ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「………………!!」
水底に光が見えた瞬間、リリウスは尾を撓らせ泳ぐ。便利だ。
魔力の光は、当たり前だが光速ではない。それでもかなりの速度だが、『溜まって』『放たれる』僅かな時間差がある。
高高度に打上げられたリリウスを正確に狙えるだけの精密射撃能力が却ってありがたく感じる。
「ぶは! えぇほ、ぶわ!?」
再び海面に飛び出し息を吸おうとしたリリウス。
光熱により蒸気となった海が空にて積乱雲に変わり発生した大嵐が荒波を生む。
リリウスが波に飲まれ再び水の中へ。水の中の方がまだましか。とはいえ少ししか息を吸えなかった。
月明かりも星明かりも失い完全な暗闇の中、巨大な何かが動く。
「!!?」
海流が乱れ天地左右が掻き回される。どちらが
判断を誤ればさらに空気が遠くなる。
いたっ、鯨の死体にぶつかった。荒れ狂う海流に脳がかき回されたようだ。
「…………!」
リリウスは鯨の死体を引き裂き肺の中の空気を吸い込む。生臭い。だがこれで少しは…………!
「!!」
鯨の死体が完全に光に焼かれた。無数に迫る光。海流のせいで上手く動けないリリウスはまともに喰らう。
「…………!!」
放熱。
周囲の水が蒸気に変わり、急激に体積が膨張し爆発。
周囲の水が吹き飛び、水よりも速く先に空気が空いた空間を埋めようと流れる。
「ドゥルガー!」
遅れて迫る水に飲まれる前にリリウスが叫ぶ。ドゥルガーが呼び出した剣に乗り、空へと逃げる。遅れて迫る無数の光。
掠めただけで熱を感じる。
光熱が海を焼き、蒸気が嵐となり、轟々と吹き荒ぶ風が雨と氷を叩き付けてくる。
「滅罪大黒天女」
飛行能力を持つ
「──────」
現れたるは骨の巨竜。海の覇王の遺骨。そこに
遡れば竜骨の胸に先程までのリヴァイアサン・オルタ。遺骨に共鳴し魔力が溢れる魔石は肥大化しその身を貫き、再生能力が暴走したかのように鱗を内から破った筋繊維が骨に絡み突き傀儡の如く動かす。海面から覗く首だけで、空中にいるリリウスを見下ろす。
その筋繊維も増殖しながら骨を包んでいく。肉が増える程に加速度的に速度も増しているのにゆったり見える超巨体。特に肉の再生を優先しているのは頭蓋骨と鰭。鰭に関しては一部が骨を再生させている。
ゴロリと再生した紫紺の眼球がリリウスを捉える。
「!!」
広げた鰭と口内に灯る光。幾千もの星の瞬きの如き幻想が、空と海の境界が消えた闇の世界に顕現する。
全ての光が破滅の一撃。即ち絶死の流星群。
「
銃弾を頭に撃ち込んだ瞬間、嵐の風、雨粒、氷、光線の速度が落ちる。否、リリウスの固有時間が加速する。
流石お姉ちゃん、超助かる!
リリウスに終わった世界線を見せ、戦い続けたことを証明し、その魔法に刻まれた時崎狂三の力。時を操る規格外の精霊。しかし、故に直接的な戦闘能力は高いとは言えない。本来なら………
「やるぞ、俺達」
生み出される無数の分身。手に持つはドゥルガーが生み出した精霊の武器。【サンサーラ・マンダラ】はスキル、魔法、アビリティの変化。技量は据え置き。分身全てが力や敏捷こそ下がったもののリリウス並みの技量を有する。
「元最強達が対峙した際の戦力と比べても遜色ないのではないか?」
と、ドゥルガーが言う。第一級並みの戦闘能力を持つ分身達を見ながらリリウスは目を細める。
「そう思うか?」
「
ドゥルガーの言葉と同時にリリウスの分身の半数が消し飛んだ。
前提条件として、【ゼウス】と【ヘラ】は第一級を数多く所属させていた。そして質も量も今のオラリオの第一級に勝るだろう。何せ『残光』を取り敢えず打ち合ってみようぜとイカれた鍛錬をしていた連中なのだから。
そんな規格外達が足場を始め、備え備えて尚決死の覚悟で挑んだ怪物。
魔石を削り大量の分身を生み出していたベヒーモス・オルタと異なり生み出した
「──────!!」
声帯も肺も復活していない海竜が吠える。音はなく、衝撃はなく、されど世界を震わす竜王の号令。集う数多の海竜種。こんな報告はなかった。そもそもただの海竜程度がリヴァイアサンの暴れる海で泳げるはずがない。
再びリヴァイアサンが動けば海の藻屑となる海竜を呼び出し何を………。
「オオォォォ!」
「ガアアアア!!」
「アアアアアア」
なんだ、海竜達が天を仰いでいる?
