ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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最後の抗い

「がっ、かは………っ!!」

 

 病に侵された血を吐きながら、膝を崩し両手をつくも、それでも魔女は倒れない。

 だが、立ち上がらない。

 

「はぁ、はぁ………これって、勝った……の?」

 

 片膝をつき、肩で息をするリリウスに視線を向け、アリーゼ達はアルフィアに目を移す。

 

「…………あぁ、お前達の、勝ちだ。まったく、煩わしい雑音どもめ」

 

 悪態をつくアルフィアは、しかし何処か嬉しそうに微笑んでいた。

 

「アルフィア………」

「………最後に、伝えておこう。この姿を、忘れるな。何時か、お前達が辿るかもしれん末路だ。私達が『黒竜』に、敗れたように………」

 

 枯れた枝のような体で、かつて英雄であった零落した己を見せつける黒衣の魔女。

 

「『正義』とは、それほどまでに脆く、儚い」

 

 綺麗事だけでは通用せず、何を掲げようと、奪われる時はあっさり奪われる。

 

「だが………」

 

 それでも………。

 

「たとえ、全てが灰に還ったとしても………お前達が歩んだ『軌跡』は、決して無駄にはならない」

「「「!!」」」

 

 静かに告げられた真理に、アリーゼ達の目が見開く。

 

「『正義』が、巡るならば………『希望』を、繋げ………」

「アルフィア………」

「それが束となり、一つとなって………必ずや、『最後の英雄』を生む………」

「…………わかったわ。決して、貴方の言葉とその姿、忘れはしない」

 

 灰の魔女は目を閉じ、微笑む。そのまま正義の乙女達に背を向けた。

 

「………! アルフィア、どこへ……!」

 

 リューの言葉に答えず、やがてアルフィアがたどり着いたのは未だ炎くすぶる『縦穴』の縁。深層より現れた怪物の作り出した、火口の如き灼熱の穴。

 

「私の亡骸(からだ)は、灰に還すと決めている……あの子と、同じように」 

 

 魔女の告白に、少女達が息を呑む。

 

「さらばだ、正義の眷属。さらばだ、オラリオ…………さらばだ」

 

 慌てて駆け出したリュー。しかし、アルフィアは最後に振り返り体を傾け………

 

「ぐっ!?」

「「「!!?」」」

 

 その肩に、深々と突き刺さる『釣り針』。

 

「ふざ、けるな………何を、満足して、死のうと……して、やがる」

 

 蓄積したダメージを無視して、限界以上に肉体を酷使し、己の神経すら雷で焼いて最後の迅雷の如き速度を生み出したリリウスは、無理矢理体を立たせ、アルフィアを睨む。

 

「いった、筈だ。お前の、願いなんざ、叶えてやらない………お前は、俺が殺す!!」

「【飢鬼(ラークシャサ)】! これ以上は、もう! アルフィアも、貴方だって………!」

 

 まともに戦える体ではないはずだ。縦穴まで歩いたアルフィアも、立ち上がったリリウスも異常なのだ。

 

「これ以上、戦う必要なんて………!」

「………ある。あるとも、あるさ! 満ち足りた顔で、死ぬなんて認めるか! お前が、お前達が……見捨てたから、俺はここにいる……ここの誰が許そうが、俺は許さない!」

「っ!!」

 

 アルフィアが身を震わせ、リューが思わずリリウスに叫ぼうとした。それは違うと、原因があるとするなら、それは闇派閥(イヴィルス)であり、救いも、見向きもしなかった自分達だと。

 

 だから、オラリオを信じ、託した『英雄』にこれ以上………。

 

「リオン…………」

「アリーゼ?」

 

 そのリューを止めたのは、アリーゼだった。ネーゼ達も意外そうな顔で見ている。

 

「………リリウス。私達は、あの怪物を止めに行くわ。貴方も、ちゃんと来てね。行くわよみんな」

「い、いいのアリーゼちゃん? それに、今の私達が行っても………」

「ていうか全快したとしても」

「だとしても、今は此処から離れるの」

 

