ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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特別編 リリウスinGOURMET WORLD 前編

 誰かが言った。全身がマグロの大トロのような上質な甘みに満たされた豚、(トン)トロがいると。

 

 シュワッシュワのソーダが湧き出す泉のほとりになる数々の樹の実が炭酸を吸い、様々なフルーツソーダが楽しめる泉があると。

 

 2つに裂けた豊穣の島の海底崖の底で、染み出した島の旨味を濃縮した真珠を作り出す貝、コンソメ貝がいると。

 

 モンスターの住まう洞窟を越えた先、水晶飴(クリスタルドロップ)に、雲菓子(ハニークラウド)などが採れる迷宮の楽園(アンダー・リゾート)などが存在すると。

 

 

 

 

 

 

 

 リリウスの料理教室。

 シルが頼み込み時折開催される料理教室だ。今回の生徒はデメテル、シル、リュー。

 

 デメテルはとてもニコニコしていた。

 

「というわけで、今回できたのが野菜たっぷりパイの包焼」

 

 デメテル作。

 

「消し炭」

「くっ…………」

 

 リュー作。

 

「バークルンクゥアです!」

「「「バークルンクゥア!?」」」

 

 シル作。

 4本のトカゲの足みたいのが生えた球体に目が3つ。口(?)から国旗の並んだ糸が出ている。

 

「気合いれるほどによく分からないものが生まれるが、今日はまた一段と…」

「う〜ん。リューだけじゃなくデメテル様まで来てくれて、テンションが上がったからですかね」

「シル……」

「フレ、シルちゃん」

 

 そこ、感動すんな。

 

「まあちゃんと食べれるはずですよ、たぶん」

「動く食い物とかどこの世界にあんだよ」

「あるわよ」

「…………ん?」

 

 ギャンギャラクルクルと鳴き声を上げるバークルンクゥアを見つめ呆れるリリウスにデメテルが言う。

 

「別の世界では、動く食材や食べれる石なんかもあるのよね。確か、美食の神々が管理してたわね。下界におりる前は見かけなかったけど、それよりも前も。何時からだったかしら? ここ数億年(最近)の出来事なのに、下界で生活を続けると長く感じるわね」

 

 なんだかおばあちゃんみたいね、と朗らかに笑うデメテル。

 

「リリウスちゃんも食いしん坊だから、きっとあの世界は楽しめると思うわ」

 

 

 

 

 などというやり取りがあった料理教室の後ダンジョンへ潜ったリリウス。あ、因みにバークルンクゥアはリリウスが美味しくはないけどいただきました。

 食材に溢れた世界。興味はあるが、異なる世界。世界なんてそうそう繋がるものじゃ…………繋がるもの………繋がるけど望んだ世界に行けるわけじゃない。

 

「………………?」

 

 26階層。水の迷宮にてリリウスの足が止まる。

 この階層にてリリウスの相手になるモンスターはおらず、モンスターだってリリウスに喧嘩を売ることはない。だが目の前に立ちはだかる怪物がいた。

 

 八本足の巨大なワニ。全身に刻まれた傷は歴戦の証しであり、しかしリリウスは一度も見かけたことがない。

 

『ガララワニ希少種(歴戦個体)1000歳 捕獲レベル78』

 

「ギャオオオオオオオ!!」

「この階層で喧嘩売られるなんて何時以来だ」

 

 ワニは巨体に見合わぬ俊敏さでリリウスへと襲いかかり………。

 

 美味いものを食えば強くなる世界にて、千年間生き続け、狩りではなく戦いを行ってきたかわり者の個体。その強さは、同種の中でも格別な力を持つ。

 

 

 

「なんだこのワニ、うっま!」

 

 そしてとても美味い。

 

 味を感じないよう丸呑みにしたバークルンクゥアと違ってこちらはよく味わって食う。

 

 アスリート肉のようにしっかりとした赤身の噛み応えでありながら噛めば噛むほど脂が溢れる。決して重くなく、サラリと飲みやすい。

 

「……………焼くか。ドゥルガー、盾」

「えぇ…………」

 

 ドゥルガーは嫌そうに盾を出す。リリウスは石を積んで盾を寝かせるとその下にマーダを置く。リリウスがマーダに魔力を食わせると炎が灯る。

 

 盾の温度を確かめ、切り分けたワニ肉を乗せる。

 

 ジュウウウウウウ! パチパチパチ

 

「おお、みろドゥルガー。溢れた脂が弾けて、キラキラと火の色に輝いてまるで線香花火だ」

「…………………」

 

 漂う肉の匂いにドゥルガーもゴクリと喉を鳴らす。リリウスは薪代わりのマーダの炎に肉を投げると蛇の姿を型取り肉を飲み込む。

 

「ほらドゥルガー」

「………………」

 

 受け取り、食う。

 

「…………美味い」

 

 熱せられてサラリと溶けた脂が口の中に広がる。肉の旨味が溶け込んだそれは、まるで上質なスープ。歯を押し返してくる弾力は決して不快ではなく、噛み千切れば肉の風味が口の中に広がる。

 

 一人と一柱と一本は美味なる食材を喰らい続けた。

 

 

 

 

 

「……………で、何処だよ此処」

 

 食事を終えてふと周りを見るとサンサンと照らす太陽。つまり地上。

 

 しかもオラリオ周辺ではなく何処かの島。

 

「妾は知らん」

 

 数千年、マクールが転生するのを待ち続けた引き篭もりのドゥルガーは歳に対して世間にあまり詳しくない。アフロディーテと旅してたリリウスと同じ程度だ。なのでリリウスが知らないなら彼女も知らない。と、その時

 

「ぐぎゃおおおおお!!」

 

 燃える鳥が現れた。

 

「モンスター? いや、なんだ………」

 

 違和感。

 モンスター特有の敵意がない。これは、ただ獲物を食らわんとする獣のそれだ。

 

 だが普通の獣は体から炎を出したりしない。

 

「ぎゃあああん!」

「……………こいつ、うまそうな匂いがするな」

 

 自分の炎で肉が焼けてないか? しかし苦しんでる様子はない。食性だろうか? 焼ける肉の匂いのほかにネギの香りがする。

 草食だが縄張り意識が高い種類なのだろうか? まさか肉だけ食っててネギの匂いを出す生き物がいるとは思えないし。いや、ネギを食う生き物をおびき寄せる、とか?

