ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「Lv.3か……ちっ、チビで愚図な
「どうせ卑怯な手を使ったに決まってんだろ」
【ソーマ・ファミリア】内でヒソヒソと語られる陰口。それは、恐怖の裏返し。皆報復を恐れているのだ。
彼を虐げ、奪ってきた過去がある。Lv.3というこのファミリア最強になったリリウスは恐怖の対象でもある。
「あ、あの………兄、様………」
食堂で食事をするリリウスに近付く影。大量の皿を積んだテーブルがあるので、正面の連中は見えないが後ろにいた奴等はそれを確認した。
「彼奴は?」
「知らねーのか? 妹だよ」
「へー、じゃあよ、あのガキ人質に取れば………しかし、ひひ、ちっけえが顔は悪くねえな」
「あー、無駄無駄」
「は?」
どういう意味だ、と問いかけようとした瞬間食堂の机を飛び越え何かが壁にぶつかる。
「が、っぁ………は………!」
リリウスに話しかけた妹だ。腹を抑え、大して食っていない胃の中のものを吐き出す。
「あ、ぅ………兄様………」
「………………」
縋ろうとする妹に目もくれない。食事を再開する……。
「な? ありゃ人質にならねえよ」
「実の妹に容赦ねえな。ちょっとかわいそうになって来た」
とはいえ、手を差し伸べようとはしない。と、ドワーフの男がリリウスの妹を抱える。このファミリアでは珍しく面倒見の良いチャンドラだ。
面倒見が良いなど、このファミリアでは食い物にされるだけだがチャンドラはこのファミリアで3番目に強く、一部の者達にも慕われている。手を出す馬鹿は居ない。
「人質としても使えねえ、殺しても嫌がらせにならねえ。なんのやくにも立たねえんだな、あのチビ」
「ヒヒ。まあ顔は良いから美人にゃなりそうだがな」
「やめろやめろ、彼奴と同じ顔抱くなんて想像しただけで気持ち悪い」
「ちげえねえや」
ゲラゲラと笑う男達。
酒に酔い赤くなった顔で下世話な話をする男達は、本気でダンジョンに挑まない。だから強くならず、そんな連中の集まりだから弱い者は搾取される。
そんな連中の中で虐げられ、最強となった少年はバギリと骨を噛み砕いた。
「あ〜? 半年でランクアップ?
薄暗い地下で、女は地上の目新しい情報を聞きながら顔を歪める。
「
手足切り取って犯して孕んだ子供を磨り潰して口の中にねじ込んで窒息死させたい程大嫌いな勇者様の欲する
「死んで欲しいな〜、死んでくれねえかな〜」
「最近ダンジョン内で行方不明になる冒険者も増えてるそうよ! 必ず犯人を見つけるわよ!」
「はい、アリーゼ!」
【アストレア・ファミリア】。正義を司る女神の下に集った正義を愛する乙女達により結成されたその派閥は、個々の強さ、勢力としての強さは上位派閥に劣る中堅派閥なれどオラリオの民からの人気は高い。見目麗しい………以上に、彼女達ほど人を助けるのに積極的な派閥はないからだ。
そんな彼女達の今回の目的はダンジョン内での死者の増加。ダンジョンで人が死ぬなど有りふれたことだが、ここ最近特に数が多い。
Lv.3の第二級のパーティーは危うげなく中層を進んでいる。と………
「ひ、ひぎゃあああ!?」
悲鳴が聞こえてきた。直ぐに悲鳴のした方向に向かう【アストレア・ファミリア】のメンバー。と、通路の向こうから冒険者らしき格好をした男が駆けてきた。
「聞いてない、聞いてないぞあんな化け物!?」
涙を流し懸命に逃げようとする男。だが、闇の奥から伸びてきた巨大な釣り針が足に突き刺さる。返しがついて簡単に抜けぬ作りのそれは腿の肉を突き破り、男は慌てて外そうとするも闇の中に引きずり込まれる。
「させるものか!」
真っ先に飛び出したのはリュー。鎖に剣を突き刺し、地面に固定する。キンと音を立てて張り詰める鎖。
途轍もない力だ。少しでも気を抜けばその瞬間力負けする。グッと歯を噛み締め力を込めようとするリオンの喉を狙い飛来するナイフ。
「!?」
光を反射しない黒く塗られた暗殺ナイフ。咄嗟に回避するも、鎖を縫い付ける力が抜け男は闇の奥へと引きずられる。グシャリと肉を潰す音。直ぐ様闇の奥へと向かうリオン。
闇の奥から投擲ナイフのように迫る鈎針。Lv.3の反応速度を以て弾く。そのまま突き進もうとするも、鎖が撓み引き寄せられ背後からリューに迫る鈎針。
「リオン!」
「くっ!」
アリーゼの言葉に振り返り鈎針を弾く。闇から背を向けたリューの背後に、闇から飛び出してきた小さな影。
