ダンジョンで飯を食うのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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神成魔法

 偽りとはいえ神の気配に神殺しの獣は唸る。厳密には炎の大英雄(エピメテウス)対策故に神の気配に反応して生み出される漆黒種とは向ける感情は異なれど、敵意には違いない。

 

 王の敵意に血肉を分け与えられし竜の眷族(ファミリア)もリリウスへと敵意を向ける。その姿を睨みつける。

 

 見てしまう。

 

 黄金の髪に翡翠の瞳。分厚い積乱雲に覆われた闇の帷の中においてもなお、見落とすことなど許されぬ美。

 

 文字通り美の化身と化した万象を見下ろす神の如き瞳で戦場を見下ろした。

 

喰らい合え(殺し合え)。最後に残った一匹を喰ってやる(愛してやる)

「「「──────!!」」」

 

 ただ一言で竜の群を支配する。我先にと隣の同胞を喰らい魔石を取り込み、強化種となった同胞の魔石を奪い………。

 

「オオオオオオオ!!」

 

 が、響く王の号令。その身に取り込んだ神殺しの獣の血が正気を取り戻させる。まあ、予想の範囲内。

 

「【故に開け。天よりの落涙、地への聖泉】」

 

 銀の聖女の力を纏い、広がる魔法円(マジックサークル)。湧き出すは聖水。

 

「【ティアードウェール】」

「え、ここでアミッドちゃん!? それも、それ!?」

 

 泉内の体力と精神力(マインド)を回復する魔法。対象は、選ばない。範囲内すべてだ。

 

 泉というより湖のような広さとなった聖水に満ちた魔法円(マジックサークル)はこの嵐の中波立つことなく静謐を保つ。ただし、一瞬で静謐は破られた。

 

「「「ギイイイイイ!?」」」

 

 変異した竜達が苦しみ出す。古竜の血肉で変異した細胞が破壊され、正常な細胞に修復され直す。神経も肉も骨も一度完全に破壊される激痛は竜種ですらのたうち回る激痛。アミッドがこの光景を見れば『よし』と頷いただろう。何が『よし』かは知らないが。

 

「オオオオオオ!!」

「っ!? 疾い、リリウス!」

 

 水の抵抗を一切受けない水上に全身を出したリヴァイアサン。水の密度は空気の800倍。その枷から外されたリヴァイアサンは自重に襲われながらも巨体に見合わぬ速度で襲いかかる。

 

「させるか!」

「縛れ!」

 

 エピメテウスが叩き落とす。水に触れることを許されぬリヴァイアサンが海面に叩きつけられ、コリガンが操る水が巨体を縛り付ける。

 

「玲瓏厳寒菩薩」

 

 その水が凍りつく。鋼鉄よりも硬い精霊の氷。リヴァイアサンの動きを一時的に完全に止める。ビギリと氷に亀裂が走った。

 

「ドゥルガー!!」

 

 リリウスの叫びと同時にドゥルガーが無数の武具を顕現しリヴァイアサンの鱗に突き刺す。深く刺さらず止まるが、リリウスが一際巨大な剣を鱗が背中に比べ薄い腹部に蹴りつけた。

 

「【祝福の禍根生誕の呪い半身喰らいし我が身の原罪(みそぎ)はなく浄化はなく救いはなく鳴り響く天の音色こそ私の罪神々の喇叭(らっぱ)精霊の竪琴(たてごと)光の旋律すなわち罪禍の烙印箱庭に愛されし我が運命(いのち)よ砕け散れ私は貴様(おまえ)を憎んでいる代償はここに罪の証をもって万物(すべて)を滅す】」

 

 紡がれる高速詠唱。理を歪める膨大な魔力の氾濫がリリウスの身体を重力の楔から解き放つ。灰色の髪に左右異なる瞳の色にリヴァイアサンが目を見開き全身から魔力を放つ。精霊の封印が砕け散った。

 

「オオオオオオオ!!」

「────【哭け、聖鐘楼】」

 

 

 

「【ジェノス・アンジェラス】」

 

 

 リリウスの頭上に巨大な灰銀の『鐘』が現れ、砕け散る。放たれるは海の覇王を打ち破りし【滅界の咆哮】。

 

 レオンの魔法による強化。ザルド、リリウス自身のスキルによる強化。Lv.9というオリジナルを超えた位階にて放たれる神時代始まって以来、最高威力の大魔法。

 

 嵐が滅んだ。

 海が吹き飛んだ。

 雷光が蹂躙された。

 

