後、この一戦を以って、お前達を葬ると私自身に誓おう。例外はない。全てを消し去る。雑音を以って私に啖呵を切ったんだ、あがいてみせろ。冒険者」

「ええ、あがいてあげる! そして、貴方を倒して、未来を掴み取る!」

「貴方を倒す、アルフィア!」

 

 響き渡る破壊の音響。立ち向かう正義の眷属と飢えた獣。

 バッチとリリウスの体を雷が走る。次の瞬間、加速。

 

「はやっ!」

「雷を体に流して加速してる?」

 

 Lv.2のライラには最早軌跡すら追えず、気付けば動きが終わっている速度。

 アリーゼとリューも遅れながら参戦する。それでも、届かない。

 

「策もなくよく攻めるな。ただ勢いに任せるだけ………遮二無二か?」

「だって貴方、射程(レンジ)関係ないじゃない! 近くても遠くても、簡単にぶっ飛ばされるもの!」

「魔法を撃ち合っても、まず勝てない! ならば懐に潜り込み、私達の得意な間合いで打ち合うのみ!」

「一緒にするな」

 

 リリウスは砂鉄を操り煙幕を張り、氷の槍を地面から生やす。本来なら簡単に砕ける氷も、それが精霊の力で作られたものなら鋼鉄の如き硬さを誇る。

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 が、たかが鋼鉄程度。容易く砕かれた。

 宙に舞う氷の欠片に炎を放つ。大量の水に雷が走り………

 

「【炸響(ルギオ)】」

 

 残響が消し飛ばす。逆に言えば、残響が消えた。

 アリーゼの炎を纏った剣とリューの木刀が迫る。回避したアルフィアに迫るのは、【アストレア・ファミリア】の後衛が放つ炎の魔法。

 

 リリウスから与えられた『精霊の加護』により迫る広範囲の大火球と豪炎の濁流。

 

「【魂の平静(アタラクシア)】」

 

 その一言で、全てを消し去る。消し去った炎から現れたリリウスに、しかしアルフィアは首を掴み地面に叩きつける。

 

「げっ……付与魔法(エンチャント)を纏い直した!?」

「そりゃかけ直すだろう。発動が超短文詠唱で一瞬なら、解除も任意で一瞬だ! 攻守の切り替えなんて瞬きの間にやってくんぞ!」

 

 地面に叩きつけられ意識が飛びかけたリリウスは、直ぐ様アルフィアに噛み付こうとする。回避したアルフィアの周囲が一瞬陽炎のように揺らいだ。

 

「? リリウスが、魔法を食ったのか?」

「妙だな、何だ今のは」

「教えるか」

 

 リリウスの魔法補食(マジックイーター)は従来のレア属性である魔法吸収(マジックイーター)とは大きく異なる。

 

 魔力に由来するものを吸収する、その特性は変わらずとも………リリウスの牙は魔法に直接干渉し、喰らう。アルフィアの付与魔法(エンチャント)ですら例外ではなく、魔法そのものを噛みちぎった。すぐに修復されてしまったが。

 

 ちなみに馬鹿正直に魔法を避けず顔に当てるなんて真似はしたことがないので、リリウスも今知った。

 

「凄いわリリウス! 貴方のお口、魔法を直接食いちぎれるのね!」

「………………」

 

 どうせすぐバレるだろうが、何を大声で言っているんだこの馬鹿は。アリーゼの言葉に【アストレア・ファミリア】の魔導師達は驚愕しアルフィアはやはりかと言うような反応。

 

「だが、食えるだけだ」

 

 肉を食いちぎれるからといって、猛牛に真正面から突進されて無傷の獣は居ないように、攻撃魔法を別に無傷で受けられるわけではないだろう。

 

 ただ体に触れるより吸収効率は良いが、アルフィアの『鎧』を破壊するには至らなかったことが証明している。

 

「そうなの、リリウス?」

「…………まあ、あの魔法食って得られる力はダメージと釣り合わねえな」

 

 だからアルフィアの魔法は避ける。そこは変わらない。

 

「くそう、無敵かよ彼奴! 穴なんて何処にもないぞ!」

 

 ネーゼが思わず叫ぶが、アリーゼは違うと内心で呟く。

 何故ならまだ誰も死んでいない。

 本心がどうあれ……いやむしろ、本心があれだからこそアルフィアは本気で殺しに来ているはず。

 