 

 

 

 

「もぐ…………火が入りすぎではないか?」

「こっちは生。んじゃ追加で焼いて…………んな馬鹿な、死んだ肉がストレスで味を劣化させた」

 

『ねぎま鳥 捕獲レベル22(絶妙な焼き加減で倒さなくてはならないため)』

 

 まあどんな焼き加減でもリリウスは食えるのだが。

 

「もぐもぐ。此奴も美味いな」

 

 絶妙な焼き加減を覚えて狩っていくリリウス。樹の実を取れば、パカリと割れゼリーのような果肉がプルプルと揺れる。

 

「ん? 主様、服になにか………」

「ん?」

 

 その言葉に見てみれば、確かに何か付着していた。虹色の粉?

 

「…………………」

 

 ふと海を見るリリウス。海面に漂う虹色の霧。その奥に見える歪み、透けた島。蜃気楼?

 

「……………まあいい。とりあえずこの島の構造の把握だ」

 

 人工物の類でもあればそこに向かってみよう。

 

「では山でも登るか?」

「いいや………威嚇も兼ねる」

 

 先程の鳥のようにこちらを伺う猛獣達。どうにも餌と認識しているらしい。襲ってくるぶんには食えばいいのだが、今は現状を把握したいので邪魔だ。

 

「──────」

 

 すぅ、と大きく息を吸う。はむ、と止め、ためた空気で声帯を震わせる。

 

「オオオオオオオオオオォォォォォッ!!」

「「「「!!?!!」」」」

 

 恐慌する獣、逃げ出す巨鳥、気絶する猛獣。

 反応は様々。一つ言えることは、その咆哮一つで島に居る全ての生物はリリウスへ敵対することを諦めた。

 

「……ん!?」

 

 ググッと何かに胸ぐらを掴まれる。姿のない実態。透明ではなく、大気の振動が実体を持つかのように空気を動かす。音?

 

『騒がしいんだよてめぇ………』

「………………そこか」

 

 片腕を薙いで音の塊を消し飛ばす。

 

 

 

 『音弾』を掻き消した。此奴は強いな。

 

 ズン、と大男の前に降ってきて落雷の如く木をへし折り現れる小柄な影。幼児の如き体躯でありながら、数多の生き物と戦ってきた大男からして強者と認める存在。

 

「てめぇ………」

「ほぉ、此奴ぁ………」

「「チョーシに乗ってんなぁ」」

 

 ドン、と拳と拳がぶつかり合う。大気が弾け周囲の木々が吹き飛ぶ。腕をプラプラした子供は伸びた男の腕を駆け上がり蹴りつける。

 

 首を傾け躱す大男。コォォと息を吸う。

 

「やはり攻撃は音速に限るぜ!」

 

 ボイスマシンガン!

 

「!!」

 

 音速で飛んでくる音の散弾。木々や岩を破壊する威力。少し驚きつつも全て回避。

 

「ノロマが。雷速に決まってんだろ」

 

 言葉通り雷鎚が大男を襲う。が、大男は多少の火傷を負っただけでギョロリと子供を睨む。大男の周りの空気が振動していた。

 

「空気の層? いや、また音か」

 

 ボイスアーマー。

 

「はぁぁ…………ボイスカッター!」

 

 音速の刃。超振動による圧倒的切れ味の斬撃が大地を切裂きながら迫り……

 

「わっ!」

 

 子供の咆哮(ハウル)が掻き消した。吐き出された音の砲弾は大男を吹き飛ばす。

 

「…………なかなか良い攻撃手段だが、まだ未熟だな。声はこう使え」

「……………!」

 

 少年が空を見上げると、振り注ぐ無数の音の塊。

 

 メテオボイス!

 

「ブラフ…………あぁ?」

 

 木の枝を構え、しかし困惑する少年は舌打ちし構えを変える。

 

「残光」

 

 木の枝が振るわれる。光が奔る。

 ただの連撃。故に圧倒的な殲滅力。振り注ぐ音の流星群を切り裂き、破壊し、時に弾かれ島を斬り、轟音と共に島全体が揺れる。

 

「ははぁ………俺と喧嘩できるガキなんて、初めてだ」

「ガキ扱いすんなよ大男。喧嘩…………喧嘩、ね」

 

 少年は木の枝をしまう。

 

「…………あん?」

「殺気がねえ。なら、此処までだ。俺もお前も十分暴れた」

 

 呼吸、脈拍………嘘はない。本当にここできり上げなのだろう。消化不良、とは思わなくもないが、一番チョーシに乗っている行為はしていない。

 

 大男にとっては大声が、少年にとっては威嚇が敵対行為と受け取れただけで戦っているうちに互いに本気で殺す気はないと判断出来た。それでもどちらが上かなど決めようとすれば、これ以上は殺し合いだ。

 

 両者にとってはただの喧嘩。その喧嘩で、島一つが形を変えた。責任持っておいしくいただきましょう。

 