まるで何かに祈るように。信仰する神に己を捧げる生け贄のように。
「殺せ! 俺達!」
全てリリウス。ならば、当然本体が気付いた瞬間には動いていた。リヴァイアサンが動く。海竜達を飲み込む。それだけで海が荒波ではすまぬ
骨の隙間から溢れるかと思いきや伸びた筋繊維が海竜達を捉え魔石を吸収し肉の再生に利用する。
リリウスは剥き出しの魔石を狙う。
ウダイオスを思わせる姿でこそあるが、巨体ゆえに隙間が多い。リリウスでなくとも隙間が狙える。が、ほぼ魔石と化した先程までのリヴァイアサンの瞳がリリウスを睨む。
極大の光線を放ち、それを最後に古い体は完全に内から溢れる肉に弾け魔石が覆われる。増殖した肉を覆うは堅牢な竜鱗。
それもすぐに暗く染まった海に隠れた。代わりとばかりに海面を突き破るのは無数の光。
天蓋に星明かりすら遮られた暗黒の海の中で影を探すなど不可能。水の動きから察知しようにも
「う、お!?」
海中から放たれる無数の閃光。
一つ一つが第一級の
「らぁ!!」
残光。
幾千もの光線を撃ち落とし海を切り裂く。存外やれるものである。
と、海面を弾き飛ばし現れる海竜の尾。特大質量を叩きつける。シンプルが故に強力な一撃がリリウスを海面に叩きつける。
並の第一級なら──第一級で並とか意味わかんないけど一昔前には居たのだ──赤いシミとして広がり直ぐに荒波に消える一撃。
魔力などに優れる代わりに耐久が下がったリリウスはそれでも異界の精霊が持つ霊装である程度補える。が、決して防いだとは言えないダメージ。
しかもすぐに海面が歪む。
リヴァイアサンがとぐろを巻いた。故に起こるのは大渦。
万物を水底に沈め引き裂く海流。それにのる海竜。
流れに逆らわず流されるままリリウスに迫る。食いつけば逆に殺され、当たらなければそのままさようなら。それでも構わずリリウスへ襲いかかる。
己の犠牲を厭わぬその姿は
おまけに全方向から放たれる光線。剣で海流を受けなんとか狙いからそれるように動くが息が続かない。
また先程と同じ方法で…………駄目だ【サンサーラ・マンダラ】は一度解除しないと使った守護仏尊を再び選び直す事はできない。
エピメテウスで………いや、レオンで全ステイタスを上げてから。そもそも詠唱できてねえだろ今!
考えがまとまらない。酸素が欲しい。と、覇竜の牙が迫る。
「!!」
迎え撃つリリウス。気体を蹴り、空気を揺らさず音速を超えるリリウスからすれば水の中で剣速が鈍る事などない。
放たれる残光・八垠。神速の4連撃がほぼ同時に見える残光を生じさせ、文字通り八つ裂きにせんと迫る残光を、正面から打ち砕く。
全てを破壊する恐ろしい覇王の突撃。受け止めたリリウスの全身に奔る衝撃。
そのまま海底に叩きつけられる。
「!!!」
急激に変化した圧力にリリウスの全身が押し潰されそうに軋む。肺の中の空気を押し出され、眼球が内側に沈みかけ鼓膜が弾ける。
それでも潰れないのはLv.9という規格外。
或いは宇宙空間ですら活動可能な精霊の力をリリウスが使いこなせていたのなら話は別だったのだろうが………。
暗黒の視界に灯る無数の光。赤く染まる視界。
覇王の殲滅の光が放たれようとした、その瞬間──────
「!?」
「!!」
リヴァイアサンが首を出す程度の、しかし大穴。リリウスは肺の中の水を吐き出し、海底を砕く程の踏み込みで跳び困惑しているリヴァイアサンの肉を食う。
吐き出した。今のリリウスに意味はなかった。
「【
時間を巻き戻し回復するリリウスに迫る追撃。海竜が動くだけで海面という境界を突き破り襲いかかる海流………しかし、逸れる。荒波とは別に特大の渦がリヴァイアサンの動きを乱し、海流で出来た蛇がリヴァイアサンへと襲いかかった。
「これは………精霊の力?」
これだけの規模の海を操るとなると海神に類する大精霊。そしておそらく、リリウスは知っている。
雨粒も風も弾く水の膜に包まれた少女を見つけた。
「久し振り…………助けに来たよ、リリウスさん!」
「………………コリガン」
「オオオオオオオオオオオオ!!」
配下を支配した少女、そして忌々しき神が送り出した尖兵たる精霊にリヴァイアサンが吠える。
怒りに任せ打ち出される無数の閃光。精霊の守りをも貫く一撃に舌打ちしながらリリウスはコリガンを庇う。片腕が消し飛んだ。
「【
リヴァイアサンの動きが止まる。動きだけでなく再生中の肉も全てだ。時間の流れから切り離されたリヴァイアサンは、しかし長く持たない。
「
リリウスの髪が再び白く染まり、深緑の瞳がリヴァイアサンを睨みつける。
「凍りつけええええ!!」
かつて漆黒の怪物を数百年封じ続けた大精霊の氷がリヴァイアサンを海ごと凍らせた。
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