 その上で一番高いリリウスとのLv.差が2という絶望的な差で誰も死んでいないのだ。

 『心身の進化』、『神への階段を一歩登る』などと言われるランクアップを一つ行っただけでその存在は別格と言って良い。

 Lv.7がLv.5どころかLv.3すら殺せないのは、アルフィアが本調子ではないからだろう。

 

「私たちの勝ち筋は『持久戦』………【勇者(ブレイバー)】の作戦、当たりね! リオン、リリウス! 一撃離脱(ヒット・アンド・アウェイ)、続行よ! 正義の味方らしくないけど、『相手の嫌がること』とことんするわ!」

「ええ、アリーゼ!」

「解った」

 

 リオンとアリーゼが交互に踏み込み、スイッチの僅かな隙を埋めるようにリリウスがマーダを振るう。

 魔法を打たせないつもりだろう。

 

「だが、私は手刀(これ)だけで、お前達の首を飛ばせるぞ?」

 

 リューの攻撃を回避し、放たれる手刀。宣言通り雑多な刀剣などより余程殺傷力のある手刀は、しかし割り込んできた影に止められた。

 

「未熟者め! 面が少しまともになったかと思えば、すぐこれだ! おちおち見てもいられん!」

 

 極東の刀を振るう輝夜だ。増援を倒し終えたらしい。

 

「輝夜!」

「どっか行っちゃって心配してたわ、輝夜! 面倒を押し付けて逃げ出したなんて私はこれっっっぽっちも信じてなかったからね! ね、リリウス!」

「連携ができるお前が残って俺を行かせればいいのに、私怨か? とか思ってた」

「団長、貴方はそこのエルフと同じぐらい嘘が下手だからあまり喋らないほうが良い。あと合わせるなチビ………さて、糞婆」

 

 と、輝夜がアルフィアに殺気を向けた。

 

「面倒な連中は片付けた。これで思う存分、借りを返してやれるぞ!」

「威勢だけは良いな、小娘。だが、先程の言葉は撤回しろ。私はまだ、24だ」

 

 8年前の時点でLv.7だから、最高でも16歳でLv.7に至ったのか。才禍の怪物と呼ばれるだけはある。

 

「えっ!! 本当に若いわ! 私『恩恵』の力で誤魔化して、実年齢もっといってると思ったのに! 驚愕の新事実!!」

「アリーゼ!! 敵とは言え、妙齢の女性に失礼だ!」

「16でもLv.7になれると証明されてるのか。あと6年……長くもねえ」

 

 成長補正スキルがあるとはいえ、ランクアップしLv.が上がるほど必要な経験値は増えるだろうが。

 

「そうかそうか! しかし私は16だ! どうだ婆、羨ましかろう!」

「挑発ならもっと上手くやれ。お前のそれは雑だ。それに、羨望は抱く気になれない」

 

 輝夜の挑発を、淡々と流すアルフィアはリリウスに顔を向けた。

 

「人など、生き急がなければ、あっという間に老いていく。その年の私に及ばず、追いつく気もないお前などに、何を羨ましがれと言う」

「っ!! 攻撃の速度が!?」

 

 速度がまだ上がる。

 これだけ戦い続けながら、息が上がるどころか実力の底すら見えない。

 まさに怪物と、誰かの脳裏によぎる。

 

「『あの時、ああしていれば』。生涯の中でそう考える都度、人は老いていく。選択を悔やむということは、己の所業を呪うことと同義だ。私ですら心がもう何度老いたかわからん」

 

 会話の隙を突こうと身をかがめ背後から迫るリリウスは、受け流され膝が腹にめり込む。

 

「『過ち』は覆せない。『後悔』のために私達は今、ここにいる…………ザルドも、私と同じ思いだろう」

「ケホッ……! あっちは、俺に期待してるみたいだけどな」

「…………そうだったな。もう少し埋めておけばよかった」

「…………もう少し?」

 

 一度は埋めたのか。もう少しというのは、時間か、それとも埋める範囲か………。

 

「何を仲良く会話してんだ!?」

「いや、時間稼ぎならこれでいい! なんでもいいから時間を稼げ!」

 

 ネーゼの突っ込みにライラが叫ぶ。

 『時間稼ぎ』…………ゼウスとヘラ(名実共に最強)の二人に対する、唯一の勝機がそれだ。

 

 

 

 

 

「『ザルドとアルフィアの弱点』?」

 

 突入前、作戦会議室にて、フィンがそう切り出した。

 事前に知っておけば対策も取れるはずと、彼等に挑み、敗れた彼が語る。

 