 

 

 

 

「もぐもぐ。此処の砂浜、まるで塩コショウだ。肉に合う」

「このキュウリ、マングローブのように塩を吸っているのか塩漬けのように病みつきになる味だ」

「ここは酒好きが集まる島の一つ、居酒い島だからな。酒豪諸島には劣るが島の各所に酒が沸き、つまみの種類はこちらが多いぜ」

 

 ゼブラというらしい片頬が裂けた大男が説明してくれる。その湧き酒をグビリと飲む。

 

「そんな島が。ソーマが興味持ちそうだな………俺は食いもんの多いこっちがいいが」

「おいガキ、酒は二十歳(はたち)になってからだ」

「? なんだ、その常識。どこの国?」

「なんだ、非加盟国か。なら律儀に守る必要ねぇなあ」

「………………加盟。世界規模か?」

「そりゃあそうだろ」

 

 当然だろ、というゼブラの態度にリリウスは食材を調理しながら考え込む。地面に空けた穴に肉を香草と共に放り込み葉を乗せ焼いた石を乗せる。

 

「ダンジョンって知ってるか?」

「ゲームか? まだまだガキだな」

 

 なるほど、また異世界かと納得するリリウス。勇者と出会った時のように根本的に異なる世界か、精霊の悪夢やもう一人のアイズのような作られた世界か…………どうにも食材に溢れた島とかリリウスに都合がいい気がするのだが…………しかしアルフィアを作りリソースが尽きた精霊の悪夢のように、ゼブラクラスの強さを存在させると直ぐにリソースが枯渇しそうなものだ。となると普通に異世界か…………。

 

 だからさっきブラフマーストラ撃とうとしても発動しなかったのだろう。この世界にはブラフマーが存在しない。

 

「この世界について調べたい。何処かちょうどいい場所知らねえか?」

「ああ? まあ、俺とホイホイ食事する田舎者だもんなあ。グルメタウンにある世界最大の図書館、グルメライブラリーになら世界中の情報が載ってるぞ」

「ゼブラ、俺別に美味い飯の場所知りたいわけじゃないんだ」

 

 興味はあるけど。

 

「歴史、最新のニュース、過去の地方新聞まで、あそこにゃ揃ってる」

「…………………美食の名を冠する(グルメ)なのに?」

「ああ。因みにグルメタウンに入るにゃグルメIDが無いと高い入場料を払う必要がある。グルメライブラリーにもな」

 

 金、この世界の金なんて持ってない。

 リリウスは焼いた石をどけ肉を掘り起こす。

 

「料理人志望か、ガキ」

「ちげぇよ。冒険者だ」

「冒険………? 美食屋か」

「美食………?」

 

 聞けば未知なる食材を求めて時に危険な場所に赴きその美味を堪能する者達の事らしい。世はグルメ時代。富も名声も、美食とは切っても切り離せない。

 

 なるほど、ダンジョンのモンスターみたいな生物が地上に湧いてるこの世界で人の生息域から離れるのは、確かに冒険者みたいなものだ。

 

「因みにこの島の食材売れるか?」

「売れなくはねえが、止めときな。うまっ」

「なんで?」

「コネもグルメIDもねえ非加盟国のガキなんざ安く買い叩かれるのがオチだ。IGOが定めた価格を大きく下回ってな。買い手も売り手も捕まっちまう。ホーリツは守らねえとなあ」

「……………顔のせいか? なんかお前に言われたくない気がする」

「正直な野郎だ」

 

 

 

 

 さて、一先ず海を超えて人里に来たが、どうするか。

 闇雲に帰還方法を探して見つかるとも思えない。

 

 そう言えばベルも異世界行ったとか…………。確か、閃光のリザードランナーなる世界を渡るモンスターに協力してもらったのだったか。そもそも転移の原因そいつだが。

 

「んん?」

「おっと、悪い」

 

 考え事をしていると人にぶつかってしまった。

 

「まちやがれ!」

「…………………」

 

 かなり文明的なこの世界において毛皮を纏う野蛮人(バーバリアン)。オラリオでも一部、パンツ一丁でダンジョンに挑む筋肉ダルマを見かけるがそれより遥かに原始的。

 

「このガキ、親は何処だ!」

「いねえ」

「ああん!? こんな子供を一人で歩かせるなんて、何考えてやがんだ!」

「まったくですねゾンゲ様!」

「コラ坊主、ここは人通りも多いから迷子になっちまうぞ?」

 

 ゾンゲというらしい男の子分なのか、ハゲと短髪も毛皮を着ている。

 

「おら、親のもとに案内しろ。俺様が教育方針に物申してやる!」

「いやだから、いねえよ。死んでる」

「んな、なんだと!?」

「ちょ、まずいですよゾンゲ様!」

「もう少し聞き方がありましたよ!」

 

 とりあえず、敵意とか悪意はないのでリリウスはさっさと行こうとする。

 

「まあ待てガキ」

「………………」

「お前これからどうする気だ?」

「取り敢えず、金集め」

 

 子分二人がなにやら悲痛な顔になる。ゾンビリアはそうか、と頷く。

 

「なら俺様についてきな! このゾンゲ様が、特別に金の稼ぎ方ってもんをおしえてやるぜ!」

「ちょ、いいんですかゾンゲ様!?」

「子供連れてくような場所じゃないですよ!」

「いいんだよ。トランプとか、見てるだけでも楽しいだろ多分」

 

 なんかヒソヒソ話してるけど全部聞こえてる。

 

「いくぞ、俺のことはゾンゲ様と呼びな!」

 

 

 

 

