ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
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これはお腹が空いて林檎を食べてるリリウス君。
頬の血は………モンスターだよモンスター。林檎はダンジョンにない? 白い服を着た爆発するモンスターだったんだよ。食事を邪魔されて怒ったんだね。
「…………勝った?」
「ああ………勝った」
「私達の勝利だ」
灰へと崩れていくデルピュネを見ながら思わず現実を確認するように呟くネーゼの言葉を、ライラと輝夜が肯定した。
「………リヴェリア」
「…………」
アイズもまた、自分のもとに歩いてきたリヴェリアに視線を向け………
「ひぎゅっ!?」
無言で振るわれた拳が頭を叩く。
「ぐみ! うぐ! ぐぎゅう!」
何度も叩かれ、その度に呻き、ガレスが漸く止める。
そのままリヴェリアはアイズを抱きしめた。
「……! リヴェリア…?」
「馬鹿者。大馬鹿者。また同じ事をしたら……今度は許さんからな」
「…………うん。ごめん、リヴェリア……」
ハイエルフの腹部に顔を埋めるアイズは目を閉じて細い腕をリヴェリアの背に回す。
周りがほっとする中、リリウスはその光景を見つめる。
視線に気づいたアイズがハッと振り返る。
「ジャガ丸くんのお兄さんも、私が抱きしめて上げる」
「………」
リリウスは無言で踵を返してそろそろ動き出しそうなモンスターのもとに向かった。
戻ると、【アストレア・ファミリア】の面々とアイズ達、それから見覚えのない冒険者達がエレボスを囲んでいた。
エレボスはリリウスに気づくと「よっ」と片手をあげた。
「アルフィアは美味かったか?」
「エレボス……?」
その言葉にアストレアはニッコリと笑う。笑っているが、とても怒っていた。
「はい、すいませんでした」
やれやれと肩を竦めるエレボスに、リリウスは一言だけ口を開く
「……じゃあな」
「ああ、じゃあな」
リリウスとエレボスは、それ以上会話することはなかった。
戦いも終わり、解放された民衆達。声が枯れるほど冒険者の勝利を称えていた彼等も今は静かにバベルを見つめる。
冒険者、民衆、ギルド職員、都市中の人間が例外なく『悪』の断罪を心待ちにする中神々は或いは眷属を喪ったことを悲しみ、或いは残念だったなと笑い、或いは『正義』が『悪』を裁くという『儀式』の形のみを心待ちにしているなど、様々。
リリウスもまた、珍しいことにホームの屋上からバベルを見つめていた。
アルフィアの真の目的はオラリオを成長させること。ザルドも恐らくは……。なら、エレボスは?
ただ二人の思いを利用していただけ? いいや、『共犯』なのだろう。直接対面した人類でリリウスと、たぶんアリーゼも気づいている。
「たかが試練一つ、期待しすぎだ馬鹿共め。不変の神でもあるまいに、『真の最強』が現れた今、この熱気がいつまで続くか……」
オラリオで響く冒険者を称える声の中にあった、【
「俺達は、『絶望』を知らない」
たった二人でこれだけの被害を出した二人を超える、病にも毒にも侵されていなかったLv.8やLv.9の団長に率いられた下界最強の『神軍』を敗走せしめた終末の具現。下界はちっとも救われていないし、救うだけの戦力もない。
「ケツの焼き方なんて他にもあったろう。慌てて消されちまう劫火なんざ、その時しか役に立たねえ」
命が尽きる日が間近だとしても、やりようはいくらでもあったはずだ。それこそ適当な【ファミリア】に入ってまた君臨するとか……少なくとも、それで最初に託された者達はやる気を出した。
下手に『勝利』を経験させないどころか、一生勝たせなかった方が、レベルで超えるしか手段がなくなっていただろうし……。
「……腹、減ったな」
我ながら、何を大人しくその時を待っていたのか。考え事程度では誤魔化せぬ飢えに思わず呟くと。
「いったか、エレボス」
タイミングよく空に向かって伸びる光の柱が現れた。オラリオが歓声に包まれる中、リリウスはそれだけ呟くと壁伝いに部屋に戻る。
神酒と飯が置かれていた。
【ファミリア】最強が
「………」
皆が寝静まった深夜、団長でも幹部ですらない眷属に与えられた一人部屋の扉が、そっと開く。
入ってきたのは部屋の主によく似た少女。話しかければ無視され、近づけば拒絶され、【ファミリア】内でも嘲笑と同情を集める彼の妹だ。
兄が居なくなると聞いた。厳密には一年だけらしいが、ザニス辺りが戻らぬよう邪魔するかもしれないと、世話になっているドワーフが言っていた。