「弱点っていってもよー、モンスターの『魔石』みたいに突けば一発で倒せる、なんて代物があるわけじゃねえんだろう? まともに戦えねえ時点で、対策なんて出来っこねえと思うけどなぁー」

 

 ライラの言葉は事実だ。どんな弱点があるとすれ、踵を射抜けば急に弱くなるなんて幻想はあるはずもなく、あったとしてもそこをつける者がどれだけいるか。

 

「確かに魔石と比べるまでもない。だが、これを踏まえて戦闘を展開すれば、勝機が手繰り寄せられる、と我々は考えている」

 

 それが『不治の病』と『不治の毒』。

 アルフィアは生まれながら大病を患い、それは恩恵を以ってしても完治しないどころか『悪種(スキル)』として発現してしまった。

 まるで才能の、能力の代償と言うように。

 

 魔法や道具(アイテム)を使おうと決して癒えることがなく、主神のヘラですらどうしようもなかったアルフィア唯一の制約。

 故にアルフィアはL()v().()7()()()()()()()()()()

 

 ザルドは後天的な要因で体を蝕まれている。

 そう言ったガレスに、リリウスはああ、と呟く。

 

「毒か」

「…………毒?」

「ザルドの腕を食った後、俺の体を侵した猛毒。『悪食』をあっさり突破してきやがった」

 

 うぇ、と舌を出し呻くリリウス。

 リリウスの『悪食』は耐異常にも似た毒耐性であり、経口摂取ならば同ランクの耐異常を1つ2つは超えていると見ても良い。

 そのリリウスが臓腑を腐らせるほどの猛毒。

 

「食ったのか……」

「それと、あの毒の元はザルドより強え」

「何故そう言い切れる?」

「俺の魔法は何もかも食って、複数食ったら対象を任意で選ぶんだが、あの時食った中で一番強い力を自分に一時的に発現させようとしたんだよ。俺に発現したのは毒の力だった」

 

 今はスキルで再現してるけど、と髪を黒く染め角を生やすリリウス。

 

「あの破壊の跡は君だったのか」

「話が見えねえぞ。あの怪物女に並ぶ化物が何の毒に侵されてるってんだよ。しかもそれより強いとか………」

陸の王者(ベヒーモス)

 

 ライラの言葉に、フィンが応えた。その名にリリウスを除いた誰もが目を見開く。

 

 ザルドは強力なレア・スキルを持っていた。その能力はリリウスと同じく『強食増幅(オーバーイート)』の『神饌恩寵(デウス・アムブロシア)』。

 

 食えば食うほど能力値(ステイタス)を上昇させるスキルを以って、ベヒーモスを直接喰らい、その力を以ってベヒーモスを打ち倒した。

 その見返りとして呪いの如くベヒーモスの毒がザルドを内から腐らせ始めたのだ。

 

「少なくとも、ザルドは完治してないのが解った」

「アルフィアまでそうとは限らんだろ。病が癒えたからこそ、攻めてきた線も捨てきれん」

「なにより、あの化物っぷりで(ハンデ)があるなんて信じられねえ」

 

 輝夜とライラの言葉に、リリウスはアルフィアの顔を思い出す。

 それなりに食らってきた味だ。見て、匂いを嗅げばある程度解る。何よりあの顔………

 

「ハンデはあるさ。必ずな」

「何故そう言い切れるんだい?」

 

 フィンの言葉に、リリウスは遠くを見つめる。

 

「そうじゃなきゃ、お前等がトップのオラリオなんて初日に潰されていた」

 

 

 

 

 

「…………!」

 

 ポタッと、赤い鮮血が焼けた地面に落ち焦げ臭い匂いを放つ。

 

「────え」

「吐血、した?」

「我々は何もしていない……自ら吐血した」

「化物みてえに強ぇ此奴等が、そんな事あるわけねえって、信じられなかったが………本当に、あったんだ」

「【静寂】のアルフィアの、『弱点』…………」

 

 誰もが驚愕で固まる中、真っ先に動く影。隙を晒す弱った獲物に襲い掛かる餓獣の牙がアルフィアの白い肩の肉を抉る。

 

「………ふぅ」

 

 Lv.7の、恐らくその中でもトップクラスのアルフィアの血肉。アンフィス・バエナすら超える血肉を喰らい、リリウスの能力値(ステイタス)が一時的に上昇する。

 

「馬鹿な女だ。妹の子とやらと過ごして、くたばればマシな死に方出来ただろうに…………」

「生憎、私の死に様は私が決める」




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