「なんだこれ、絵が動いてる」

「フフン、なんだお前ケータイも知らねえ田舎者か。いいか、これはなぁ………なんかこう、電気の力であれしてるんだよ」

「…………………なるほど」

 

 まあリリウスだって魔石灯使うが仕組みを………知ってるが………オラリオの一般人は普段使っていても仕組みは知らない。つまりそういうことだ。

 

「ほら、ガキはアニメでもみてな。おい、動画ってどうやってみんだ」

 

 ザンゲリアは使いこなせていないらしい。

 字幕付きのアニメとやらを見ながら、リリウスはこの世界の文字を取得していく。

 

 ケータイもそうだが、列車も物珍しそうに見ていた子供の姿に3人はほっこりしていた。

 

 

 

 

「さぁ、ついたぞ!」

 

 寂れた街だ。と………

 

「ウェルカ〜ム」

「観光?」

「なんだよ、金持ってなさそう」

「ようこそ、犯罪王国ジダルへ」

 

 柄の悪い男達が現れた。

 

「取り敢えず下着(パンツ)以外全部置いていってもらおうか」

「ゾ、ゾンゲ様………」

 

 ハゲが不安そうにゾンゲを見るとゾンゲはふん、と鼻を鳴らし前に出る。

 

「おうおうてめぇ! この俺様が誰か分かってんだろうなぁ!?」

「うるせぇ。お前なんて知らねえよ。もういい、死ね」

 

 と、銃を向けに引き金を引く。響く銃声。が、ゾンゲは倒れない。

 

「……………え」

「おいおい、そんなもんで俺が倒れると思ってんのか?」

 

 ニタァ、と笑うゾンゲに男は後ずさる。

 

「(モデルガンなんかで)俺様が死ぬわけねえだろ!」

「ば、バケモンだぁぁぁ!?」

 

 男達は逃げ出した。

 リリウスは()()()()()()()()()を指で放つ。足を撃ち抜かれた銃を撃った男は顔面から地面に倒れた。

 

「俺様に喧嘩を売ろうなんざ身の程知らずめ」

「いやぁ、流石ですゾンゲ様!」

「何はともあれ、これでカジノ目指せますね!」

「……………………」

 

 カジノとやらが見えてきた時、リリウスはすん、と鼻を鳴らすと音もなくその場を後にした。

 

「ああ、なんだドレスコードって!」

「お客様、その服装でははいれません」

「俺様を誰だと思ってやがる!」

 

 後ろが騒がしいなあ。

 

 

 

 人気のない路地裏。ぽつんと存在する階段を下りる。扉の前に立つ柄の悪い2人の男。

 

「おい嬢ちゃん、帰んな、売り飛ばされねえうちにな」

「いいじゃねえか。俺達が売れば」

「はは、そりゃいい。オラ、きな!」

 

 と、男はリリウスの腕を乱暴に掴み…………。

 

 

 

「もぐもぐ………」

 

 リリウスは寂れた外とは違い中々騒がしい地下を見回す。

 

「いやはや、最近はヤクザ達も取り締まりが厳しく会える機会が減ってしまいましたな」

「ええ、ええ、無法者の分際で迷惑な連中ですよ」

「ライブベアラーめも何をあっさり譲っているのか」

 

 高級そうなスーツを身を包んだ初老の紳士達がそんな世間話をする。

 

「やはり賭け事には人の命がかかってこそ、ですな」

「ですなぁ」

 

 人死の匂い。会話からして、ここで死ぬかどうかも賭け事の範疇。

 

「お嬢さん、彼がこのギャンブルベリーを何個まで食べれるか賭けてみませんか? それとも、貴方自身が挑戦しますか?」

「………………金になるの?」

「ええ、最大の賭け数を生き残れば、配当金は貴方のものです」

「じゃあやる」

 

 おお、と周りの客が騒がしくなる。

 

「では説明を。こちら、ギャンブルベリーは味は絶品ですが10粒に一つは5分で死に至る猛毒の粒。挑戦者が幾つまで食べ進められるか賭けていただき、誰も当てることができなければ賭け金は挑戦者のものとなります」

「食べ進めればいいんだな?」

「? はい。それと、ギャンブルベリーには極稀に全ての実が猛毒の房もありますよ。より低い確率で、その逆も。まあ、今までそんな房を引き当てた人は見たことがありませんけどね」

「…………………………」

 

 リリウスはすん、と鼻を鳴らす。全ての実から毒の匂いがするのだが…………。まあ食べられた数なので毒の有無は関係ない。お、結構美味いな毒入りベリー。毒が濃いほど味が濃厚な気がする。ポイポイとギャンブルベリーを食っていくリリウスに客達が次々残念な顔して、最後の一人が緊張から拳を握りしめる。と………

 

「グルメヤクザだ! 全員、おとなしくしてもらおうか!」

 

 扉が勢いよく開き武装した男達が入ってくる。

 

「グルメヤクザ!?」

「見張りは何をしていたんです!」

「……………………」

 

 リリウスはゴクンとギャンブルベリーを飲みながら目を逸らした。と、他の客やスタッフが暴れる中一人だけ迷いなく駆ける足音が聞こえた。

 

 

 

 

「この紙切れは?」

「紙幣と言うらしい。金貨銀貨よりよほど軽く運びやすいな」

 

 リヴィラの街で使う証文と似たようなものだ。それをより公的にした物。とはいえただの精巧な絵が描かれただけの紙。それに価値を持たせるのは、発行している機関の信用か。IGO、中々大きな組織のようだ。

 

 オラリオでは無理だな。いかに便利だろうと紙幣価値をあの豚が握るとなれば誰も信用しない。フィンはもちろん脳筋オッタルですら信用しない。

 