 災害を飲み込む災禍の号砲。余波だけで竜達が目と耳から血を流して絶命し本命の破轟にすり潰される。

 黒く染まっていた世界が白く染まり、リヴァイアサンの身体が光に飲まれる。

 

「……………や、やった?」

 

 アーディが目を開くと嵐が吹き飛び月明かりに照らされる海が映る。巨竜の姿は、何処にもない。リリウスの隣の竜は別の竜(ヴリトラ)だし。あ、魔石食べてる。

 

「死ぬかと思った………」

「タクシャカちゃん………」

 

 上空の嵐ごと吹き飛ばされかけたタクシャカは流石、竜種最速。ギリギリで躱していたらしい。

 

「だが、これで………」

「お前等、時間を稼げ」

「え?」

「なに?」

「来るぞ」

 

 ゴバッ! と海面が爆発する。現れたるは海の覇王。精霊の加護は消し飛び、鱗は砕け、血を流し、傷のない場所など何処にもない。そんな姿でありながら、その威容に翳りなし。

 

 全身から漆黒の魔力を吹き出し傷を再生させてゆく。

 

「う、嘘………だって………」

 

 リリウスが放ったのは嘗て海の覇王を滅ぼした魔法。それもオリジナル以上の威力。そこに間違いはない。だが、それを食らった海の覇王も、数多の英雄が傷を付けていたのもまた事実。何より、このリヴァイアサンはその魔法を覚えていた。

 

 本来回復か光にしか使ってこなかった魔力。する必要の無いほど圧倒的な身体強度を持っていたリヴァイアサンは転生前も含めて初めての魔力による強化を行った。

 

 元より深海すら泳ぎ、そのまま浮上することも可能な理外の強度を持つリヴァイアサンの肉体。それでもなお重傷を負った魔法を褒めるべきだろう。

 

「じ、時間稼ぎって………」

 

 アーディが意味を聞こうとした瞬間、リリウスの背に現れるマンダラ。時計の針が進むように描かれた仏尊が再び光を灯し始める。

 

「【我が名は守護者。我が身は英雄。遍くを満たす者】」

 

 紡がれる詠唱。魔法の中には発動後に追加で詠唱を唱えさらなる効果を齎す魔法も存在するが、恐らくこれはそれとは違う。長文詠唱。まるで新たな魔法でも発動するかのような。

 

 先程まで強力な魔法を維持し、最強の魔砲まで使ったとは思えぬほどの膨大な魔力が溢れ出す。リリウスをして、並行詠唱など不可能なレベルで。

 

「【我が名は雷霆。我が身は槍。悉くを滅ぼす者】」

「オオオオオオオオ!!」

 

 膨大な魔力を恐れるように、或いは己を奮い立たせるように吠えるリヴァイアサン。その咆哮に生き残りの竜達が殺到する。

 

「【破壊の王、創造の主、秩序の守護者。三神に向う道程こそ我が英雄達の軌跡】」

 

 リヴァイアサンの傷口にその身を捧げる竜達がそのまま()()()()。リヴァイアサン・オルタナティブの素体は数多の竜の混合種(キメラ)。その性質そのままに他の竜を取り込んでいく。

 

「行くぞ!」

 

 エピメテウスの号令に炎の戦士達は駆け抜ける。

 ヴリトラも全身から炎を灯し、タクシャカも雷光を纏う。マナサーは竜の死体に己の血を与え忠実な下僕として復活させる。

 

「グギャアアアアアアア!!」

 

 取り込んだのは血肉だけではない。魔石を取り込み更なる圧を放つ強化種。海を引き裂きながら進む。その余波で海流が蹂躙される。

 

「【六界踏破(ろっかいとうは)。天より享楽を捨て、人より苦情、無常、不浄を廃し、修羅より怒りを断つ】」

 

 炎が鱗を焼く。海流が鱗を砕く。雷光が鱗を貫き、屍竜の牙が鱗の傷から肉に突き刺さる。が、海竜の王、止まらず。 

 

「【畜生を苦痛より救い、餓鬼の飢えを満たし、地獄にて罪は清算された】」

 

 知っている。覚えている。たった今、味わった。

 魔力(あれ)を放つ人間は危険だと。真っ先に潰すべきだと。

 

「カァ!」

 

 ただの咆哮が炎の戦士達を掻き消し、妖精の少女を吹き飛ばす。大英雄の剣が海底へ叩き落とそうとするも流星雨がただ一人へ襲いかかり吹き飛ばす。

 

 三竜の放つ息吹(ブレス)を喰らいながらも突き進み蛇竜を跳ね飛ばす。

 