 アリーゼの言葉に【アストレア・ファミリア】の面々が戸惑いながらも、しかし従う。アリーゼはもう一度リリウスとアルフィアを見て、目を伏せ歩き出した。

 

「…………私を、殺したいか?」

「そう、言っている………! 自害なんざ許すか。誰かの後を、追わせるか………殺して、引き裂いて、喰う……!」

 

 Lv.7の肉体だ。強化が解除された今、再び強化する糧にも、回復するための糧にもなりえる。人喰いの獣が、わざわざ灰になるのを見逃す道理などない。

 

「………それは、断る。言ったはずだ、死に様は、私が決める」

「なら、せいぜい足掻け、死に損ない!」

 

 死に損ないは、お前もだろうに。

 過ぎた力を扱おうとただでさえ傷だらけの身を焼き、最後の一撃に全てを注ぎ込み、勝手に死のうとしている敵に牙を剥く。

 

 或いは、この時代を作った不甲斐ないかつての『最強』への怒りと取る者もいるだろう。

 或いは、オラリオ史上最も人が死んだ7日間を生んでおいて満足して死のうとする『悪』を許さぬ義憤と取る者も………。

 

 憎悪、憤慨、怨恨、暗然、失意、瞋恚………そのどれにしろ、誰もが負の感情から生み出された殺意と取るだろう。

 

 唯一人、アルフィアは肩の『釣り針』を抜きながら、笑う。

 

 その美貌に嫉妬し、死を望む女は山程居た。

 その才能を恐れ、死を願う冒険者は山程居た。

 その在り方を畏れ、死なぬ事に怯える者は山程居た。

 

 病弱な彼女達姉妹に生きて欲しいと願う者達は、まあそれなりに居た。

 

 だが、初めてだ。感じる殺気は本物なのに、こんなにも死のうとするなと言われたのは。

 醜く生き足掻けと願われたのは。

 

 ああ、そういえば、もう一つ初めてがあったか。

 警戒はした。力にも怯んだ。

 

「誰もが私の才能を畏れ、誰もが私の力に怯えた………」

 

 あのオッタルも、『勇者』を名乗る小人族(パルゥム)も、人ではない物を見据える目をしていた。

 

「お前だけだ。私の力を見て、私に何度も潰され………怪物を見る目を向けなかった子供は…………お前だけだったんだよ」

 

 まあ、だからどうという話ではないが。

 

「私は、あの子の後を追う。邪魔を、するな………」

 

 発展アビリティの『精癒』により、僅かに回復した精神力(マインド)。アルフィアは、獣を睨む。

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 全てを破壊する鐘の音が、竜の砲撃音に掻き消されながら、獣の耳にだけ響いた。

 

 

 

 

「……………リリウス」

 

 アリーゼ達に万能薬(エリクサー)を届け、ステイタスの更新を行ったアストレアは咀嚼音に導かれるまま岩陰を覗く。

 

 本来神はダンジョンに入ってはいけないのだが、ヘルメスの眷属達を護衛に、ダンジョンに居るであろうエレボスと相対するために来ていたのだ。

 

「…………アストレアか」

 

 飛沫となった血液が左目に入り、頰を伝う。リリウスは口元を拭いながら地面に刺していたマーダを抜く。

 

「………辛い?」

「まあ、流石に人一人で回復出来る傷じゃなかった」

「そういう意味じゃ………いえ。そうね、まだ万能薬(エリクサー)は残ってるわ」

 

 そう言って瓶を渡すアストレア。リリウスは傷を癒し、デルピュネを睨む。

 

「それから…………ソーマから、1年だけ許可をもらっているの。貴方は、どうしたい?」

 

 

 

 

「「「オオオオオオオッ!!」」」

「っ! モンスターの群!? こんな時に!!」

 

 【アストレア・ファミリア】全員のランクアップに、暴走するアイズの説得も終えいざデルピュネに挑もうとする矢先に現れるモンスターの群。

 

 全員同時ランクアップという前代未聞の快挙でLv.4になったアリーゼ達なら問題ない相手だろう。

 デルピュネさえいなければ、という言葉がつくが。

 