「腹が減ったな」

「主様、ここにジドーハンバイキがあるぞ」

「10万のな。見ろ、これなんて十円で俺の上半身サイズの缶…………この具材入りスープにしよう」

 

 子供二人で歩く姿に邪な思いを抱くものなどいくらでもいる。それはこの世界でも同様らしい。

 

「おらガキ! グルメタウンで買った食材全部よこしな!」

「え、食材?」

「あ、食材?」

 

 ドゥルガーは困惑しリリウスはギロリと睨みつける。

 

「グルメ強盗だ!」

「また、グルメ………」

 

 この世界何にでもグルメと名付ければいいと思ってない? それがグルメ時代? そうですか。

 

「チッ、早くしろ!」

 

 周りを気にしている。きっとグルメ警備員とかグルメポリスとかグルメ探偵とかが駆けつけてないか気にしているのだろう。そのままナイフ片手にリリウス達に迫り周りから悲鳴が上がり………。

 

「こらこら、いかんじょ」

 

 聞こえてきた声にリリウスはドゥルガーを抱えて建物の上に飛び退く。強盗はその場に倒れ込んだ。

 

「…………高山病」

 

 男の症状を見てリリウスが呟く。この平地で高山病?

 

「うっふっふっ。そう警戒しなくてもよろしい。ただ、殺しはいかんじょ」

「………相手に殺意があっても?」

「あってもじゃ」

 

 見た目は小柄な老女。優しそうな顔立ちだが、リリウスは警戒を解かない。

 

「今日は朝から食材達の機嫌が良いと思い散歩してみたが…………なるほどのぉ」

 

 敵意がない相手に警戒を解かない理由はただ一つ。()()()()()()。こちらを殺すと決めたら敵意なんて微塵も抱く必要なく、次の瞬間には押し潰される。

 

 ドゥルガーはリリウスの胸に抱きかかえられたことによりフリーズしてる。

 

「ついておいで。おいしいご飯を食べさせてあげよう」

 

 リリウスは常人の目に映らぬ疾さで老女の側に移動した。さっきまで警戒していたのが嘘のようだ。

 

 

 

 

「すげぇ美味かった」

「うむ………」

 

 老女と別れ、別れ際に衆目の場で人を殺してはいけないと注意されたリリウスは漸くグルメライブラリーにやってきた。

 

 一つの街の人口だけでこちらの世界の大国を上回りそうなグルメタウンの図書館も、かなりの広さ。向こうの世界でもこのサイズは………城でもなさそう。

 

 中に入ると世界中の公開されているレシピから食材の発見に関する歴史書、無料の試食コーナーに食べれる本まで。

 

「たいへんだぁ! 新書のなかにブンブクブックが紛れ込んでたぞぉ!」

 

『ブンブクブック 幻獣類 捕獲レベル7』印字食動物

 

 狸の四肢と尻尾と頭を生やした本が駆け抜ける。本棚を倒し本を食べようと口を開けリリウスが投げた本にぶつかり気絶した。

 

「しかしこれだけの本の中から探すのは骨が折れそうだな」

「問題ない、検索機能がある」

「ググレカスと言うやつか」

「なんだそれ」

 

 『異世界』『移動』で調べる。そういう小説がズラリと出てくる。『歴史』『ニュース』で追加してもかなりの量だ。

 

「…………………追加。『虹』…………………これだな」

 

 新しく追加したキーワード。それでも百以上の候補の中から高速スクロールをしたリリウスはその本の紹介を見つける。

 

 

 

 

「『蜃気楼の島』………」

 

 蜃気楼。光の屈折で生まれるそこにないものがある様に見える現象。

 

 本来ならそれは別の場所を映しているだけ。延長線上に存在する。だが、その島は違う。

 

 様々な海で目撃される()()()()に包まれた島。近付いても幻のように消えてしまう。

 

 だが、その島の目撃がされた海域ではもう一つ不可思議なことが起こる。

 

 ()()()()()のだ。

 多くの者達はこの世のものとは思えぬ美味なる食材に溢れた島にいたと夢見心地に言う。そして、その島にいる前にさらに別の場所にいたと。

 

 それは滅んだ筈の太古の文明であったり、ただ単純に彼方の内陸であったり…………()()()()()()()()()()()()()()()であったり。

 

「…………………」

 

 多くの者達は楽園のような島を経由する。だが、極稀の半数が島を経由する事なく現れる。

 

「美食に満ちた島を通れないなんて運がねえ奴等だな」

「…………………………」

 

 島の近くの別の島に出た奴(運がねえリリウス)を無言で見つめるドゥルガー。

 

「とはいえ、これが俺がこの世界に来た理由と見ていいだろ。世界を超える方法はそこにある」

「戻るのか?」

「いや、目を離した際に消えてたからな。かといって、当てずっぽうに探しても…………」

「ははは、当てずっぽうとか主様には絶対見つけられんな」

「………………どうかな」

「む?」

 

 リリウスはふと周囲を見て呟いて。ドゥルガーは首を傾げる。

 

「時に主様、極稀の半分が楽園を経由しないというのなら、残りの半分は?」

「ああ、美食の島に行かなかった人間の半分は、ある場所にいたんだとよ」

「ある場所?」

「この世の地獄」

 

 

 

 

 

 

「こ、この世の地獄!?」

 

 六つ星ホテルHOTELGOURMET料理長小松はその言葉に顔を青くする。

 

「ああ、そもそも蜃気楼の島の目撃例は『毒潮』の向こう側………グルメ界でも目撃される島だからね」

 