脇腹に掌底を叩きこまれる。
「づっ!!」
不安定な体勢だったとはいえ、Lv.3のリューを吹き飛ばす威力。内臓に響く鈍い激痛に顔を歪めるリュー。
直ぐ様前衛の輝夜とアリーゼがその影へと剣を振るう。影は壁を蹴り天井に移動すると、後方で詠唱を唱えていたセルティ達に向かう。
「っ!!」
ネーゼが咄嗟に庇う。そのまま攻撃を加えようとするがネーゼを足場に飛び上がり【アストレア・ファミリア】の後方に飛んだ。
「
輝夜の皮肉に反応することなく、
「っ!!」
ドワーフのアスタが防ぐも、攻撃力を上げるためか靴裏についた無数の鋲が骨を叩く。
鋭さはそこまでない。だが、冒険者という人外の膂力はそれでも皮膚を削り取る。
「アスタ!」
「だい、じょうぶ!」
「やってくれたな下郎!」
輝夜が接近し、刃を振るう。極東の居合い。神速の抜刀術に、
「ってえなババア!」
憎々しげに叫び鎖を振るう
「誰が婆だ! 私はまだ16だ!」
再び刀を振るう輝夜だが、
「グチ、クチャ……ゴク……ふぅ〜、この味はLv.3か」
「ええ!? ノインのお肉を、食べた!? ノインって美味しいの!?」
「お、美味しい訳ありません!」
「人食い嗜好かよ、気色悪い」
「あら、まさか冒険者狩りの被害者はもう………」
嫌悪と警戒を強める【アストレア・ファミリア】に、両腕で構えを取る
両腕?
「おい彼奴、傷塞がってないか?」
「ノインのお肉にそんな効果が!?」
「アリーゼ! こんな時にふざけてはいけません!」
こんな時でも何時もの調子のアリーゼにリューが突っ込む。
とはいえ、警戒心はより強くなる。人の肉を喰らい傷を癒やす。モンスター以上に悍しい存在に、特にエルフ達の顔が不快感に歪む。
「いぶ、いび………い………まあ良いか。幹部連中は仲が良いのか」
「いぶ……? 幹部? もしかして、
「? ああ」
「な!? 我々が
「待ってリオン!」
と、アリーゼが慌ててリューを止める。そして、
「ねえ、貴方って
「アリーゼ、何をわかりきったことを!」
「? 所属は【ソーマ・ファミリア】だ」
【ソーマ・ファミリア】………問題行動こそ多いものの、一応正規派閥。
「どうして私達を襲ったの?」
「先に襲ってきたのはてめぇ等だろうが」
「いけしゃあしゃあと……貴様が冒険者を襲っていたからだろう!」
「だから、てめぇ等が先に襲ってきたんだろうが!!」
「…………えっと、さっきの男達に突然襲われたの?」
「さっきからそう言ってんだろ。脳味噌の代わりに胸が育って知能が発達しなかったのかてめぇは」
この子、すごく口が悪い! と戦慄するアリーゼ。だが、大体解った。
冒険者狩りはむしろ逃げていた男で、この子は返り討ちにしただけ。怪しまれぬよう冒険者に化けていた
「だ、だが人を食い傷を癒やすスキルに目覚めるなど、そんな輩がまともなはずがないだろう!」
「別に人じゃなくてもなにか食えば傷は癒えるぞ?」
「……………………」
嘘は、なさそう。食事をすることで傷を癒やすスキル。輝夜から受けた傷が深く、残したままでは殺されると判断し捕食行動に移ったのだろうか?
「それを、誰かに誓える?」
「誰かって誰だ?」
「……………ごめんなさい!!」
「あ、アリーゼ!?」
アリーゼが頭を下げたことに動揺するリュー。
「貴方が
「……………」
「本当にごめんなさい」
「………ああ」
そう呟くと
「後で貴方のファミリアにも謝りに行くわね〜!」
聞こえたのか聞こえてないのか、返事はなかった。
「アリーゼ、その………信じるのですか? あのような輩を………」
「ええ。まあ、勘だけど………私の正義の心が言ってるわ、あの子は悪じゃないって!」
一つ訂正しておくと、
ただソロで活動していた
ただ、リリウスにとって
昨今の冒険者狩りの被害の半分ぐらいは、ソロで中層に来た弱そうな子供を狙い返り討ちにあった哀れな悪党共。
その死体の半分はモンスターに食われ、もう半分は…………。
「ガツクチャ、グチ、ゴクン。ジュル、ジュグ、グチャグチャ…………ん」
血の匂いに誘われたモンスター達の足音。それなりに多い。まだまだ食い足りない……というか食い足りることはないのだが新しい肉の気配に臨戦態勢に入るリリウス。
戦ってる間にモンスターに食われたりするが、それ以上の飯が手に入る。腹を鳴らし、牙を剥き、捕食者はダンジョンの闇へと消えた。