ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
時を少し遡る。
追い詰められたバルカは宝玉の胎児を使い異形と化した。呪詛に塗れた黒血、高い再生能力、第一級を凌駕する膂力と、推定深層階層主級の怪物となったバルカ。しかし、バロールよりは下だ。ならばLv.7のフィンの敵ではない。
光の一撃には耐えた。だが、それは『技』。詠唱はなく、故に放たれる光の二撃目。
一撃目を耐えられた要因たる両腕を失った異形は魔石を砕かれ消滅した。
「……………?」
その瞬間にはリリウスが来るとばかり思っていたフィンはその静寂に目を細める。
親指は、疼いていた。
リリウスが来ない理由…………死神への義理は果たした。となれば、警戒している?
「……………【
「平面? また妙な……ええと、さっきの報告から
ずいぶんとバラけている。
「………ロキ達と合流する。アミッド、戦線を下げる。負傷者を纏めて退路付近まで連れて行ってくれ」
「…………………引き返しましょう」
「団長?」
敵の拠点もわかり、
「だって、リリウスが来ないもの」
タナトスへの義理なら果たした。リリウスが義理以上のことをするのはそれなりに仲のいい相手だけで、タナトスを嫌ってはいないようだがそこまではしないだろう。
「なら気を遣われているのは私達。そうね、例えば…………戦いになったらこの迷宮が壊れちゃうような規模になるとか」
あり得ないとは言い切れない。片やアダマンタイトの迷宮を破壊しながら突き進む世界最強で、片やその世界最強が可能な限りステイタスを極めてから挑むと決めた竜。
「わーった。象の足元で潰されるアリになんのは、アタシはごめんだ」
参謀のライラも団長に同意した。ならば反対意見など上がるはずも無く、【アストレア・ファミリア】は戦線から離脱する。
「バルカちゃんが逝ったかぁ………………今まで本当にお疲れ様。バルカちゃんの執念も哀れさも、純粋さも残酷さも、何者よりも歪んだその『魂』……俺はとっても大好きだったよ」
バルカ自身はタナトスを有用な存在とは思いながらも忠義も敬意も持たなかっただろうが、そんなもの神たるタナトスは気にしない。
状況は詰みに近い。というか詰んでいる。
残りの幹部達はタナトスの逃げ道を確保するために向かった。
逃げ道。そう、タナトスさえ生き残れば
「そりゃ、十年二十年、そんな期間は神からすればあっという間さ。でも、また一から色々やれってのは勘弁だよね。時間はあっという間でも、面倒なんだ………ねえ、エリゴネちゃん」
タナトスはディオニュソス唯一の眷族にして、
「精霊達を暴れさせてよ。あれの封印が解けて何もかも台無しになるかもだけど、そこはリリウスちゃんに期待しよう。あれがどれだけ強くてもリリウスちゃんなら相打ちに持っていけるさ」
リリウスの勝利は信じない。だが、敗北しないことは信じている、そんな声色。
「断る。精霊達には役割がある。配置を動かすわけにはいかない。主の神意に背くことになる」
「……………………………はぁ〜〜〜〜」
タナトスは呆れたように肩を竦める。それ以上言わないことが予想外だったのか、アウラは僅かに動揺した。
「そりゃ一度も会ったことない奴の考えてることなんてわからないけどさ、俺達は顔を合わせたんだよ? 確かに俺は策謀、計略の神じゃない。でもディオニュソスも同じなわけでさ………んで、俺の方が邪神歴は長いわけよ」
そして【タナトス・ファミリア】は
人々が苦しむ様を楽しむ邪神、悪を打ち倒さんと足掻く正義を真正面から観戦する邪神、悪にしかなれぬ者達の葛藤を嗤い手を差し伸べる邪神、単純に平和が嫌いな邪神………数多の邪神と共にあった。
「ゼウスとヘラにビビって遅れてオラリオに来た上に、妙なプライドで『俺
「………………………」
神威は放たれていない。それでもアウラは己を見据える死神から一歩距離を取った。タナトスはニコッと微笑む。
「じゃあねエリゴネちゃん。伝言頼んだよ」
そう言うとタナトスはその場から立ち去る。
「やっ」
「うっわ」
探していたタナトス
「自分がタナトスやな?」
「そうだよ。だけど、悪いね。お話はここまでだ」
そう言って剣を取り出すタナトス。下界の民に神を攻撃することはできない。ロキが警戒する中、タナトスは剣を己に突き刺した。
「「「!?」」」
「ここは、さ……バルカちゃん、が………皆が生きた、証、何だよ…………仕返し、だ」
剣を無理やり持ち上げ、ゴボリと血を吐き出し肉体が致命的なまでに損傷を追う。次の瞬間、この世の何よりも膨大なエネルギーが世界の境界を突き破るべく天へと伸びた。
「……………タナトス様」
恩恵が消えたことを感じ取った眷族達が涙を流す。そして………
「……………何だと?」
神の送還が行われるのは予定通り。だが、
本来ならペニアを殺してただの人となった元眷族達が逃げ惑い、しかし逃げられず食われる様を見て笑いたかったのだが………ロキならば最良だが期待しすぎか。タナトス? だとしたら………
「私を巻き込めるとでも思ったのか? 全く、無駄なことを」
祭壇が機動する。
『ラァァ────────』
美しくも歪んだ歌声が響く。穢れて堕ちた身でありながら神の勅令に身を打ち震わせるように、精霊達が異なる場所で歌を重ねる。
緑肉が氾濫する。
全てを飲み込まんと迫る緑肉はディオニュソス達のいる部屋に入る前に燃え尽きる。反対の通路から来た緑肉はディオニュソスの前で岩に当たった水のようにディオニュソスを避けた。
「考えが浅いな。さて、気付いていると思うが
「守りきれるか、だと? 舐めるな」
煌々と輝く炎が広がる。邪を払い、人に加護を与える始まりの炎。
肥大化した緑肉が焼け人類は燃えない。そのまま詠唱を歌う精霊達を焼き尽くさんと………
「!!」
古代、数多の怪物を打ち破った英雄が直感的にその場から飛び退く。
リリウスが飛び出した瞬間、ダイダロス通りの一角が弾け飛ぶ。
爆発、ではない。下から圧倒的な質量の何かが昇ってきたのだ。
「ギャオオオオオオオオオオオ!!」
ビリビリと大気を震わせる海蛇を思わせる竜。恐らく全長の半分以下しか出て来ていないのにもかかわらず建物が縮んだと錯覚するほどの超巨体。
「おぉらあ!!」
リリウスが額を殴りつけ再び地下へと押しやった。
恒例、100話区切りの特別編
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