 つい先日人間界に現れた怪物、四獣……それに匹敵する怪物が生息している可能性がある。そういうのはグルメ四天王と呼ばれる次世代を担うとされる4人の美食屋の1人、ココ。

 

「その幻の島が近々がある海域に出現すると僕を含め多くの占い師達の占いに出た」

 

 同時に彼は占い師でもある。

 

「へぇ、楽園ととるか地獄と取るか………どっちにしろグルメ界の食材がある可能性もある島か」

 

 ダラダラとよだれを垂らすのは同じくグルメ四天王トリコ。因みに小松は彼のコンビでもある。

 

「行ってみてえ!」

「ああ、そういうと思ったよ」

 

 

 

 

「幻の島………そこは常に(つく)しい霧に溢れてるっつー話だ。是非とも、たどり着いてみたいな。なぁ、クイン」

 

 グルメ四天王の一人、サニーはパートナーアニマルの『マザースネーク』クインに乗り海を進む。

 

 (つく)しい食材との出会いを占ってもらった時は半信半疑だったがあの幻の島に行けるとなると僅かな可能性が気になると行かない手はない。

 

「ん?」

 

 スルスルと水の上を滑るように泳ぐクイン。人間界屈指の強さのクインに襲いかかる生物は、この辺りにはほとんど居ない。チロチロと舌を出すクインはふと横を見る。

 

「ほぅ、レオドラゴンか」

 

 海面に飛び出してきたのは捕獲レベル68の竜王。その牙の鋭さは人間界でも最高位。来るか、と警戒するサニーだったが直感が敵ではないと判断する。

 

「──────!!」

 

 ゴパッと血を吐くレオドラゴン。その口の中から現れるは、小柄な人影。レオドラゴンの(タン)を食ってた。吐血量からして内臓も食ってるな。(つく)しさの欠片もねえ食い方。

 

「………………」

 

 と、サニー達の視線に気付いた子供がじっと見つめてくる。

 

「ふ、(つく)しいオレに見惚れるとは見る目のあるお子様じゃないか」

 

 興味を失ったかのようにプイ、と視線を逸らし海に飛び込んだ。レオドラゴンの首に鎖が巻き付き、そのまま引っ張られていく。陸地ではなく沖合に。

 

「オレの直感が言ってる。オレ達は同じ場所を目指してるってな………」

 

 そして実力者。蜃気楼の島が別の海で目撃されたのが二日前。たまたまテレビに撮られた結果、占い師に依頼が殺到し次のこの辺りに現れると占いの結果が出たのが昨日。

 

 多くの美食屋も参加したがそのほとんどが海の生物の餌になるか這々の体で逃げ出すか。レオドラゴンも住む海域だ、さもありなん。そんな中レオドラゴンを逆に捕食する子供。

 

「お前も幻の島を目指してるのか?」

「………………」

 

 ピタリと止まる子供。振り返ったら慣性の法則でレオドラゴンの死体とぶつかった。

 

「オレも探しててな。知ってるか? あの島には、虹色の息を吐く生き物がいる。さぞかし(つく)しい動物だと思わないか?」

「………………………………………さぁ」

「やれやれ、まだお子様だな。いいか、食事とは調和。場の雰囲気、食器の素材、流れる音楽、それらすべてが食材と調和を果たした時、味の(ランク)は上がる」

「外的要因……………まあちょっと解る」

 

 ソーマは極上の酒だが一人で飲むよりソーマと飲む方が美味いし、【アフロディーテ・ファミリア】の陽気な音楽を奏でた食事も何時もより美味かったような気がする。

 

「見込みのあるお子様だ。特別に乗せてやるよ。あ、土足厳禁な」

「…………島を目指すのか? 自分から行けた奴はいないのに」

「それでもたどり着いてみせるさ」

「その確信は?」

「オレの“直感”」

「……………………」

 

 レオドラゴンの死体の上に上がるとブルブルと水を落とし靴を脱ぐ。そのままクインに飛び乗る。

 

「くかかか、先日の口裂けもそうだが、面白い者が多いな」

 

 と、子供の中から白い腕が数本生えたかと思えば次の瞬間には褐色肌の少女が抱き着くように現れていた。

 

 幼いが人知を超えた美しさを持つ少女にサニーはほぉ、と感心する。

 

「身の内に宿る怪物共、十全に使いこなせるとよいな」

「身の内?」

 

 それ以上は答える気はないのか少女はスリスリと白髪に頬ずりし始めた。

 

「……………ところでこの蛇の上は食事可能か?」

「食べかすオチないようシーツしけよ」

 

 

 

 

 

「ふ〜ん、じゃ、ウスは幻の島の近くの島に突然現れて、その島の不思議な霧に飛ばされたってわけか」

「ウス…………ああ」

 

 リリウスは妙なあだ名に一瞬自分のことなのか判断できなかった。

 

「ついてね。天国のような島なのによ」

 

 だが同時に地獄のようとも言われている。

 

「ま、このオレに任せときな。(つく)しく見つけて…………」

「あ、サニーさーん!」

 

 と、不意に聞こえた声に振り返る。こちらに向かってくる船が見えた。黒髪の青年が手を振っている。

 

「よお、お前も蜃気楼の島を探しに来たのか?」

 

 次に青髪の大男。中に色々ある奴等が多い世界だが、此奴は別格だなとドゥルガーは思った。

 

「どうやら、意図せず全員集合したようだね」

 

 更に黒髪の大男。肌の露出を可能な限り抑えている。毒の匂い?

