ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

393 / 394
第一次侵攻③

 バルカに死神への忠誠心はない。

 ダイダロスの手記と言う呪われた書を見たダイダロスの血族はその心を始祖の宿願で支配される。

 

 バルカ・ペルディクスは母の肚から出てきたその時に父だったかもしれない男に手記を見せられた。自我なき赤子に『ダイダロスの思想』がそのままねじ込まれ、その時からバルカはダイダロスの虜囚。

 

 精神が成長することなく、初老でありながら幼少期の子供のそれ。

 

 バルカは地上に出たことがない。

 バルカはまともな道徳を有した神や人と交流したことがない。

 バルカは愛と友情、道徳の倫理を知らない。

 

 爪を失いながら岩盤を削り、餓死寸前まで迷宮(ダンジョン)を拡張し、捕らえた女を襲い子を孕ませた。

 

 ダイダロスの運命に耐えきれず自害した同胞から瞳を抉り新たな『鍵』とした。

 

 バルカ・ペルディクスの全ては人造迷宮(クノッソス)の完成のために。ダイダロスの妄執に染められた男は、攻略されていく人造迷宮(クノッソス)を見ながら一度は降伏し、ギルドに人造迷宮(クノッソス)の情報を売ろうかとも考えた。そんな彼の思考など容易く見通し、死神は告げる。

 

管理機関(ギルド)人造迷宮(クノッソス)のこれ以上の拡張を認めないと思うな〜」

 

 真なる迷宮(ダンジョン)に繋がる広大な地下空間。何かの拍子にモンスターが地上進出する為の道になるともわからぬ迷宮のこれ以上の拡張など以ての外だ。現時点での領域なら、長年の苦悩である遠征の度に一層から降り直す手間が省けるとロイマンあたりが利用を思いつきそうだが、それでも下層、深層に繋げるなどあり得ない。

 

 故にバルカに冒険者を始末する以外の手段はない。その為の仕掛けは存在する。

 

 バルカの異父兄弟……ディックス・ペルディクスが残した自壊装置。支柱を取り外し()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 以前人造迷宮(クノッソス)を通路代わりに利用し壁や天井を突き破りながら進む害獣に機能の一部を使用したが瓦礫から普通に顔を出し土埃をパッパッと払ってさっさと出ていった。

 

 だが人造迷宮(クノッソス)の自壊機能を知ってからは、柱を動かす準備をするだけで一先ずは階層移動以上の行為はしなくなった。

 

 全ての冒険者があそこまで規格外な訳では無い。仮に生き残るとしても第一級が数人程度だろう。やる価値は十分にあると、自壊機能を起動させる台座までやってきた。

 

 だが、躊躇う。

 度重なる破壊を憐れんだタナトスにより与えられた魔導書(グリモア)により発現した迷宮を修復する魔法。しかし、詠唱は長く、精神力(マインド)を大量に消費し、一度に直せる規模にも限界のあるそれで、崩壊させた一つの階層を完全修復するには何ヶ月……罠などの機能を再設置するにはさらにどれだけの期間………。

 

 自分の代で人造迷宮(クノッソス)の完成など不可能と知りながらも、妄執が囁く。『もしかしたら………』。

 

 その迷いが、運命の分かれ道。

 

「っ!!」

 

 グシャリと片腕が食いちぎられる。

 

 何もない空間から垂れる赤い血が床を汚しながら離れていき、バルカは反射的にダイダロスの手記を手放しナイフを投げつける。

 

 金属音と共に兜が外れ、姿を現す巨躯の猟犬。咥えていたバルカの腕を牙の隙間から覗く蒼炎で焼き尽くす。

 

「間一髪、と言ったところでしょうか………」

 

 空間から滲む様に姿を現すのは猟犬がつけていたものと同じ黒兜をもつ美女。

 

「【万能者(ペルセウス)】!?」

 

 靡く白のマント、アクアブルーの髪、銀の眼鏡。アスフィ・アル・アンドロメダが、バルカの前に姿を現した。

 

「バルカ・ペルディクスですね。神イケロスの情報にあったディックス・ペルディクスの異父兄弟にして、闇派閥(イヴィルス)の幹部」

 

 アスフィの背後から次々と姿を現す【ヘルメス・ファミリア】。全員があの黒兜を片手に持つ。あれで姿を消し、移動していたのだろう。

 

「どうやって、この場所を…………」

「幹部らしき何名かに共通する匂いを、そちらのシャバラに辿ってもらいました」

「ワフ!」

 

 本来ならアミッドの護衛。しかし、リリウスを通して自壊機能について聞いていたフィンにアミッドを守る為に人造迷宮(クノッソス)の主の早期発見が必要と言われバルカの身柄、及びダイダロスの手記の捜索を目的としたアスフィ達と合流したのだ。

 

「まさか、最初から………」

「ええ、【勇者(ブレイバー)】の掌の上です」

 

 この第一次侵攻の真の目的は人造迷宮(クノッソス)の『設計図』であるダイダロスの手記の確保。これさえ手に入れれば地図作成(マッピング)の手間が省ける。

 

 つまりフィンは自分達を含めて全ての突入部隊を『囮』に使った。怒涛の快進撃も、部隊を複数に分けたのも、【ヘルメス・ファミリア】の存在を気取らせぬため。

 

「…………『鍵』は、どうした?」

 

 【ロキ・ファミリア】が確保していた6つの筈だ。前回の出撃で4つ、女神イシュタルが確保していたのが一つ、人造迷宮(クノッソス)を壊しまくるリリウスのよく使うルートに止められないからせめてこれで扉を開けろと置いておき、持って行ったくせに使われなかったのが一つ。

 

()()()()()

「────」

 

 告げられた言葉を、バルカは理解できなかった。

 

「作戦決行までの10日間、私達も何もしなかったわけではありません。【勇者(ブレイバー)】に鍵の実物を見せてもらい、それと共鳴する最硬金属(オリハルコン)の門を調べあげ………その上で新たな鍵を()()()()()()()

 

 ドロップアイテムやダンジョンの採取物などで、再現可能。微弱な魔力波長を放ち扉を開閉する。

 この10日間、【ロキ・ファミリア】は人造迷宮(クノッソス)不規則な攻撃(いやがらせ)をしていた。全ては新しい鍵作成のカモフラージュ。

 

「覚えた!」

 

 アスフィの背後で獣人の女が叫ぶ。その手には先程バルカが手放したダイダロスの手記。

 

「手記は確保した! 道筋は全部把握したぞ! 敵の拠点は、9階層だ!」

 

 晶眼(オルクス)に向かい叫ぶ。人造迷宮(クノッソス)にいる全ての冒険者にその情報が共有された。

 

 

 

「リリウス?」

 

 スクリと立ち上がるリリウスは下を見つめる。死神の盟約は有効。バルカが対峙している今、もはや崩落装置は起動不可能だろうが、タナトスへの義理で待機。

 

 だが、時は近い。

 

 ()()()もそれを感じ取ったのだろう。精霊の封印の中、身動ぎ。ダイダロス通りが僅かに震えた。

恒例、100話区切りの特別編

  • リリウス、グルメ時代に立つ(トリコ)
  • マクールの竜退治(幼年期の冒険)
  • 迷宮偶像(アイドル)
  • 平行交差(原作時空)
  • 問題児たちがオラリオに来るそうです
  • リリウスは使い魔(ゼロ魔)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。