「仕方ねえ、二手に………!?」

 

 片方がデルピュネ相手に耐えている間、片方が邪魔なモンスターの殲滅という作戦をライラが叫ぼうとした時だ、小さな影が割り込んできた。

 

 小柄なライラや、幼いアイズよりもなお小さな人影。わずか10歳の小人族(パルゥム)…………リリウス・アーデ。

 

 すぅ、と大きく息を吸い込み………

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 吠えた。

 その矮躯から発せられたとは思えぬ轟雷の如き咆哮。

 アイズが「ウニュッ!?」と耳を押さえるも皮膚を、肉を、骨を震わせる轟音。

 

「モンスターが、動きを止めた?」

「これって、まさか………」

「…………咆哮(ハウル)?」

 

 ただの叫び声ならば、多少怯みこそすれど止まるはずもないモンスターの群が固まり、動かない。

 ミノタウロスなど一部のモンスターが使う、己より弱い獲物の動きを封じる声………その光景は、それに酷似していた。

 

「キシャアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 唯一デルピュネは固まらず、むしろ怒りを露わにリリウスに負けぬ咆哮を上げる。

 咆哮とは捕食者の特権だ。

 自らの存在を敵にすら知らしめる、縄張り内全ての存在を恐れていないと示す警告。

 

 モンスターの王たる竜は不遜な獣に怒りを向け………リリウスが眼前に迫り、蹴りを叩き込む。

 

「疾っ!?」

「いやそれより、何だ今の『力』!?」

 

 一見痩躯なれど階層主すら超える巨体を持つ竜が、小人の蹴りで揺らぐ。

 圧倒的な『力』の能力値(アビリティ)。如何にリリウスが強力な強化スキルを持っているからとは言え、Lv.5のはず。限度がある。ならば、まさか………

 

「いや、ありえん………1週間前だぞ!?」

 

 たった7日前………リリウスがLv.5に()()()()()()した。如何にアルフィアが強敵であっても、それは埒外が過ぎる!

 

「キシャアアアア!!」

 

 ガレスが驚愕と困惑に囚われる中、デルピュネは炎を放とうと口の中を光らせる。対してリリウスは再び息を大きく吸い………

 

「わっ!」

 

 咆哮。自らの喉を砲台に、魔力を混ぜ指向性をつけた轟音がデルピュネの体を叩き、喉奥の炎を誘爆させた。

 

「…………音の、砲弾?」

「あれ、私達の魔法より強くない?」

 

 それこそまるで、と【アストレア・ファミリア】の面々の脳裏に浮かぶ灰色の魔女。

 

「ギュルルルルルルッ!!」

 

 魔力の燐光を放ちながら傷を癒すデルピュネは憎々しげにリリウスを睨む。

 

「【傲慢なる悪意の王。血の河を啜れ、肉を貪れ】」

「キシャアアアアアアアア!!」

「【ラーヴァナ】!!」

 

 

 

 

 

「もう全部彼奴一人で良いんじゃねえの?」

「う〜ん。でもほら、攻めきれてはいないみたいよ?」

 

 ただのモンスターなら魔石を砕かずとも殺せるが、デルピュネは魔石が砕かれぬ限り死なないと確信できる再生能力を持っている。

 

 第二の魔法を発動するならともかく、やたらリリウスを狙うデルピュネのせいで隙がないようだ。

 

「だから私達も行くわ! ていうかこのままただ見てたら『全員合わせて11レベル分』って格好つけたライラが間抜けになっちゃう!」

「アリーゼ、後生だ。黙れ………ま、兎に角行くぞ。そっちのちびっ子みてえに邪魔とか言ってくるかもだが」

「…………まあ、それに関しては問題ないだろう」

 

 デルピュネは皆の力で倒した。描写が雑? ここまでの戦力が揃えば、勝利は既定路線。

 元より正義の乙女達のランクアップ前から、この戦力なら『大最悪(モンスター)』には勝てると勇者のお墨付きのチームなのだから。

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