 

「全員? うげ、彼奴もいんのかよ」

「聞こえてんぞ」

「聞こえるように言ってんだよ」

「ゼブラ」

「よぉ、ガキ」

 

 更に更にゼブラまで現れた。

 

「なんだ、ゼブラの知り合いか?」

「君を怖がらない子供なんて珍しいね」

「つかゼブラ誘ってオレになんも言わねとか薄情じゃね?」

「連絡したけど、忙しいって言ってたじゃん」

「ん? あ〜、言ってたかも………」

 

 が、その用事で実は同じ場所に向かっていたらしい。

 

 

 

 

 改めて自己紹介。

 

 次代を担うとされる4人の美食屋……通称四天王。トリコ、ココ、サニー、ゼブラ。

 

「この4人はともかく、あんたは? 料理人が危険かもしれねえ場所にくるのか?」

「あ、あはは。現場でしか得られないものもあると思いまして」

「心配すんなよ。小松はコンビの俺が守るからな」

 

 どうやらこの世界では食材を集める美食屋にはその食材を調理してくれる料理人がいることが多いらしい。

 

「トリコ以外にはいないのか?」

「オレのコンビはこの小僧だ」

「おい待て、小松はオレのコンビだぞ!」

「ま、松の持ち味を一番に引き出せるのはオレだろがな」

「それは早計だよサニー」

「…………………」

 

 何だ此奴、神々の言うぎゃるげーの主人公か?

 

「それより島だが…………」

「ああ、オレはココに誘われてな」

「占いの依頼が来たのだけど、知ってしまったら美食屋として居ても立ってもいられないからね。まあ依頼主はこの海域と知って諦めてしまったけど」

「レオドラゴンやクラッシュタートルが生息しているからな。センチョもGTロボか」

 

 サニーが操舵室を見れば金属製の船長が船を操縦していた。

 

「ゼブラまで参加するとは………」

「ふん。あの島は、見えているのに何の音も聞こえねえ。嘘つきなのさ………チョーシに乗ってるだろ?」

「とか言いつつ、お前も島の食材に興味あんだろ?」

「ま、うまけりゃ俺のフルコースに加えてやるよ」

 

 ククク、と笑うゼブラにトリコや小松も笑う。

 

「あれ、リリウス君は?」

 

 と、ふと小松が周りを見ればリリウスの姿がいなくなってる。ドゥルガーが外を指さす。

 

「飛び込んだ」

「ええ!?」

 

 慌てる小松。対して四天王は特に慌てていない。と、海を覗き込んだ小松の視界にユラリと揺れる巨大な黒い影。

 

「ゲー!? か、怪獣〜!?」

「五月蝿い」

 

 ザパッと顔を出したのはリリウス。あれ、と思っているとリリウスが何かを海から引きずり出す。

 

「ヒュドラナマコじゃねえか。此奴の肉は有毒だし、肉には味もなくて食えたもんじゃねえぞ」

「肉食だからね。この船を狙っていたのだろうけど………」

「オレぁ気付いてたぞ。対処する前にガキが飛び込んだがな」

「う〜ん。食わないのに殺すのは、オレはなぁ」

「誰がお前にやるって言った。全部俺のだ」

 

 と、リリウスは船に戻ると海から一部を持ち上げ口元に運ぶ。

 

「ちょ、駄目ですって! 毒が!」

 

 小松が制止するがリリウスはそのままもぐもぐと食べる。

 

「ほんとだ、味もねえ硬い水食ってるみたいな…………もぐもぐ」

 

 といいながら喰らい続ける。毒による影響を受けた様子もない。

 

「ええ………」

「俺、大概の毒は効かない体質なんだよ」

 

 それこそ世界を殺すような毒………ベヒーモスの毒でようやく症状が現れる………そんな規格外がLv.9である。いや、これはベヒーモス食ったリリウスの特性だな。

 

 つまり今後リリウスが毒に侵されるとしたらそれはとある女神の手料理以外あり得ない。まさか陸の王が復活するわけでもあるまいし。

 

「殺すなら食う。食わねえなら殺さない………ご立派なことだが、俺は()()()()()

「おう。ま、別にオレはやらねえってだけだからな。そりゃ、目の前でやられたら言うことはするが襲ってくる相手を『絶対に殺すな』なんて言わねえよ」

「ならいい」

 

 しかしあの小さな体の何処に入っているんだと思うサニー。何時の間にかレオドラゴンの死体も骨も残さず消えていたし。

 

 と、その時………

 

「「「「!?」」」」

 

 ビーッ! ビーッ! と鳴り響く警告音。

 操縦室のGTロボがガクガクと震える。電波は受信している。ただし途切れ途切れであり、しかも明らかに動作に連続性が無く、受け取った動きを機械が出力出来ないのだ。やがてブツンと完全に動きを止めた。

 

「……………おい」

 

 リリウスが外を見るように促す。

 

「虹色の、霧…………」

「どうやら目的の場所に近づいたらしい。たどり着けるかは知らないが…………」

 

 霧に向かい電撃を放つリリウス。威力を弱めた雷撃は四方に散り消滅した。

 

「この霧が電波を乱しているな」

「そうみたいだな。通信機も使えねえ。いつの間にかクインまでいなくなってるし…………まあクインなら余程の相手じゃなきゃ遅れは取らんか」

 

 リリウスの言葉をサニーが肯定する。

 蜃気楼の島を目指した者達は多い。その多くが結局近付いても何も見つけられない。だが、全てではない。

 

 虹色の霧にまで接触した者達はいるのだ。彼らはそのまま島を目指し霧の中に消え、二度と戻ってくることはなかった。

 

 或いは島にたどり着けていたのかもしれない。

 

「たどり着けるよ」

「ココ?」

「会長は、この島に訪れ、帰ったらしい。この霧は惑いの霧………だけど、正解の道を見つけることができれば島にたどり着ける。帰りも同じ、らしい」

 

 会長? しかし、たどり着けて帰れるとはすごい人だな。99%失敗1%成功を逆転させる豪運の持ち主?