「【輪廻は巡り、我が道は此処に。精霊の加護(うた)、神の恩恵(かご)英雄(ひと)(えにし)。我が三界(トリムルティ)は此処にある】」

 

 その巨大なアギトがリリウスを飲み込まんと迫り、アーディが無意味と知りながらも前に出る。

 獅子色の光がリヴァイアサンの横顔に叩きつけられる。

 

「────!!」

「…………あ」

 

 アーディが振り返った先には、世界一巨大にして偉大な船。乗り込むは、世界最強の騎士と、上級冒険者にも劣らぬ教師達。

 

 道中海竜の群を突破したのだろう。真新しい傷の付いた船の上に立つ騎士が跳ねる。あまりの衝撃に船が大きく揺れ、それだけの踏み込みは騎士の体を飛ばす。

 

 更にもう一撃、残光。リヴァイアサンの体が押されリリウス達の真横を通り過ぎる。暴風と高波に飛ばされるアーディは、それでも詠唱を続けるリリウスを見た。

 

「【陽光の鎧、雷霆の矢、秩序の(つるぎ)。授かりし栄光を施せ。獣は人へ、人は神へ、いざ歩む。どうか、見守っていてほしい。いざ至らん(オーム)】」

 

 曼荼羅全てが輝き、縮小しリリウスの額に収まる。すぅ、と細まり縦の線になり、開いた。()()だ。

 

 ギョロリと第三の瞳がリヴァイアサンを睨む。

 

 

 

 

 

 

 

「リリウスの第三魔法のもう一つの効果?」

「ああ。発動することが、今回の勝利に必要な最低条件とは聞いた。だが魔法の詳細を知らぬ」

 

 祈祷の間。

 戦況の報告がまっさきに聞けるだろうと勝手にやってきて居座るソーマに尋ねるウラノス。

 

 ソーマは時間潰しにはなると思ったのか話し始める。

 

「簡単に言えば二元論…………物事には2つの側面があるだろ」

 

 心と体、善と悪、朝と夜、生と死。汎ゆる事柄には対立する根本的な原理や要素が存在する。

 

「神懸魔法………自らでは歩き方を知らぬ子供が先人の道を沿うための魔法だ」

「では………」

「ああ。二元論………反対の性質は、()()()()()()()()()()()()。十把一絡げの冒険者や、ついこの間までの勇者がもっても大した意味もない。あれは、武具の作成と、到れる先を先取りする魔法だからな」

 

 

 

 

「【マハヴィーラ・トリムルティ】」

 

 

 轟雷が弾ける。

 精霊の加護が吹き飛ぶも、リリウスが触れた途端に見渡す限りの海面が凍りつく。

 

 【ブレイズ・オブ・ラウンド】の『光の剣』のように、しかし膨大な魔力で構築された鎧を身に包むリリウス。アーディはあれ、と気付く。

 

「リリウス………背、伸びた?」

「老けた」

 

 100セルチに届かないリリウスの身長は123セルチ程に伸びていた。

 

「オオオオアアアアアア!!」

 

 リヴァイアサンは己を切った騎士にも目を向けず、リリウスへ流星雨を振り注がせる。リリウスは避けることをせず片手を向けた。

 

バグン

 

 と、光の雨が消滅した。一瞬で食い尽くされたのだ。

 

「時間がねえ。さっさと死ね」

 

 

 

 

「至る先の先取り、か」

「ランクアップも出来ずに一生を過ごす凡百な冒険者では、せいぜいステイタスが上がる程度。武具があるから多少マシだが」

「だが………」

 

 先取りということは、本来至らぬを己の器に注ぐということ。それは、肉体の崩壊を意味する。

 

「勿論、最終的な力じゃないさ。Lv.6に到れるLv1が使っても、せいぜいがLv.3。リリウスなら、どうだろうな。それでも3分………それを超えれば肉体が崩壊する。そうなる前に魔法が解けるが」

「3分…………それで、リヴァイアサンを討てるのか?」

「………………()()()だ」

 

 ソーマの断言にウラノスも予想していたのか目を細める。ソーマは続ける。

 

「…………だが、それを言うなら、初めてのことではない」

 

 何時だって冒険者達は、不可能に挑み、越えてきた。それこそが神々を魅了する下界の未知。人類の可能性。

 

「祈る者など持たぬ我々だが…………今は信じよう、冒険者達を。下界に生きる、彼等を」

「言われるまでもない」

 


 

闇の酒カスはリリウスの勝利を応援している!

光の酒カスはリリウスの勝利を信じている!

そこに何の違いもありゃしねえだろうが!

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