足音を立てぬよう静かに近づき、高級品だったろうに碌に干しもせず、なんなら返り血だらけでも平気で使い錆びた鉄や黴の匂いが染みついた布団に、毛布も掛けず眠る兄は嫌でも血の繋がりを感じさせるほど、自分によく似ていた。
「………」
起きないか緊張しながら近づく。
強さだけでなく、関係性だけでなく、とうとう物理的に距離ができる。同じ種、同じ胎から生まれて、どうしてここまで違うのか。
手を繋ぐどころか、足も、影さえ引かせてくれない兄を憎んだことがないかと問われれば、あると答える。
でも本当は、ただ一緒にいてほしい。今回もまた死にかけたと聞く。
「兄さま………」
ベッドに上り、ゆっくり近づいて、横で丸くなる。最低でも一年、最悪は二度と会えなくなる兄。いっそ目を覚まして、この人が自分の人生を終わらせてくれたら………そんなことを考えながら、眠りについた。
当然暗殺者でも何でもないただの少女の接近に気付かぬ訳はなく、リリウスは起きていた。だが別に、殺意も敵意もなく、あったとしても、魔剣で武装しようと勝てるただの弱者。今日は疲れていて、明日は引っ越し。
無駄な体力を使うのも面倒なので、リリウスは再び目を閉じた。
「いくのか」
「ああ」
朝、必要な荷物を持ってホームを出たリリウスのもとにチャンドラが現れた。
「忘れ物は、ないか?」
「さあな、どこまでが俺の持ち物か覚えていない」
「なら、お前の残していったものに馬鹿共が手を出さないよう見張っておこう」
「? お前、誰だっけ?」
「ただの通りすがりだ」
「そうか。まあ、じゃあ任せた」
「というわけで、今日から一年間私達の仲間になるリリウスよ、みんな仲良くするのよ」
「「「………は?」」」
「まあまあようこそ! 【ファミリア】は家族だもの、私のことは親しみを込めて、お姉ちゃんと呼んでいいわ」
【アストレア・ファミリア】の面々は突如女神から紹介された新入りに目を丸くする。
アリーゼだけは速攻で受け入れていたが。
「ま、待ってください! 話が、話が見えない!!」
「なんでリリ坊がうちに入んだよ、しかも一年限定で」
「いいじゃない、今やリリウスは私達と
再び場の空気が固まる。
「え……何時から?」
「昨日の決戦からじゃない? あの場にいた神様はアストレア様と邪神エレボスだけだったのに、ステイタスが更新されていたのは、つまりそういうことでしょう?」
リリウスを背後から抱きしめ、軽快に笑うアリーゼ。
「ええ、ソーマと話し合って、あの場でステイタスを更新するために、一年間の
「すごく強くなってたわね。きっとランクアップもすぐだわ、流石私達の弟!!」
「いや、流石にねえだろ。一週間前だぞ……」
「昨日だ」
「……は?」
「最後のランクアップは昨日だ。今はLv.6」
今度は流石のアリーゼすら固まった。
「………………そ、そっかぁ」
「アリーゼが言葉に詰まった!?」
「そりゃ詰まるだろ。この際
また
「とりあえず、ギルドに報告してくる」
「待ってリリウス、あなた今すっっごく獣臭いわ。昨日ちゃんとお風呂入った?」
「ああ、忘れてた。まあいいか」
「良くないわ! ここは乙女の花園、ここで暮らす以上は身ぎれいにしなくっちゃ! というわけで、お風呂行きましょうお風呂。私が体の隅々まで洗ってあげる。アストレア様も行きましょう」
「そうね、それじゃあ…………」
と、リリウスの背を押すアリーゼ。リリウスはされるがまま風呂場に向かい…………。
「って、待ってくださいアリーゼ! 彼は小さくとも男児だ!!」
「あら、いいじゃない。家族は一緒に入るものよ。極東では『裸の付き合い』って言葉もあるのだし」
「ここはオラリオです!!」
アストレアは他の眷属に止められ、エルフ達も子供とはいえ男と入ることが出来ず、ネーゼはアストレアを止め、今風呂にいるのはアリーゼと輝夜、ノイン、リャーナ、マリューのヒューマン。
ドワーフのアスタに、アマゾネスのイスカ。
そして
「お~、顔は女の子みたいだけど、体はちゃんと男の子だね」
「いいな~、身長は低くても
「ドワーフは種族的に太いから余計短く見えるからな」
「太っ……!」
改めて他人に言われるとショックを受けるらしい。
「ところでリリウスく~ん、女の人に興味ない?」
と、リリウスに近づいてくるイスカ。アマゾネスは強い雄との子供を欲しがる。10歳にしてLv.6というオラリオ史上でも前例なき偉業、もはや異業と言ってもいい唯一をなしたリリウスは見事標的にされたようだ。
「お姉さんが気持ちいこと教えてあげようか?」
「いい」
「あら残念」
「おいこら、リリ坊はまだ10歳だぞ」
「すぐ大きくなる。なんなら、今から私好みに………」
「知ってるわ! 神様の言うところの逆ヒカリゲンジよね!! ところで輝夜、これ極東の諺?」
「さあ、わたくしも詳しく存じません」
まあ神の言うことだし。