 

 この霧には迷い込んだ者を殺すという明確な意思を感じる。ダンジョンの深層にでも迷い込んだ気分だ。

 

「ふん、くだらねえ。なら、この邪魔くせえ霧を吹き飛ばしゃいいだけだろ」

 

 コォ、と息を吸うゼブラ。

 

ボイスバースト!

 

 放たれた音の衝撃が霧の中に沈み

 

「うぺ!?」

「主様!?」

 

 真横の霧から飛び出しリリウスに当たった。

 

「……………デジャヴ」

 

 立ち上がり服を整えるリリウス。物語の世界の迷宮を思い出していた。

 

「この霧は電磁波を乱したり方向感覚を狂わせるだけじゃない。()()()()()()()()()()()()。まっすぐ進んでも180度逆を進んでいたりするそうだよ」

「先に言おう? そういうの」

「…………ごめん」

 

 しかしゼブラの攻撃を食らってもピンピンしてるの、本当に頑丈だなこの子供。

 

「音は駄目だな。ボイスバーストが戻ってきた要領で正しく広がらねえ」

「霧が放つ電磁波で、まともに見えないね」

「オレの直感も上手く働かねえな」

「オレの鼻もだ。見つけたと思ったら方角が変わる」

「つまり運か」

「主様に一番向いてない攻略法だな」

 

 後少しで大金というところで正義のヤクザ達に邪魔されたりするのがリリウス。だが………

 

「そうでもない」

「む?」

「確かに金に関する運はあれだったが、食いもんに関しては別だ。まるで『誰かに』導かれてた気分だ。せつのんとかに出会ったり」

 

 せつのんというのはリリウスに飯を食わせてくれたクソ強老婆だ。ベヒーモスより怖い。だが料理は超美味い。本人曰く食材がそういう気分だったとのことだが。

 

「食材に好かれるとか食運とか、なんかそんなのは良いっぽい。ほら、さっそく飯」

「パロロロ」

 

 ザパリと現れる目のないのっぺりとした魚。鋭い乱杭歯の間からもう1つの口がニュルリと…………あ、あれ寄生虫だ。

 

『ワラスボス 魚獣類 捕獲レベル68』

『タイホウオノエ 甲殻蟲類 捕獲レベル72』

 

「ぎゃああああ! エイリアン!?」

「キッショオオオオ」

 

 サニーと小松が叫ぶ。そんな中、タイホウオノエの一部がプクッと膨らんだ。

 

「────!」

「がぁっ!」

 

 吐き出された高圧水流がリリウスの咆哮とぶつかり弾ける。

 

「タイホウオノエ………その捕獲レベルは発見の難しさもあるが、強さも十分。特に戦闘能力の高い魚と共生した時、その魚の捕獲レベルは20は上がると言われている!」

 

 トリコが説明してくれる中、ワラスボスが尾を振るう。リリウスが木の枝を振るい切り裂いたが、直ぐに癒着。そのまま尾が叩きつけられる。

 

「わ〜!? リリウス君!?」

「騒ぐな小僧」

「で、でもあんな子供が」

「いや、大丈夫だよ小松君」

 

 と、ゼブラとココが小松に落ち着くように言う。

 

「そもそも見てみろ。吹き飛んでねえし、止まってるだろ?」

「え……」

 

 その言葉に改めてリリウスを見れば、リリウスは吹き飛ばされずそこにいて、ワラスボスの尾はそれ以上進めない。ジャク、と音が聞こえた。

 

「ロォ!?」

 

 シャクシャクとリリウスがワラスボスの肉を食う。

 ワラスボも噛み応えのある魚だがワラスボスはワラスボのボスだけありコリコリとした食感の味が特徴。

 

 子供の顎では噛み切れないと言われるその身をリリウスはシャクシャク食べている。

 

「ポロロォ、パロロロアァァァ!」

 

 因みにワラスボスには鋭い爪のような鰭骨がある。それでリリウスを斬りつけるもリリウスは食事を続ける。

 

「ギイィィ!!」

 

 宿主の危機にタイホウオノエが名の由来である水の大砲をリリウスに吐きつける。だが、ワラスボスはみるみるその体積を減らしていき既に元の全長の半分ほどしかない。

 

「パ、パロォ…………」

 

 やがてワラスボスが息絶えた。宿主の死にタイホウオノエは逃げようとしたがその身を捉える鎖。捕食者と目が合った。次はお前だと、そう言われた気がした。

 

「ギ、キィ………キィィィィィッ!!」

 

 懸命に暴れる。必死に逃れようと足掻き、甲殻が鎖の硬度に負けひび割れても暴れる。やがて、ワラスボスの身が完全に小さな体の中へと消えた。

 

 ペロリと舌舐めずりした捕食者が次に目を向けるのは。

 

「キイイイ……………」

 

 逃れられない運命を察したタイホウオノエに様々な感情が駆け巡る。

 

 憎悪、恐怖、後悔、諦観、絶望……。

 

 絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望。

 

「あ〜……………ん」

 

 シャクリ。




後編に続く

恒例、100話区切りの特別編

  • リリウス、グルメ時代に立つ(トリコ)
  • マクールの竜退治(幼年期の冒険)
  • 迷宮偶像(アイドル)
  • 平行交差(原作時空)
  • 問題児たちがオラリオに来るそうです
  • リリウスは使い魔(ゼロ魔)
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